第6話 うちのうらにある○○○

 お兄ちゃんの背中を見送ってから、わたしはうちのうらにある鎮守の杜の、翔汰の姿の消えたあたりを見やった。


 時は夕暮れの刻。


 橙に染まった空の下、そのあたりは一面に暗く見え、翔汰の姿も、その奥にある池も見えない。


 ざわざわと風に揺られて木々が音をたてる。

 聞き慣れた音のはずなのに、今夜は何故か不気味に聞こえた。


 部屋の中に入って、網戸を閉める。

 もうすぐ七月とはいえ、この時間になれば、エアコンをつけなくても窓を開けていれば過ごせる。


 部屋の、フローリングの床の上には、3枚の紙切れが落ちていた。

 半紙に、みみずのはったような、文字のような記号のようななにかが墨で書かれている。


 お兄ちゃんはごくごく普通の大学生なので、悪霊退散できるような能力もなければ、そういう職にもついていない。


 だから半紙で作ったお札だって、映画やアニメのようにひゅんと対象に向かって飛んでいったりも、もちろんしない。


 これはたぶんインターネットか図書館の本かなにかで調べて自分で作ったものだろう。


 お兄ちゃんは、わたしを守ってくれるために、必死なのだ。


 かつて、自分の目の前で、わたしが翔汰に丸呑みされてしまった、あの日から。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る