第5話 うちの家にいる○○○(3)
「大丈夫だったか!? いくあ!」
お兄ちゃんがどたばたとこちらへ駆け寄ってくる。太ももにひっついていたお札が、ひらひらと床に落ちた。
「ありがとう、お兄ちゃん」
「いくあ、いつも言ってるだろう? ベランダには出ちゃいけないって」
お兄ちゃんが差し出してくれた手をつかむと、ひょい、と軽々と引き起こされた。
長身でそこそこ整った顔をしているお兄ちゃんは、黙っていれば格好いいと思うんだけれど、思い込みが激しいというか、その思い込みに勢いがあるというか、身長だけでなく声や動作も大きいことと相まって、なんというか……ちょっと残念なところがある人なのだ。
とってもいいお兄ちゃんなんだけど。
あと、わたしのことを心配しすぎるきらいがあるので、そこがちょっと過保護だなあと思う。
それはまあ、わたし自身にも責任はあるって自覚してるから、申し訳ないと常々思ってはいるんだけれど。
「ごめんなさい。でも、翔汰にはなにもできないんだから、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
「そんなの、いつどうなるかわからないだろ!? いくあになにかあったらと思うとお兄ちゃんは心配で心配で、実験を後輩に押し付けて帰って来てしまったよ」
「お兄ちゃん!? そこは実験ちゃんとやらないとだよ! 早く戻ってあげなよ。コウキさんが可哀相だよ」
実験を押し付けられた後輩というのは、きっといつもお兄ちゃんの奔放な振る舞いに振り回されている3回生のコウキさんだろう。
「なあに、コウキだから大丈夫だ」
「コウキさんのこと、もっと気遣ってあげようよ!」
お兄ちゃんの使いっぱしりとしてうちに派遣されたこともあるコウキさんとは、わたしも顔見知りだ。
お人よしで温和なとてもいい人だから、きっとお兄ちゃんにこき使われても快く引き受けてしまうに違いない。
「なんだよ。いくあはコウキのことばかり心配して、お兄ちゃんのことは心配してくれないのか?」
「お兄ちゃんのことも心配してるよ。もし実験が失敗して、一からやり直しになったら大変だし」
わたしが言うと、ちょっぴり拗ねた顔をしていたお兄ちゃんの表情が緩んだ。
「そうかそうか。いくあに心配されちゃあ、しょうがないな! さっさと実験片づけて戻って来るからな!」
わたしの頭をわしわしと撫でまわすと、お兄ちゃんはびゅん、と部屋を飛び出して行った。
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