八人の魔法使い

@PATIR

第1話

「貴方達八名に、この大陸の運命を委ねます」


 身長の低い女性は、そう言うと集められた一人が反論をする。


「あん? 八人だ? ここには七人しか居ないし、リンクリングは七人の従者の力を扱うもんだろう? 次の従者候補として俺達が選ばれたんじゃねぇのか従者さんよぅ?」

「フレイモさん、残念ながらこの度の召集は勇者の従者としての呼び出しではないのです。ただし、今回は貴方達八人の力が必要になるのです」

「だからさぁ、ここには七人しか」


 フレイモと呼ばれた男が再度、従者の言葉に誤りがあると突っ込みをいれた丁度その時、宿屋の一室の扉が勢いよく開かれる。


「すみません! ここがウォターさんの部屋で間違いないですか!」

「良く来てくれました、ここは間違いなくウォターさんの部屋ですよ」

「良かったー、間に合いましたよね? ね? わぁ、私以外にも女の子が居る!」

「ああ! 私以外にも女の子の召集があったんですね、良かったよー。ほら、アンタ達つめて! 私のベッドなんだからもっと足元に寄りなさいよ。ほら、頭元があいたからここに座って」

「ええ、ありがとう!」

「コホン、改めて言わせてもらうわ。貴方達八名に、この大陸の運命を委ねます」


 勇者の従者は再び告げた。そして現在、この大陸が置かれている真実を口にする。


「貴方達を呼んだのは私の魔法、相手の嫌がる運命を選択していく魔法により選ばれた八名だからです。占いの一種と言えば伝わりやすいでしょうか。勿論、私の場合はこの大陸を支配しようとしていた魔王限定での魔法。要するに、魔王の嫌がる運命を視る事しか出来ないのです。しかし、私のその魔法のおかげで魔王の討伐に見事成功したのです」

「ああ、わざわざ言わねぇでも知ってるよ。魔王の討伐が終わったからこそ、次の従者たちを集めたんだろう?」

「ええ、本来ならばそうなるはずでした。ですが、一つ問題が発生したのです」

「問題だぁ?」


 フレイモと勇者の従者は他の七人を置いて話を続ける。


「ええ、大問題です。討伐した魔王は一つの呪いを残したのです。コレを見て下さい」


 従者はローブの中から手で握れる程の小さな黒い玉を取り出すと、フレイモに手渡して見せる。


「その黒玉を、貴方は破壊する事が出来ますか?」

「あん? 俺の得意分野を知っていて言ってるんだよな? 俺は炎の魔法を極めた魔法使いだ、身体強化の魔法に及ぼす追加効果を知ってるだろ? 当たり前だよな! 何だって力が強化されんだからなっ!」


 フレイモは自信満々にしゃべりながら、手の中で黒玉を握りしめる。が、手がプルプルと震えるだけで一向に黒玉が破壊される兆しは無かった。


「見ての通り、簡単に破壊する事の出来ない黒玉という呪いを魔王は残していったのです。一つはここに、もう一つは……」

「あの! その黒玉の呪いって一体何が起こるんですか?」

「カホルさん、で名前はあっていますよね? 良い質問です、この黒玉は魔王職の黒玉なのです。わかりやすく言いましょう、後150日も経過すれば魔王は復活します。それも、以前よりも巨大な力をもってです……つまり、これを破壊できなければ再び魔王による脅威に大陸は脅かされる事になります」

