黒井さん
その夜、ぼくは遠距離通信で安藤さんとネールの画面を共有しながら、黒井さんが来るのを待っていた。自室のベッドで寝転びながら、同じく安藤家のどこかでくつろいでいるであろう彼女と音声チャットで言葉を交わす。
《……来るの遅っそ》
「黒井さんはぼくの周囲に人がいるとマッチングしないのだ」
《ほう》
「初々しいな……」
《うーん》
「初々しいだろ?」
《どうかなぁ……》
「初々しいさ安藤さんと違って」
《寝言は寝て云え》
そういえば安藤さんとこうして音声チャットをするのは久々だ。まだ数えるほどしかやったことがないけれど――というより、こういったチャットができる類のソフトウェアのなかで、流行りのものがどれかなどまったく知らなかったぼくに色々と教えてくれたのが安藤さんであった。このソフト内のメンバーリストには安藤さんと鷹木彰人、猛尾和長、菅原達郎……計四名の名前しかないし、ぼくも盛んにチャットするほうではないのでソフトウェアの起動自体がそもそも久しい。
「前にこのソフト使ったときも都市伝説の話してたよな、ぼくら」
《まぁね。こうした怪奇事件に足を踏み入れるのは、我々にとっては逃れられぬ宿命なのだよ……》
「なあ、安藤さんは家だといつもそんな中二病まがいの喋り方なの? もしそうだとしたら、きみが寝たあとにご両親は暗い顔をしてなにか話をしていると思うから、まずはそっちを確かめてみるべきだ」
《お前が云うな》
「だって安藤さんの義ちゃんの書き込みとか見てるとさー」
《うわバカ!やめてよあんぽんたん!》
ぼくがブラウザを起ち上げようとすると、安藤さんは慌ててそれを制した。画面共有モードを介しているせいで、彼女は否応なしにぼくが開いたデータをすべて見ることになる。ぼくは「はいはい」と云って起動中のブラウザを閉じた。
「しかし黒井さんが<幽霊>ねえ」
《ちなみに噂だと<幽霊>は男性らしいよ》
「は?」
ぼくはしばしの間、床の上で座禅を組んだ。
「あ、安藤さん……」
《なによ》
「あの……ぼくは……! お、男でも構わない……ぼくは、ぼくは黒井さんに、ぼぼぼぼ、ぼくを女の子にしてほしいんだ……! こんなぼくを詰ってほしい……! 黒井さんの手はきっと、ちょっと硬くて、骨っぽいんだよ。けど細くて……カラダだって、こう、筋っぽいっていうか……。フフ……」
《あの、タテワキくんさ……ごめん、ほんと気持ち悪いよ》
「なんだと同性愛を差別しやがって! 恋心で性の壁を超えるぞぼくは」
《いや恋愛は自由だよ。人前で劣情を垂れ流すな》
「はっは~ん!」
《……今度はなに?》
「同族だと思っていたぼくに好きな人ができてイラついてるのかね。安藤さんの提唱した悪しき青春の日々も早速終わってしまったものなあ。いやでも大丈夫大丈夫、安藤さんだってがんばれば運動部のゴリラあたりとなら並んでショッピングモールを歩けるって。ま、そのときはウチに連れてきてよ――ってあ、いっけね~! ぼくんち動物禁止だったんだー! てへっ」
安藤さんは無言で画面共有モードを解除し、ぼくになにやら画像ファイルを送信した。それを開いた瞬間にぼくは悲鳴を上げた。画像はぼくが中学生時代、糞を漏らしたときの写真であった。ぼくはかろうじて平静を装いつつも強気の口調で問い質す。
「なぜそんなものを持っている?」
《鷹木くんにもらったの》
「悪趣味だぞ!」
《タテワキくんお尻ゆるいんだから男の人と付き合わないほうがいいよ》
「お尻じゃなくてお腹だろうが、このやろう! あと緩くないから。見るかぼくの腹筋? なんならケツ筋もみせてやってもいい」
《汚いからいいよ》
「もう汚くねえよ莫迦野郎!」
《まぁでも、ゆるいから漏らしたのは事実でしょ》
「違いまっすゥ~! ヨーグルト食って腹壊しただけなんですゥ~!」
《お腹弱すぎるでしょ……》
