第24話ラグル火山
俺は温泉の前までたどり着くと、何故か泡を吹いて気絶していたエクスティーナを引っ叩いて起こした。
しかし、俺はそこで重要な事に気づいてしまった。
「なあエクスティーナ、俺って女か?」
「?何を言っておるんじゃどこからどう見ても女であろう?もとからおかしい頭が更におかしくなっtギャアアアア」
余計な事を言うエクスティーナに天罰をくだしつつ、俺は目の前の問題にどう対処するか悩んでいた。
温泉とは混浴と言うものもあるが、基本的に男女で分けられている物である。
そして、精神的には男のつもりでも、先程エクスティーナが言ったように今の俺はどこからどう見ても女である。
つまり俺が温泉に入る場合、男湯に行けば痴女呼ばわりされるので、総じて女湯にいかなくてはならないと言うことになる。
「俺はどうすれば…」
自分の体にはもう馴れて今更なんとも思わないが、他人の女性の裸体を見るというのは俺にはハードルが高すぎる。
普通の男性なら合法的に女性の裸を拝めるなら飛び付いて拝みにいくだろう、しかし今は自分も女の子体で同性の人に発情してしまうのは体験しないと分からない恥ずかしさと言うものがあるのだ。
「仕方ない…温泉は諦めるか…」
俺には裸体の女性と一緒に風呂に入る勇気はなかった。
ぶっちゃけ、元々人見知りのびびりには罪悪感で押し潰されそうになるので、元から無理な事だったのだ。
温泉は自分で堀当てて入ろう…
「なに言っておるんじゃ?妾も疲れてるからさっさと行くぞ」
「!?」
俺が現実逃避に走っていると、エクスティーナがさも何事もないかのようにそう言って俺を引っ張っていこうとする。
まあエクスティーナにとっては何事もないことなんだけども…
さっきまでは温泉は諦めるつもりでいたが、エクスティーナが行きたがってるからとか、エクスティーナに引っ張られて無理やり、等の気持ち的に建前が出来た俺は、ろくな抵抗もせず大人しく温泉に引っ張られて行くのだった。
「天国とはこの事か…」
天国がそこにはありました。
さっきまで罪悪感で押し潰されそうとかカッコつけてましたすいません。
この体になってからもう随分経って、女の思考に染まってるかも何て思っていたが、全然そんなことはなかった。
少しじっと見すぎて変態って思われたかもしれないなー。
「きゃー、変態よ!」
「ち、違う!わざとじゃないんだ!」
俺は女性の叫び声に咄嗟に反応して、見苦しい言い訳をその場で叫んでいた。
「何を言っておるんじゃ、今女湯の温泉の影から男が逃げていったようだぞ?」
「覗きか、許されざる行為だね全く!」
「なんだかお主、キャラがおかしいのぉ」
「うるさいほっとけ、とりあえず追うぞ」
変態とは俺のことではなく、別の覗きをしていた男性のことのようで、俺とエクスティーナは逃げ出した覗き魔を追いかけた。
「捕まえたぞ覗き魔ッ!」
走るのが遅いエクスティーナは放っといて、俺は単独で覗き魔を追いかけて、丁度覗き魔が路地裏に逃げ込んだ所で俺は追い付いて肩を掴んだ。
「くっそ、なんて足の速い奴なん…だ…、お、お前は!?」
「あ、お前は確かノースラナードで盗賊してた、名前はえーッと、スカンク!」
「スカンクじゃない!スパンクだ!」
覗きをしていたのは、ノースラナードの森林で俺に襲いかかってきて、お仕置きされた馬鹿な盗賊のスパンクであった。
「バケモンから逃げるために国境まで越えたってのに、逃げたさきでまた会うなんて!」
「お前は…まだろくでもないこと続けてるのか…どうせなら害虫は駆除しとこうかな?」
「ちょ、ちょっと待ってく─」
「居たわ!あいつが覗き魔よ!」
「誰かが捕まえてくれてるわ!」
「今のうちに袋叩きにしてやるわ!」
俺がスパンクをどう処分しようか悩んでいると、温泉から走って俺達を追い掛けてきた女性達が追い付いて、凄い形相でこちらに迫ってきていた。
「ぎゃあああ、頼む!離してくれ!殺されるぅぅぅ」
