第十刀 原因究明
人気の静かな蔵書室に紙を捲る音だけが響く。
今の時間帯の利用者は司書さんによると全く居ないらしく、暇な時間だという。
蔵書室自体は10時までしか開いていないため、司書さんと少し話した時間を差し引くと1時間と45分しかない。
今自分が捲っているページは料理魔法がどのように成り立ったかと言う話の終盤。
これが実に長いのだ、やれ誰々がいついつに理論を組み立てた、とかではなぜその理論を構築する事を決めたのかなど、途中でいくつも脱線していくのだ。
本当に長い、これの作者文才が無いのではないだろうか。
でもいくつか有用な情報は得られた。
この料理魔法はココ最近開発された新しい魔法体系らしく、まだ世の中にそこまで広まっているものではないらしい。
そしてその魔法を発明したのは驚くべきことに支所さんから散々な言われ様をしていたバズだと言う。
それならあの余裕そうな態度にも納得が行く。
自分が作った魔法なのだから製作者の特権で情報を意図的に隠すことも出来る、そこが今回の事と必ず関係があるはずだ。
だが、いくら本を読もうともなかなかその秘密にたどり着けない、頭を掻きながら悩んでいると、いつの間にか後ろにいた司書さんが声をかけてきた。
「突然ですが、貴方は料理魔法とはどの様な魔法と考えていますか?」
「え?どんな魔法か…ですか?」
「はい、それが聞ければなにか私もアドバイスができるかもしれませんし」
「それもそうですね…分かりました」
俺がそういいながら頷くと、司書さんはニッコリと笑って俺の座っている席の目の前の席に座った。
「僕が思う料理魔法とは、料理人の技術の補助をする為の魔法だと考えています」
「料理人の補助…ですか」
「はい、例えば魔法のオーラの様なもので手を覆って手に付着した雑菌などが食材に付かないようにしたりとか。いくら料理人が清潔にしたって付くものはやはり付いてしまいますから、まぁそれだから手はこまめに洗うんですが」
「なかなか、実用的な考えですね、確かにそちらの方が料理魔法という名に相応しい気もしますね」
「ですよね!で、後はさっきの応用で食材を切った後の栄養素の溶出を防いだりとか、冷凍物の解凍時におけるドリップを防いだりとか」
「専門用語が多すぎて何がなにやらこんがらがってきてしまいましたが、貴方の考える料理魔法とはそういう物なのですね」
「あ、あははすいません勝手に一人で盛り上がっちゃって」
「いえ、いいんですよ。でも貴方はこうは考えなかったのですか?料理魔法とは料理そのものを生み出す物だと」
「え?」
「魔法とは、本来偶然には起こりえないあらゆる事象を魔力という人体に流れるエネルギーを消費して作り上げる技術だと言われています。想像を現実に変える技術、それが魔法なのです」
「でも、そうだとしたら」
「私はずっと考えていたんですよ、バズ達が作るの料理が何故あれほどまでに酷い出来なのかでも今貴方と話してみて気が付きましたよまぁ、あなたが言った可能性も一度は考えたんですけれどね」
司書さんはそう言うと勢いよく椅子から立ち上がり、少し大きめの声でこう言った。
「バズ達が使う料理魔法とは、魔法によって作られる模造品の料理だという事ですよ」
十色の刀 ~少年料理人は勇者召喚に巻き込まれました 渦巻 汐風 @Siokaze
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