「ちょ、まてよ! 俺の力でもビクともしねぇ硬さなのによ、このままだと魔王が復活しちまうじゃねぇかよっ!?」

「フレイモさん、少しは頭を使いなさい。良いでしょう、私が破壊してみせましょう」

「ちっ、ウィンダーてめぇになら破壊出来るってか? ああ、みせてみろよこのクソ風使いが」

「言葉づかいが酷いですね全く。でも、私の風魔法は力技には出来ない事が多々あるのですよ?」


 従者とフレイモ、そしてウィンダーと呼ばれた風使いが宿屋の一室で向き合う。


「風の身体強化は速さに特化しています、更にその速さを利用したウインドブレードの魔法ならばいかなる物も瞬時に切り裂くのです。ほら、このように!」


 シュ、と音が鳴ったかと思うと壁に見事に縦一文字の穴があいていた。そして黒玉はというと。


「うん、こういう事もあるのですね」

「二人共ダメっと、次は私が試しますか。ああ、それとウォターさんとカホルさんだっけか? 私もこうみえて女だから、そこんとこ宜しくね!」

「「ひっ」」


 顔をぐっと近づけて忠告してきた見た目男の女の子は、黒玉を手に持つ。


「私の魔法は電撃、身体強化は強制行動だけど、お二人さんの力も魔法も通用していないようだし、ここは私が特殊な方法でコレをバラしてみせましょう」

「てめぇみたいな漢女にゃぜってー無理だって、さっさと試してさっさと諦めちまえ」

「五月蠅いわねフレイモ、それに男女って失礼ね? 私はヴィヴィって可愛らしい名前があるんだからね! さて、電気ってのは肉体を強制的に動かす力もあるんだけどね? 実は強力な電撃って物体の存在を壊す力も持っているの。知ってた? これが私の究極魔法、分子分解よ!」


 ジュワッ、と部屋の中に居る全員の髪の毛が逆立つ。そんな事もお構いなしにヴィヴィは両手で包み込んでいた黒玉の有無を確認するが、そこには無傷の黒玉がしっかりとその禍々しい存在感を示していた。


「んーダメだったかー。残念、ほらアンタも試しなよ」

「それよりも先に、このピリピリした感じを先に取り去ってくれませんかね?」

「ああ、ゴメンねウィンダー、一日くらいしないと髪型元に戻らないから宜しく」

「くっ、私の美しい髪を」

「やっと俺の出番か。やってみるよ……ダメだった」

「はいお疲れヅンチ次、といってもアンタ達はパスかな?」

「ああ、俺は魔法鍛冶師だからな。そういった自ら破壊するってのは苦手なんだ。だからパス」

「はい。私の水魔法でどうにかできそうにありません」

「私もパス、召喚魔法でどうやって壊せってんだい? 後はカホルちゃんだけだね!」


 視線がこの場に遅れてやってきた女性、カホルへと集まる。


「私は……特別な魔法が使えないけど、握力には自信があるわ!」


 持ち前の明るさで、魔法使いではない事を公言しつつも握力自慢を始めるカホル。思わず突っ込みをいれるフレイムが、カホルの前で仁王立ちしてみせる。


「てめぇ、ふざけてんのか? 魔法が使えない? 場違いなんだよ、さっさと帰れ帰れ」

「えっ、でも握力だけは本当に」

「ちっ、俺の身体強化された力でも破壊できなかったのに、てめぇに出番なんかねぇよっ」


 ダンッ、と肩を押されベッドに背を委ねる形になるカホル。思わずキャッ、と可愛い悲鳴を上げるが、誰もフレイモの行動をとがめる事はしない。


「ふん、今の押し倒した力ですらモロに受け倒れちまうような華奢な奴の『握力に自信があります』なんて、あてになるもんか」

「フレイモさん、落ち着いて下さい。私の魔法で間違いなく貴方達八人の力が必要になると出ているのです。それも、勇者の従者としてではなく、貴方達が力を合わせる必要があるのだと」

「いいぞー、もっと言ってやれー!」

「うるせぇ、ちっ、従者の言葉がなけりゃ今すぐにでもお前なんか追い出すところだが、良いだろう。ほらよ、お前が試し終わったら帰っていいからな? 俺達だけで解決策を考えるからよ!」

「むぅ、フレイモさんって結構いじわるですね? 貸してください、こんな小さい物なんて握りしめれば一発ですよ!」


 そして、親指と人差し指二本でフレイモの手のひらにあった黒玉を摘まんだ瞬間、パァンッと豪快な音と共に黒玉が砕け散る。


「あ、れ? 思ったより柔らかかった? のかな? あ、あれ? みなさん、何でそんな怖い目で私を見るのー!」

「ふふ、ふふふ。良かったわ、貴方達なら必ずもう一つの黒玉を破壊する事が出来ます!」


 勇者の従者は突然笑い出すと、嬉々として最後の情報提示をした。


「勇者様も黒玉の一つは破壊する事が出来たのです、だけどこれとは別の最後の一つがどうしても壊すことが出来なかったの、貴方達が力を合わせれば必ず最後の一つを破壊出来るわ! そう、あの月にある黒玉の破壊を!」

「「「「「「「「は?」」」」」」」」


 召集にて集められた八人の魔法使いたちは、一斉に疑問の声をあげるのだった。


 そう、私達の使命はただ一つ。月へ行って黒玉を壊してくるというものだった。


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