11 この先も続く未来へ
「そこまで語ってくれた親友のお前に、俺からいっこ教えてやろう」
「…なんだよ」
「この旅は、俺が思いついたわけじゃない。ある奴に勧められて、映画を観たんだ。それが、学校行事で一昼夜、全校生徒が歩き倒すっていう映画でな。そこから着想を得た」
「…何だよそれ。こんなん思いついた西尾すげえなって思ってたのに、パクリかよ。つーか誰だよ、そんなしんどい映画を進めてきたやつ。てかお勧め映画を教え合うような友達、お前にいたのか?」
「失礼な。友達ではないが、向こうから映画館の前で話しかけてきたんだ。えーと、6組の、えーと」
西尾は必死で思い出す。人の顔も名前もちっとも覚えられない奴だと、これ以上吉田に呆れられたくはなかった。
「…もしかして、美術科の小森?」
「あ!」
そう、確か、小森って呼ばれてた。でも、俺はいつそれを聞いたんだ?
「やっぱそうか、あいつ、映像作家になりたいんだって。小さいコンクールとかに応募して、賞とかもらってる。この前の全校集会の時に表彰されてたろ、どうせお前は見てなかっただろうけど」
図星だった。西尾は全く覚えていないが、なんとなく『小森』という名前とそいつの顔が一致した。
「美術科の割に、結構いい動き方するんだよあいつ。なんか中学の頃テニスやってたらしくてさ」
「…お前、よく知ってんなあ」
「いや、お前が知らなさすぎるんだよ。3年間も同じ校舎に通ってんだから、大体顔と名字くらいはわかるだろ」
西尾はなんとなくばつの悪い思いをした。確かに、小森というあの少年も、『西野』と間違えてはいたけど俺のことを知っていた。
「…みんな、人のこと見てんのな」
西尾はしみじみと感じた。吉田がいなければ、自分は学校の誰とも繋がっていないのかもしれない。
「まあ、関西の大学行ったら、きっと嫌でも人と関わることが増えるんじゃないか?向こうの人たち、押しが強そうだし」
「…そこなんだよな、関西に行く不安って」
今度は、吉田が西尾の背中を叩いた。
「何言ってんだよ、ガンバローぜ、お互い」
吉田は自分に敵わないと言っていたけど、西尾も吉田には敵わないだろうなと思う。あんなふうに、自分の気持ちを人に話せる。親友だってはっきり言える。それはものすごくクールなことで、寡黙を貫いて生きてきた西尾には難しい。
お互い戦ったら敵わないから、別の場所で共同戦線を張るのは、いいかもしれない。なんとなく心強い。
「お、見ろよ、坂が終わるぞ」
目の前が拓けた。さっきまで二人の上を覆っていた枝葉が消えて、満天の星空が広がった。
「すごいな」
「…ほんとだな」
それきり、二人はまた黙った。長い長い旅路に、疲れ果てていた。時間は午後3時12分。予定より1時間以上も遅れての、チェックポイント到着だった。
でも、自分の身の内に、確かに舞い上がるものがあった。二人の未来は、希望に満ちている。恐れるものは、何もない。お互いに誰よりも敵に回したくない二人が、共同戦線を張ってともに歩んでいるのだ。
いくぞ、いくぞ、いくぞ。この知らない道の終点まで。この目的のない旅の終わりまで。この夜の果ての、その先まで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます