4-2
再びホールに戻ると、既に敷島が時計台の前に立っていた。時刻は九時五十七分。結構ぎりぎりの時間だ。あたしは小走りで敷島に近づいて「敷島、ごめん! 待った?」と声を掛けた。
「気にするな。時間通りだ」
黒いジーンズに薄いベージュ色のポロシャツというラフな出で立ちでも敷島の態度はいつもと変わらない。
「それに俺たちもさっき着いたばかりだしな」
「……俺たち?」
「
なるほどと思ってから、あたしはふとあることに気がついて顔をしかめた。
「その口ぶりから察するに、飯塚さんとは以前から面識があったみたいだけど?」
「サッカー部の試合の時なんかに、よくグループで観に来てたんだよ。その縁で、何度か話をしたことがある」
「話、ねぇ」
あたしがわざと馬鹿にしたような態度で繰り返すと、敷島はさすがにむっとしたようだった。
「断っておくが、俺と彼女との間にやましいことは何もないぞ。部内にはそういうことにだらしないやつもいるが、俺は違う」
「はいはい。わかったから早く飯塚さんのところに連れてってよ」
「自分が混ぜっ返したんだろうが……」
ぶつくさ言いながらも敷島はショッピングセンターの奥にある喫茶店に向かって歩き始めた。
敷島が『何度か話をしたことがある』と言ったら、それは本当に本当のことだ。嘘を言っていないことくらい、あたしにだってわかる。それなのになんでこんなにむかつくんだろう。敷島の歩き方が妙にゆっくりなのも、腹が立って仕方がなかった。
多分あたしは――ううん、違う。あたしは思いつきかけた何かにあわてて蓋をすると、自分が苛立っている理由を探すことにする。
昔から言われてるように、スポーツのできる男子というのはもてる。そして、東高のサッカー部員がみんな敷島のようであるかと言えばそんなことは全くなく、むしろ決定機には積極的にシュートを狙っていく連中ばかりだ。ファンの女の子を使い捨てカイロのように取っ替え引っ替えしてく大馬鹿野郎も少なくない。
使い捨てカイロさんたちに同情する気はない。あんなのは自業自得だ。でも、だからと言って異性のことを、暖を取るための道具程度にしか見てない連中に好意を抱けるはずもない。
あたしのすぐ隣を歩く木石漢もそういう連中の仲間ではあったのだ。あたしは自分にそう言い聞かせると、心持ち足取りを早めた。
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