第六話 羽ばたく者たち 第四幕 永遠のライバル(4)

「レースは残り三周、いよいよ佳境、そして迎えるは第一コーナー、先に突入するのはバロン!」

 ジェニファーの云った通り、迅雷はストレートで加速をつけ、ノーブレーキで第一コーナーをターンした。そのあと減速して第二コーナーへアプローチし、そこも回る。

 迅雷はマシンのノーズがコーナーの出口を向く前から視線をその先にやっていることが多いドライバーであったが、このときばかりは後ろが気になった。

 初めての仮想Gフォース一〇〇パーセントで走る真玖郎を心配したわけではない。その逆だ。鬼気迫るなにかが後ろから近づいてくるのを感じる。それを振り向いて確かめたい気もしたし、振り返ってはいけない気もした。

 S字を前にして、真玖郎が迅雷に云う。

「これが、仮想Gフォース一〇〇パーセントのコーナリングか。体がばらばらになりそうだ。でも、見せてやる!」

 そして二人は相次いでS字に突入し、迅雷はこのレースで初めて後ろから猛烈に迫るものを感じた。ジェニファーもまた同種のものに胸を貫かれたのか、身を乗り出して叫ぶ。

「おおっ、これは、速い! バロンも速いが、ファルコンも速い!」

 真玖郎はもちろん今まで速かった。だがそれまではただ速いだけだったのに、今は危険な速さを感じる。隙あらば食らいついてきそうな気配がある。

「わたくしの気のせいでしょうか! バロンがトップに立って以来、ファルコンは徐々に徐々に離されてきていたのですが、この周回に入って急に息を吹き返したよう! いえ、生まれ変わったよう! 今は猛烈にバロンを追いかけ回しています!」

 ジェニファーの云う通りだった。真玖郎が仮想Gフォース六六パーセントで走っているあいだは抜かれる気がしなかったけれど、今は違う。コーナーを一つ越えるたびに差が縮まっているのを感じる。いつ抜かれてもおかしくはない。

 迅雷は全身の肌が粒立つような興奮を感じて云った。

「真玖郎、速くなった」

「君のおかげさ、迅雷。君に私がどれだけ速いか、見せつけてやる!」

 そしてわずかな差も詰められて、バイラウェイがブルーブレイブに食らいついてきた。

 それからはもうどちらが一位かわからないような状態で、両者は横並びになり、右コーナーと左コーナーでインとアウトが切り替わるたびに、イン側にいる方が前に出て、アウト側にいる方がその分遅れるといった感じであった。

「さあ、バックストレート! 鈴鹿最長、一二〇〇メートルの直線を、バロンとファルコンがひた走っていく! ファルコンはバロンのスリップに入りました!」

 迅雷はもういちいち後ろを気にすることはやめていた。

 ――こっちがミスしない限り一三〇Rでのオーバーテイクはない。

 ならば自分が最高のラインを選び取り、全開で突破すればいいだけの話だ。

「バロンはかつてない加速です! これで曲がれる自信があるのでしょうか!」

 ――行けるさ。

 フリー走行でクラッシュしておいたのがよかった。それにここで少しでもスピードを緩めれば、スリップから出てきた真玖郎に抜かれる感じがする。本当にコースオフと紙一重のぎりぎりを攻めねば危ないのだ。

「じ、迅雷さん……!」

 ピットからことりがそんな声をあげた。それに気持ちで応えて、迅雷はさらにアクセルを開ける。

「ことり、翔子、つばさ、見てろよ……!」

 そして一三〇R、世界最速の左コーナーを迅雷は稲妻のように駆け抜けていった。それに真玖郎がコンマ一秒と遅れずついてくる。

 そして勝負はふたたびシケインだ。

 ――さあ、ここだ。ここだぜ!

 元より鈴鹿の勝負所は第一コーナーかシケインだ。順位変動が起こる可能性が高いのはこの二つであり、ストレートの先にある第一コーナーは迅雷のブルーブレイブが有利、ブレーキング勝負になるシケインは真玖郎のバイラウェイが有利である。

 ――スプーンで抜いたときにタイヤを使ってしまったからな。その分、ブレーキングポイントを手前に持ってこなくちゃだめだ。

 あのタイミングでタイヤを消費してオーバーテイクし、先行して作った貯金を、この第二十八ラップだけで取り戻されてしまった。迅雷としては大損もいいところだ。真玖郎を本気にさせるためにタイヤを使い、いざ真玖郎が本気になったら今度はこちらの尻に火がついている。

 ――馬鹿な話だ。勝つための戦略を放棄したような選択だった。でも。

 迅雷はヘルメットの下でにやりと笑う。

「……後悔はしていない!」

 そして迅雷はタイヤの状態とそこから算出されるブレーキングポイントを瞬時に計算し、同時に真玖郎の挙動にも想像の手をひろげた。青のブルーブレイブと赤のバイラウェイの特性の違いを考えると、普通にブレーキング勝負をしたら負けるだろう。

 ――だったら負けないように、ギリギリを攻めるしかない!

