第2話 「えっ、童貞なの?」「そうだけど?」


 レオが村を出発して一週間が経ち、無事に王都へ到着した。慣れない馬車での移動は大変ではあったが案内役の使者の男が聞き上手話し上手だったのでレオは退屈しなかった。

「それでは我々はこれで」

 馬車を停めておくスペースで今までの旅に同行していた使者の男がレオに言う。

 場所は王都の学院の敷地内。レオはこのまま学院の寮に住む事になっているのでそのまま送り届けられたのだ。

「はい。色々とありがとうございます」

「いえ、こちらも役目を果たしたまでです。学院生活、楽しんで下さい」

 そう言い残し、使者は馬車に乗って去って行った。

 レオは門を超えて馬車の姿が遠くになっていくのを見届けると、後ろを振り返る。馬車置き場を囲む木々の向こう側には大きな館が、白い校舎が見えた。

「日本のよりデカくね?」

 日本の一般的な校舎と比べ規模も豪華さも段違いように見えた。来る途中で使者から大まかな学院の概要は聞いていたが、その大きさまで気にしていなかったのでこれにはレオも驚いていた。

 クルナ魔術学院。王都自慢の教育機関であり、将来有望な若者達を教育している。魔術学院の名前の通り、魔法を教えているのは勿論だがそれだけでは無く、剣や槍、弓などの武術の他にも様々な学問も教えている。ここを卒業すれば例え一介の兵士になろうと箔が付くのだ。

「魔法とか勉強とか、マジでどうするか」

 しかし、レオはあまり関心が無かった。王都の剣術には興味はあるが、それ以上に勉強の壁が立ちはだかっている。

 この先の学院生活を不安に思いながら、レオは校舎の方に向かっていく。


 学院の事務に顔を出したレオは寮の部屋の鍵と教科書を受け取り、寮の通路を歩いていく。

 入学手続きの殆どは既に済まされているので、事務に行ったのは本当に顔見せ以上の意味は無かった。教科書など勉学に必要な最低限な物は特別待遇でタダでくれた。

 タダ、という事に若干の恐怖を覚えつつ、レオこれから住む事になる部屋を探す。校舎と違い、男子寮は痛みや汚れが目立つ。けれども逆にそれが生活感を醸し出しているのでレオにしてみれば逆に安心するものだった。

 渡された鍵に刻印された部屋番号のプレートを下げたドアを見つけると、レオはまずドアノブを回してみる。何の抵抗も無くドアが開いた。

 部屋の中は二段ベッドが一つに勉強机二つ、タンスも二つと地球にもある学生寮の二人部屋と同じ様相だ。学院の事務に行った時に説明はあったが、学園内では特別扱いは無く一般の生徒として扱うと言われていたのだから、寮の部屋も他と同じだ。これ以上の特別扱いは逆に肩身が狭いと感じていたレオにとってそれは有難かった。

