5-3

 電算室を出たあたしたちは、帰り支度をするために、2-A教室の前で一旦別れることにした。


 教室には既に誰もいなかった。かれこれ一時間半も電算室に籠もっていたのだから無理はないが、ちょっと寂しい感じ。


 あたしは小走りで自席へと向かって、宿題が当たりそうな科目の教科書を鞄につめ始めた。数学、必要。リーダー、不要。漢文、当たらないと信じたい。などとやってるうちに、目線がふっと隣の席に流れて、あたしの心をちくりと刺した。


 罪悪感の理由はもちろんさっきまでの学校裏サイトの調査だ。清乃がせっかく調べてくれたサイトの数々は全て空振りで、あたしと敷島は悄然と電算室を去るより他なかったのだ。


 ――ごめん、清乃。


 今は誰も座っていない親友の席に手を合わせて謝ってから、あたしは鞄と弁当袋を手に、教室の外へと向かおうとした。


 その時だった。


 窓の外で風向きが変わる音がして、それからはあっという間だった。


 最初、パラパラと降り始めた雨は速やかに勢いを強くし、気がつけば束になってグラウンドを乱打するまでになっていた。


 しまった。ここ一週間ほど晴天が続いていたことで油断していた。今日のあたしは傘を持ってきていなかった。


 どうしたものだろう。家に帰るだけならバスを使うという手もあるが、これから敷島と一緒に泉田のアパートに行くことになっている。


「入るぞ」


 あたしが本気で困っていると、さっさと帰り支度を終えた敷島が2-A教室に姿を見せた。


「どうした、浮かない顔して? 何か捜し物か?」


 あたしの側まで来ると、敷島は怪訝そうに言った。


「いや、それが……傘を持ってきてなくてさ」


「置き傘もか?」


 そう言う敷島の手には、おっきな黒傘が握られている。うーん、面目ない。


「そうか……なら、秀彦のマンションに行くのは明日以降にするか?」


 無論延期はしたくない。けど、さすがに土砂降りの雨の中、傘も差さずに歩きたいと思うほどには変人ではない。あたしはどうにもこうにも返答に窮してしまう。


「わかった」


「え?」


「これ持って昇降口で待っててくれ。すぐに追いつく」


 敷島は返事を待たずに傘をあたしに押しつけて、教室を出て行ってしまう。なんでだよ。


 しばしの間呆然としていたあたしだが、いつまでもそうしているわけにもいかず、ふんと小さく鼻を鳴らすと、敷島の指定した昇降口へと向かうことにした。

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