番外編 夢の世界に望む未来
木々のざわめきが響く、森の只中。
わたくしはダタッツ様に付いていく形で、帝国を目指す旅を続けていた。彼を帝国のものにはさせないと、皇女フィオナに宣言する為に。
……彼女は今もなお、ダタッツ様の帰りを待ち続けているという。彼は、そんな彼女を放っておけるような人ではないだろう。
彼は「帝国勇者」とは名ばかりの、本当の勇者なのだから。
――だからこそ、憂う。
彼は当然ながら、わたくしより皇女フィオナとの付き合いの方が長い。
恐らくは彼も、皇女フィオナとの再会は心待ちにしているのだろう。
彼を渡すまいと、こうして付いてきたけれど。
再会を果たした時、それでもダタッツ様は……王国に、わたくしと共に帰ってくれるだろうか。
◇
夜の帳が下り、野宿することになったわたくし達は今、馬を休ませて火を焚いている。わたくしは、薪をくべる彼の貌をじっと見つめていた。
「眠そうですし、そろそろ休みましょうか。不寝番はジブンに任せて、ダイアン姫はゆっくり休んでください」
「……別に、これくらい……」
彼はいつものように、穏やかな面持ちでわたくしに微笑んでいる。……わたくしの、気も知らないで。この方は、いつもそうなのだ。
――参ってしまう。そんな彼を、心の底から愛してしまったのだから。
「……ダタッツ様、行かないでくださいね」
気づけば、わたくしは。か細く折れてしまいそうな声色で、そう呟いていた。……彼を困らせてしまうだけなのに、言わずにはいられなかった。
――もはや、誤魔化しようもない。わたくしはもう、彼なしでは生きられない女になっている。
ダタッツ様はそんなわたくしに、何も言わず。わたくしの白くか弱い手を、握ってくれた。
「大丈夫。ちゃんと俺は、ここにいる。――言っただろ。資格がなくても、必ず君を守るって」
「……っ」
それはダテ・タツマサという、本来の彼が見せる貌。わたくしの心を虜にした、ずるい貌だ。
そんな貌で笑みを向けられたら、わたくしはもう――
「ダタッツ様、わたく、し……」
「……ダイアン」
――旅の疲れか、安心ゆえか。わたくしは微睡みに囚われ、彼の肩に頭を乗せると……そのまま彼の胸に身を預けて、夢の世界へと沈んでいく。
「……ぅ、ん……」
その先で見えた、幸せな未来が……この旅路の向こうに待つ真実であるようにと、わたくしは祈っている。
そして、願わくば。同じ望みを、彼も抱いてくれているように……と。
ダタッツ様……愛しています。
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