アラーム
「本気なの?」
「もちろん。なにか問題でも?」
引き受けると云った直後、日佐間上級生はぽんと肩を叩いて出て行ってしまった。去り際に「よろしくイナフ!」と叫び、あなたは辟易した。部室の扉は開けたまま。あなたは心の中で中指を立てて彼を見送り、そして間もなく、安藤さんはあなたに対してこう罵った。
「バカタテワキ!」
あなたは写真部の扉を閉めながら、彼女の罵声を背中で受けるしかなかった。
「……あの人は金持ちだし、持て囃されてるし厭味だって云う人だ。よくない噂もたくさん聞くけど、いっぽうで取り巻きも多い。ギャフンと云わせたいけど、あの人は『虐げる側』だ。権力者には勝てない。それにさっきの話を断って、ぼくらが目をつけられるよりはマシだよ。イイ話じゃないか、考えようによっては恩が売れるわけだし」
安藤さんは深いため息をついた。
「初めから受ける気だったんでしょ」
「うん」
「やっぱりわざと渋ったんだ!」
「そうだよ」
「なんで!」
なんで渋ったのか、なんで最初から受ける気だったのか。――なんで自分の云うことを聞いてくれないのか。色々な意味の重なった「なんで!」に対して、あなたはなにも返さない。だから彼女は少しヒステリックになってこう続ける。
「あの先輩は、わたしたちみたいなのを莫迦にしてるような連中の筆頭なんだよ。いつもはオカルトマニアなんて陰湿だって鼻で笑ってるくせに。きっと着せた恩なんて三日で脱ぎ捨てるに決まってる」
「三日も同じものを着てくれりゃありがたいだろ。なんなら先輩の服に広告でもプリントしとくか。少しは宣伝になるかもな、なんのとは云わないけど」
「そういう連中になにかしてやったって、あとでそれをネタに内輪で笑い話にするだけだよ」
ここであなたは少し言い返したい気持ちになる。あなたはどちらかというと被虐主義者的な性癖をこじらせている。しかし一方的に詰られると身を守るために少しきつい口調になってしまう。これもあなたの癖だ。
しかし、あなたは我慢ができる人間なので、一旦は息を整えて落ち着く。そしてこう云う。
「……なんでそう思う? 経験談とか?」
「半分は正解だよ。わたしは人に喋るような真似はしないけど」
「なるほど。こっそりと悦に浸るタイプなわけだ」
「悪い?」
「さあ。ぼくだって同じようなもんだから気持ちはわかるよ」
「きみはムッツリスケベだものね」
「よくわかってるじゃないか。――きみもだろ」
あなたはようやく自分の心情を吐露する気持ちになる。できれば本音は云わずにいたい――それがあなたのポリシーだ。自尊心の強いあなたにもそういった類の信条がある。そして安藤さんもあなたのそういった部分に理解を示してくれていることを、あなたはよく知っていた。
「あの人、和長に目ェつけてんだ。ほら、同じ美術部員だろ? あんな人が幅を利かせてるから、あいつったら肩身の狭い思いをしてるんだ。ぼくがあの人に協力してやれば、少しは和長が厭な思いをすることもなくなるかもしれない。だから恩が売りたいんだ」
「きみがそんな人情のある人だとは思ってもみなかったよ。鷹木くんならともかく」
本音を云った相手に対して厭味を云われたので、あなたの心は少し傷ついた。だから意固地になる。
「親友の悩みのタネをなくしてやりたいって気持ちは、ぼくにもある。……頼むよ。それに安藤さんが困ったときだって、ぼくはそうするから」
「どうだかね。そもそもわたしはタテワキくんに助けられるほど落ちぶれちゃございませんよ」
しばしふたりは沈黙する。あなたはわざとなにも云わないふりをする。表情を隠すために、再び窓辺に立ち、外を見る。安藤さんは苛立ったような、気まずいような唸り声をあげている。それが止むまで、あなたは待った。
そしてついに彼女は観念した。
「じゃあひとつ聞かせてよ。わたしたちのネットアバターが獲られちゃうかもしれないってリスクにはどう対応するの?」
「獲られたら作り直せばいい」
「なかに入ってるデータが盗まれるかもしれないじゃん」
「最終的にはそうなるかもしれないけど、それまでになんとかできる」
