第4話 わたしのお兄ちゃんの○○○
あのあと、お兄ちゃんが病院まで迎えに来て、わたしはタクシーで家まで送り届けられた。
家の前につけられたタクシーからは、お兄ちゃんにお姫様抱っこされて運ばれるというとっても恥ずかしい経験をすることになったけれど、お兄ちゃんとの約束を破ってしまったという負い目があるので、強く抵抗するわけにもいかず、されるがままだ。
タクシーの中ではこんこんとお説教をされ、泣かれ、それはそれは大変だった。
「明日は学校を休むこと!」
お兄ちゃんは、わたしを部屋まで運ぶと、ベッドに寝かせてその上から布団をしっかりとかぶせ、そうのたまった。
「ええっ!? もうなんともないのに!」
「なんともなさそうでも実は負担がかかってる可能性もあるだろ。お兄ちゃんは許さないぞ! 許さないんだからな!」
二度言った。
「ええ~」
「とにかく、明日は大人しくしてること! ぐぬぬ、お兄ちゃんも実験さえなければ……」
「実験はしてきなよ。わたしまでコウキさんに迷惑かけちゃったし、これ以上コウキさんの負担を増やさないであげてよ。申し訳ないよ」
「あいつは別にいいんだ」
お兄ちゃんは全く意に介さない。
「お兄ちゃんがよくても、コウキさんがいいよと言ってくれるとしても、わたしが心苦しいよ」
「なに! 苦しい!?」
「違う! 心苦しい」
面倒だから聞き間違わないでほしい。
「おお、そうか。苦しくなければいいけれど、心苦しいのもまた問題だな」
「そうだよ。だから、大学戻りなよ」
「今晩も徹夜なんだよ! くそう! 行きたくない!」
お兄ちゃんが心底嫌そうに主張する。
そんなに実験が嫌なのに、なんで理系に進んだんだろう、と思わなくもないけれど。
「まあ、夜も学校にいなきゃいけないなんて、大変だよね」
「実験には昼も夜も関係ないからな。むしろ夜のほうが静かでいろいろと作業が進むともいえる」
「なら戻らないとね」
「はぁ~あぁ~」
お兄ちゃんが深い深いため息を吐いた。
「わかったよ。わたし明日は家で大人しくしてるから、安心して実験に行ってきてよ。ただし布団をこんなにしっかりかけるのは暑いからお断りだよ」
「しょうがない、布団の件は妥協しよう」
「ありがと。それじゃいってらっしゃい、お兄ちゃん」
「いくあ~! 急いできりつけて帰ってくるからな!」
お兄ちゃんは、未練を断ち切らんとばかりに勢いよく部屋を飛び出して行った。
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