「ヨーグルト食うと腹壊す人間はいるから。あとでネットで調べろよな! タブー知恵袋とかに絶対そういう相談してる人いるから!」
涙が出てきた。なぜにぼくは中学時代の黒歴史を、よりにもよってちょっと気になっていた女の子に曝け出されてしまったのか。わかっているのは、すべてはあの悪友のせいであるということ。それのみ。あのクソ野郎。いやクソを漏らしたのはぼくだけど、あいつときたら心そのものがクソで出来ている恐れがある。なんなら今度その件で論文をひとつ書いてやってもよい。ぼくに論文を書いた経験はないけれど、書き方くらいはネットで調べて書いちゃるわい。
《イチマさん、こんばんは》
安藤さんとクソの話で盛り上がっているところに爽快に駆けつけた黒井さんはまさにヒーローであった。ぼくはヒーロー番組なんぞ観たこともないし、ああいう莫迦げた作品を鑑賞する連中の気持ちもまったくわからない。そもそもヒーローなんてものに憧れたこともなければ例えなれるチャンスがあっても丁重にお断りする所存である。しかし黒井さんがこの窮地を救う存在であったのは事実だ。ぼくは安藤さんとの音声チャットを一旦終了させようとする。
《あ、ちょっと待っ――》
「ええい、下がっていろ!」
なにやら慌てていた様子だったけれど、言葉を聞く前に強制終了し安藤さんにはご退場していただいた。黒井さんとのイチャイチャタイムをあのような不躾な女子に邪魔されてなるものか。
ぼくは早速、黒井さんに挨拶する。
「黒井さん! 会いたかったです」
《私も会いたかったです、イチマさん》
かぁ~っ……! ぼくは思わず涙目になる。こういった言葉をかけてくれる者が世の中にどれほどいるだろう。いや一人もおるまい。安藤さんは元より、親ですら絶対に云わないような言葉だ。あるいは親友の和長ならばこういったことも云ってくれるかもしれないけれど、あれに云われてもなあ。
このような、まるで天使と呼んでも一切差し支えない人物が<幽霊>であると、あの都市伝説マニアは熱弁しているのだからまったく手におえない。あそこまで人間不信が加速したらもうそのスピードの領域からは戻ってこれまい。光の速さで不信な明日へダッシュしてしまった安藤さん。もしかしたらぼくは彼女を救えたかもしれない。しかしそんな義理もなければ責任感もまるで皆無であるし、たとえぼくがクソを漏らしたことを知る人物が地球から遠く離れた銀河系約三百光年の距離までぶっちぎっていったとして、嬉々としてそれを見送る所存である。それどころか、そのようなことが可能であるならばいずれあの悪友を含めたぼくのクソ漏らし話を知るすべての人間をオリオン座にある散光星雲に送ってやりたいくらいだ。これ以上は無意義なのでクソの話は終了する。
「聞いてくださいよ黒井さん!」
《あ、は、はい……。どうかされてましたか?》
黒井さんは少し困ったように笑う。おっとこれはいけない。
「すみません、ぼくの知り合いに黒井さんのことを訝しむ女の子がいましてね……」
《え、私……ですか?》
「ええ。ひどいやつなんですよ。この話を聞けば温厚な黒井さんもクソ遺憾ですよ。あの女……安藤すずなと云うのですが、黒井さんのことを<幽霊>――仮想空間のネットゴーストだというのです。まぁでも高校生にもなって都市伝説とか趣味にしてるようなヤツですからね。ぼくは信用してません。第一他人の不幸で飯が山盛り三杯ほど食えるような性格です。いや不幸そのものを喰っている悪魔と呼ぶべきだ。なにせぼくの中学時代の厭な思い出を見せつけてくるような女ですからね。クソみたいな思い出を。あれはまったくクソですよ、クソクソクソクソ……!」
《ええと》
「クソメンヘラっ……!」
《……い、イチマさん、落ち着いて下さい。だれだって厭な思い出はありますからね。私はよく知らないので勝手なことは云えないのですが、そのすずなさんというかたはイチマさんのお友達ではないのですか?》