 迅雷がそう心に果断を決したとき、ジェニファーが叫ぶ。

「二十八ラップのシケイン、ここは勝負になるぞ! ファルコンが抜くか、バロンが守りきるか!」

 ――押し返す!

 迅雷はブレーキングポイントをめいっぱい奥に取り――。

「迅雷君、あかん! ここでタイヤの残り使ってしもうたら――」

 と、そんな翔子の制止も振り切って、迅雷は深めにブレーキを踏んだ。たちまちブルーブレイブに急制動がかかる。ブレーキを思い切り踏み抜くフルブレーキングではないが、その一歩手前のところであった。

「ブルーブレイブが前です! バイラウェイは一歩後ろ!」

 だがそれは一歩リードしただけだ。本当の勝負はここからである。

 ――ロックするなよ、ロックするなよ!

 迅雷はそう祈りながらタイヤがロックするかどうかギリギリのところを攻めていた。これは綱渡りであり、賭けだ。普通にやったら負けるから、普通でないブレーキングをしなければならなかった。

 ――ロックするなよ!

 と、迅雷が三度祈ったその瞬間、運命が迅雷を袖にしてタイヤがロックしかけた。それを迅雷は予知できた。どういう勘働きがあったのか、迅雷には次の瞬間タイヤがロックすることがわかったのだ。そこで電光石火にブレーキからアクセルに切り返し、縁石を踏みながらどうにかシケインを脱出、最終コーナーへ向かう。

「バロン、抜かせません! 一位はバロン! しかしこれは首の皮一枚ではないか! 今のでもう本当にタイヤは残っていないでしょう! あと二周、逃げ切れるか! それともファルコンが逆転するのか! 今、バロンとファルコンが最終コーナーを回って、メインストレートに戻ってきます!」

 ジェニファーの実況通り、メインストレートに返ってきた迅雷は得意の直線で一気に加速しようとしたが、そこへ真玖郎がぴったりと真後ろにつけてくる。またしてもスリップインだ。

「逃がさないよ、迅雷」

 それはいつでも抜けると云わんばかりであった。実際、タイヤは向こうの方が残っているし、残り二周を有利に走れるのは真玖郎の方であろう。しかし、今の声には疲労が滲んでいなかったか。

「――真玖郎、おまえ」

 すると話の先を読んだのか、真玖郎が会話の流れを変えるように、強がるように云った。

「実況レディの云う通りだよ、迅雷。今のでもう本当にタイヤ残ってないでしょ。残り二周あるのにどうするの?」

「……鈴鹿は抜きにくいサーキットだ。俺は終盤で前に出られる方が厭だった。それにこっちにはタイヤが残ってないが、おまえには体力が残ってない。そうだろう、真玖郎?」

「いや、迅雷。たしかに仮想Gフォース一〇〇パーセントは過酷だけど、でも苦しいのはお互い様のはずだ。それになによりこれが君のいる世界なんだ。この苦しみさえ、私にとっては喜びとなる。それが解っていないとしたら、とんだ計算違いだな」

 そして直路すぐじを高速で駆け抜ける青と赤のマシンを見て、ジェニファーが声を限りに叫ぶ。

「バロンとファルコンが、ギリギリの勝負をしながら、今、コントロールラインを駆け抜けて、第二十九ラップに入ります!」

 そしてバイラウェイとブルーブレイブが第一コーナーをノーブレーキで回り、第二コーナーにアプローチする。

 続くS字も二人は稲妻のように駆け抜けて、迅雷は立ち上がりに至るまで完璧だったが、真玖郎はなおその上を行った。迅雷は先頭を走っているのに、いつものように自由に走っている感じが全然しなかった。

 ――向こうの方が速いのか。だから追い立てられて、後ろから突き上げを食らってるように感じるのか。

 そんな迅雷の惑いを裏書きするように、このとき翔子が突然、

「うっわー!」

 と声をあげた。

「なんだ、どうした」

「さっきのラップタイム、これほんまにタイム上がってるわ! 仮想Gフォース一〇〇パーにしただけで、こんなに削れるんや。これは迅雷君と同等、いや、もしかして、迅雷君より……速い?」

 そんな翔子の言葉に、つばさやことりには動揺の気配が走った。だが迅雷にはわかっていたことだ。

 ――そう、真玖郎は速い! そうでなくては、ここまで追いかけて来たりはしない!

