第4話 コメディーだと思ってたのに・・・

 私には双子の弟がいた。

 男女の双子だから二卵性だ、私が一足先に産まれて、だから一応私が姉になった。

 産まれた時は私達は良く似ていたらしい、だけど成長していくうちに段々違いが出てきた。まあ、普通の姉弟と同じ位の違いだ。

 どちらかと言うと私の方が活発で良く弟と間違われた。逆に弟はおっとりしていた所為か姉の方だと思われていたらしい。

 それでも私達は仲が良かった、たまに喧嘩はしたがそれでもすぐに仲直りして、次の日には仲良く遊びに行っていた。


 そんな感じで月日は流れ私達は中学生になった。

 その頃にはそれぞれ友達が出来て一緒に遊ぶ事は少なくなっていた。

 それでも唯一、テレビゲームだけは二人とも大好きで。二人とも暇な時はよく対戦物のゲームをしたりして一緒に遊んだ。



 あの日の事は忘れられない。


 私達はもうすぐ中学も卒業で次に行く高校も決まり、受験から解放されたので、のんびり家でゲームを楽しんでいた。


 そんな時のことだった。


あかりひかる、どっちでもいいからちょっと買い物に行って来てくれない?」


 母にそう言われて、私達は顔を見合わす。

 丁度ゲームが面白くなって来たところだ、できれば離れたくない。


「姉ちゃんが行って来てよ、こないだ行ったの俺だったんだから次は姉ちゃんの番だよ」

「えー!やだよーじゃあゲームで勝負!負けた方が買い物!」

「えー!なんだよそれー」


 光はそう言いながらも勝負してくれた。


 結果は私の勝ち。


「へへ、やった!」

「もー次は絶対姉ちゃんが行ってよ」

「はいはい、行ってらっしゃいー」


 それが弟との最後の会話になった。




「弟は・・・光は自転車に乗っていて、偶然目の前に飛び出してきた猫を避けようとして車の多い道で転んでしまって・・・」


 私は当時の事を思い出し声を詰まらす。


「そんな事が・・・」

「でも、なんで?なんでここに光がいるの?」


 何が何だかわからない。


「それに、光の後ろに見えた部屋は私達が使ってた部屋だ、それにあの声はお母さんだ、間違いない。じゃあ、あそこは、このゲームの外は私の家なの?」


「ごめん僕達もよく分からない、僕達が知っているのはゲーム主が乾光で以前に姉弟の姉が事故で死んでるって事だけだよ、明は事故にあった後ここに来たって言ってただろ、だから外の世界の光の姉の霊か何かがここに来たんだと思ったんだ」


 青亜せいあ達も驚き戸惑っている。思っても見ない状況でどう整理をつけたらいいから分からないのだろう。


 いつの間にか他のメンバーも集まっていた。


「もしかしたら・・・」


 そう言ったのは綾緑あやのりだ。


「もしかしたら平行世界なのかも」

「へ?平行世界?」


「いわゆるパラレルワールドだよ、量子力学の解釈によると、起こりうるあらゆる可能性は異なる宇宙に対応し。各結果が複数の宇宙に落ちこむって言う」

「へ?ご、ごめんよく分からない」

「うーん、そうだな、明ちゃんがよく読んでるって言ってた異世界やゲームに似た世界の事を書いた小説のこと、あれもいわゆるパラレルワールドなんだよ、可能性としてあり得るってことで語られてるだろ。この世界もそうなんだよ」


「可能性?」

「そう、明ちゃんがいた世界は明ちゃんの弟が死んでしまった世界で、この世界は逆にその時の事故で明あかりちゃんが死んでしまった世界ってこと。さっきの事故の話しを聞くと。可能性としては明ちゃんが買い物に行って事故に遭っていた確率も高いでしょ?」


 確かにそうだ、あの時、私がゲームに負けていれば、もしくは順番だからと素直に買い物に行っていれば私が事故にあっていてもおかしく無い。


「私が死んで光が生きてる世界・・・」


「今の状況を見るとその可能性が高いと思うよ」


「そうか・・・」


 私はそう言いながら画面があったところを見上げる。


「・・・ん?って言うかなんであいつ男なのに乙女ゲームしてるの?・・え?え?も、もしかしてそっちの性癖があったりするの?ど、どうしよう、お姉ちゃんそっちの知識はあんまり無いよ!薄い本か?薄くて肌色が多い本を読んで勉強した方がいいのか?ボーイズでラブな世界なの?!」

「きゃー、明ちゃん落ち着いて!!そっちの世界は一回入ったら抜けられない底なし沼だよ!本当、落ち着いて!考え直して!」


 頭を抱えて悩む私に友美ともみちゃんが必死に止める。


「違う」

「え?」


「違うよ、多分、このゲームは明ちゃんの代わりなんだよ」


 言ったのは青亜だ、すごく悲しそうな顔だ。


「え?私の?」

「明ちゃんは少女漫画や恋愛物も好きだろ?」

「う、うん」


「いつだったか光がゲームしながら呟いてたんだ、もし姉ちゃんが生きてたらこんな風に友達と遊んだり恋したりしてたのかな、って。だからヒロインの名前をアカリにしてるんだと思うよ」