 部屋の中に置かれた二段ベッドの上には既に一人の少年が横になっていた。ドアが開いたのに気付いて身を起こした茶髪の少年はレオを見ると笑みを浮かべた。

「これからここで世話にな――」

「いや、待て。お前が誰か当てるから」

 レオが名乗ろうとすると、少年は掌を向けてストップをかける。こめかみに指を当てながら唸り少年。

「んー、ズバリ、田中だ!」

「違う」

「じゃあ、本郷だ。その反応の薄さは絶対そうだ」

 少年の意図と正体を察したレオは前世当てに付き合ってやる事にする。少年が幾つかの名前を出しているが、今の所当たりはない。

「ええ? それじゃあ、誰だ? 井上達か? それとも、もしかして女子が性転換したのか?」

「違う。貴宮だ。貴宮透」

「ああ、貴宮。変わった苗字だから覚えて――って、お前貴宮か! 授業に当てられた時以外喋ってるトコ初めて見たぞ!」

「失礼な奴だな。喋ってるトコなんて……」

 言い掛けてレオは口を噤んだ。所謂ボッチだった前世ではクラスメイトとまともに会話した記憶があんまり無かった。

「そんな声だったんだな」

「前世の頃とは顔は勿論声も違うぞ」

「それもそうか」

 少年はベッドの上から降りると、レオの正面に手を差し出してくる。

「前世は安藤祐介。今はジョージ・ロンドだ。これからよろしくな」

「レオ・ハルトゥーンだ。よろしく」

 レオもまた手を差し出し、二人は握手を交わす。前世はともかく、今はそれぞれ生まれも育ちも違う初対面。はじめまして、と挨拶をするのは不自然では無かった。

「それにしても、何で俺が転生者だって分かったんだ?」

 手を離し、荷物を二段ベッドの下に置きながらレオは気になった事を聞いてみる。

「相部屋の相手は同じ転生者だって聞いてただけ。あ、上のベッドは俺が使っていいか? もう荷物置いちまったけど」

「ああ、下の段で良い。そういえば、俺達以外の転生者って誰がいるんだ?」

「クルナ内にいるのは俺ら含めて四人。他国にいる転生者については伏せられてる。まあ、神託を受け取った神殿は全員把握してるだろうけど」

「ああ、神殿が各国に言って来たんだっけ。それで残り二人は?」

「前世の名前は分からないが、サリア・ラザニクトとヨシュア・ウォルキンの二人だな。二人とも貴族だ。生まれが貴族とか勝ち組だよな」

「それはお前もじゃないか?」

 着替えの服をタンスにしまい終えたレオは言いながらジョージの格好を見る。派手では無いが生地がしっかりとしており、平民が日常的に着るような大量生産品では無い高級品だと分かる。

 親が入学祝いに奮発したにしては着こなしているその様子からレオはジョージが貴族だと予想したのだ。

「その通りだけど、準男爵だから大して偉くない。その地位だって爺さんが金で買った物だしな」

「ふうん……待て、金で仮にも国から爵位買ったって事は金持ちって事だろ。何が勝ち組だよな、だ。お前だってそうだろ。俺は農民だぞコラ!」

 転生者の他三人が貴族と云う上級階級にいる事に、唯一農民出身であるレオは思わず叫んだ。

「知らねーって! こっちだって商人の子として色々しがらみあるんだよ。しかも三男坊だし! 生まれに文句あるならクソ神に言えよ!」

「そうだよあのクソ神! ウザいから忘れようと思ってたのに、思い出させんじゃねえよ! というかアレの居場所は知らねえのかテメェ?」

「知ってたら俺が先に殴ってるつーの! 転生は良いとしてもその為に殺されたなんて納得いかん! 修学旅行楽しみだったのにチクショウ!」

「それで思い出した。名作RPGのリメイク版結局やれなかったぞクソッタレ!」

 些細な事をきっかけにレオとジョージは前世での悔い残しやら何やらを叫び始めた。転生者同士の会話が前世の記憶を刺激するらしく、叫ぶ度に次々と後悔と無念が押し寄せ、それを叫ぶと云う行為で発していく。

「うっせえぞ新入生! 静かにしろォ!」

「あ、サーセンっした」

「すんません」

 そして隣の部屋にいた上級生に怒られた。


 学院が気を利かせたのかはともかく同じ部屋になったレオは、数日前から既に寮に住み始めていたジョージから寮の中を案内して貰った後、食堂に移動した。もうすぐ夕食の時刻だったからだ。