その言葉に、安藤さんは怪訝そうに眉をひそめる。
あなたはこう続けた。
「話し中だったってことは、人形師のネットアバターはだれかと通話してたはずだ。話し相手は同じくネットアバターか、それに準ずるものだ。アバターは基本、アバターと話を行うものだ。……横に並んでるものとしかコミュニケーションを取ろうとしないってのは、この世の理だからね。
だから人形師のアバターと会話していた別のアバターこと<X>を探して、真相を確かめる。そこまでできればイナフイナフ云ってるあの日佐間だって納得する。だから……あとはアバターを奪われようが殺されようが構わないのさ。少なくとも、ぼくはね」
「その<X>を見つける具体的な方法は?」
「ぼくにはまだない。これから考える。……安藤さんにも協力してほしいんだ」
彼女は頭を抱えた。
「ねえ……なんで先輩を闇討ちしないの。猛尾くんの無念を晴らしたいんでしょ?」
「えらい物騒なことをいうな、きみは。――権力だとか暴力だとかは才能なんだ。行使するための判断力もそうさ。圧力かけたり殴ったりできれば、和長は邪険に扱われなくなるかもしれない。けれど、ぼくにはその類の才能はないから、こういう方法を選んでおべっかを使うしかない。それで和長を庇えるなら……」
「もう!」
あなたは内心ほくそ笑む。もうひと押しで彼女は観念するだろう、と思う。
「先輩に恩売ったところで、猛尾くんの状況がよくなるとは限らない。それに、そのことは彼自身の問題でもある」
「だからさ。このままだと本当にまた虐められる。あいつは背負ってるものが多すぎるから、それに抗おうと必死なんだ。けど虐められるようになってからじゃ遅い。そうなる前に陰でこっそり支えてやるのが……ハンサムだろ?」
あなたは向き直って、わざとらしく白い歯を見せる。あなたは自分では恰好をつけているつもりだろう。彼女は呆れたような目をする。
「ハ~ンサ~ム……だろ?」
ダメ押しにあなたはこう付け足す。「地道に行こう……!」
「地道に行こうじゃねーよ!」
彼女の上履きが顔に直撃し、跳ね返ったそれが宙を舞うのを見ながら、痛いけどちょっといいな――と、あなたは思った。
「ぼくはまず、そのネットアトラクションというところに行ってみるべきだと思うんだ。けどなにも知らずに近づくのは危険すぎる」
「同感。……クラスター」
あなたは安藤さんの手際のよさに感心する。先日、起動するときの合言葉はやめたほうがいいと提案したことに関して。ついでにそれをすんなり受けれた点も。
《お呼びでしょうか、部長》
初回の起動から一カ月以上経過した今となっては、その人工知能の喋り方もすっかり様になっている。
《おや。タテワキ副部長も。こんにちは》
「主人のことが好きなのはわかるけど、人をついでみたいに扱わないでほしいかな」
《はい。すみません》
実際、この人工知能には好きだとか嫌いだとかいった感情もないのだろう。自分の僅かな声色の変化に反応して謝ったに過ぎない――とあなたは思う。
あなたはこういった人工知能というものに対して信頼を寄せていないから。
「クラスター、人形の館に関する都市伝説を調べて」
《かしこまりました》
あなたと安藤さんはクラスターが情報をまとめるのを待った。そして三百秒と少し経過したとき、クラスターはこう答えた。
《人形の館。数件の被害報告のあるネットアトラクションです。このなかに侵入すると、館の主らしきネットアバターになんらかの方法で勝負を挑まれます。それに合意し、負けた場合、ネットアバターは強制的に初期化され、抜け殻になると云われています。館の主はそれをコレクションし、館内には数多くのネットアバターが飾られているそうです》
あなたは先ほどの上級生に関する疑問がひとつ解けた。
「なるほど。先輩のついた嘘はそういうことか」
「なんのこと?」と安藤さんが訊く。
「彼はアバターを一方的に獲られたんじゃない。賭けをして負けたんだ。たぶんね。それを見栄張って『奪われた』と云った」
「さすがイナフ先輩」
