第3話 そもそも異世界転生とは
「異世界転生……ヨッシャァ!!」
「何なのいきなりー?びっくりしたなーもう。そんなに嬉しい事―?」
嬉しいか嬉しくないかで言われれば嬉しいに決まっている。なんせ今まではこの忌まわしい異能のせいで、何の変化もない平凡な人生を繰り返してきたのだ。永遠に続くと思っていたこの苦しみから開放されるだけでも嬉しい。しかし、そんな特別な権利を何故俺に?
「それはね、別に特別なんかじゃないからだよー。まあ君の場合はもうちょっと理由があるけどさ」
アリミディアに質問してみたところ予想外の答えが帰ってきた。異世界が特別じゃない?どういう意味だ?
「さっき説明したけどー、魂って同じ世界で転生を繰り返すと色々面倒な事になっちゃうんだよね。で、それを防ぐための方法で異世界に転生させるっていうのがあるの。まあそんなに頻繁にはやらないけど。それでも、100人いたら必ず一人は転生者が混じってると思うよー」
え、異世界転生ってそんなに溢れてるもんなの?全然特別じゃないじゃないか。……いや待てよ、それだとしたらもっと異世界転生がこの世に浸透しててもいいはずじゃないか?だが俺の周りに今までそういう人物は誰一人として居なかったぞ。質問の答えから湧き出た質問を、またアリミディアにぶつけてみる
「それも質問するのー?ほんとに何にも知らないんだね?」
「何も知らねえから質問してんだけど?」
アリミディアの態度に、遂にうっかり声を出してしまった。しかもキレ気味に。これで相手も怒って来たらちょっと面倒な事になったかも知れないが、幸いな事にアリミディアはそれもそうだねー、と態度を変えずに俺の発言を流した
「まー、異世界転生する人間全員が前の世界の記憶を持ってるわけじゃないからねー?殆どの人間は転生したあとの記憶なんか綺麗サッパリ忘れて、大抵は普通の人生送るんだー。だから大抵の人間には異世界転生なんて関係ないしー、物語とかでよくある活躍する転生者なんて全体の1%もいないんだよー」
アリミディアに語られる衝撃の事実の連続に、俺の中の憧れがガンガン砕かれていく。例え何千回人間繰り返しても憧れるものは憧れるのだ。憧れに近づいたと思った矢先にこれは、意外とダメージがでかい。だがしかし、1%以下ではあるが希望は残されているのが救いだ
「ちなみにアリミディアさん?その1%未満になる条件は?」
「うーん、やっぱり記憶を引き継いでることかな。この記憶を引き継ぐのは実は君が今回選ばれた理由にも関係あるんだけどー」
俺が選ばれた理由?そういえば確かに最初のほうでも俺はちょっとだけ特別とは言ってたが。あれだろうか、勇者の資質があるとかだろうか?
「君さー、いわゆる特殊な能力があるでしょ」
「能力って……このリセット能力の事か?」
「うんそれー、私達はそれバグって呼んでるんだけどー、そういうの持ってる人って結構記憶引き継ぐ率高いんだよねー。もちろん、バグがなくても引き継ぐ人も居るし、逆に持ってても引き継がない人もいるから一概には言い切れないけどさ」
おお!初めてこの忌々しい能力に感謝したぞ。この能力のおかげで俺には異世界の勇者になる権利が得られるわけだ。と、ここまで喜んだところで先程のアリミディアの発言に引っかかりを感じたので、引っ掛かりに関して確認をしてみる
「ちなみにアリミディアさん、どうしてこの能力を”バグ”と呼ぶわけ?」
「えーっとねー、さっき言ったけど魂が転生を繰り返すとー、魂の情報が何故か書き換わって不具合を起こしちゃう事があるのー。で、そういう能力って半分くらいはいわゆるその不具合のせいで出来ちゃうんだよねー。予定してないところが書き換わってて不具合が起きるって、コンピューターで使うプログラムにもあるでしょー?だから、プログラムの不具合と同じ呼び方の”バグ”」
なるほど、魂という一種のプログラムが書き換わってこういう能力になるのか。そして呼び方は人間から輸入したと、なるほどなるほど~……ちょっと待て、それ魂の不具合なんだよな……
「アリミディアさんよ?」
「なに?」
「仕事の内容、もう一回聞かせてもらっていいか?」
「私の?だからー、魂の管理だってば」
「管理って不具合起こさないようにするので合ってるよね?」
「そうだよー、分かってるじゃん」
「だよねー……出来てねーじゃん!!不具合出てんじゃん!!俺の魂思いっきりバグってるじゃん!!」
耐え切れずに思いっきりツッコんでしまった。下っ端とはいえ神様相手に思いっきりツッコんでしまった。本当はもうちょっと押さえ気味に突っ込む予定だったが、今までのループがまさかの職務怠慢のせいだと思ったら、つい声を張り上げてしまう
「……うるさいなー、もう。君たちの世界のプログラマーだってバグが起きないようにプログラム組んでもバグは起きるでしょー?私達だって同じなのー。それに、不具合見つけたからこうやって手を打ってるのー」
