第4話 全国ティーンエイジ ミュージックフェスティバル ZEPPIセンダード予選会


 ある日、レアンは親友のマッカニーにラインで電話した。


「あのお、レアンだけど、マッカニー君かい。相談したいことがあるんだけど」


「やあ、レアン君。久しぶり。それで、相談って何かな?」 


「実は全国ティーンエイジャーミュージックコンテストに応募するために、曲を作ったんだけど、協力してくれないかな」


「へえ、君はテニス部のエースだったのに、実は音楽も本気でやってたんだ。そうだ、応募するなら二人のユニット名考えなくちゃあね」


「RE:NO MANEY(リノーマネー)なんかどう?今はノーマネー(お金がない貧乏)だけど、大逆転して大金持ちになるって話」


「レアン天才、おもしろーい」


「じゃあ、練習は今週の土曜日。貸しスタジオを予約しておくね」


 そして、土曜日の夜。二人は貸しスタジオに入った。隣は、ロックバンドがうるさいし、太鼓の練習の音もドンドうるさい。でも、ギターをチューニングすることすら楽しくてしょうがない。ついに自分のオリジナル曲を、本物の人間に聞かせる時が来たからだ。

 今まで黒猫のメノウだけが、練習相手だったレアンは、音楽部の部長のマッカニーの意見を聞きたかった。


「はーい。おまたせー。レアン君。さっそく、キミのオリジナル曲とやらを、聞かせてみてよ」


 レアンはスマホで録音したオリジナル曲「星巡りの歌 現代版」を聞かせた。


「まあまあだね。しかし、このままじゃ、到底、コンテストの審査には合格しないだろうね。歌詞がいまいち、伝わらないし。3番の歌詞をこう変えて、ここのハーモニーをこうやれば、いいんじゃない?」


「さすが、音楽部のエリート、マッカニー君だ」


「あっははははああ。じゃ我輩がハモるから、歌ってみな」


 レアンは、歌った。今までは、感情が高まって声が上ずってばかり、声を張り上げるばかりだったが、マッカニーのコーラスに合わせるには、正確にリズムとメロディをキープしなくちやならない。


「リズム遅れてるよ、ダメだ、音外してる、走り過ぎ。もっとたっぷり歌う。分かる、音楽はリズムが全て、いくら歌詞が良くても自己満足じゃ、聞き手は感動なんかしてくれないよ」


 すごい、歌い出すと、マッカニーは別人のように真剣に練習に取り組む。

 あっと言う間に3時間が過ぎていた


「ネェ、他の曲をやろうか?疲れてもう声が出ないよ」


「そうだね。じゃあ、ボイストレーニング教えてあげるよ。2オクターブのメロディを連続で、アアアアアーって、上がり下がりしながら、発声するんだ。いいかい これを次の練習までに毎日やるんだ。じゃあ、お休みー」


『心の声』 (すごい、マッカニーはあれだけ歌っても、声は枯れないし、元気じゃあないか。ボイストレーニングやれば、あんなに声量が出るものなのか?)


 次の朝、レアンは6時に起きて、家の近くの川辺を散歩して、大声でボイストレーニングしてみた。朝日を浴びて光合成をした新鮮な酸素とマイナスイオンが、シャワーとなってレアンを包み込んだ。

 

『心の声』(気持ちいー。てゆうか、歌わないのに、頭がスッキリするのは何だ。)

涙が溢れて来て止まらなかった。


 その日から、朝の散歩とボイストレーニングがレノアンの日課になった。


 そして、次の土曜日

「はーい。どうかな?レアン君、ボイストレーニングの成果は。歌ってみてくれたマイン」


 レアンはギター弾き語りをした。すると軽く声を出しただけなのに、スタジオ中に声が響き渡った。


「ワラ ワンダーフル。そうそうこの調子。トレーニング続ければ、君はもっとグレートになれるよ」


 そして、完成した音源をCDに録音して、レアンは祈りを込めてポストに入れた。暦の上では12月になっていた。


「あのう、リノーマネーさんですか?こちら、センダード放送です。全国ティーンエイジャーミュージックコンテストの、トウホクト地区予選、イーハトブ県代表に選ばれました。場所は、ライブホールZEPPI《ゼッピ》センダード、出場していただけますか?」