「自業自得だ、諦めてぷふっ、袋叩きにふふっ、されとけよぷぷっ」
「離せっ!ぶごっ」
俺は掴んでいたスパンクの肩に力を込め、振りほどこうとしたスパンクを地面に押さえつけた。
「じゃあな、馬鹿なことばっかりするなよぶふぉ」
「たすけてぇぇぇぇぇええ」
俺は追い掛けてきた女性達が到着すると同時にスパンクから離れて、笑いながら袋叩きにされるスパンクを見送った。
「もう終わったようじゃのぉ」
「遅かったな、やっときたのか」
「どうせすぐ終わるじゃろうからゆっくり歩いてきたからのぉ」
「まあ別にいいけど、さてとりあえず冒険者ギルドに行くか。ついでにエクスティーナも冒険者登録しとくか」
「別に妾が冒険者になる必要はないきもするがのぉ」
「じゃあお前は初期ステータスで俺がクエストとかで長期間出掛けてる間生活できるんだな?」
「時間が勿体ないから急いで冒険者ギルドに行くか!」
こうして、俺はクエストを受けるついでに、エクスティーナの冒険者登録に付き添ったのだった。
「ひゃ、100点だと…」
「まああの程度なら楽勝よ、身体能力も20%程は出せるようになったからのぉ。とりあえずこれでお主と同じDランク冒険者じゃな」
「馬鹿な…一瞬で追い付かれるなんて…」
「ショックなぞ受けておらずにさっさとランクを上げに行くぞ」
「へいへい」
俺は不貞腐れながらも、今日受けるためのクエストを選ぶのだった。
「そっち行ったぞエクスティーナッ!」
「妾に任せておくがよい」
俺とエクスティーナは2人で協力しながらクエストを進め、本日最後の魔物にエクスティーナが止めを刺した。
「なあエクスティーナ、あとどれくらいでランクアップ出来るんだっけ?」
「ふむ、お主はあと簡単なクエスト1つで3つの課題が出されるんじゃないか?妾はあと2~3個難しいクエストをこなせば行けそうかのぉ」
「ん?簡単なクエストと難しいクエストで回数に違いとかあるのか?」
「ギルドで最初に説明されてたと思うがのぉ」
ぐっすり寝てて聞いてませんでした。
「ま、まあ一応教えてくれ」
「ふむ、クエストはDランクのクエストでも簡単な配達や採取等があるが、中にはDランク冒険者が何日か準備しないとこなせないような討伐クエストもある」
「まあ、そうだな」
「1日で終わるような配達や採取クエストと準備に何日か掛かる討伐クエストの配点が一緒だと不公平であろう?早くランクをあげた方が収入も上がるんじゃ、そうなると誰も討伐クエストなんて受けなくなる」
「なるほど、そう言うことか」
「はぁ、説明ぐらいしっかり聞いておかぬか」
「とりあえず、明日でランクアップに必要数のクエストがこなせるんだな?」
「まあ、そうなるのぉ」
このオンシィーンに着いてからクエストを始めて今で3日目、明日にランクアップに必要数のクエストを終わらせて、明後日に課題を終わらせてからランクアップ試験を受ける。
その後ラグル火山に移動してから必要な素材の採取か。
何とかアルマーニで行われる闘技大会に間に合いそうだな。
「しかし、思ったよりエクスティーナのクエストをこなす速度が速かったな」
最悪置いていって、その間にランクを上げさせようと思ってたのに、別々にクエストを受けて気付いたら殆ど追い付かれている状態だった。
「ふっ、妾がどれだけの年月を生きてきたと思っておるのじゃ。20%も力が出せたらDランクのクエストをこなすことなぞ造作もないことよ」
「じゃあ明日で必要数のクエスト終わらせて、明後日に課題を終わらせてCランクにランクアップするか」
「それで問題ない」
その後、俺達は順調にクエストをこなし、課題も即座に終わらせて、Cランクへのランクアップ試験に挑戦するのだった。
「やあ、君達がランクアップ試験の挑戦者かな?」
「ああ、そうだ」
「聞いた話によると、君達は凄い速度でランクアップ試験への挑戦権を獲得したらしいね。特にエクスティーナさんはまだ今日で冒険者になって5日目らしいじゃないか」
