第6話 アイスの似合う○○○

 ふたりして、無言でカップアイスを食べる。


 アイスはちょっととけてやわらかくなっていたけれど、わたしの好みを知ってか知らずか、大好きなバニラ味だったのが嬉しい。


 ちなみに、翔汰はNEWと書かれた新作味のアイスを食べている。


 それにしても、水干とアイスっていうのは微妙にミスマッチな感じだけれど、小さな男の子がアイスを食べている姿は微笑ましいなぁ。


「なに?」


 わたしの視線に気づいて、翔汰が目を上げた。


「え、いや……。これ、ありがとう」


 考えていたことを誤魔化しつつ、一応、わたしの為にわざわざ買いに行ってくれたみたいだしお礼を言っておく。


「どういたしまして。少年○ャンプ立ち読みしに行ったついでだし」

「コンビニで立ち読みしてるの!?」


 わたしのためじゃなかった!


「そうだけど。だって続きが気になるじゃん。タダで読めるもんに賽銭使うのもったいないしな」


 コンビニで首に鎖を巻きつけた水干姿の男の子が立ち読み――。


 それって、どうなの?

 最近はコスプレとか流行ってるから、大丈夫なの? いやでもこんな田舎で小学生男子がコスプレして出歩くなんて超目立つと思うんだけど。


 そもそも本来タダで読めるもんじゃないし。


「いやいやいや、ちょっと待って。そうだよ、根本的なところ気にするの忘れてた!」

「なに?」


「鎖引きずってたら、自動ドア閉まらないじゃない。ずっと、自動ドアの挙動不審だよね?」  

「――そこかよ」


 翔汰が呆れたようにわたしを見る。


「だって、自動ドアが閉まりきらずに開いたり閉じたりを繰り返してたら、落ち着いて立ち読みもできないよね?」


「できるって。だってこれ、おれを拘束するための神様製の鎖だし。おれ以外の物には干渉しないって」

「そうだっけ? いつもじゃらじゃら音がしてるような気がするけど」

「そりゃあおれが動けば鎖同士はこすれたりぶつかったりするからな」


 初めて知った。


「そんな目から鱗、的な反応されても、すっげぇ今更感あるんだけど。おれとおまえ、いったい何年のつきあいだっけ?」


 小学校三年生の秋に引っ越してきて、今が高二の夏だから――。


「もうすぐ8年?」

「おれの体感じゃ、あっという間だけど、人間にとっちゃかなりの時間だろ?」


 確かにそうだ。


「そっか、翔汰ってずっと大きくなんないから忘れてたけど、知り合ってからもうそんなになるんだっけ」


「おまえもあの頃からちっとも育ってないけどな」

「失礼な!」


 自分でも気にしてるのに!


「おっと、失言失言。ま、それだけ元気なら大丈夫だな。そんじゃおれ、帰るわ。じゃあな!」


 ひらりと身を翻して、翔汰がベランダから飛び降りる。


「ちょっと翔汰!」


 呼びかけるけれど、既に翔汰の姿は闇の中に消えている。

 ベランダには食べ終わったアイスの容器が残されていた。

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