第2話 駅の近くにある○○○
わたしは学校まで自転車通学だけれど、佳帆は電車とバスで通っている。
神様マスコットを売っている店は、高校の最寄り駅から二駅ほど先の駅近くにあるというので、わたしは自転車を最寄駅の駐輪場に停めて、佳帆と一緒に電車でその駅まで向かった。
そういえばお兄ちゃんに【寄り道せず真っ直ぐ帰ること】と【ベランダには出ないこと】を約束させられていたことを途中で思い出したけれど、そのころにはもう目的の駅のホームに電車が滑り込んでいた。
出来るだけ早く帰れば、大丈夫だよね。
そう自分を納得させてみる。
学校帰りに寄り道をするとしたら、学校の前の坂を下ったところにある《やすい商店》というのがいつものパターンなので、大きな駅に来るのはすごく久しぶりだ。
そもそも、日常生活を送っていて、電車に乗ることがほとんどない。
自転車(ギアなしシティサイクル)で行けるところまでが、わたしの行動範囲といえる。
大きな駅は、ホームに降りる人の数も多ければ改札へ向かう人の数も多くて、なんとか改札を出たそこにもたくさんの人がいた。
そんな中、すいすいと歩く佳帆にひっついて、わたしはなんとか前進する。
「佳帆、こんなに人がいるのに、よく歩けるね」
「毎日こんな感じだから、慣れだよ、慣れ」
短く切った制服のスカートの裾を揺らしながら歩く佳帆について進んで駅構内を脱出すると、ようやく人口密度が低くなった。
「わたし、佳帆を尊敬するよ」
「わたしは、いくあが心配だよ」
小柄なわたしよりも20センチ近く身長が高い佳帆が、すっかり疲れきったわたしを見下ろして頭をなでる。
「だ、大丈夫だよ! 普段は自転車で行けるところまでしか行かないから!」
「そうかそうだね、卒業後のこと――大学とか就職とかは、またその時考えればいいことにしとこう」
佳帆はよしよしと存分にわたしの頭をなでると、腰まであるわたしの髪を手早く整えてシュシュでまとめてくれた。
「ありがと、佳帆」
「うん、可愛い!」
佳帆が満足げにうなずき、わたしたちは並んで歩き出す。
駅の裏側にあたるらしいその通りは、駅の喧騒がうそのように閑散としていた。
「あれ? いつもこの通りって結構にぎわってるのに、おかしいなぁ」
佳帆がきょろきょろとあたりを見渡しながら呟く。
「商店街の、定休日とか?」
通りの両脇には、お店が並んでいるのに、どこも店内は暗く、お客さんの姿も見えない。
いつの間にか、空に広がり始めた雲のせいもあってか、通り全体が薄暗く感じる。
「ええっ!? そうか、その可能性があったかぁ」
「お店は、どのあたり?」
「もうすぐだよ。このお店のある角を曲がって……」
「ぶふっ!」
曲がるなり足を止めた佳帆の背中に勢いよく衝突してしまった。
「ご、ごめん、佳帆……」
ぶつけた鼻を押さえながら謝るけれど、佳帆の「いいよいいよ~」といういつもの返事がない。
「佳帆……?」
佳帆の脇から、顔を見上げる。
佳帆は両目を見開いて、真っ直ぐ前を見つめている。
「か……ほ……?」
反応がない。
「かほ、どうし……っ!!」
正面に回り込もうとしたとき、ぐらりと佳帆の体が傾いだ。
受け止めようとしたけれど受け止めきれず、、一緒に路上に倒れ込む。
「佳帆? 佳帆!!」
慌てて起き上がろうと道路に手をつくと、ぬるっとしたものに触れ、反射的に手を離す。
「えー――ー」
見ると、わたしの手は真っ赤に染まっていた。
これは、なに――ー?
その時になって、わたしは初めて周囲へ目を向けた。
ひっ、と息を呑む。
赤いのは、わたしの手だけではなかった。
道路に倒れたわたしと佳帆を中心に、真っ赤な水たまりが広がってゆく。
黒いアスファルトを、真紅が侵食してゆく。
なにが起きたのか、全くわからなかった。
わかるのは、佳帆が返事をしないということ。
「佳帆! 佳帆――――ーっ!!」
わたしは横たわる佳帆を抱きしめ、その名前を声の限り呼んだ。
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