「その程度造作もないことよ」
「ははっ、そうか。じゃあ試験を始めようか、どちらから受ける?」
「じゃあ俺から行こうかな」
「リデルさんからだね、じゃあそこの白線の上まで移動してもらえるかな?」
「りょーかい」
俺は試験官の人に言われた場所まで移動すると、それを確認した試験官の人が目の前に魔方陣を作り出して詠唱を始めた。
「─いでよオーク!」
「ブゴヒイィィイ!」
試験官の人が召喚したのは、体がでっぷりとしたファンタジーでお馴染みのブタの魔物のオークだった。
「さて、準備はいいかな?」
「ああ、いつでもいいよ」
「では、始めッ!」
試験官の掛け声と共にこちらに向かって突進してくるオーク。
俺は突進してきたオークをひらりと躱し、すれ違い様にオークの顎目掛けて拳を突き出した。
「ブ、ブゴフィィ…」
二メートル程の巨体を誇るオークが、見た目は可愛らしく小さな少女の拳を受けて、気絶はしなかったがそのまま地面に膝と掌をついて動きを止めてしまった。
「体術スキル『雷鳴』」
リデルの腕に一瞬雷のような物が纏い、その雷のような物を纏った腕でリデルが地面に伏しているオークに軽く触れると、オークは一瞬全身を強張らせた後、そのまま静かに地面に倒れこんだ。
「これは凄い…素手で一瞬でオークを無力化するとは…」
「これで合格でいいのかな?」
「ああ、合格だとも。次はエクスティーナさんだね、オークを回復させてあげるからちょっと待ってね」
「うむ、よかろう」
それから10分程待ち、オークの体力が回復したところで試験を開始した。
「お待たせしてすまなかったね、それで準備はいいかい?」
「いつでも大丈夫じゃよ」
「では、始めッ!」
試験官が開始の合図を出すが、オークは先程のように突進せず、その場で硬直したように動きを止めていた。
「お、おい、どうしたんだいオーク?」
「それが正しい判断よ、家畜や畜生の分際で妾に牙を向けることなどあるはずがないからのぉ?」
オークが動かなかったのはエクスティーナが何かしたからではない。
それは種としての本能に刻まれた圧倒的上位種への畏怖からであり、オークと悪魔の最上位種が相対したとしても、戦闘など始まることなどあり得ないのである。
「こんなことは始めてだなぁ。とりあえず此方側の戦闘の続行不能ということで、エクスティーナさん合格です!」
こうして、俺達は無事2人ともCランク冒険者にランクアップを果たしたのだった。
翌日、無事にギルドでCランクに更新されていることを確認した後、俺達はラグル火山に向かうのだった。
「おー、あれがラグル火山か、実物はやっぱり迫力が違うなぁ」
「ここはダンジョンの中でも上位に位置する場所じゃぞ?そんなに気楽に行って大丈夫なのかのぉ」
「まあ何とかなるんじゃないか?とりあえずあそこの街で今日中に準備を整えておこうぜ」
「そう言えば、なんでラグル火山を目指しておったんじゃ?」
「ん?ああ、サラマンダーを倒しに行くんだよ」
「お主は馬鹿か?…すまん馬鹿であっtぎゃあああ」
「まだ力が出しきれないなら街で待っとくか?少しなら金も持ってるんだろう?」
「そんな退屈なことはしておれんわ、サラマンダーとは戦わぬが着いていくだけ着いていこう」
「そうか、じゃあ準備しに行くか」
俺達はCランク以上しか入れない街ラグルで必要な食料などを買い、翌日に備えた。
翌朝に俺とエクスティーナはラグルの街を日が上る前に出発し、朝日が見え始めた頃にラグル火山を覆う結界の前まで辿り着いていた。
「さて、行くか!」
俺は通行証を結界に当てると、通行証を当てた所から波紋のように穴が広がっていき、人間2~3人分の大きさになるとその動きを止めた。
そして、俺はラグル火山へと足を踏み入れたのだった。
どうせなら世界を楽しもう! @pea
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