「まぁおかしいなとは思ってたけど、どうしてこうすぐにバレる嘘をつくかな……」
「心が弱いからでしょ」
たしかにそうだ、とあなたは思う。上級生はこのアトラクションの噂を聞きつけ、興味本位で近づいたのだ。自分のバックに多少の権力があるのをいいことに。しかしそれでは及ばなかったので、巧みにあなたを欺いて、自分の手を汚さずに一矢報いようとしている。あなたは内心、とても苛立った。しかし器量の小さい人だと小莫迦にするだけで、今さら受けた頼みを断るつもりもなかった。
親友である猛尾和長に協力したいと思う気持ちが負の感情を払いのけたからだ。もっとも、あなたはそれに気づいてはいない。
「しかし気になるのは、このアトラクションがどうしてネットアバターを集めているのかってことだ。持ち主を失っても未だに動き続けているというのも謎だよ」
「わたしもそう思う。……<X>のことも確かめなきゃね」
「えらい乗り気になってきたじゃないか」
「まぁね。興味が湧いてきたよ。オカルト好きの性ってやつかな」
こうなった彼女が心強いというのをあなたは知っていた。なぜなら、彼女はあなたよりもずっと頭がよく、こういった不可思議な事柄に関する造詣も深いからだ。
あなたはこの都市伝説に関する情報をもっと調べ、ふたりで<人形の館>に乗り込む決心をした。あなたは元々ネットアバターというものにあまり関心がないこともあって、例え賭けをすることになっても平然としていられる自信があった。安藤さんはふたつ持っているネール・デバイスのひとつに新規アバターを備えた。。情報蓄積時間の間もないネットアバターなら、被害は最小限で済むと考えたからだ。
アトラクション――<人形の館>が出現するのは午後零時を過ぎた時間に限定されていた。あなたはまず帰宅したのち、晩ご飯とシャワーを済ませて仮眠を取った。そしてネールの目覚まし機能を使い〝アラーム〟をセットした。零時。あなたは目覚め、おぼろげな意識で仮想空間にアクセスする。あなたの依代、分身情報体であるネットアバターの表情も眠そうだった。
待ち合わせ場所で、安藤さんのネットアバターが待機しているのを見つける。
「……ごめん、遅くなった」
《気にしなくていいよ。待てなくなったら通話して呼び出す気だったから》
あなたは欠伸した。
《ああ、寝てたんだ。まぁそんなことだろうと思ったけど》
「けれどこれで多少は夜更かしできる」
《わたしはさっさと終わらせて帰りますよ?》
「ドライだね」
《お肌がドライになるよりはマシかな》
それもそうだ――あなたは笑った。
目的の<人形の館>の発見に時間はかからなかった。
あなたは例の上級生がネットアバターを奪われた位置を確認し、そこからネットアトラクションの移動速度を仮定し、地図ソフトに計算させた。予測を立てたいくつかのポイントにアバターを転送してまわった。
同様に、安藤さんは探索ソフトを起動。クラスターが収集した情報から<人形の館>の外観をイメージモンタージュし、ネットアバターに探させた。精巧なモンタージュなら、地図内の画像検索に引っ掛かる。
《オッケー、見つけた》
「すごいな。今日作ったばっかの空っぽのネットアバターで」
《専用のソフトを入れればいいだけなんだから、アバターの蓄積時間とかは関係ないんじゃない?》
「イメージモンタージュが手動で出来る人間にとってはそうかもな」
<人形の館>は絵に描いたような古びた洋館だった。尖った屋根。壁にはレンガが敷き詰められ、その周囲には林が茂っている。それらすべてが一体となって移動している様子はどことなくシュールであり奇妙だった。
あなたたちが目視した段階で一度、奔る館はゆっくりと速度を落としはじめた。近づこうとすると、館は動くのを止めた。
《まるで人食い屋敷ですねえ、タテワキくん》
「ぼくは注文の多い料理店を思い出した」
《あとは……迷い家?》
「怪談の迷い家って入るとイイコトあるんじゃなかったっけ」
「どうだか。存在してること自体が『イイコト』じゃないからねえ」
あなたの目には、扉の前にあるアンティークな看板が映った。