 食堂は寮には無く、校舎の隣に設置してある。レオ達が入った時には多く空いてた席だが、それも徐々に埋まっていっている。

「あのクソ神の事は同じ神に任せるとして、レオはどんな能力貰ったんだ」

 夕食を受け取り、食堂のテーブル席に座り向かい合って食べていると、ジョージが突然そんな事を言い出した。

「このスープ、滅茶苦茶美味い」

「聞けよ」

 レオは食事に夢中だった。夕食はパンに肉やジャガイモが入ったスープ、サラダであったが、特にスープが気に入ったようだ。

「悪い、聞いてなかった。それで何だって?」

「だから能力。チートだよ。神様に貰っただろ。ちなみに俺は魔眼。魔力の流れとか相手の状態、鑑定っぽい事もできる」

「っぽいって何だよ」

「いや、最初はゲームみたいにステータスとか情報を見れるようにして貰いたかったんだけど、流石にそんな数字で表示される訳もなくて、何となく分かるって程度」

「能力選ぶの失敗してるな」

「伸び代があるからいいんだよ。鍛えればより正確に分かるようになってくるんだ。現に俺はこの『眼』を鍛える事で――」

 そこでジョージは声量を小さくしてテーブルの上に身を乗り出すと、レオにだけ聞こえるように言う。

「服の上からでも女子のスリーサイズが分かるようになった」

 ジョージの顔は正にスケベ小僧のそれであった。

「実物触れないのにそれでいいのか? まあ、服を選ぶのには便利だけど。サイズ知ってたらそれはそれで気味が悪いけどな」

「こいつ何も分かっちゃいねえぇぇっ! 男の浪漫とか欲望とか色々あんだよ! それにその情報からだって妄想できるだろ」

「変態だなお前」

 叫ぶジョージの姿は食堂にいた注目を集め、断片的ながら聞こえた単語から視線が、特に女子からは冷たい視線が浴びせられていた。

 彼の学生生活の立場が確定した瞬間だった。

「くそぅ、本気で興味無いなって顔しやがって!」

「興味が無い訳じゃ無いが、実感が無いんだよな」

「えっ、童貞なの?」

「そうだけど?」

「……今度、歓楽街の店行くか? オススメあるよ?」

「悪いけど朝の生理現象以外にセガレが活力持った事無いから無駄だぞ」

 ジョージのレオを見る眼が憐憫に満ちた物になった。

 食事中にとんでもない会話をする二人だが、幸いにも先程と違って声は小さかったので食堂中の生徒に聞かれる事は無かった。それでも近くの、特に耳を澄ませていた者には十分聞こえる。

「食事をする場所でで下品な奴らだ」

 空になった食器を乗せたトレイを持った生徒がテーブルの横に立って二人を見下ろす。金髪に青い眼を持った若者だ。まだ幼さが残る顔だが気品があり、佇まいからでも貴族の子と分かる。

「転生者のウォルキンか?」

 目を細めて金髪の少年を見上げたジョージがポツリと漏らす。恐らく魔眼の力で看破したのだろう。

「……そうだが、そんな前世の記憶があるからと言って地球の人間では無い。今の俺はヨシュア・ウォルキンだ」

「ああ、これは失礼しました。ウォルキン伯爵家のヨシュア様と言えばまだ幼い頃から麒麟児と呼ばれたお方。ついつい前世の記憶に引き摺られて馴れ馴れしい口をきいてしまい、申し訳ありませんでした」

 ジョージは椅子から立ち上がると恭しく頭を下げた。伊達に準男爵家の子供をやっている訳では無く、綺麗な礼儀作法であった。

「フン……」

 ヨシュアは鼻を鳴らし、レオを一瞥するとその場から去って行く。

「…………フゥー」

 ヨシュアが食堂から去ったのを見送ったジョージは息を大きく吐いて椅子に座り直した。先程の貴族の子供はそこから消えていた。

「同じ転生者つっても、違うって事だろうな」

「だな。記憶が蘇ったのはつい最近だし、この十五年はこの世界の住人として生きて来た訳だしな」

「そうそう。昔の事なんて関係無い」

「ただしクソ神は除く」

「見つけ次第叩き切ってやる」

「俺にも殴らせろ」


 ◆


 翌日の早朝、レオは家から持って来た数少ない荷物の一つである剣を持って男子寮の裏庭に向かっていた。

 まだ寝ているジョージに昨日案内された寮の裏庭で上級生らしい生徒が素振りなどの鍛錬を目撃したので、レオもそれに混ざる気ことにした。

 制服ではなく汗で濡れても平気な動きやすい格好、つまり普段着で裏庭に行くとまだ早朝なのに数人の生徒達が木剣木の棒などで素振りを行っていた。

 レオはそんな彼らから邪魔にならない距離を開けて、素振りを開始する。村に来た冒険者から教わった型をまず一通り流す。

 迷いの無い、最早体が覚えて勝手に動くほどの滑らかで自然な動きであった。だが、それでも納得していない部分でもあるのかレオは気になった部分の型を素振りしながら繰り返す。