 俺より速い奴に会いにいく。

 迅雷が真玖郎を追いかけている理由の根源にあるのはこれだ。

 真玖郎が迅雷より速くなくては、迅雷にとって真玖郎はライバルとは云えない。そして迅雷が真玖郎より速くなければ、真玖郎にとって迅雷はライバルではない。この矛盾が鬩ぎ合うからライバルなのだ。

 そこへ今度はホケキョが云う。

「真玖郎ちゃん、それに疾風迅雷。今シミュレートを出したけど、たぶんこの周回で真玖郎ちゃんがトップに立つわ。そしてバトンタッチのときのペナルティも跳ね返して、正真正銘、一位でフィニッシュする。そちらのシミュレートではどうかしら?」

 ホケキョに問われた翔子はなにも答えなかった。が、その顔は追い詰められた者のそれだ。一方、ホケキョは既に勝ち誇った顔をしている。だが二人とも、そんな顔をするのはまだ早い。

「所詮、シミュレートはシミュレートさ」

 この逆境にあって迅雷はわらった。莞ったが、実のところ迅雷の頭のなかでも真玖郎に抜かれるヴィジョンがちらついていた。なんと云っても、こちらはタイヤがほとんど残っていない。シケインや、それ以外でも競り合いになった場合、タイヤが残っていないのならどうしてもブレーキング勝負で競り負ける。何度頭のなかで想像を巡らしても、どこかで抜かれるのだ。

 ――もしかして、詰んでる?

 迅雷は一瞬そう思ったが、すぐにその迷いを振り払った。

「レースは、やってみないとわからない」

 ある程度の予測は立てられるけれど、結局すべては人間のやることだ。実際にやってみなければ、最後の最後までなにが起こるかはわからない!

 そしてレースは左の高速ロングコーナーであるダンロップコーナーを越えて、その先のデグナー・ワンを迎えようとしていた。

「さあデグナー・ワン、先陣を切るのは、ライトニング・バロン!」

 そんなジェニファーの華やかな声に混じって、迅雷は真玖郎の辛そうな吐息を聞いた。

 高速で脱出してきた一三〇Rからシケインを攻略するのに急減速、メインストレートで加速して第一コーナーを回ってから第二コーナーへアプローチするのにまた減速、S字では右から左から横Gが襲い来る。そしてここ左の高速ロングコーナーでは凄まじい横Gがかかっている。

 仮想Gフォース一〇〇パーセントの世界に飛び込んできたばかりの真玖郎にとっては、途轍もない負荷であろう。迅雷だって、S字を走っているときは息ができないくらいなのだ。

 ――勝ち目があるとすれば、真玖郎が体力の限界を迎えてミスをすることくらいだろうか。

 と、迅雷がそう思ったときだ。

「迅雷、まさか私がミスをするなんてことを期待してないだろうな」

「な、なに!」

 迅雷は心を読まれてどきりとしたが、ヘルメットを被っていたので表情は相手には見えなかっただろう。そんな迅雷を真玖郎がわらう。

「たとえ気を失ったって、気魄と執念で走ってやる。もっと速く走って、めぐるたちが作った借金も返して、君に勝ち、チームでも勝つ! 行くぞ!」

 そして迅雷が、真玖郎が、デグナー・ワンへ高速で切り込んでいく。二人はコンマ一秒を賭けてデグナーカーブを踏破した。

 さらにはヘアピン、マッチャン、スプーンといった数々のコーナーを正確無比に走り抜け、スプーンからの立ち上がりも完璧に決めてバックストレートへ突入する。

「西ストレートです! ここではバロンのブルーブレイブが水を得た魚のよう!」

 ジェニファーの云った通り、迅雷のブルーブレイブはストレートに入って豪胆な加速を見せていた。だがスプーンを脱出した時点で真玖郎にぴったり後ろにつかれており、まんまとスリップに入られてしまう。

「ファルコンがまたしてもバロンのスリップに入ります! そのまま二人は一三〇Rへ!」

 一三〇Rでは、ミスさえなければオーバーテイクは起こらない。問題はやはりその次のシケインだ。

 ――もうさっきみたいなブレーキングは出来ない。あとはもう、祈るしかないのか。

「さあ、一三〇R――!」

 ジェニファーはそれ以上は語らず、世界最速の左コーナーへ飛び込んでいく二人に注目した。

 迅雷も真玖郎もアクセルを全開にして一三〇Rへ切り込み、そして突破。二人とも鮮やかだった。

 次はシケインだ。迅雷にはタイヤがなく、真玖郎には体力がない。だが真玖郎の気魄が本物なら、体力は精神力で補える。一方でタイヤは、どうしようもない。そのことを迅雷はわかっていた。詰んでいるとわかっていて、それでもやってみなければわからないと信じて、シケインへ飛び込んでいく。

「バロン、ファルコン、九度目のシケイン!」

 そうしてまず迅雷がシケインに飛び込み、コースオフしないようにかなり早い段階でブレーキを踏んだ。その迅雷の左側を、一陣の赤い風が駆け抜けていく。既に迅雷は減速しているのに、向こうは今から減速しようとしていた。

 ――まだタイヤがそんなに残っているのか! だが、だとしてもおまえはこの減速に耐えられるか!

