読み飛ばし用「第一章ダイジェスト」

 ぼくは帯刀田一麻。ああ、タテワキでいい。みんなもそう呼んでるしね。

 さて、なにから話そうかな。


 中学生のとき、一日だけ行方不明になっていたぼくは、オカルト雑誌<テラー>にそのことを載せられてしまった。

 ぼく自身もそのときの記憶がなかったから、ちょっと気になってずっと探してたんだ。


 今の日本には都道府県が五十、それぞれに一基ずつ、大型情報集合体がいる。

 こいつは生きていて、知性もある。ネットの中に君臨する神様みたいなもので、その都市の情報をすべて管理してる。

 洗濯機とか水道の蛇口なんかに至るまで、人工知性体が搭載されてるんだ。

 それで、ぼくら……あー、ぼく以外の人は自分の個人情報をまとめるために、ネットのなかに分身<ネットアバター>を作ってる。

 その分身がクレジットカードとか住民票の役割までしてくれるってわけ。

 ネットアバターは仮想世界の自分自身で、こいつと意識を同調させれば電子の世界で第二の生活も送れてしまう。

 ただ、ドクターハウスがバイコディンを飲むみたいに錠剤型のナノマシンを服用しなきゃいけないし、網膜投影を使う場合は点眼タイプのナノマシンを差さなくちゃいけない。


 一九九九年に落ちた隕石のせいで、ネットじゃノストラダムスが神格化されてる。

 ネットのなかじゃオカルトマニアたちが声を大きくしてるし、未だに怪談ブームが続いてるのもそのせい。

 木曜の怪談とか、奇跡体験アンビリーバボーとか、USOジャパンとか、ああいう番組もまだゴールデンタイムにやってるんだ。

 伊ヶ出高校で出会った同級生の安藤さんも、実は筋金入りのオカルトマニアだった。

 そのときは知らなかったんだけど、彼女とはネットのなかで一度会ってた。

 なんでも「アカシックレコードを見た」とかで、ネットの掲示板で痛いコテハンをやってたんだ。

 その時期、彼女は伊ヶ出大学の付属中学に通ってたんだけど、そこで色々あってこっちに編入してきたらしい。


 いっぽうで写真部に入ったはいいけど、周りの生徒みたいに青春を謳歌できないぼくは、自分の学校生活を『悪しき青春』って呼んでた。

 要するにひねくれてたわけ。

 そんな不満を解消するために起こしたのが<幽霊新聞>の騒動だ。

 くだらない悪戯だったんだけど、ぼくの幼馴染みの鷹木彰人のおかげでそれなりに話題になったかな。

 

 <幽霊新聞>では、ぼくと同じく『悪しき青春』を送ってるらしい安藤さんのことを遠回しに記事にした。

 翌日には、逆に安藤さんが新聞を書いて、学校のなかに<一日だけ消えた少年>がいるってことを書かれてしまった。

 そんなこんなで安藤さんを写真部に誘って、ぼくが失くした一日だけの記憶を探してほしいって頼んだんだ。

 そこで交換条件として、彼女は数年前に女子中学生のネットアバターを殺害した、<ペルソナ殺し>なる犯罪者の調査をぼくに依頼した。

 調査結果の報告は一年後。


 安藤さんとぼくは都市伝説を偽装工作する<改奇倶楽部>を起ち上げた。

 世の中の不思議なことを知るためにね。

 さて、それから一年経った。いよいよぼくは彼女に、<ペルソナ殺し>のことを話さなくちゃいけないらしい。

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