第2話 君と私の転生記「始まり」
「おめでとー、君は異世界転生の権利を手に入れたよー」
死んでいたらちょっと緩い感じの女の子の声が、頭の中に直接響いてきた。何事かと思い、目を開こうとするが身体が全く動かない。しかし身体は死んでいるのに何故か意識がある。今まで永く生きてきたがこんな経験は初めてだ
「こらー、聞こえてるの凡人君ー?聞こえてるなら返事くらいしたらー?」
さっきの声がまた頭の中に響く。ちょっと無視されたくらいでせっかちなやつだ
「聞こえてるよ。というか一体どちら様で?あと俺はどういう状況にあるんだ?異世界ってなに?」
「一度に質問しないでよー。それともー、もしかして君は口が二つも三つもあって同時に喋る事が出来たりしちゃう系の人間なのー?」
そんな化物人間いてたまるか、声のトーンといい、喋り方といい、緩そうというよりダルそうな感じのする女の子だな。話してるとこっちの力まで抜けてきそうだ。死んだと思ったら脱力系女子に化物なのか質問された。何を言ってるかわからないかも知れないが俺もわからない。とりあえず一つ目の質問から片付ける事にする
「えーと、まず君は一体何者なんだい?」
「ここで自己紹介?まあいいけどー。私は天界第六管理局、通称”魂管理局”の下っ端だけど美人、いや美神で有能な職員、アリミディアだよー」
「なるほど、さっぱりわからん!」
「えー?分かってくれないのー?」
分かるわけがないだろ。今の一言だけでもツッコミどころが多すぎるし、もしあれで全てが分かる人間がいるならそいつは多分テレパス能力の使い手か何かだろう。生憎俺の能力はテレパスではなくリセットだ。とはいえ、このまま相手を理解しないのは話が進まないので情報を一つずつ整理して行くために、一つずつ質問をぶつける
「取り敢えず天界第六管理局、というかまず天界ってなに?」
「そこからー?天界って言ったら神様の住む世界に決まってるじゃない。常識だよー、まったく」
どんな常識だよ、あとなんでちょっと煽って来るんだよ、と心の中で毒づく。こっちは何千回と人間やってるけどそんな常識必要なかったぞ。文句の一言でも言ってやりたいが会話の主導権を握っているのは向こうだ、へそ曲げられて質問に答えてもらえなくなっても困るので次の質問に移る
「天界は分かった、それで第六管理局っていうのは?」
「通称”魂管理局”、君たち人間含むあらゆる生物の魂を管理する天界のお役所の一つだよー」
「魂の管理?」
「生物の魂っていうのは生きては死にー、転生しては死んでという繰り返しなんだー。基本的には人間は転生しても人間だしー、犬なら転生しても犬のままなんだけどー、同じ世界で同じ転生を繰り返すことで生じる不具合も出てきたりするのー。その不具合を起こさない様に転生後の姿を変えたりー、転生のタイミングを遅らせたり早めたりっていう面倒なお仕事だよー」
転生による不具合、と言われても凡人には皆目検討もつかない。というかぶっちゃけ説明を取り敢えず聞いてみたが半分くらい理解してない。理解したのは人間に生まれたら生まれ変わっても基本的には人間に生まれるということくらいだ
まあ、よく考えてみたら転生とか魂とかそういうのは神様のジャンルであって凡人には関係ないことだろうし、俺がそこまで理解する必要はないということに気がついたので俺は理解することをやめた
「話をまとめると、第六管理局って言うのは魂に関する仕事をする神様のお役所で、アリミディアさんはそこで働く神様であると。そういうことでいいですか?」
「美神で有能な、が抜けてるけど?そこ一番重要なんだからしっかり押さえなきゃー、凡人君」
頭の中に響く声にちょっとだけ気合が入るが、多分気合を入れる程そこは必要ない。流石に凡人でもそのくらいは分かる。しかし、人間にもこういう性格の奴はいるが、まさか神様にもいるとは思わなかった。神様というのも案外人間味に溢れているようだ
「分かりましたよっと。それで、その美神の下っ端、アリミディアさんは俺に何の用なんですか?」
「だからー、最初に言ったじゃないのー。異世界転生の権利を手に入れたよーって。あと有能が抜けてるってば」
いかにも、説明が面倒くさいという感じの声だ。付け足した一言に力が入ってる分、余計に面倒くさそうなのが伝わってくる。確かに知らない人間に話すのは面倒なのかも知れないが、こっちはこっちでだいぶ困惑しているのだからそこは真面目に仕事して欲しいものだ。というか、異世界転生?
「ちょ、ちょっと待って異世界転生、ってラノベとかでよく扱われてる、あの異世界転生だよね?」
気が動転してるのか当たり前の事を質問してしまった。いやまあ、こんな状況で戸惑わない人間がいるのか疑問ではあるが。戸惑いを隠せない俺に、アリミディアがまた面倒そうな、ちょっと力の抜けた声を発した
「そうだよー、自分の世界とは完全な別世界に生まれ変わるー、あの異世界転生だよー」
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