第2話:視線を感じます

「ふぁ、良く寝た。それにしても、朝っぱらから乙女の部屋を覗き見なんて感心しないわね?」

「おはよー、カホル御姉ちゃん。僕の事は気にせずそのまま着替えちゃって良いからね!」

「あんたねぇ、子供だからって調子に乗っていると握り潰すわよ?」

「ひぃ、カホル御姉ちゃんおっかないなー。その手に持ってるのはクルミだろう? 普通握力だけで中身取り出したりするかなー?」

「はいはい、喋りながらいつまでも覗かないの。全く、ウィンダーさん壁に穴開けたら直してって欲しいところだわ全く!」

「そだねー。そだねー」

「ほら、思ってもいないことで相槌打たない。そうだ、せっかくこうやって隣同士の部屋になったんだし、後で街の散策でもしないかしら? 貴方や、他の皆の事も私、まだ全然知らないから」

「うわっ、カホル御姉ちゃん本当に恥じらいとかあんの? あわわわ」

「まぁ貴方が子供じゃなかったら流石に生着替えなんてお披露目しないわよ」

「えげつない下着つけてるなぁ……それと、僕の名前いい加減覚えてくれよ?」

「えっと、その……ごめんね? 私、人の名前覚えるのって苦手なのよね」

「タライだよタライ、召喚魔法使いのタライ。一緒に街の中散策するんだろう? はい復唱」

「タライ君ね、おーけーわかった、覚えたわ。たぶん。お待たせ、行きましょう」

「はぁ、こう見えても14歳なんだけどなぁ。まぁいっか、待って待って! すぐ出るからー」


 カホルとタライは廊下で落ち合うと、シンと静まり返った他の魔法使いたちの部屋に目線を向けた。どうやら、二人以外は既に街中へと出向いているのだろう。

 この場所から、月へと行く方法を探し出す必要があるのだ。それも21週間(約150日)という期日付きである。今日は月曜日で、土曜日に情報共有会議、日曜日に試行実験という流れとなっているわけで。


「皆張り切ってるわね。私達、出遅れちゃったかしら?」

「そうだねー。フレイモなんか日が昇る前から出掛けてたもんねぇ。そういやカホル御姉ちゃんって、本当に魔法使えないの?」

「ええ! 自慢じゃないけど私の住んでた村はド田舎よ!」

「へぇ。そうなんだ、それで魔法使えないんだよね?」

「勿論よ! そんなファンタジーな世界があるなんて、実物みて私ちょっぴり感動しちゃったくらいだし!」

「へぇ……カホル御姉ちゃん?」

「ん? なぁにター君」

「ター君て……まぁいいや、魔法が使えないって事への返答が凄く適当かつ簡素おな感じになっちゃってるよね? ね? わざとじゃなくて、天然系なのかな?」

「そんなところね!」

「だぁ、めんどくせぇ。もういいよ、カホル御姉ちゃんは本当に握力だけで生きてきた人なんだね。おーけーわかった、無理やり理解した」

「あっ、あのお店のクレープおいしそう! わっ、イチゴ! あれ食べましょう!」

「もういいよ、色々出し惜しむか考えてたけど考えるだけ無駄な気がしてきたよ」

「あれ? ター君何してるの? 体がブワーッて光ってるけど大丈夫?」

「これが僕の召喚魔法、知識の書の召喚さ」


 天に掲げた手に光が集約すると、その手の中に一冊の書物が生成されていた。周辺を歩いていた人々はうおまぶしっ、と手で顔を覆うも、リアクションを取り終わると何事も無かったかのように各々の行動に戻っていた。


「何か凄いね! ター君、そして華麗にスルーするこの町の人達も何か新鮮だわ!」

「そらそうだろ? 何せ勇者一向が拠点とする街の一つなんだぜココは?」

「きゃ、どこから湧いて出てきたのよ」

「失礼だな、突然お前のセンスねぇスカートから出てきたみたいな言い方しやがつて」

「スカートどころか! フレイモさん、私のスカートの中に頭つっこだまま何冷静に話してるんですか! あわわ、足触らないでください!」

「普通の肉付きだな、なんでお前なんかがあの黒玉を破壊で来たんだよ。アーアー納得いかねぇ!」

「スカートの中で落ち着いて一人愚痴ないでくださいよぉ」

「ねぇ、僕の魔法についてそろそろ話してもいいかな? ものすごくフレイモさんに全部もってかれちゃった気がしてるんですけど」

「おお、わりぃなタライ。不思議な魔力を感じたもんで急いで地上に出てきたもんでな」


 どうやら、フレイモはこの街の地下を散策中に偶然私達に気付き、カホルの足元にあるマンホールからこんにちはをした訳だという。カホルはそんなフレイモの手を握り、引き上げてあげると三人はクレープ片手に白テーブルを囲んだ。


「それで、それは一体何なんだタライ?」

「はい、これは異世界の知識を手に入れる禁忌魔法、知恵の書の召喚です。今回、僕は月へ行くための知識をこの知恵の書に集約してみたのです」

「わぁ、すごーい! 魔法って火や風や電気とか、そんなのだけかと思ってました!」

「お前の握力が一番摩訶不思議な魔法だよ全く。で、何故それを昨日集まった場でしなかった?」

「はい、一つは情報の解析がすぐに出来る訳ではないという点です。この知恵の書、中を見て文字、読めますか?」

「読めねぇな」

「何語?」

「わかりませんよ、僕にも。だから、これは僕が調べて毎週情報公開していこうと思います。それに、最初から何かの情報に頼るよりも自分たちで考え、そして準備するのが魔法使いの基本ですよね?」

「違いねぇな。魔法使いは自身に出来る事を考えだし、それを実行するための環境作りをするもんだ。だからこそ、俺も地下の操作をしていたわけだしな」

「どういう事? 私にもわかるように会話してよみんな!」

「カホル御姉ちゃん、魔法使いは皆自分の力を活かせる術を見出すために、日々切磋琢磨してるんだよ」

「そういうこった。お前みたいな天邪鬼な女とは違うってことだよ」

「ぶー、トゲのある言い方しますねフレイモさん。私だってちゃんと自分磨きをしてるんですからね!」


 三人はクレープをペロリと平らげると、カホルが最初に口を開いた。


「先ほどから、私達をずっと監視してる人がいますよね?」

「バカ、わざわざ口に出すんじゃねぇよ素人が! だが、まぁ気が付いているのは感心だな」

「そうですね、てっきりカホル御姉ちゃんは握力以外何も取り柄の無い天然系だと思っていました」

「どうしよう? 私に告白したいのに恥ずかしくて隠れたまま動けないのかしら!」


 カホルが真剣な顔で発言したことに対し、二人は顔を抱えて言う。


「「ただのバカキャラだったー!」」

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