「友達……? フッ……ぼくに友達なんていませんよ。いえ、かつてはいたかもしれません。しかしぼくの理解者なんて……ぼくぁ家庭環境も冷め切ってるし、新聞部兼写真部でがんばって書いた記事はだれにも読まれなかったし、挙句の果てには変な女子に改奇倶楽部なる非公式部活動の結成を促されてしまう始末です。ぼくは悪しき青春の奴隷ですよ。……ですからね! ぼくが話をできるのは黒井さんくらいなんです! そう、ぼくには黒井さんがいればいいのです!」
《えっと》
「ビバ黒井!」
《あ……あの、イチマさん……?》
「ノー黒井ノーライフです! 今日たった今、ぼくはそれを実感しました!」
こうなればもう止まらん。云ってやる。云ってやるぞ。少々急展開かもしれないけれどぼくはもう辛抱たまらんのだ。黒井さんのことを考えると頭がぼうっとするし心臓はドキドキする。灰色の脳細胞が桃色一色に染まり、両目と口からはハート型に彩られた怪光線が月を撃ち落とすであろう。月がきれいですね。黒井さんはぼくのそう云うのだ。そしてぼくは答える。あなたがぼくの月ですと。あなたがいればよいのですと。ふたりは互いに手を取り、真っ二つに割れて落ちていく月を眺めながら、崩壊した夜の世界を歩き出す。それがぼくの思い描くロマンチックな男女関係のあり方だ。
黒井さんは男だと? 知るかそんなもん。男上等。逆にありがたい話ではないか。穴の代わりに玉が二つと竿が一つついて物理的にはお得ではないか。最近はなにやら技術が発達したおかげで男も授精できるらしいしな。黒井さんがダメならぼくが産んでやる。いや、むしろ産みたいのだ。産ませてほしい。産ませてよ。う、う、産ませてよ。
「産ませてよおっ!」
《イチマさん、どうしたんですか? う、産む? そ、それはいったいなにを産むんでしょうか……?》
「聞いて下さい黒井さん! さ、最近はネットアバター同士で子どもが作れるらしいんですよ! ぼくは、ぼぼ、ぼきはっ、くくくく黒井さんの子ど――」
《ちょっと待った!》
いよいよ暴発寸前のぼくの自我を留めたのは安藤さんのネットアバターであった。
黒井さんと話すことに夢中になっていて気づかなかったけれど、彼女は仮想空間のなかでぼくと黒井さんのいる位置を特定し、自分のネットアバターを送り込んだらしい。
「げえ、安藤さん! クラスターが作動している間は仮想空間に来れないはず!」
《クラスターをオフにすればいいだけじゃん。それにわたし、ネール二つ持ってるんだよ。……知らなかったの?》
仮想空間内の安藤さんは、ゴミを見る目でぼくを一瞥し、現実世界のぼくは素直に勃起した。彼女は黒井さんとぼくの間に立つや否や、彼を指差し凛然たる様相でこう叫んだ。
《改奇倶楽部部長、安藤すずな!》
あまりの迫真ぶりに黒井さんはやや引いていたが、なんとか微笑みを返した。それを見た安藤さんは自身の図々しさをまったく悪びれもせずにこう続けたのである。
《わたしたちは改奇倶楽部。機械で奇怪を看破して、謎の男の正体暴く!》
「そのマンガみたいな決め台詞はいい加減に卒業しろ」
ぼくは云った。
《えっと、改奇倶楽部……とは、なんでしょうか……?》
《タテワキくん、説明してあげなさい》
「都市伝説の真相を暴き、それを手中にして悪用したり世の中の助けをしたり、面倒になればそのまま放置したりする、なんやかんやで横やりを入れたがる数寄者集団です」
黒井さんはかすかに不安そうな表情を浮かべた。
《それで、私にいったいなにを……》
《黒井さん、いきなり失礼ですけど……ネットの情報には疎いほうですか?》
《そうですね、あまりそういったものは……》
《なるほど。わかりました、ではこれを》