「光・・・・」

「絶対にハッピーエンドで終わらせるのもそう言う理由があるからだと思う」


 私はたまらず俯く。


「・・・っぶ、ふふ、くくくく馬鹿みたい」

「明?」

「あ、明ちゃんなんで笑って?」

「・・・くく、だってやっぱり私達姉弟なんだなって」

「明ちゃん?」

「私も、私も同じ事してた、弟が好きだったRPGや世界を救うゲームで主人公に好きな名前を付けられるゲームがあるよね?私も同じように主人公に弟の名前を付けてゲームしてたの・・・」


 あの時、弟が事故で死んで私はショックでしばらくは何も出来なかった。将来成長すれば離れ離れで生きていく事になるだろうとは思っていたけど、それでもずっと姉弟として生きて人生を歩んでいくと思っていた私は、この事実を受け入れられなかった。

 数ヶ月は入学予定の高校にも行けず家に閉じこもりっきりだった。流石に親はこれじゃ駄目だと思ったのか私に普通の生活を送るように説得した。私もこれ以上親に負担になるのは心苦しかったから、何とか頑張って学校に行けるところまでは回復した。

 しかし、学校に行ったはいいがその頃にはクラスには特定のグループが出来上がっていて、私が入れる隙は無かった。

 中学から知っている友人もいたがすでに他の友達がいて、そこに無理矢理入るのはなんだか悪いし、その友だちは弟が死んだ事も知っていて、なんだか腫れ物に触るように接せられるので、気まずい雰囲気にしかなら無い。いじめられることこそ無かったが私はいつまでもクラスで浮いた存在だった。


 しかも授業も遅れたせいで勉強も分からなくて面白くない。なんとか勉強して取り戻そうとはしたが元々頭も良く無いおかげで成績は全く上がらなかった。

 そもそも、なんとか回復したと言っても光がいなくなったと言う事実はずっと、私に重くのしかかっていて、学校に行く以上のエネルギーは出てこなかった。


 何をしても上手く行かない。

もし死んだのが光じゃなくて私だったらきっとこうはならなかっただろうとも思った。光は頭が良かった優しいし努力家だそう思うと親も心の中ではきっと私じゃなくて光が生きてたらと思っているんじゃないかと思って苦しくなった。


 そうして私には大量の時間が余ってしまった。友だちも居ないし勉強もしなかったからだ。

 私はその時間をゲームやネット小説を読む事に費やした。


 弟の名前を付けたゲームで敵を倒して世界を救う。最後に主人公ひかるが幸せそうにしていると、なんだか私も救われた様な気がして何度もプレイした。

 異世界物の小説が好きだったのも、もしかしたら弟はこんな風に違う世界に行っていて、楽しく恋をしたり冒険して暮らしているのかもと想像しているとなんだか慰められたからだ。


 側から見たらおかしな行動だ、だけどこうでもしないと生きているのが辛かった。


「ゲームや小説を読んでる時は辛い事が少しだけ和らいだんだ」


「・・・明ちゃん」



「・・・そういえばみんなは、なんで私がこの世界の明だと思ったの?事故は三年も前の事なのに」


 そう言うと青亜たちは顔を見合わせ気まずい雰囲気になる。


「・・・・・実は最近光の様子がおかしいんだ・・・たまに変なところに怪我してたりあざを作って帰って来てて。もしかしたらいじめにあっているんじゃないかってみんなで話してて」

「い、いじめって!」

「そうなんだ、だからそれを心配した明がここに来てしまったのかと思ったんだ」


 そこでまた辺りが明るくなった。

 光がゲームが再開したようだ。


 ゲームに戻ったのか青亜たちもいなくなった。

 私はまた物陰からヒロインの後ろにある画面を見る。


 光は最後に見た時より少し成長していて男っぽくなっている。

 だけどその表情はゲームをしているとは思えないくらい冴えないし暗い。

 何を見ているのわからない目で画面を見つめている。

 よく見ると腕や足の見えにくい所に痣がある。


「光・・・」


 懐かしい弟の姿に思わず涙が溢れる。


 次いで弟と仲良く遊んでいた日々も思い出す、光ひかるは控え目な性格だけど好奇心旺盛でよく2人で雑木林に虫を取りに行ったりしてた、光はよくキラキラした目で捕まえた虫を見せてくれていた。


 それなのに今は、荒んだ目でひたすらゲームをしてる。


『姉ちゃん・・・僕ダメだ学校で何にも上手くやれない・・・母さんも気づいてるみたい・・・』


 光は今にも泣きそうな表情でひとり言をつぶやいている。


「・・・光」


 しばらくすると辺りが暗くなる、どうやらゲームを終えて寝るようだ。



 青亜たちが戻ってきた。泣いている私を見て心配そうな顔をする。


「明ちゃん泣かないで」


 そう言って友美ちゃんは平べったい手で頭を撫ぜる。


「・・・なんで・・いじめなんて」


 光は大人しい性格だったが暗い訳でも無かった、友達も居たしそんな事されるようなやつじゃ無かったのに。


「僕達も詳しい事は分からないんだ、光はこのゲームを買った時からあんな感じだったから。たけどたまに呟いてた、なんで僕が生き残ったんだろう?って姉ちゃんは明るくて友達も多かった、僕が代わりに死んでれば両親もこんなに苦労しなかったのにって」


