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 残念ながら口頭での情報収集は出来なかったが、その届け物は明らかに何か起こったということを示唆している。

 闇血あんけつのこびりついた、少量の土。

 品川にある黄巾技研の本社の地下、マギフォイアに関する研究を専門的に行う通称ゼロラボで、試験薬の臨床実験を終えた海咲可零みさきかれいはその実験の対面できなかった相手の届けたサンプルを手にしていた。

 優先事項、の赤いスタン王が押された封筒に入っていたそれは、最優先とされなかったことで暗に持ち込んだ人間の憶測をやや示していた。

ー持ち込んだのは梓蘭結葵しらゆきよね。でも最優先ではないということは…

 朱紅井あかいからの依頼のために彼女が持ち出したのは、少々物騒な獲物と、長期戦もしくは能力負荷が大きくなることを示唆する物資を補給していった彼女が、優先事項とした闇血のサンプル。

 憶測は進むが、のんびり考えてる暇はない。すでにそのサンプルは乾燥が進んでいて、完膚かんぷなきまでに乾いてしまえば、そいつは闇血としては鮮度を完全に失い、つまりは死んでしまって、現在実用化されているどんな技術をもってしても解析は不可能になってしまう。それすら分析する魔法使もいるとは聞いたことがあるが、残念がら消息はつかめていない。となると、機械的な解析を急がなければならない。

 梓蘭結葵がこれ見よがしに海咲に残していった痕跡こんせきの推測は後にして、サンプルを手に解析室に急ぐ。

 大仰な攪拌機かくはんきのような見た目をした闇血解析機あんけつかいせききに闇血をかけみると、まずは解析可能の表示がポップアップされた。この自然闇血は、まだ死んではいなかったようだ。すぐさま解析開始。そこから順調に進んで数時間経過し、その闇血の保持者が黄昏街元老院こうこんがいげんろういんの管理するデータベース「ケルビム」に登録されていれば、その持ち主にヒットする。

 黄巾技研は、黄昏街でいう警察組織の鑑識の役割を果たしているからこそできる技だった。しかしもちろん、黄昏街では無い一般社会の警察にも、それに匹敵する組織が存在している。普段は公安調査庁にその籍を置く日本国首相官邸直轄組織にほんこくしゅしょうかんていちょっかつそしき特殊事案対策対応委員会とくしゅじあんたいさくたいおういいんかい、通称特応隊とくおうたい。もしくは公安第十三課。これが、日本国政府がひた隠しにする黄昏街を、政府の組織として警備・管理するいわゆる黄昏街、およびマギフォイアの警察である。黄昏街出身の企業であり、経営陣はすべからくマギフォイアに占められ、またマギフォイアからの信頼も厚い黄巾技研が担う自警的な機能とは、真正面からぶつかっている。その折衝せっしょうを、黄昏街の自治組織であり、日本国政府とのパイプ役でもあり、黄昏街が未だに表にその存在を露見せずに世界的なパニックを回避している一番の功労者でもある黄昏街元老院が担っているという構図があるため、十三課もあからさまに黄巾技研を排除できず、また逆も然りだった。黄巾技研のみならず、紅建ホールディングスの役員陣の中には、この状況に不満を持っているものも多いと聞く。しかし、全面戦争するには、マギフォイアは数に大きく劣っているため、現在のところ、火種はない。ただいつでも火種を作れる状況にはあった。

 紅建ホールディングスの社長兼グループ会長権を持つ朱紅井は、これらや他の状況を踏まえて、独立論を持っている。

 黄昏街は、世界中のそれと結託けったくして人間社会に依存せずに独立した社会を築くべきである、という思想を掲げる論調の一派である。そしてそれは同時に、黄巾技研の設立を促し、その他のグループ企業も順調に開拓した理由でもある。紅建の生産力、経済力を持ってすれば、世界とは言えないまでも、日本に存在する黄昏街の経済を、他国との貿易開通までに保つことは容易と言える規模にまで成長しつつあるからだ。現在はまだ成立していない不動産・交通部門も、すでに準備が整っていると聞く。そうなれば衣食住の全てを紅建が握ることが可能ということになる。そしてその上で、独立という宣戦布告が成されれば、紅建が現在雇用しているマギフォイアでない職員も退職させられることになるであろう。そうすれば日本国は失業率の大幅な上昇と強大な雇用力を失うこととなる。これも、火種がまだ火種たりえていない理由の一つだった。

 そんな様々な事情もあって、十三課と黄巾技研は水面下で競い合う存在だった。桓武が現場に入れたということは警察ないしは十三課は先にこの血液の検証を始めているはずだ。どのくらい時間的なロスがあるかわからないし、可零かれいの預かった、たった今闇血と判明したこの血の持ち主が要捕獲対象であるとも限らない。しかしその人物を抑えれば、この血が採取された現場で何が起こったのか、それが現在の桓武の任務とどうつながっているのか、つながっているのであれば、流血があった以上、警察もしくは十三課との何らかの衝突は避けられない。となれば先に手渡している少々物騒な備品も日の目を見るのであろうし、それは少なからず危険であり、桓武にとっても喜ばしいことではないはずだ。

 そんなことを考えていると、呼び出しの端末がなる。別のラボからの呼び出しだった。闇血解析機に手を置いて、よろしくね、と心中で告げる。そんなことは機械相手には無駄なのにもかかわらず、こういうことを、海咲可零はやめられないで、今の立場まで進んできている人間なのである。

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Twilight Method 神演孔君 @kouno_koukun

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