安藤さんのアバターは手のひらから大量の文字を放出した。やがて文字たちはひとつの束になり、横書き形式のよくあるドキュメントファイルとなった。ファイル名は<幽霊>。ぼくと黒井さんはふたりしてそれを覗く。今日、クラスターが集めた情報を文章にまとめたものらしかった。都市伝説の情報を文字に起こすのは彼女の趣味の一環でもある。
《これ、あなたのことですよね》
《それは……》
黒井さんは俯き、なんとも形容しがたい、寂しそうな悲しそうな表情をする。いや、これはあれだ。言いつけを守れずに粗相をしでかした子どもが母親に叱られるときの表情そのものではないか。ぼくは焦る気持ちを抑えつつも、擁護するための言葉を探した。
「いい加減にするんだ安藤さん。黒井さんが<幽霊>であるはずがない。現に、ぼくのネットアバターは破壊などされていないぞ!」
《そうなる前にわたしが来たんだってば》
安藤さんが答えた。
《タテワキくん、この<幽霊>はネットアバターを破壊するわけではないのです。もう一度よく読んでみてよ》
「なにをう」
《じゃあ説明したげる。ネットアバターは持ち主の意思で削除されてるの。そもそもこの都市伝説はネットアバターを削除した人が自分から広めたものじゃなくて、あくまで本人からその話を聞いた第三者から伝えられたものだったのですよ。……例えば、ある人物がいきなりネットアバターを削除したために、それに驚いた友達、だとかね。奇妙に思ったその友達は、その人物がどうしてネットアバターを削除したのかを問い質します。ネットアバターはすでに削除されているから、本人に直接伺うことになるでしょう。ところが、当の本人は〝考えが変わったから〟だとか〝素敵な人に出会ったから〟と答えるのです。運命の相手に出会ったと信じ込んでいる無垢な少女の様相で――》
「まるでぼくではないか!」
《ずばりタテワキくんのことです。――話を続けましょう。でもネットで行われた会話はダイレクトメッセージ以外はネットアバターを削除してもプラウダー内に残留します。その友達は、彼がいったいだれと話したのかを調べたのでしょう。まぁ、ネットをやっている人間の多くは覗き見が趣味と云っても過言ではありませんからね。さて行き着いた先には……》
ぼくは固唾をのんだ。「黒井さんが?」
《ううん、だれもいなかった》
安藤さんは、人差し指を立てる。
《だれもいなかったのですよ。その人物のネットアバターと話したもうひとりのネットアバターがいるはずなのに、そこにはいなかった。しかし会話したログは残っている。恐る恐るそのログの送信元をたどってみると――》
《システムメッセージに行き当たります》
黒井さんは云った。
《だから私は<幽霊>と呼ばれていたのですね》
《やはりご存知なかったんですね?》
《はい。そのことに関しては、たった今知りました。……情報元がシステムメッセージというのはバレていたんですね。……そこに存在したネットアバターは個人の所有物ではなく、そのサーバーの管理者が用意したものであると判断されたのでしょうか? それならば運営の皆様には申し訳ないことをしてしまいました》
《いえ、ここからが都市伝説の面白いところです。これを見てください。チャットログに表示される名前です》
安藤さんが写真を渡す。それは安藤さんのネール・デバイスでぼくらのいるこの空間をキャプチャしたものであった。
「おお、黒井さんの名前が表示されていない! ……いや、代わりになにか書いてあるぞ。なんだこれ……エフ、アール、アイ、エンド……。えっと黒井さん、これなんて読むんです?」
《フレンド・シップです。ネット依存症で現実世界に友達がいないと思わる人物に対し、その人物が社会に適応できないほどコミュニケーション能力を欠如させないため、ネット内で交流と親交を深めながら社会復帰を支援する自律型ネットアバター》
ぼくは叫んだ。