「マシで?ややややや、やったー。ぼくはついに、ミュージシャンへの夢の扉を開いたあああああ」


 ZEPPIセンダードライブハウスは、プロのメジャーアーチストもコンサートをする客席500人収容可能の大会場である。


 そして、コンテスト当日、レアンとマッカニーは、出場者控え室の楽屋にいた。


「おお、コンテストのゲストは、あの有名なミスターエンドルフィンだ。ボーカルの桜蔵和正が目の前を歩いている。ネットで見るよりも意外に背小さいなあ」


「おい、レアン君、他の県の代表はみんな、インディーズデビューしているとかの有名バンドばっかりじゃん。超燃える。合唱の全国大会は何度も出た我輩だけど、二人アンサンブルは始めてだもんね」


『心の声』 (こういう時のマッカニーは頼りになるな)


リハーサルが始まった。他のバンドは、みんな上手い。そりゃそうだよね。みんな、メジャーデビューを目指してギラギラしている。


 レアンはステージ裏で、歌詞とギターコードを暗記しながらも、緊張で心臓が飛び出そうだった


 リハーサルが始まった。

『心の声』(時間は5分しかない。上手く、ギターのモニターの音が聞こえない。マッカニーの声も聞こえない。ダメだ。リズムが狂ってる。)


あっと言う間にリハーサルは終わった。二人は、呆然として会場を出た後、センダード駅裏の公園に歩いて行った。


「マッカニー、やめようか?最初から無理だったんだよ。ユニット結成して、たった2ヶ月で、ろくにハーモニーもできていないのに、コンテスト出場なんて。恥をかく前に、辞退しよう」


「バッカやろう、このコンテストに応募した数のバンドは2000組なんだぜ、しっかりしなよ、だから素人は嫌なんだ。リハーサルなんて、上手くいかないものなんだ。あの練習の日々を思い出すんだ。練習したことしか本番では出せないんだぜ。

君の歌は決して上手くはないが、魂の叫びというか人を惹きつける何かがある。へい、アカペラで歌おうぜ。僕らの武器はコーラス、ギターを置いて歌おうぜ。」


 二人は、全てを忘れてアカペラで路上ライブで歌い出した。気がつくと、一人のおばさんが聞いてくれている。歌い終わると、一生懸命拍手をしてくれた。


「素敵だったわ、あなた達トキオからきたの?」


「僕たちこれからコンテストなんです。聞いてくれてありがとうございました」


「そうなんだ、いい歌だったわよー。頑張ってね」


 『心の声』(たった一人でも聞いた人の心に届くような歌を歌えばいいんだ。)


 レアンは何か、ふっきれたような気持ちになった。


「いける。僕ら、いけるよ。音楽はハートなんだぜ」


「おー やっと気がついたんだね。ワラワンダフール 」


 二人は会場に勢いよく戻って行った。


「レディースアンドジェントルマン 全国ティーンエイジャーミュージックコンテストにようこそ。 トップバッターは ブルーアポ県代表、ネットの応募音源人気ランキング1位スーパーロックバンド、『NEBUTA KING(ネブタキング)』


「イエーイ We Will We Will Rock Rock Rock

I was born to Love Love 」


 一瞬にして、ライブ会場は、激しいドラムとエレキギターのグルーヴのボルテージで興奮状態になった。ドラムのYoshitoは、上半身裸で金髪の髪を振り乱して叩いている。ボーカルのキャーキShinzoは、ピンクの髪をツンツンに立てて、ハイトーンボイスで、シャウトしていた。観客は500席、満員人。関係者の他、一般参加希望を無料で募集したため、超満員で、入り口のスクリーン前には立ち見の客もいた程だ。


「キャーキャー、Yoshito(ヨシト)様、カッコイイ、キャーキャー、Shinzo(シンゾー)様、声で殺してー」

 追っかけ女子ファンが集団で狂ったように声援を送っている。


「これこれ、ライブってこうでなくちゃ。マッカニー、僕らの出番は、10組中、8番目だよね。そろそろ準備するか?」


「OK カモンレッツゴー」


 出演者は次々と演奏し、会場を盛り上げた。


 アイランダー県のジャズバンド『ジョニービーグッド』、テンドウド県のアカペラコーラスグループ『雅(みやび)』、オータムン県のフォークグループ『ナマハード』など、皆、演奏後の審査員の講評で高い評価をもらっていたようだった。


会場に司会者のアナウンスが響き渡った。


「ネクストアーチスト イーハトーブ県代表、『Re:NoManey (リノーマニー)』なんと、結成2ヶ月で応募バンド総数2000組から音源審査で選ばれたシンデレラユニットだ、ツインボーカル、レアンとマッカニーの織りなすハーモニーの化学反応は奇跡を起こせるか?リ ノーマネー 出てこいや」


 レアンはついにゼップセンダードのステージに立った。会場を見る余裕はなく、青いスポットライトだけが、眩しく見えた。レアンはマッカニーと目配せをして、カウントを取る。