 一三〇Rを突破したときは時速にして二〇〇キロ以上出ている。それがシケインになると一気に七〇キロ前後に落ちる。この凄まじい落差のなかで、しかし、真玖郎は見事にマシンをコントロールしてみせた。迅雷には真玖郎の赤いマシンが熱さえ放っているように感じたほどだ。そして。

「そして、今、ファルコンがバロンを抜いた! またオーバーテイキングだ! 赤いバイラウェイがブルーブレイブに先んじてシケインを脱出、最終コーナーに向かいます!」

 ストームヴィーナス側のピットではホケキョたちが歓声とともに拳を掲げ、ソアリング側のピットではつばさたちが重苦しい雰囲気でレースの行方を見守っている。

 そして、真玖郎が執念を感じさせる声で云った。

「前に出たぞ、迅雷」

「ああ、これがファイナルラップだったらおまえの勝ちだった。だがまだあと一周、残ってるんだぜ。そしてこの先はストレートだ!」

 かくて真玖郎と迅雷は最終コーナーを回り、メインストレートに返ってきた。

「この鈴鹿で、こんなに抜きつ抜かれつの勝負があるのか! 今、両者コントロールラインを駆け抜けて、TSR決勝、ファイナルラップです!」

 下り傾斜のついたストレートを、真玖郎と迅雷が駆け抜けていく。シケインを脱出した直後に稼がれた距離を、今は迅雷が奪い返していた。ストレートで青いマシンが赤いマシンに追いつけなければ嘘だ。だが一気には抜き去れない。まだ真玖郎が気持ち先行している。

 ――第一コーナーでぎりぎり勝負できそう……なんだけど、なんだこれ!

 迅雷がそう心で叫んだ直後、真玖郎もまた呻くように呟いた。

「……まずいな」

 二人が見ているのは、行く手にある白いマシンだった。

「そしてそして、間もなく勝負の第一コーナーというところですが、ここに来てまた周回遅れのマシンが見えてきました!」

 そう、前方に周回遅れがいるのだ。

「先頭争いをするバロンとファルコンが二十五周目に最下位のマシンを抜いてから、このレースも周回遅れが出始めました。特に触れてはいませんでしたが、バロンたちは今までに都合五台のマシンを周回遅れにしています! そして今ファルコンとバロンの前に現れたのは、現在七位を走るセイバーズのプリンスだ! マシンは純白のヴァイスセイバー!」

「ここでおまえが出て来るのかよ!」

 迅雷がそう叫んだのには理由があった。当然、真玖郎もそれを解っている。

「迅雷、これはちょっとタイミングが微妙だぞ」

 真玖郎がそうぼやいた直後にまたジェニファーが云う。

「セイバーズは二番手がシケインで接触、ピットインして最下位に落ちましたがその後、二番手、そしてバトンを受け取った最終走者のプリンスが素晴らしい走りで順位を取り戻し、現在七位! しかしとうとう、バロンとファルコンには周回遅れにされようとしています! 当然、青旗ブルーが出ていますが、これは微妙なところだ! セイバーズ、ここまでとても頑張りました! プリンスも以前の悪評がなかったかのようにここまでクリーンに走ってきました! しかしその頑張りがここでこうなるとは!」

 メインストレートをひた走る迅雷と真玖郎が、みるみる恋矢との距離を詰めていく。周回遅れにされる相手なのだから彼我の距離が縮まっていくのは当然だが、このままいくと、抜かれるタイミングが非常に危ういことになりそうだ。

 既にそれは誰の目にもあきらかで、ホケキョが瞠目しながら云う。

「これは……第一コーナーの手前で三台のマシンが、並ぶ?」

「あかんわ、これ。このタイミングで青旗ブルーを出されても、プリンスもどうしていいかわからんやろ。どうなるんや」

 と、翔子もまた頭を抱えている。

 レースには抜く技術はもちろん重要だが、抜かれる技術というのもまた必要なのだ。事故に繋がるようなことは避けねばならないし、周回遅れで青旗が掲示された場合はやはり速やかにインを空けて先頭のマシンを通過させねばならない。

 ところが今は第一コーナーの手前である。アウトに寄ればアウト・イン・アウトのラインを塞いでしまうし、かといってインに寄ればやはりコーナーの内側を塞いでしまう。この瞬間の判断が下せずに、恋矢はどう抜かれていいのかわからないといった感じで、コースの真ん中で立ち往生してしまったようだった。ただアクセルだけは抜いて減速している。

 その挙動から迅雷は、『じっとしてるからさっさと追い抜いてくれ!』という恋矢の無言のサインを感じ取っていた。

 ――もう右にも左にも寄る気ないな、こいつ! ならそのままじっとしてろよ!

