涼宮ハルヒ症候群
@shiinanona
第1話
それは、受験勉強に必要な参考書を買いに立ち寄った本屋でのことだった。
早々に必要だった参考書を見つけた僕は、それを手にしながら店内を歩いていると、一際目に付く一冊の小説が目に入る。文庫本サイズの小説に、金色の帯が付いていたのだ。金色の帯が付くと言うことは、余程面白い作品に違いない。その当時、中学三年生だった僕はその程度の認識だった。
その帯には、〝スニーカー大賞<大賞>受賞作!!〟――そんな金帯が掛けられ、表紙にはセーラー服を来た可愛らしい少女が描かれていた。しかし、スニーカー大賞と言う小説大賞を僕は、聞いたことが無い。
もしかしたら、僕が知らないだけで本当は有名な賞なのだろうか。良く見ると、第八回と言う表記がある。だとすれば、まだ歴史の浅い文学大賞なのかもしれない。ただ、文庫本ということもあり、あまり高価では無かったのでお試しのつもりで、参考書と一緒に買って帰ることにした。
今にして思えば、これが僕の人生の分岐点になったと言っても過言では無かっただろう。それほどまでに、僕はこの小説に心を奪われてしまったのだ。受験勉強の合間の息抜きで読んで居たはずなのに、いつしか受験勉強そっちのけにしてまで、この小さな小説を読み耽っていたのだから。
中でも、表紙に描かれている少女の、
「ただの人間には興味ありません。この中に、宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」
と言う台詞は、僕の心を鷲掴みにした。
小説を一気に読み終えると、僕は自分の生きている世界が何てちっぽけだったのかと、小さく溜め息を付き、肩を落とした。僕には、宇宙人の友達もいなければ、未来人の友達もいない。
かと言って、異世界人や超能力者の友達だっていやしない――そんなつまらない窮屈な世界で僕は、生きているということに、気付いてしまったのだ。
そして、月日は流れ、高校に合格した僕は今日――高校一年生となった。
入学式を終え、新入生はそれぞれの教室へと集められる。地元の高校を受験した性か、これと言った新鮮味も無く、何の感慨も無い。ただ、地元と言うことがあってか、クラスにも何人か知り合いが居た。その御蔭で、緊張感は少し和らいだ。
すると、間もなくして担任教師が教室へ入って来る。新入生である僕等へと適当な挨拶を済ますと、一人づつ自己紹介をするように促した。脳裏には、否が応でも彼女の自己紹介が浮かび上がる。
多くの人が、何の特徴も無い自己紹介をする。集団生活において、初めの印象と言うのは、今後の学校生活を左右する。だから、初めのうちはなるべく目立たないようにしておくことこそ、無難と言うものだ。
当然、僕もその何の特徴も無い挨拶をする無難な人間の一人だ。
僕の後方の席の生徒が立ち上がり、自己紹介を始める。心のどこか奥底で、ちょっとした淡い期待を込めて、後方へと振り返る。もしかしたら、そこには彼女が居るのではないだろうか、と。
しかし、そんなことなど現実では起こり様も無い。
振り返る僕の視線の先に、彼女――涼宮ハルヒは居なかった。
涼宮ハルヒ症候群 @shiinanona
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