第4話 ハードスキンシップ

 あの突拍子もなく発生したイベントである野球大会から一夜明け、俺の身体は普段の運動不足がたたってか節々がこぞって異常をきたしていた。

 しかし、だからといってSOS団の活動を休むわけにはいかず、俺は律儀にも午後の授業が終わると部室棟へと足を運んだ。

 無論、ノックは忘れない。

 たとえ、自身の身体が女子になったからと言って朝比奈さんの着替えを見るわけにはいかないからな。

 そう自分に言い聞かせ、通常通りノックをして朝比奈さんのは~いという美しい声音を待っていると、


「どうぞ」


 という朝比奈さんらしからぬ爽やかな女性の声が返ってきた。

 部室に入ってみると、そこには朝比奈さん、長門のいつものメンバーに加えて肩ほどまで髪の伸びたそれはスレンダーな女性が佇んでいた。


「なんだ、お客さんか?」


 と、そこまで言って思い立つ。

 こんなへんてこりんな団に関わろうとする人物だ。もしかしたら、宇宙人や未来人や超能力者、それだけにとどまらず異世界人の可能性まである。

 俺はその思いから若干身構えると、それを感じ取ったのかその女性がどこかで見たような微笑を浮かべた。


「そう身構えないでください。僕ですよ、古泉一樹です」


 一瞬、世界が凍り付いたように感ぜられた。

 というのはうそぴょんで、あまりの突拍子もない出来事に俺が固まっていただけである。

 こういう時は、あいつに確認するに限る。


「長門、ほ、ホントにこの人は古泉なのか……?」


「……そう。この生命体は、古泉一樹で間違いない。涼宮ハルヒの力によって、なんらかのかたちで女性化された」


「ま、マジか……」


 驚きと呆れの入り混じったため息をつく俺に古泉は平生の微笑で答えた。


「おい、古泉。こんな状況でよくそんな冷静にいられるな。俺たち、勝手に性別を変えられたんだぞ?」


「ええ、それについては非常に驚いていますよ。まさか、あなたに続いて僕までもが女性化してしまうとはね。しかし、僕はそれほど悲観的に感じていません」


「ん? 何故だ?」


 素直な疑問を浮かべる俺に、古泉はだんだんと近づいてきてこういった。


「だって、これまで以上にあなたとスキンシップがとれるじゃないですか!」


「……は?」


「あっ、ちなみに今僕は古泉一樹ではなく、古泉一姫ですのでよろしくお願いしますね!」


「……は?」


◇◆◇


「ところで、古泉はどうして女性化してしまったんだ?」


「僕が推測するにですね――」


「うるさい! 古泉は黙ってろ。今、長門に聞いているんだから」


 俺にやたら接触してこようとする古泉を取り敢えずそばにあった縄でぐるぐる巻きに縛って、安全を確保してから長門に問う。

 ぐるぐる巻きにされて動けなくなった古泉は、キョン子さん積極的ですねっ! などと意味不明なことを喚いていたが取り敢えず無視だ。おい、もじもじするな甘い吐息を吐くな悶えるんじゃありませーん!

 そんなしっちゃかめっちゃかな状況下においても、長門の返答は平生の如く一文足らずの短いものであった。


「……涼宮ハルヒが望んだから」


「結局、いつもの通りハルヒなのか。じゃあ、戻るにもハルヒをなんとかしないことにはどうにもならんってわけだな」


「そう」


 ああ、もう面倒くさいなぁ。

 俺は今まで以上に盛大なため息をつくしかなかった。

 おい、これどうなるんだ……? そもそも一体全体どうして古泉を女性化する必要があったというんだ。

 俺にはどうにかこれ以上問題が起こらないことを願うしかなかった。


 

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キョン子の憂鬱 藍うらら @kyonko

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