 迅雷は心でそう叫びながら真玖郎を僅かの差で追いかけてメインストレートをひた走る。恋矢を追い抜くところは、もう完全に第一コーナーの手前だ。

「これは面白いことになりました! プリンスは第一コーナーの手前で立ち往生といった感じです! 真ん中に陣取り、左右が空いている! いや、心なしか、プリンスは右寄りでしょうか!」

 そう、迅雷の見たところ、恋矢はコースのど真ん中ではなく、やや右側に寄っている。つまり右が狭く左が広い。だが第一コーナーは右コーナー、インは右で左はアウトだ。

 どちらの道にもリスクが付きまとう。

 迅雷はそう思いながら、僅かに先を走るバイラウェイを見た。

 ――どうする、真玖郎!

「さあ、ファイナルラップの第一コーナー、三台のマシンが縺れ合う!」

 ジェニファーが楽しげにそう云った直後、真玖郎が恋矢に追いつき、迷わず左に針路を取った。それを見て迅雷は右に切り返す。

 ――おまえが左から行くなら俺は右から行くしかないだろう!

「お、おおっ――」

 別々の道を選択した二人を見て、ジェニファーがそんな声をあげる。

 そしてその一瞬、第一コーナーの手前で迅雷と真玖郎が左右から恋矢のヴァイスセイバーを挟み込んだ。三台のマシンが横一線に並ぶ。そのとき迅雷は音と衝撃を感じ――次の瞬間、真玖郎も迅雷もヴァイスセイバーを抜き去って前に出た。それが第一コーナーへのアプローチの瞬間でもあった。

 いったい、なんという運命だろう。もし第一コーナーよりもっと手前でそれが起こっていれば、真玖郎はそこから差し込みに行ったに違いない。だが恋矢を抜いた直後が第一コーナーで、コーナーのイン側には迅雷がいたのだ。

「バロンがインを押さえた! ファルコンはインに入れない!」

 真玖郎ももちろんインを押さえにきた。しかし迅雷のブルーブレイブがそこにいたので押さえられない。そして。

「オーバーテイキング!」

 第二コーナーを回ったときには、迅雷かふたたび一位を取り戻していたのだ。

「しかし――」

 と、実況レディのジェニファーが身を乗り出して叫ぶ。


        ◇


「あ、ああっ!」

 第二コーナーを回って、迅雷はトップに躍り出ていた。だというのに、翔子は喜ぶでもなくそんな悲痛な叫びをあげると、胃を鷲掴みにされたような思いでワイヤレス・ヘッドセットのマイクに向かって叫ぶ。

「じ、迅雷君!」

「……わかってるよ。さっきプリンスを追い抜いた瞬間、音と衝撃があった。どうなってる?」

 迅雷のその問いには、図らずもジェニファーが実況というかたちで答えた。

「しかしバロンのブルーブレイブ、左のウイングが落ちている! これは恐らく先ほどプリンスと接触したのでしょう! 一方でファルコンのバイラウェイは無傷!」

「だと思ったぜ!」

 迅雷の声には、追い詰められているのに開き直ったような猛々しさがあった。

 おもえば真玖郎があのときアウト側を選んだのは、道幅の広さを選択したためだ。そして先行する真玖郎がそちらを選んだので、第一コーナーで勝負することを考えると、迅雷には選択の余地がなかった。

 イン側からプリンスの横をくぐり抜けた迅雷は、天佑もあって第一コーナーのインを押さえ、クリッピングポイントから真玖郎を弾き出してオーバーテイクに成功した。しかし元より道幅の狭い鈴鹿のことである。一瞬とはいえ三台のマシンが並列になったとき、軽い接触があったとしても不思議はない。

「第一コーナー前で周回遅れを挟んだことでバロンは先頭に躍り出ましたが、しかしここに来てマシンに故障を抱えてしまった! 一方、運悪く二位に転落したファルコンですが、こちらはまだ余力があります!」