 レオがしばらく素振りを行っていると、一人の少年が声をかけてきた。上の学年なのだろう。場慣れした様子で肩に槍を模した棒を担いでいる。

「新入生か? 鞘付けてても実剣での素振りは禁止だぞ。昔、鞘飛ばして窓割った奴がいるんだよ。隅の方に木剣の束が置いてあるからそれ使いな」

「ああ、アレですか。ありがとうございます」

 言われ、レオは木剣を取りに行く。手作りなのかそれぞれ形が不揃いながら作りは丁寧で、滑って剣を放り投げないように柄の天辺に革の紐が輪っかになっている。

「見たこと無い型だな。他国からの留学生か?」

 木剣を取って戻ると男子生徒がまだ立っていた。

「違います。剣は村に来た冒険者から教わりました」

「村? 騎士や兵士の子供じゃないのか。へえ、それであれか。教えた冒険者が優秀なのか、お前が特別なのか。今年も粒揃いって聞いてたけど、本当みたいだな」

「粒揃い?」

「ああ、噂になってんだよ。今年の新入生はギフト持ちが数人いるってな」

「へえ、ギフト所有者が。どんな人なんですかね?」

 さも自分はギフト持ちではないかのように喋るレオ。

「今のところ判明してるのはラザニクト公爵家のサリア・ラザニクトだな。なんでも、何も無い所から拷問器具を出すとか」

「……それってギフトなんですかね?」

「さあ? 闇陣営の神からのギフトならあり得るんじゃないか?」

 もしその公爵令嬢が転生者だった場合、一緒にされる可能性を考え不安になり、先程ギフトなど知らない風を装って良かったと思うレオであった。


「拷問器具を操るギフト?」

 一汗流したレオはジョージと共に食堂で朝食を取っている。食べながらレオは朝に先輩の男子生徒から聞いたギフト所有者の事について話していた。

「詳細は知らないけどそんな物を自在に操るらしいぞ。あのクラスにそんなヤバい奴いたか?」

「いや、流石に人に隠してた趣味があったら俺だって知らない。特に女子のは」

「前世が女だからってまた女として生まれる訳でもないだろ」

「それもそうか。でも、どっちにしろそんな趣味を持ってたかさえも知らないな。それよりラザニクトって公爵家だぞ。準男爵家の俺とは真逆の貴族のトップ。もし転生者だったら超勝ち組じゃねえか」

「偉いと面倒なしがらみも多そうだけどな」

「まあ、貴族なりの苦労ってのはありそうだけど……確認して見るか?」

 ジョージは悪戯でも思いついたような笑みを浮かべた。彼のギフトである魔眼であるならレオの時のように転生者かどうか見破る事も出来る。

「同じ新入生だし会う機会は幾らでもある。それに、一度女子貴族寮に行ってみたかったんだよ」

「後者を選択するなら手助けしないからな」

「そこは一緒に花園へ挑戦する所だろ!」

「要塞みたいなあんな場所に変質者の汚名まで被って誰が行くかよ!」

 レオとジョージが騒いでいると、別の場所も騒がしくなっていた。二人がそこに顔を向けると、食堂の入り口に人垣が出来ていた。

「有名人でも来たのか?」

「だろうな。集まってるのは主に貴族の子息だ。上に顔を覚えて貰おうと頑張ってるんだろ」

「お前はいいのか、準男爵子息」

「そういうのは兄貴達に丸投げ」

 片手を振って遠慮するとジョージはジェスチャーを行った。

 その時、人垣の中から何か黒い棒が上に伸びた。その黒く細長い棒を見て、ジョージは口を間抜けにも大きく開けて、レオさえも僅かに目を見開く。

 空気の破裂する音が食堂に響き、天井の梁に小さな穴が空いた。焦げた臭いが漂う中、騒がしかった周囲が静かになるのだった。

「私は食事しに来たの。邪魔だからどいてくれる?」

 人垣の中心から静かになった食堂によく通る声がした。

 集団が割れ、そこから一人の女子生徒が現れる。薄い金色の髪をセミロングにし、青い瞳はつり上がっていて鋭い。人々の視線の中を歩く姿は堂々としており、片手に持った銃がより一層に女傑と言った様子を感じさせる。

 地球では強力な武器の一つである銃器だが、この世界ではあまり普及していない。単発しか弾を込められず連射も出来ない上、魔物相手では威力が心許ない。地球でも大型動物を相手にするには大口径の銃を使って漸くなのだ。魔力を持ち生命力が高い魔物相手になると小さな鉛玉より剣ハンマーで大きな怪我を負わせる方が良い。

