第6章/森の人

6-1

 何十度目かの寝返りを打った後、暑さに耐えかねたあたしは、布団を押しのけてのそのそとベッドから這い出た。


 寝ている間に夢を見たような気がしたけれど、内容は思い出せない。わかっているのは、あまり愉快とは言えない夢だったということと、パジャマの内側にべったりと汗が張り付いているということだけだ。


 ――どうせなら昨日の記憶も抹消してくれれば良かったのに。


 敷島とのことも。兄とのことも。帰宅した母が、兄の部屋の前であたしの代わりに何度も何度も謝っていたことも。


 ブラインドの隙間から差し込んでくる日の光に目を細めながら、あたしは鈍重な動作で立ち上がる。


 既に時刻は正午を回っていた。母から学校に連絡がいってなければ、午前中の授業は無断欠席ということになる。おそらくは、午後も。あたしは床に放りっぱなしだった携帯電話を拾い上げて、がくりとうなだれる。二十個まで保存できる着信履歴には、すっかり見慣れてしまった電話番号が、ずらずらと並んでいた。


 学校に行く気にはなれない。とは言え、この家に留まっていたくもない。あたしは携帯電話を操作して着信拒否の設定をすると、家を出る支度を始めた。

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