「ワンツースリーフォー

赤い目玉のサソリ

広げた鷲の翼

 青い目玉の子犬

光の蛇のとぐろ

星めぐりの歌

生きることに迷ったなら

北を目指して訪ねておいで

北の故郷に帰っておいで


星めぐりの歌は

人生の旅の目当て」


 歌詞もギターコードも暗記していたので、レアンは目をつぶったまま歌った。見えるのは、青い光だけ。曲の世界に入り込んでいった。黒ネコのメノウと練習した日々が、走馬灯のようにレアンの目の前に現れた。


 ステージで歌うことは、こんなにも気持ちがいいことなのか、あれだけ、リハーサルでは緊張していたのに、本番ではベスト以上の演奏が出来んじゃないか、とレアンは思った。

そこには 昔のレアンはいなかった夢ではない。現実なのだ。


 レアンのクラスメイト達もたくさん応援に来ていた。特に、レアンの教室の隣の席のマロリンは、泣きながら歌を聞いていた。


「うんうん、やっばりウチの目は確かだったモン。レアン君には音楽の才能があるってずっと思っていたんだモン。いつも、隣でレアン君の音楽の夢の話に、ときめいていたんだモン。」


 曲のエンデイングでは、、マッカニーの癒しのオカリナのメロディが響き渡った後に、会場から堰を切ったような大拍手が起きた。


マロリン他、クラスメイト達は、スタンディングオベーションで、二人を讃えた。

「レアンいいぞう 素敵。マッカニー 、カッコイイ」


そして、審査結果発表。


「レディースアンドジェントルマン いよいよ審査結果の発表でーす。

 グランプリ、そして全国大会の切符をつかんだのは、果たして誰なのかー?

それはー、ブルーアポ代表 『NEBUTA KING』だあ」


会場は女性ファンの黄色い歓声に包まれた。リノーマネーは入賞には届かなかった。


 ステージには、桜蔵さくらくらが現れ、マイクを取った。


「 皆さん、ぼくはミスターエンドルフィンのボーカル の桜蔵です。審査員特別賞を発表します。イーハトーブ代表 、リノーマネー。」


「おい、レアン呼ばれたぞ。行って入賞トロヒィーをもらってきな」


 レアンは何が起きたか、信じられない表情だったが、次の瞬間、涙で顔がぐしゃぐしゃになった。レアンはマッカニーをハグすると、金色のオスカーみたいなトロヒィーを、桜蔵から渡された。


「おめでとう。全国大会には、届かなかったけど、キミ達の歌には、感動させてもらったよ。おめでとう」


 会場から、大きな拍手が起きた。


 最後に、ミスターエンドルフィンのライブがあり、会場は感動のフィナーレで、幕を閉じた。


コンテストの1週間後、またあの黒猫がやってきた。


「おお 久しぶりだね 黒猫ちゃん 。今日はまた、聞いてくれるかな?だいぶ上達したんだよ 」


 レアンは歌った。もう以前のレアンじゃなかった。アルベシオからストロークと 曲に歌がぴつたりはまっている。


クロネコは、ムクムクと長い黒髪の美少女に変身した。


「素晴らしいアーチストに成長したわね。あなたの波動エネルギーは、もう私を定常的に人間に変身させられるくらいに高まったいるわ。そこで、あなたにお願いがあるの。いっしょに幻想四次元空間レムノンに行ってほしいのよ。」


「久しぶりに会えたと思ったら、いきなりムチャぶりなの? 」


「詳しい話は 銀河鉄道に乗ってから説明するわね。さあ、行きましょ」


 レアンは、メノウに導かれるように、家の裏山を登って行った。


 裏山の頂上に着くと、メノウは不思議で透き通る美しい歌を歌い始めた。


 それは、とうてい人間の声ではなかったが、何重ものコーラスが重なって、神々しい響きを奏でた。


「レアン、もうすぐ幻想四次元空間の扉が開くわ」


 次の瞬間まばゆい銀河の空に、七色の三角標が現れ線路の形になった。

レアンと目の前には大きな金色に輝く、天気輪の柱が現れた。

すると、どこからか、汽笛の音が鳴り響き、空からSL列車が現れて、二人の前で停車した。そう銀河鉄道だ。


 二人の周りには、まるで宝石の雨が降り注いだそうに光があふれた。


「銀河ステーション」


 何処からか アナウンスが聞こえると いつのまにか二人は 銀河ステーションのホームに立っていた。

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幻想4次元空間レムノンの冒険 第1章 ギター弾きのレアンと黒猫のメノウ編 Mr ハッピー @renoan

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