番外編 ジューシーにジェラシー


 ――ダタッツ様が予備団員として騎士団に組み込まれて、数週間。食堂には連日、彼専用のランチが用意されていた。

 出来立てのパンに熱いスープ、脂が乗ったステーキ。鼻腔をくすぐるその香りは、騎士団でも評判になってきている。


 確かに、あのランチを出す料亭から漂っている香りは良い。わたくしも食客として訪ねたいと思ったのは一度や二度ではない。

 だが、この国の王女であるわたくしが平民の料亭に足を運ぶのは好ましいことではないと、周囲の貴族達がうるさいのだ。周辺諸国の噂になるような隙を与えないでくれ……と。


「あの、ダイアン姫。ジブンが何か……?」

「……いいえ? 別に?」


 そう、だからわたくしは今。向かいの席で人の気も知らずに、ランチを堪能している彼に腹を立てているのだ。

 ……他意はない。別に彼が誰の手料理を美味しそうに食べていようと、わたくしには関係ない。


 そんなわたくしの思案もやもやになど、まるで気づく気配もなく。彼はわたくしの膨れっ面を前に、困惑の表情を浮かべている。

 ……困りながらもしっかりスープは味わっている辺りが、もう憎たらしいったらない。


「……ただ先程から、随分美味しそうに頂いておられますから。いいご身分ですこと」

「……? あ、ダイアン姫も欲しいんですか。じゃあこれ、お裾分けってことで」

「なっ! て、帝国勇者の施しなど受けませんっ!」

「大丈夫ですよ、今なら誰も見てませんから」

「う、ぅ……」


 不意打ちを受けて、わたくしはしどろもどろになりながら辺りを見渡す。……他の団員達が彼を避けていることもあって、確かにこの場にはわたくしと彼しかいない。


 ――このランチを味わえるのは、今しかない。


 気づけばわたくしは、瞼をキュッと閉じて、彼が差し出した一切れのステーキに食いついていた。口の中で広がる濃厚な塩味と肉汁が、想像以上の美味となって味覚を包み込んでいく。


 ――その味わいに、恍惚の表情を浮かべるわたくし。その姿を、微笑ましく見つめるダタッツ様。

 そこでわたくしは、気づいてしまった。自分が、彼が使っていた・・・・・・・フォークに刺さった肉に食いついていたことに。


「……〜っ! か、帰りますっ!」

「え? もういいんですか?」

「もういいんですっ! ばかっ!」

「え、えぇ〜……」


 またしても困惑している彼を放置して、わたくしは耳まで真っ赤になりながら、この食堂を後にする。


 ――唇の中に残る彼の味・・・を、人知れず噛み締めて。

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