カンザイ砦攻略戦・一日目5
一方ミルカ、エマリンとキキョウの決着がついた頃、司令塔は砦の外より侵入してきたB班との戦闘が始まっていた。
「おらお前ら!早く塔まで撤退しろ!」
重式歩兵隊の隊長であるマグナは、壁の上から撤退してきた仲間をB班から守るため、タワーシールドを掲げて退路を築いていた。
「マグナさん!俺達で最後です!」
「なっ、だがミルカとエマリンは……ちっ、そういうことかよっ!」
彼は仲間の切羽詰まった表情から、その二人は戻らないことを察し、司令塔へと退却する。
「はぁっ、はぁっ……ちっ、ライカもやられたとなると、ここは俺が指示を出すしかねえってのか!?」
マグナはモヒカン頭を搔きむしると、この後どのような指示を出せばいいのか思考する。
(どうするどうするどうする!?壁が破られちまったんじゃ、こんな司令塔の薄っぺらい守りなんてあっという間に破られちまう……いや、あんまし大きな損壊は与えられねえはずだから、上手く守ればミルカ達の復帰まで持ちこたえられるかもしれねえ……だけどそれまでの三時間はどうやって守ればいいんだ!?)
もしA班の隊長陣で頭の良さを順位付けするならば、間違い無く彼は一番下だろう。
しかし指揮能力に関しては、若干ミルカ、エマリンに劣る程度だ。なので、今この場に限れば、彼が指揮を取るのに最もふさわしい人物なのだがーー
「やあマグナ、苦戦してるみたいだね」
「あ、アークス!?お前なんで司令室から出て来てんだよ!?お前が討たれたら負けちまうんだぞ!?」
のんびりと階段を下ってくるアークスに、A班の面々はにわかにざわめく。ざわめきの主な内容は「お前が来ても戦況は変わらない」「今更のこのこ出てくんな」……など散々な物だったが。
「いやあ、僕なりにこの状況を打破するための方策を持ってきたつもりなんだけどね。従ってくれるかな?」
彼はにこやかな笑顔を浮かべてそう語るが、この状況でそのような表情を浮かべる事に、周りの兵士達は寒気を感じた。
「はあ?お前の担当は司令室だろうが。だから今は大人しく上で待ってろ」
しかし当のマグナは、この状況を打破するのにアークスの力を借りる気は無いらしく、再び熟考にはいるが、
「で、でもマグナさん、遺憾ながらミルカさんから『塔に戻ったらアークスさんに従うように』との命令を受けてるのですが……」
軽式遊撃隊に所属している兵士が、おずおずとマグナに進言する。それを聞き、さすがの彼も考えを改める。
そして考えること数秒。
「……ちっ、わかったよ。だけどお前の策で状況が悪化したら、すぐさま俺が指揮権を貰うからな!」
「うん、その点は問題無いと思うから安心していいよ。……と言ってもこの策は僕一人いれば片付くんだけどね」
「ああん?それはどういう……」
しかしアークスはマグナの返事を待たずに、司令塔の出入り口の扉へと歩み出す。
「は?お前そっちには敵しかーー!」
「うん、だからね?」
アークスはマグナの制止を振り切り、扉を勢い良く開きーー
「降参だ。さあ、攻守を入れ替えようか」
……あろうことか、まさかの白旗宣言だった。
・・・
「やあアキサス君、まさか君の方から降参してくるなんて思いもしなかったよ」
攻守交代のインターバルタイム、仲間がノロノロと物資を運び出してる姿を見ていたアークスに、軍服姿のタンラーが声を掛ける。
「……ああ、僕もまさか代表である君が、部下に大事な魔甲を貸し出すとは思いもしなかったよ」
「そうかい?君ならこの程度読んでくると思っていたのだがね」
「君も僕と同じ状況だったら、降参の一手を選んだと思うけど?」
にこやかに語り合う二人の間に、目に見えない火花が散る。しかしそれもすぐに止み、視線はそれぞれ仲間の方へ向く。
「で、君達は僕達B班に勝つ唯一のチャンスを逃したのだけれども、勝算はあるのかい?」
タンラーは挑発するように、いやあからさまな挑発をアークスへ投げ掛ける。だが彼もこの程度の挑発は易々と受け流す。
「ん?ああ大丈夫だよ。なんせ今回の戦いには、この僕が参戦してなかったからね」
おどけた調子で答えるアークスに、タンラーは自分の挑発が意味を成さないことを察する。
「……そうかい。なら楽しみにしてるよ。落ちこぼれ魔術師の本気、って奴をね」
そう言ってタンラーは司令塔へと去って行った。
「……はは、落ちこぼれでも魔術師の端くれってことを忘れるなよ?」
アークスのその呟きは、深夜の夜風に流れて掻き消えて行った。
[訓練開始一日目、23:58 砦の攻守交代]
そうして長い一日が終わる。
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