 そうしたジェニファーの実況を聞きながら、翔子は素早くシミュレートを出し、思わずうめき声をあげた。

 横から画面を覗き込んだつばさもまた唸る。

「これは……」

 翔子は監督としての自分の責務を思い出すと、落ち着いた声で迅雷に云った。

「迅雷君、ぶっちゃけた話――」

「ぶっちゃけなくていい」

「え?」

「どうしたって、もうファイナルラップだ! ここが瀬戸際なら、死力を尽くして走るしかない! 執念で勝利をもぎ取ってやる!」

「……せやな。頑張れ、なにはともあれ順位は一位や!」

「そうですよ、お兄さん。抜きにくい鈴鹿で前に出ていることはアドバンテージです」

「迅雷さん、がんばって!」

「おう!」

 迅雷はそう雄々しい返事をして、最後の一周を激走していく。


        ◇


 一方、チーム・ストームヴィーナスの面々はというと――。

「なんてついてないんだ、こんちくしょう!」

 周回遅れのプリンスをあいだに挟んだあの一瞬の攻防のあと、真玖郎の順位が後退したのを見ためぐるがそんな声をあげる。近くにゴミ箱でもあろうものなら、蹴っ飛ばしていそうな気味合いであった。

「あの白いの、なんであのタイミングであそこにいるんだよ!」

 そんな風に荒れるめぐるに、千早が愉悦の滲む声で云う。

「それが勝負の綾模様というやつなのさ。二人が独走しているとはいえ一対一で走っているわけでなし、ああいうこともある。そしてバロンは手負いになった」

 中継映像はジェニファーの実況を乗せながらブルーブレイブを舐めるように映しており、左ウイングが綺麗にけているのを誰の目にもわかるよう捉えていた。

「ウイングを失ったということは、ダウンフォースを失ったということだ。もう一三〇Rを全開では走れない。タイヤも残っていないし、さすがのライトニング・バロンも相当厳しい走りになるだろう」

 そんな千早を見上げて、めぐるが云う。

「抜ける?」

 その問いに千早はふっと笑う。

「さて、な。なんと云っても先行されているし、ウイングが落ちたところでブルーブレイブ最大の武器であるエンジンは生きている。こればかりはチェッカーフラッグが翻るその瞬間まで判らないよ」

 千早はそう云うと豊かな乳房の前で腕組みをし、椅子に座って真玖郎とやりとりをしているホケキョに眼差しを据えた。

 そのとき、向こうのピットとやりとりをしている迅雷が云う。

「――執念で勝利をもぎ取ってやる!」

 その言葉に、ホケキョは感応したらしかった。

「そうね、バロンもたまにはいいことを云うじゃない。ここまで来たらあとは執念が勝負を決めるわ。執念よ、執念。ぎりぎりの際どいどころで零コンマ零一秒でもタイムを削ってやろうっていう執念! 真玖郎ちゃん、一秒の差をつけて勝とうなんて考えなくていいから、とにかくバロンだけは抜いてきなさい!」

「そのつもりですよ!」

 そして真玖郎もまた、執念に引きずり込まれるようにして走る。


        ◇


 ウイングの片方を失ったことで、迅雷はコーナーの攻略に際し、今まで以上にブレーキに頼ることが多くなってきていた。これがレースの中盤であればタイヤマネジメントに苦慮しただろうが、迅雷にとって幸運だったのはファイナルラップだったことである。しかもどの道、タイヤはほとんど残っていないのだ。

 ――やれるだけやってやる!

 迅雷はファイナルラップに至って、コーナリングの組み立て方をすべて切り替えながら走っていく。さすがにタイムは落ちているが、有利なラインを陣取っているので後ろから真玖郎に突き上げを喰らいつつもオーバーテイクは許していない。

 そんな迅雷の走りを見て、つばさが茫然と云う。

「こんな荒っぽい走りも出来るんですね」

「実のところこういう走りの方が性にあってる!」

 いつもの迅雷はタイヤを温存することを考えて走っている。だが今はもうタイヤがどうとか云っている場合ではない。

 とにかく残り一周未満のこのレースで、前に居続けることが第一だ。そうなるとウイングを一枚失ったことで、却って迅雷の野生が表に出てきた感じさえする。

 走りは、スマートからワイルドへ完全に切り替わっていた。

「左ウイングを失ったバロン! しかしダイナミックな走りでどうにかトップを守っています! それを僅かな差でファルコンが追う! これも猛追! そして二人はそのままスプーンカーブへ!」

 スプーンカーブでは、一瞬真玖郎が前に出そうになった。が、高速での脱出に繋げた迅雷がバックストレートに入るやまた巻き返し、ブルーブレイブの特性を活かして前に出る。その攻防を見てジェニファーが唸った。

「一瞬、ファルコンが前に出かけましたが、まだバロンが先頭です!」

 ――危ねえ危ねえ。

 迅雷は背中に一筋の冷たい汗を流しながら、バックストレートを駆け抜けていく。その後ろには、真玖郎がぴったりつけている。

「さあオーバーテイクこそならなかったファルコンですが、バロンのスリップに入りました。バロン、得意のストレートでファルコンを置き去りにすることができません!」

 迅雷は背後の真玖郎を気にしつつ、この先のことを考えた。

 そこへ翔子がおずおずと云う。

「迅雷君、わかってると思うけど……」

「ウイングを一枚失った状態では一三〇Rに全開で挑めない、だろ?」

 ダウンフォースのいくらかを失った以上、その分は減速して入らねばコースオフしてしまう。これが大きな失速に繋がれば、つばさが千早に抜かれたときのように、真玖郎に外側から豪快に抜かれかねない。その可能性リスクは、今さらどうにも出来なかった。ならばそのリスクを踏まえた上で、可能な限り速く一三〇Rを駆け抜けるだけだ。