 けれども銃が出す音は群がる人間を脅すには十分な効果があったようで、あれほど煩かった学生達は静まり返り、少女に道を開ける。

「サリア・ラザニクト…………」

 ジョージが半開きになった口で呟く。

 レオとジョージは互いに顔を見合わせと、無言で席を立った。

 ――逃げよう。

 二人の心が一つになった瞬間だった。

 直後、もう一度銃声が鳴った。

「待ちなさい、そこの二人」

 サリア・ラザニクトが銃口を向けてレオ達を見ていた。銃身の先が下に二度揺られ、それが座れと云う指示だと察した二人はゆっくりと腰を下ろした。

 サリアは近くにいた女子生徒に自分の分の朝食を取りに行かせ、受け取るとレオ達と同じテーブル席に着く。

 周囲では関わり合いを避けるように人混みが解散されている。

「えぇっと、それで俺らに何の用っすか?」

 ヨシュアの時とは違いジョージは動揺していた。逆にレオは面倒臭そうに朝食のパンを食べていく。

「あなた達、転生者でしょう。私もそうなの」

 言って、サリアは銃を前に掲げる。すると銃が消えた。サリアが掌を返すと二本の細い棒が、この国には無い箸が現れた。

「ギフトは思い描いた物を作る能力なんだけど、これが思ったより面倒なのよ。正確にイメージしないといけないし、構造が複雑な物はそれが甘いとすぐ壊れるし」

「はぁ、そうなんすか」

「銃も火縄銃みたいのが限界だし。だから私に銃の仕組みとか教えなさい。男の子なんだから詳しいでしょう?」

「タイム」

 レオが待ったをかけ、ジョージと共にサリアから離れて背を向け、内緒話するように声を小さく会話し始める。

「男がみんな銃とか刃物好きなんだろうって偏見はこの際どうでも良い。あながち間違いでも無いからな。それよりも、あの手のギフトを渡したら駄目なタイプだろ」

「見える。見えるぞ。近代兵器で無双するチートの姿が。というか何あのゾクゾクするほどの冷たい眼光。見覚えがあるんだけど」

「あんな殺し屋みたいな目をした奴が現代日本にいる訳……あっ、俺も何か心当たりが…………」

「あのー、すんません。もしかして烏羽さん? 烏羽都子さん?」

「前世の名前ね。そうだけど、それがどうかしたの?」

「やっベー。学年成績首位の烏羽さんだよ。孤高のクールビューティーレイヴンだよ」

「センス無いネーミングだな。というか学年首位だったんだな。成績良かったのは何となく分かってたけど」

「前世の話をしてるようだけど、私クラスメイトの顔と名前覚えてないの。悪いわね」

「あっ、そっすか」

 悪いと言いつつ悪びれたように見えないサリアの言葉にジョージは僅かに項垂れる。

「俺は少しは覚えてる」

「お前ら二人どっちもどっちだよ!」

「それよりも銃の事教えなさい」

「あっ、はい」

 すごすごと二人は元の席に戻る。

「でも、俺は銃なんて詳しくない。後ろに立ったら殴ってくるスナイパーの銃しか名前も知らん」

「俺はある程度名前とか用途は知ってるけど、流石に構造までは」

 すっかりタメ口になっているが、公爵家の一人娘は気にした様子は無い。

「そういや、拷問器具もギフトで作ってるって噂があるけど、銃といい何考えてんだ?」

「拷問器具? ああ、アレの事」

「マジだったのか」

「違うわ。バンジージャンプとかのアトラクションを作ってみたのよ。それを周りが拷問器具なんて言ってるだけ。銃の知識が欲しいのは、こんな世界にか弱い私が生きていくのは大変だから武器が欲しかったの」

「…………」

 前半はともかく後半の内容にレオとジョージは言葉が出なかった。代わりに、何言ってんだこいつと云う表情をしている。

「後半は無視するとして、アトラクションって、変な使い方したんじゃないか?」

「失礼ね。ちゃんと安全確認の為にフィリップで試したわよ。何度か埋まったり溺れたけど」

「第二王子ぃぃっ!? あんたの婚約者だろ!」

 クルナ王国第二王子の名前が登場した事でジョージが叫んだ。レオは半目をサリアに向ける。

「お前、何してんだよ」

「違うの。ちゃんと訳があるのよ」

 そう言ってサリアは重苦しい口調で語り出した。

「まず訂正するけど、婚約者候補の一人ってだけで結婚するとは決まってないわ。そして私は結婚したくないのよ」

「王子が嫌いなのか?」

 レオが単刀直入に聞くが、サリアは首を横に振る。

「独身貴族が良いの。誰が相手でも結婚は嫌」

「大貴族の娘がなんて事言ってるんすか」

 ジョージが項垂れるがサリアは無視する。

「前世の記憶が戻った時、悪役令嬢転生モノかと思ったわ」

「あっ、そういうネタ分かるんだ。持ってたイメージと違うな。今更だけど」

「睡眠導入剤としては丁度良かったし」

「割と最低だな」

「クールビューティーのイメージが……」

「それはともかく、前世の記憶関係無しに結婚が嫌だから向こうから断るようにイジワルな娘を演じたわ。川に突き落としたり野犬をけしかけたり、女性下着をこっそりポケットにねじ込んでやったり」

「マジで最低だな」

「演技よ。それでその結果、フィリップは被虐趣味に目覚めたわ」

「王子ィィィィッ!」

「煩い」

「あっ、すんません」

「そういう訳で絶叫マシンをはじめとしたアトラクションはフィリップの為なの。その光景を人に見せて婚約者候補から抜けるの為でもあるけど」

「成る程。よく分からんが分かった。お前が悪い」

「何でよ」

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