『以下のソフトウェアをインストールしてください』
「フムン」
注意書きの下に、いくつかのゲームソフトの名前が並んでいた。それらはネットアバター同士を戦わせる類の、無償のインディーズゲームだった。クラスターが集めた情報のなかに当然これに関する記述もあったため、あなたはあらかじめそのソフトウェア群をダウンロードしていた――はずだった。
「あれ、インストール済なのに入れない」
《最新版だと入れないみたい。ダウングレードしてみたら?》
あなたはふと『注文の多い料理店』というタイトルの本を思い出し、これから先の出来事に対して少し不安になる。
安藤さんの提案どおり、ソフトウェアをダウングレードすると認証が完了し、扉の鍵が開いた。
「少しドキドキする」
《そう?》
「まぁね」
そこであなたは、少し安藤さんという女子生徒のことを意識する。ドキドキという言葉がそうさせた。安藤さんと出会ったのは二カ月前のことだ。自分はその間、安藤さんの前で何度か無様な姿を晒した。今回はそうならなければいいけれど、とあなたは思った。それは少なからずあなたが、この女子のことを気にしているからだ。
あなたはドアを開けた。
玄関には人が立っていた。あなたは思わず「あ、すいません」とこぼす。次に白磁色の肌と関節が見え、あなたはそれが人形だと気付く。
あなたはネール内のソフトを起動し、その人形の情報を読み込もうとする。
「うおっ」
一瞬でフリーズし、仕方なく強制終了する。
《ようこそおいで下さいました》――と、彼女は云った。まるであなたたちの来訪を待ち望んでいたように。
彼女に案内され、あなたたちは館のなかの長い長い廊下を歩く。歩いているのはネットアバターであるはずなのに、あなた自身が寒気を感じている。廊下の床に並べられた人形のせいだ。
有名なリカちゃん人形。少し不気味な市松人形。季節外れのひな人形。ぬいぐるみ。人形遣いが見世物をするためのマリオネット。市販の可動フィギュア。ガレージキット。あらゆる類の人の形をした造形物が、目につく限りのすべての場所に並べられていた。高い天井を見上げると、そこにも人形が座っている。仮想空間に重量はない。物理演算を狂わせて設置しているとあなたは思う。
むろん、ここはネットのなか。これらの人形はただの情報であり、実物ではない。
「ショーケースに入れたりはしないんだ」
《この館の人形たちは飾って眺めるために置いているわけではありませんので》
その人形はこう続ける。
《台座が付属しているものなどは私もどうしたものかと悩むのです。その台座も人形の一部ですから。しかしそれらまで置いてしまうとほかの子たちの居場所がありませんので……やはり仕舞っておく以外にはありません》
あなたは安藤さんのほうを一瞥する。彼女は訝しげに辺りを警戒している。
「きみも人形のように見えるけど。この館の持ち主?」
《いいえ。私もあの人形たちも、主人の帰りを待つ者です》
この人形は主人が死んでいることに気づいていない、とあなたは思う。
「へえ……なんて呼べばいいんだろ。ほかの人形と違って、人工知能がある……ってことは自動人形か」
《お好きなようにお呼び下さい。ですがこれまで形容されたものですと……そうですね》
その人形は言葉を濁す。あなたのネール画面に複数の言葉が表示される。
<Alice>――
<Licca>――
<Ann>――
<Rose O'Neill>――
《あるいは単に<Marionette>と呼ばれてたことも》
そしてネール・デバイスから突然ALARMが鳴る。あなたは喉の奥で悲鳴を上げるのを堪え、苛立ったように舌打ちをする。
「おかしいな、目覚まし機能がオンになってたみたいだ。……つまり、どうとでも呼んでくれといいたいわけだね」
《はい》
あなたはその人形を<アラーム>と呼ぶことにした。
《もうひとつ付け加えるなら……私の言葉の意味も。ご自身で判断してください》
「意味?」
あなたはゲームが始まっていることに気づいていない。あなたがその質問をするずっと前から、ゲームは始まっている。そしてヒントも。
