6-3

 三十分ほど館内をぶらついた後で、あたしはふと思い立って階段の方へと足を進めた。


 市立図書館の二階には、視聴覚室がある他、新聞のバックナンバーや郷土史の文献が閲覧できる資料室なんかもある。


 かぞく紙しばい朗読会に参加する気のないあたしは、視聴覚室の前を素通りして資料室に向かった。


 かび臭い部屋には、見るべきものはほとんどなかった。配架棚に山と積み上げられた新聞は見るだけでもうんざりだったし、古くなった郷土資料はほとんど本棚と一体化しているようだった。それでもあたしは資料室の片隅にひっそりと置かれたガラスケースに目を向ける。


 ケースの中には、桐たんすのミニチュアに竹細工のおもちゃ、木彫りの干支人形といった五十海の民芸品が並んでいる。こんな所に置いてあっても誰も見ないだろうにと思いつつ、あたしは十二匹の動物たちをガラス越しにつつき始める。


「川原さん?」


 ふいに背後から声を掛けられたあたしは、ぱっと後ろを振り返る。


 立っていたのは茶色のタートルネックにグレーのパンツというラフないでたちの中年女性だった。髪を後ろでまとめて、おでこを広く見せる髪型が、穏和そうな丸顔に良く似合っている。


「あら、やっぱり川原さんね」


「あ、えっと……」


 顔にも思慮深そうな目つきにも見覚えがあったが、どこで会ったのか思い出せない。


「覚えてない? 私服だからわからないか。ほら、泉田秀彦君の事件の時にあなたの取調べをした」


「あ、あの時の婦警さん!」


外村とむらです。改めてよろしく」


 そう言って、印象の良い微笑みを浮かべる婦警――外村さんにつられて、あたしはついつい「今日はお休みなんですか?」と聞いてしまう。


「久々にね。川原さんは?」


 盛大に墓穴を掘ってしまった。


「えっと、体調不良じゃなくて……喪中? じゃなくて! 尊敬している先輩が結婚することになったので、今日はお休みをもらったんです!」


「下手な言い訳しなくても、補導する気なんてないわよ? プライベートには仕事を持ち込まない主義なの」


「そ、そうですか」


 あたしがへどもどした態度で応じると、婦警は再びさわやかに微笑んだ。


「少し外に出ない? 飲み物くらいはおごるわよ」

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