 ――それで駄目なら、そのときはそのときだ。

 迅雷はそう開き直ると度胸をつけ、覚悟を決めた。

「行くぞ真玖郎、俺の底力ってやつを見せてやる」

 迅雷のその言葉に、真玖郎はスリップから出ることで応えた。バイラウェイがダウンフォースを取り戻し、一三〇Rに向かって準備万端を調えたというわけだ。

 そしてこのバックストレートも、もう間もなくおしまいである。

「今、バロンとファルコンが相次いで立体交差橋を渡って行きます! そしてこれが最後の、一三〇R!」

 ジェニファーの声を聞きながら、迅雷がまず一三〇Rに飛び込んでいった。やはり全開では行けない、だが。

「速い!」

 ジェニファーがそう叫んだ通り、左ウイングが落ちているとは思えぬ速さであった。迅雷は思わず会心の笑みを浮かべて、後ろから迫ってくるはずの真玖郎に向かって云う。

「どうだ!」

「さすがだ迅雷、私の予想を裏切らない」

 その穏やかな声とともに、真玖郎が一三〇Rを全開で駆け抜けてくる。が、それは大外からの追い抜きを狙ったものではなかった。

 それを見て迅雷は目を剥いた。

「仕掛けて来なかったのか!」

「君なら左ウイングがなくてもそれなりに速く駆け抜けると信じていたし、そんな君を相手に一三〇Rでのオーバーテイクは私にとってもリスクが高い。それに千早がプリンセスを抜けたのは、千早の車がエンジンに力のある青よりの紫だったからだ。私のバイラウェイでは、ここで無理に仕掛ける局面ではないね」

「ということは……」

「私の見据えている勝負所は、最初から――」

「シケインか!」

 一三〇Rを越えた先は、ジグザグの減速コーナー、シケインである。

「ここでの勝負が、一番成算が高い!」

 そして真玖郎は、シケインに向かって加速した。一方の迅雷はアクセルを抜き、ブレーキも微妙に踏んで進入の速度を調整している。相対的に二人の距離は縮まり、やがて迅雷は、真玖郎の赤いマシンが左側から迫り出してくるのを見た。

 ――並ばれる!

 迅雷がそう悟ったとき、ジェニファーが拳を振り上げながら叫んだ。

「ファルコンがふたたびバロンに並ぶ。そして最後のシケイン!」

 シケインを越えたらもう最終コーナー、それもファイナルラップの最終コーナーだ。ここで抜かれたら本当に終わってしまう。迅雷はひりひりするような高揚感とともにシケインへ飛び込みながら心で叫んだ。

 ――勝負だ!

 シケインへの進入とともに両者は急減速する。一三〇Rからの脱出が二〇〇キロ超なのに対し、ジグザグのシケインでは七〇キロ近くまで速度を落とさねば突破できない。

 この急減速には、迅雷ですら肉体が悲鳴をあげる。いわんや真玖郎においてをや、全身の骨がばらばらにされるように錯覚したとしてもおかしくはない。

「ぐううっ!」

 通信画面から伝わってくる真玖郎の声は苦しげだった。普通であればステアリング操作を誤ってもおかしくはない。だが執念が真玖郎にミスを起こさせなかったのだろう、彼女は半死半生のような状態でもラインを維持して走る。そして迅雷もまた一歩も引かない。

「両者、譲らない!」

 ブルーブレイブとバイラウェイがたった一つの捷路しょうろを懸けて争い、競り合い、ついには接触する。そう、二人はここに至ってついに接触した。だが事故にはならなかった。

 ――道は譲らないが、この勝負をクラッシュで終わらせたりはしない!

 迅雷はそんな自分の心が、真玖郎の心と重なっているのを感じていた。二人はまったく同じ意思で走っている。だからサーキットでは青と赤のマシンが、まるでお互いの体に優しく触れるようにぴったりくっついて、弾き飛ばし合ったりすることなく、むしろ心が繋がっているかのようにシケインを二人並んで走り抜けていったのだ。

「なんと――」

 その奇跡のような一瞬を見たジェニファーが、そのとき実況を忘れた。次の瞬間に彼女は我を取り戻し、早口で云う。

「い、今、バロンとファルコンが接触したように見えましたが――ともかく最終コーナー! イン側にはバロン!」

 そう、迅雷はインを押さえていた。だがすぐ左に真玖郎が並んでいる以上、アウトインアウトのライン取りは出来ない。

 ――イン側に貼り付いたまま曲がるしかない!