あなたは言葉を続ける。
「主人の帰りを待っていると云ったけど、ぼくらはその主人と話がしたいんだ。聞いた話じゃ、ここではゲームができるそうじゃないか」
《ええ。しかし今はいません。ですから私がこうしてあなたがたを迎えているのです》
「きみが相手をしてくれるのかな。へえ……それって、御主人様が死んだから?」
《どうでしょう》
「きみはぼくらをどこへ案内する気だろう」
《もちろん遊戯場です》
廊下の端に辿り着く。アラームがそこにある扉を開ける。
その広間にあるのはシャンデリアだけだった。あとは小窓が少しとワインレッドの絨毯。人形を置くならこの場所にするべきだ、とあなたは思う。しかしすぐにそれが間違いであると気付く。あなたはこの場所がどういう用途で使われるかに気づく。
「ここでゲームをするわけだ」
アラームは答える。《はい》
《あなたたちがこの場所をどういったふうに解釈したのかは知っています》
あなたは安藤さんと目を合わせる。
「というと?」
《ネットアバターを奪われるのを承知で来ていることも。ご友人に頼まれたことも。どうやって探したのかも。――すべてです》
アラームはレジン性の瞳を閉じて淑やかに語る。まるで子どもをあやす母のように思えてくる。あなたは不思議な安らぎを感じる。しかし母性ではないと気づく。この人形もまた仮想空間で構築された情報体にすぎない。それがネットアバターなのか、あるいはそれ以外のなにかなのか。いずれにしてもプログラムが人の表情を真似しているだけだ、と自分に言い聞かせる。
同時に、あなたはアラームに対して、どこか一筋縄ではいかない気配を感じている。卓上ゲームの熟達者と初心者の間にあるような、気構え。余裕。そういった『差』がアラームとあなたの間にはある。
あなたはフンと鼻を鳴らし、負けん気を強める。
アラームはゆっくりと瞳を開く。
《ですが粗暴な真似は避けたい。これからあなたがたがどうなるにしろ、求めているものは差し出そうと思います》
「求めているもの?」
《情報ではないのです。それがお望みでしょう。なんでもお話します》
あなたは少し考える。
「情報、というのはあやふやな云い方だな。なんでも知っているのだというなら、もう少し詳細な物言いをしてみてくれないか」
《構いませんよ。そうですね……あなたは私のこの態度を見て、厭味なやつだと思っているでしょう?》
あなたは口笛を鳴らす。「それは正解」
《あなたがたは改奇倶楽部。機会を改め奇を衒い、苦い気持ちを抑えては、機械で奇怪を細工して、嫌いなやつらをぶっ潰す――という信条の下に行動している方々。ここに来たのは賭けに負けたご友人に頼まれたから。しかしいくつか疑問がある。
ひとつ目は、この建物の持ち主の死後、その人物のネットアバターが何と話していたのか。あなたがたはそれを<X>と呼んでいる。
ふたつ目は、ネットアバターを集めてどうするのか。……ああ、それに、どうしてこの人形の館は動いているのか。そちらの安藤さんはそれらを知りたいと思っている。そういった都市伝説を集める『蒐集家』だから》
どうですか、とアラームは云う。
「どういうことだよ、なんでそんなことまで知ってんだ。先輩になにか聞いたのか?」
《聞いたわけではありません》
アラームはパチン、と指を鳴らす。
広間にネットアバターが現れる。それは件の上級生とうり二つだ。
「日佐間先輩のアバター……」
《はい。あなたのネールで彼の情報を読み込んでみてください》
あなたはアラームの云う通りにする。
製造日……二○一一年。
持ち主……黒御影燈。
素材……軽量型石粉粘土。
芯材……発砲スチロール。針金。
瞳……ガラス。
関節の種類……球体。
塗料……モデリングペースト。水彩。胡粉。油絵具。溶油。
髪の毛……スガ糸。
研磨剤……コンパウンド。
原型……黒御影燈。
――と表示された。
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