第九刀 魔法調査

俺が厨房へ忍び込み目にしたものは、衝撃的な物だった。

床はゴミや調理器具で散乱し、壁には何かを塗りたくった様な跡が残り、冷蔵庫は開きっぱなしで中身は腐って使えそうな状態ではない。

と言うよりどうやって今までこれで料理を作っていたのかと思う酷い有様だ。


「なんだよ…これ」


そうつぶやいた時、厨房の奥から何やら笑い声が聞こえた。


「いやー、今回のことは本当に有難いな」

「全く、疑いもせずに良く働くこった、お陰でこっちは楽できるんだが」

「ああ言うバカはほんとに使いやすいぜ」


覗いてみるとそこでは、ワインボトルや豪華な料理が敷き詰められた机があり、その周りではあの日俺を嘲笑った料理人達が居た。


「勇者召喚のお陰で安い労働力が手に入った全く勇者様様だぜ」

「バズの旦那、巻きこまれのあの女なかなかの美人ですね」

「ん?あいつか、いつか食ってやろうとは思ってるが隙を全く見せないからな、参ったもんだぜ」

「それに最近、あの小僧がコソコソ嗅ぎ回ってる様ですがどうします?」

「放っておけ、どうせ俺達の魔法、料理魔法が分からない限り何をやっても無駄だからな」


料理魔法?なんだそれそんな代物がこの世界にはあるって言うのか?

もしかしてその料理魔法とやらが、この食堂の料理の味が薄い理由なのか?

だが魔法と料理何の関係がある?

バズ達が動き出す前に俺は自室へと戻り料理魔法について調べてみることにした。


先ずは自分で調べてみて分からなければ、アミアリア様に聴くしかないか。

アミアリア様に会う機会は1週間に1回、日曜日の午前に俺を含めた召喚者達がアミアリア様と近況報告をするという場でそれまでに調べきれなかったことを聞く予定だ。

今日の所はもう深夜の時間帯なので寝ることにする。

明日の業務終了時間の8時から城の蔵書室に篭って調べてみよう。

その時は一子も手伝ってくれるように掛け合ってみよう。


そしてその日の業務終了後、俺は早速蔵書室へと向かった。

一子は後から来るそうなので先に調べておくことにする。

城の蔵書室には司書が常駐しているのでそこで料理魔法なるものについて載った本を探してもらうことにする。


「すいません、探して欲しい本があるのですが」


蔵書室の司書さんは見た目40代の男の人で、温和な顔で優しそうな人だった。


「はい、どのような本でしょうか?」

「料理魔法っていうものについて書かれた本をあるだけお願いしたいんですが」

「料理魔法…ですか、失礼ですがどのような目的でお調べに?」


料理魔法というワードを口にした途端司書の人の雰囲気が変わる。

心なしか語調も少しだけきついものになった気がする。


「僕、食堂で配膳係をしているんですが、料理の味が有り得ないぐらい薄いのが気になって、それに初日にこう言われたんですよ、魔法が使えないお前には分からないって」

「バズの事ですか…何を見てそう判断したのか分かりませんが、あいつは浅はかな人間だ悪いことでも考えているに違いない」

「料理長をよくご存知なんですね」

「ご存知も何も、あいつの性格はこの城に勤める誰もが分かっていますよ」

「そんなに有名なんですか?料理長って」

「悪い意味でね」


まぁ、あの場面を見てしまった俺が一番わかりそうな気もする。

何故あんなのが奉公人達が利用するとはいえ一食堂の料理長など任されているのかが疑問ではある。


「味の薄い料理は正直もううんざりだよ、人事異動でもない限りはこの状況は変わらないね。」


俺もそう思う、何より早く包丁が握りたい、俺の能力も厨房でこそ役に立つしな。


「それで、料理魔法の事なんですが」

「あぁ、そうだったねはいもう調べ終わってるはいこれ、読み終わったらカウンターに返却してくださいね」

「ありがとうございます」


俺はそういうと、カウンターに乗った幾つかの本を近くの読書スペースへ持っていき、料理魔法の事を調べ始めるのであった。

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