 迅雷はそれを可能とするためにブレーキを大きく踏み、減速する。一方でアウト側の真玖郎は大回りせねばならなかった。この結果、最終コーナーでは二人ともそれほど速くは曲がれず、同時にメインストレートに帰ってくる。

「最終コーナーを先頭でターンした側が一位になる! はずですが、これは両者、完全に横並びだ!」

 そう、最終コーナーを回ってメインストレートに入った時点で、迅雷のブルーブレイブと真玖郎のバイラウェイは横並びだった。

「バロンはついに並ばれた! ファルコンはついに追いついた! だが、あとはもうフィニッシュラインまで真っ直ぐ! ここからの決め手は――」

 そこで言葉が燃え尽きてしまったようなジェニファーのあとを引き取って、ピットからつばさが云う。

「最後のストレートに入ったら、もうドライバーに出来ることはない」

 そしてストームヴィーナス側のピットでも、ホケキョがやはり無念そうに云った。

「ここから勝敗を分かつものがあるとすれば、それはエンジン……!」

 そして最終コーナーを回った直後は完全に横並びだった二人のマシンに、差が生じ始める。それを見てジェニファーも瞠目した。

「じりじりと、じりじりと、ブルーブレイブが前に出始めます!」

 元より直線においてはマシンパワーのあるブルーブレイブの方が上だ。ここにきてその差がつき始めた。

 通信画面から真玖郎の悔しげな声がする。

「私も青いマシンにしておけば……いや、じゃじゃ馬みたいな青いマシンだったら、仮想Gフォース一〇〇パーセントのコーナリングで御しきれなかったかな」

 終わりを見据えたその言葉に迅雷の胸はつきんと痛んだ。みるみる迫ってくるゴールを見て、あれほど一位を渇望していたのに、もう一周欲しいとさえ思ってしまう。

「……おまえとのレースも、これで終わりか」

 隼真玖郎。その名前は迅雷にとって特別な意味を持っている。それが永遠にいなくなるというのは、たまらないことだった。しかし。

「いいや」

 その言葉に吐胸とむねを衝かれた迅雷に、真玖郎は迅雷と同じゴールを見つめながら、熱く穏やかに云う。

「いいや、迅雷。たしかに私は名前を変える。隼真玖郎はいなくなる。でもナイト・ファルコンは消えない。だって、私のなかには二人の私がいるんだ。君に女の子として見てほしい私と、君のライバルでありたいファルコンが。だからナイト・ファルコンは、これから先もずっとバーチャルサーキットに君臨し続ける。ライトニング・バロンがライバルを失うことは決してない……って、それじゃあ駄目かい?」

「いや」

 迅雷はなにかが剥がれ落ちるように、本当の心をさらけ出して答えていた。

「いや、そんなことはない。ゲームでも、バーチャルでも、これほどの勝負が出来るんだ。なら、俺はそれでいい。俺のライバルはここにいる。今、心からそう思った」

 すると通信画面のなかで真玖郎がわらった。元よりヘルメット越しだったけれど、迅雷には彼女がわらったのがはっきりわかった。

「なら、あのゴールは一つの勝負の終わり、そして次の勝負の始まりだ」

「真玖郎――」

 迅雷はなにか言葉で応じようとしたが、もうそんな時間はなかった。フィニッシュラインはもうすぐそこだ。

 最後に真玖郎が云った。

「またやろう、迅雷。次は私が勝つ」

「いや、次も俺が勝つさ」

 そして二人は、終わりにして始まりのラインへ飛び込んでいく。

「ゴール! 一位でチェッカーを受けたのはライトニング・バロン! ついでナイト・ファルコンも二位でフィニッシュ!」

 そんなジェニファーの声を聞きながら、迅雷はマシンがゴーストに切り替わり、自動走行でウイニングランに突入していくのを見ていた。

 エキゾーストノートの向こうに、架空の観客の歓声が聞こえる。バーチャルサーキットの太陽は実時間を反映していて高い位置にあった。

 ピットとの通信画面では翔子が席を立ってつばさやことりと握手をしているようだ。

 別の通信画面では、疲れ切ったようにステアに突っ伏していた真玖郎が身を起こし、迅雷に軽く手を振ってくる。

 迅雷がそれに手を振り返すと、「じゃあ、また」と云って通信が向こうから切断された。

 中継ではジェニファーが、三位以下が次々とゴールしていくのを実況していた。

 それらすべてが、迅雷にはバーチャルサーキットの青い空にわっと広がって溶けていくように感じられた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る