第3話
視線の先には無邪気に隣の部屋の住民と会話をしている女性の姿がうつしだされていた。その女性は着替えを終えると、男を連れて街の中へと繰り出した。
「本当にあんな娘が?」
ローブを纏った人物は疑心暗鬼に呟くと、気配を消したまま尾行を開始した。街の端まで行くと、港につけた巨大な船の数々が出迎えてくれる。魚市場を物珍しそうに物色する女性を見逃さないようにしながら、ホタテの串焼きを口にする。思わず尾行中にも関わらず笑みがこぼれてしまう。
「んまっ、おっと今度は西区か」
西区は商業が盛んで、特に飯は何を食ってもうまいときたもんだ。さすが、勇者様が拠点に選ぶだけはある街といったところか。尾行を続けると、スイーツの店が並ぶエリアに入り、クレープを買いに行く姿が見て取れた。気付かれないように観察していると、連れの男がいきなり禁忌魔法の行使を始めたが、我々も彼と変わらないとその行動を咎めることは決してしなかった。
注目が少年に向いていたが、突如として女性のスカートが盛り上がる。足元をみると、地下からどうやら宿にいた男が顔を出しているようである。何てうらやまけしからん。
しかし、何故あの八人が選ばれたんだとモヤモヤした気持ちになってしまう。それも、一人は魔法が全く扱えないときた。だがしかし、男はその女性の事が最も気になりいまこうして尾行をしているわけである。
「おっと、流石にバレたか。あちらさんが来る前に挨拶しにいきますかっと」
男は三つ目のホールケーキを口に運ぶと、名残惜しそうにテーブルと別れを告げ立ち上がると服装を正す。ゆっくりと近づくと、三人はそれぞれこちらに向かって構えてみせた。火の魔法使い、フレイモは真っ赤な髪に手を突っ込み、腰に手を当てたポーズでめんどくさそうにこちらを見ている。対する禁忌魔法を行使した少年は書物を広げ魔法の詠唱をいつでもできるように構えているが、先ほどの魔法は知恵の書の召喚だろう。こちらを威嚇するフェイクなのだろうが、ネタバレしているので全く持って無駄な構えである。
そしてそんな二人の魔法使いに囲まれた女性は、両手を腰に当て胸を張って出迎えてくれた。そう、勇者様でも破壊に苦労した黒玉をたった二本の指で粉砕したあの女性がいま、目の前にいる。
八人の魔法使い @PATIR
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