カンザイ砦攻略戦・四日目 1
「オラァァァ!!突っ込むぞぉ!!」
「おおおぉぉぉ!!」
「ちょ、マグナ!突っ込みすぎ……ああもう!みんな!
「バカはあんたでしょうミルカ!これじゃあ陣形が……って聞きなさいよっ!」
日付は変わり、四日目に入った深夜。
A班は三十人全員を投入し、で正門への突破を図っている。
そして迎え撃つは、A班のそれを事前に予測し、万全の体制で臨むB班。
これまでで一番の気力、体力を全て込め戦いに挑むA班だが、地の利、用兵、準備の全てで上を行くB班には今一つ及ばない。
しかしそれでも彼らは訓練で培った『個』の力と、各員が従う隊長達の指揮により、なんとか被害を最小限に留めながら戦いを続けていた。
ーーー
「ーーなかなか粘りますね。彼らも」
城壁の上にある回廊で、タンラーとキキョウは眼下に広がる戦闘を見下ろしていた。
「ふむ、流石に『個』の力を鍛えていただけはあるね。僕の予想より僅かに上回っているのは確かだ……が、想定の範囲内でしか無い」
タンラーが何事か部下へ指示を出し、それを受けた部下は高らかとラッパを吹き鳴らす。
すると眼下のB班が波のように引き、回廊で魔甲ライフルを構えた兵士が一斉射撃を開始する。
それにより足を止めたA班を、いつの間にか回り込んだB班が突く。それはこの数時間、幾度となく繰り返し見てきた光景だった。
そして崩れそうになる前線を、後方からの援護射撃を頼りに後退するA班。
「ーーそろそろ飽きて来たな。キキョウ、ライカントを頼めるか?」
「はっ、それがご命令とあらば!」
「よし、ではこのあくびが出るツマラナイ戦いに終止符を打ってこい」
「御意に!」
そう言い残すと、キキョウはスッと影に溶けるよう戦場へと下りて行った。
「さあアキサス・ディスト。君の最後の足掻きを見してくれ」
タンラーの瞳は、A班の最後方で指揮を執るアークスへと向けられていた。
ーーー
「っつ……はぁ、はぁっ……ねえアークス!いつまでコレを続けるつもりなの!?」
B班の狙撃が届かない森の中、全身から汗を噴き出すミルカぎアークスへと詰め寄る。
彼女は魔甲こそ無事だが、すでに疲労はピークに達しているようだ。
「あと少し……もう少しで来るはずなんだ。それまで耐えてくれないか?」
対するアークスは体力こそあるが、初めての指揮と実戦で精神的にやつれていた。
「それにほら、初めてやってみたけど前線指揮なんて僕には向いてないみたいでさ……はあ、暖かいココアが飲みたい……」
「そんなの私だって飲みたいわよ!じゃなくて!こっちはもうヘロヘロなんだからそろそろどうにかしなさいよっ!」
「がはは!そう言うなミルカ!こんなに血が踊る戦い、楽しまなきゃ損だぜ?」
ギャアギャア言い争う二人の横に、上半身裸で魔甲を装備するマグナが座り込む。
その姿はミルカとは真逆で、重式魔甲の大半を崩されていた。しかしながら持ち前の馬鹿力と戦闘力で、未だA班の最前線を突っ走っている。
「なんかマグナ君なら生身でも魔甲と戦えそうだよねー」
「むう、そうだな、試してみるか?なんてな!」
がははとバカ笑いする彼に、周囲からも暖かい笑い声が響く。
圧倒的に不利な状況だが、どうやらA班の面々にはまだ余裕があるようだった。
「ほらあんた達!B班が攻めてくるわよ!シャキッとしなさい!」
「……っ!!」
しかしエマリンの声が響くと一転、その表情が戦士のそれへと移り変わる。
「しかも念願の副代表もいるわ……!」
「ーーやっとか」
「……うん」
B班の副代表、キキョウの姿を確認すると、ライカの表情が一層険しくなる。
「落ち受くんだライカ。作戦は頭に入ってるかい?」
「……うん」
「……ライカ?」
「……うん」
しかし肩に力が入った彼女は周りの声が聞こえないらしく、生返事しか返せないでいた。
そこでアークスは彼女の前へと周り、その肩を優しく揺する。
「おーいラーイカっ」
「わっ!ど、どうしたのアークス君?痴漢?」
「違うよっ!……緊張、してるのかい?」
アークスとライカ。二人以外は既に戦場へと駆けて行った。
「緊張、というか……また頭に血が上って作戦をおじゃんにしちゃうかもって……そしたら私は多分耐えられない……」
ライカの表情は、今まで見たことの無い、それこそミルカしか見たことが無いであろう弱々しい顔だった。
「ははっ、そんなことか。君らしくも無い」
「で、でもっ!」
「大丈夫大丈夫。君は失敗してもいいんだよ」
「……え?」
キョトンとするライカ。その顔は「何を言ってんだこいつは」と語る。
「だから精一杯、がむしゃらに君の役目を果たしてくれればいい」
そしてライカの肩から手を離し、戦場へ顔を向ける。
「味方のミスも、敵の好手も。全てをこちらの力にする。それが僕達『魔術師』って人種だからね。だからライカ、君は緊張感なんてする必要は無いんだよ」
「……うん、わかったよアークス君!」
「ミスをしてもいい」という言葉は、予想以上にライカの心を軽くしたようだった。
「わたしいーーっぱいミスするね!」
「いや、出来れば最小限に留めて置いて欲しいかな……」
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