「・・・光・・・バカじゃないの・・」


 私はうずくまり腕で顔を覆う。


「バカバカ!なんで・・・」



「姉ちゃん?」


 何故か弟の声が聞こえる。


 顔を上げるとそこには驚いた顔の弟がいる。

 驚き、周りを見るといつの間にか風景が変わっていて、私は靄がかかったような世界にいた。


「姉ちゃんなんで・・・」


 なんでこんなところにいるかわからなかったがそんな事関係ない。


 私は弟に近づき思いっきり平手打ちをした。


 バシ!!

「バカ!光のバカ!」

「姉ちゃん・・・ごめん、やっぱり僕が死んでれば」

「違う!バカ!死ぬとか二度と言うな!」


 この光は私がいた世界の光じゃ無い、だけどこの世界の私がここに居たらきっとこう言ってる。


「あんたは優しくていいやつでしょ?頭も良くて努力も出来る凄いやつでしょ!!頑張れ!!あんたは私の弟なんだから!大丈夫だ!!頑張れ!頑張れよ!」

「姉ちゃん・・・・・・うん、うん」


 私はまたボロボロ泣いていた、弟も似たような顔をしてる。

 一方的で身勝手な要求だ、私だって同じ事をしていたのに。



「・・・頑張れよ!頑張れ・・・私も・・・私も頑張るから!」


「うん・・うん、頑張る・・・僕・・・」


 そう言った後、だんだんと視界も靄がかかり真っ白になって何も見えなくなってきた。


「姉ちゃん?・・・まって!」


 体がどこかに引っ張られる。


「光!」


 上も下も分からなくなって私はそのまま意識を失った。


 ―――――――


 ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・


 目を覚ますとそこは見覚えのない真っ白な天井。

 誰かがこちらを覗き込む。


「先生!患者さんが目を覚ましました!」


 女の人の声がしてバタバタと騒がしくなる。

 どうやら今度は、病院で目を覚ましたようだ。



 ――――――



 あれから色々あった。

 後から分かった事だか私はあの事故で、かなりの勢いで跳ね飛ばされ、それでもうまい具合に生垣に落ち、葉っぱや枝に守られて体に致命的な怪我は無かった、だけどトラックにぶつかった時、頭を強く打っていて一時は昏睡状態に落ちいったらしい。


 目を覚まして駆けつけた親は、特に母親には泣かれた。

 当たり前だ息子を事故で亡くしてもう一人も事故で死んでいたらやりきれなかっただろう。

 母親は私が自殺したんじゃないかと思ったとも言っていた。

 随分と心配を掛けてしまった。



 それから私はこのままじゃいけないと変わる努力始めた。

 ちょうど夏休みに入る前だったから一念発起して遅れていた勉強を始めた。

 正直言うと私の成績はギリギリでこのままだとどこの大学にも行けないどころか卒業も怪しと言われていた。


 私はゲームも小説も読むのをやめて勉強し始めた。


 親はあまり無理をするなとは言ってくれたが、あの時、あの変な異世界で光と約束したから、私も頑張ると言ってしまった手前、頑張らない訳にはいかなかった。


 それから必死の勉強の甲斐あって、なんとかギリギリ大学にも受かり、私は大学生になった。

 まあ、大学に受かったからって充実した人生を送れるとは限らないけど。

 それでも勉強を通して新しい友達もできた。これからなにがあるか分からないけど出来れば恋人も欲しい。


 そういえばこの間、久しぶりに電気屋さんのゲームコーナーに行った時の事。


「あ!このゲーム」


 たまたま目に入った中古のワゴンに「虹蘭学園こうさいがくえん

 君色に染められて~」と言うゲームを見つけた。

 ジャケットには青亜や琥珀、紅虎が爽やかな顔で笑っている。


 あの世界の事ははっきり覚えていたがあの変な世界の事は半場夢の中の出来事なのではないかと思っている。


 光が生きていれば、という私の願望がそれを見させたと言う可能性は高い。


 しかもこの世界にもこのゲームがあると言う事は、私が覚えていないだけで何処かでこのゲームを見ていてそれが夢として出てきた可能性もある。


 それでも私の知らない知識も沢山出てきたし、それにゲームの事を知っていても細かい設定までは私は知る筈がない。

だから本当の所は分からないが。


 どちらにせよ確かめようの無い事だ。


 だけどあの世界でみんなで遊んだ乙女ゲームは凄く楽しかった。

 ワゴンに積まれたそのゲームに写るみんなはなんだか少し寂しそうだ。


 私はそのゲームを買って、久しぶりにみんなと遊ぼうと思った。


 でもヒロインに自分の名前を付けるのはやっぱり恥ずかしいからやめとこう。

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乙女ゲームの世界にトリップしたけど・・・・なんか思ってたのと違う! ブッカー @Bukka

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