「う、嘘じゃボケええええええっ!」
《イチマさん、落ち着いて下さい……私、イチマさんに嘘は云いませんから!》
「今はその言葉がぼくをダメにするのだ!」
あまりの衝撃にぼくの口から飛び出た心臓が自室の窓を突き破って夜空に飛び立ち、大気圏を突き抜けて宇宙の彼方に旅立ったかに思えた。ぼくの心臓であるがゆえに途中でなんとなく飽きて地球に帰還することは知っている。しかしぼくの心臓に大気圏を突破する性能はないし、できればそのまま燃え尽きてほしい。殺してくれ。ぼくは、ぼくのネットアバターは、わずかな間とはいえ起動してからゲームしかしていなかったがために社会復帰支援システムにロックオンされてしまっていたのだ。そしてあろうことかそのシステムの擬人化したものである黒井さんにぼくは惚れてしまっていた。
ぼくは頭を掻き毟った。そうか。ぼくの言葉を理解していてくれたのではなく、ぼくを更生させようと一番いい方法を人工知能が選択していたにすぎなかったのだ。それをぼくは運命的な出会いであると思い込み、それに恋心まで抱いてしまっていたのだ。おまけに初恋!
《タテワキくん、一日中ネットに浸ってたんでしょ? きみ、『このままだと引き籠りになって社会復帰できなくなっちゃうかもしれない』って判断されちゃったの。そういう人間が増え過ぎて社会問題になる前に、友達になった振りして遠回しに現実世界に貢献しろって促すサービスがあるんですよ。あれ……タテワキくん? おーい、聞いてる?》
ぼくは叫んだ。「ノストラダムス!」
《わーもう。いきなり大きな声出さないでよ》
「いや待てよ!」
ぼくはパチンと指を鳴らした。
「黒井さんはぼくにネットアバターの素晴らしさを教えてくれたじゃないか。それはどう説明するんだよ。削除させるんなら、嫌悪感を抱かせるべきじゃないか。おかしいだろ」
《それは、》
「はい論破ー」
《ネットアバターを削除させるためのプロセスに必要なものだからです》
「は?」
黒井さんの言葉にしばし唖然とした。安藤さんが「フム」となにやら頷いている。
《依存に対する自覚。そこからの脱却による達成感の獲得。自分のネットアバターを削除することで、当人に自立したと思い込ませる……というわけですか》
《はい。成し遂げた、という感覚は、例え思い込みでも自立には有効なものであると判断しました》
《黒井さんとタテワキくんのやりとりは、彼にログを見せてもらったのでだいたいはわかってます。最初にネットアバターのウンチクを語り始めたあたりからですか。あれはネットアバター推進派の意見というよりは、推進派を作りたい人の意見ですからねえ。……あらかじめ『ネガティブな意見の共有を防げ』と、そのあとの言葉とは矛盾した発言をしていましたから。……そこで気づきました。あれは黒井さん本人の意見ではなく、システムとしての警告ですね?》
《はい。アバターに対する過剰な依存度を軽減するための常套句です》
「だったら、だったらぼくは、警告ダイアログに恋してたようなもんじゃないか! ノストラダムス! ノストラダムス! ノストラダムス!」
ノストラダムスよ、ぼくを救ってくれ。しかしあの男、すでに死んでんだった。いや一九九九年の隕石落下を見事的中させたほどの腕前を持つ人物だ。この次代を担う魔少年、帯刀田一麻が死ぬほど恥ずかしい思いをすることだって予言できているはずなのだ。そうに違いない。そうだと云ってくれ。
神は、神はぼくを見離したのだろうか。
絶望と困惑が渦を描いてマーブルに溶けあい、濁り切ったぼくの心はこれ以上の羞恥に耐え兼ねたのか、気が付けばぼくのネットアバターはその場からログアウトしていた。ボロボロと涙を流す午後二十二時半のことであった。
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