「こっちは仕事のミスを全力で指摘したつもりなのに随分軽いなおい!プロとしての自覚はないのか!魂管理のプロとしての自覚は!」
「別に最初から君の魂を管理してたわけじゃないしー。それに、私はプロなんかじゃないよ、定時までここで仕事するフリして時間潰してる天界職員の一人だし」
アリミディアの態度からなんとなく予想はしていたがこれはひどい。人間のお役所仕事だってもうちょっとちゃんとした仕事しているぞ……多分。こんな仕事態度でよくクレームが来ないものだ
「しっかし、バグなら直したりとか出来ないのか?本来のデバッグってそういうことだろ?」
「無理無理、どこがバグってるか分からないしー。魂の情報って膨大だから砂漠の中から一粒の砂見つけるようなものだよー。まあ私より有能な神様なら出来たかもしれないけどさ。あ、時間かけてもいいって言うならやるけどー?。私残業しない主義だから相当時間掛かるよー?」
「相当ってどのくらいだよ?」
「君らの感覚だと何百年になるかなー?あとタメ口になってるよー、凡人君」
指摘されたので取り敢えずタメ口について謝るとアリミディアは、別にいいけどねー楽だし、とタメ口の許可を出した。だったら最初から指摘すんなよ、こっちは神様敵にまわしたかもと思って相当ビビったんだぞ。あとデバッグは何百年も待ってられないので遠慮しておく
「まー普通待てないよねー。私もやりたくないけどー。だからこその異世界転生なんだけどさー」
「それなんだけどさ、異世界転生ってあまり意味ないんじゃね?」
「いきなりなにー?あんなに喜んでたのに」
確かに最初は喜んだ。だが冷静に考えたら例え転生したとしても、その転生先の異世界でまた繰り返すだけになるんじゃないか?話を聞く限りこの”バグ”は転生しても付きまといそうだし
「あーそう言うことかー。あのねー、だから私がいるんだよ」
「と、言うと?」
「たしかに君のバグ直らないよー、だから君のバグ、つまりリセットが発動する前にー、私が他の世界に転生するタイミングを挟み込むの」
「転生のタイミングを挟み込む?」
「そ、ゲームで例えるとー、君は画面の前でゲームするプレイヤーでー、君が生きてる世界をゲームソフトだとするでしょー?今までの君は死んじゃうとすぐリセットボタンを押してたけどー、これからは君がリセットする前にー、私が用意する他のゲームソフトで遊ぶか選ぶ事が出来るのー。だから君はー、その世界を繰り返すかー、別の世界に移るか選ぶ事ができるのー。世界が違えば人生を繰り返すことにはならないでしょー?」
なるほど、何故いきなりゲームに例えたかは分からないがどうやって解決するのかは分かった。確かに住む世界を変えれば、擬似的ではあるが人生がループするという状態からは脱出する
「どうー?私だってちゃんと仕事してるんだよー。そもそも私が仕事しなければ君はずっと繰り返してたわけだしねー」
え?なにこの唐突な仕事してるアピール。さっき俺がプロとしての自覚とか言ってたの実は意外と気にしてるんだろうか。本当に人間味に溢れた神様で、少し近親感を覚える
「ただ、仕事してるって言ってもどうせあれだろ?暇だから書類パラパラめくってたらたまたま俺のデータ見つけたとか、そんなんだろ?」
仕事してるアピールをされても、実際にアリミディアがまともに仕事していたとは思えないので冗談半分で問いかけてみた。逆にこの短時間でそんな風に思わせるのはある意味すごいんだが
「む~、失礼だね君。そんな適当な理由じゃないよー?」
「へえ、じゃあどんな理由なんだ?」
「えっと……たまには仕事しようと思って、転生させる人間選ぶ為にサイコロ振ってたらー、君に当たったんだよー」
「ちょっと待て!余計に酷い理由になってんだけど!?それ否定する意味なかっただろ!」
まさかの予想の斜め上であった、書類パラパラどころじゃない完全な偶然であった。こいつよくコレで仕事してるって言い張れたな。それともあれか?天界ではコレが常識なのか?
「大体さー、君らの魂の情報ってさっき言ったけどすごい量なのー、だから君らの情報の大部分はコンピュータに保存してあるのー。確かに資料もあるけどー、紙一枚だし識別コードとか簡単な情報が乗ってるだけでー、そんなもの見てても君にバグがあるのかなんてわかんないよー。常識だよー?」
「常識ってなんだっけ……」
「あははー、気にしない気にしない。まーこれからよろしくねー」
ぶっちゃけあまりよろしくされたくない。凄まじく長い年月の末、ようやく手に入れた俺の異世界転生ライフは、始まる前から暗雲が立ち込めていた……
君と私の転生記 ~リセット続きの転生者の記録~ テトリミノ @tetorimino
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