第23話温泉を目指して!
「お…姉ちゃん…」
「機は熟した」
唖然とする男の子の前で、エクスティーナはクスクスと楽しそうに笑いながらそう呟いていた。
その顔はまるでイタズラが成功した無邪気な子供のようで─
「さて、やっと妾の復活の時がきたようじゃ」
「お姉ちゃんをどこにやったんだ!」
「気分が良いときにうるさいガキだのぉ」
エクスティーナは先程までの無邪気な笑顔から一変、顔から全ての表情が消え去り、無表情で男の子をその視界に捉えていた。
「殺すか」
純粋な殺意を放ちながら、エクスティーナは男の子に歩み寄っていく。
「あ、あ、お母さん、お父さん…」
初めて向けられたであろう純粋な殺意は、子供であってもその殺意を感じ取れて、殺意からくる恐怖でその場から動けなくなってしまう。
「殆ど何の価値もないが、少しでも妾の糧になれることに喜びながら逝くといい」
エクスティーナは、その場で動けなくなっている男の子の目の前までいき、まるで虫けらを見るように見下しながら剣を振り下ろした。
「た、助けて、お姉ちゃん…」
「─ディヴァイン・ルミナ」
何処からか聞こえた透き通るような声と共に、辺り一帯を覆い尽くす閃光が地面から溢れ出す。
「これは、何事じゃ!」
「ふぅ、危ない危ない。もう少しで意識が途切れるところだった」
閃光が収まった後、閃光が発せられていた中心部に、先程漆黒に呑み込まれたはずのリデルが立っていた。
リデルの装備は先程までの抜刀術用の袴や刀ではなく、二刀流用の鎧や剣に切り替わっていた。
「貴様!どうやって妾の影の中から出てきた!」
「無理矢理入り口を抉じ開けただけさ」
「そんなことが─」
「─そろそろ晩御飯だから終わらさせてもらうぞ」
「ガッ」
エクスティーナの意識が一瞬リデルからそれた時に、リデルは縮地を使ってエクスティーナの目の前に移動し、拳を握り締めて頭を全力で殴打した。
「さて、ジェイムの体を返してもらおうか」
リデルは殴り飛ばされて地面によこたわっているエクスティーナの頭を踏みつけて地面に押さえつけた。
「クッ、妾の頭を踏みつけるなど!」
「うるさい、さっさとジェイムの体から出ていけ」
エクスティーナが喋った瞬間、リデルは踏みつけている足に力を込めて、エクスティーナの頭を地面に擦り付けた。
「こ、小娘がぁ!」
「おっと」
エクスティーナは、地面に横たわった状態から手に握っていた剣をリデルめがけて振り上げるが、リデルは軽く後ろに下がって躱した。
そして、エクスティーナが立ち上がって距離を取ろうとした瞬間、自身の下半身にこの世の言葉では表現できないような痛みを受けた。
「オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
エクスティーナはリデルによって、下半身に付いている男の象徴を蹴りあげられたのだった。
「やっべ、強く蹴りすぎたかも。一応ジェイムの体だってこと忘れてた…」
リデルは少し反省しながらも、ジェイムの体からエクスティーナを追い出すには一番効果的そうなので、再びエクスティーナに近付くとその場でしゃがみこみ、今だ痛そうに押さえているエクスティーナの下半身に手を伸ばした。
「ヒギッ!や、やめろ、その手を離せ!」
「うるさい!」
エクスティーナは騒いで俺の手から逃げようしたので、俺はエクスティーナの下半身を握る手に更に力を込めた。
「ヒギャアアアア」
「お前がジェイムの体から出ていくまでこの手は離さないぞ?」
「この鬼!悪魔!これだから男の体は嫌なのじゃ!」
「悪魔はお前だろ、諦めてその体から出たらどうだ?」
「クッ、誰がそう簡単にこの体を手放す─」
「ほう?本当にいいんだな?」
俺は声を低くして、掌で大事な玉を転がすように弄んだ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!分かったがせめて、代わりの依り代を用意してはくれぬか?」
「依り代って何を用意すればいいんだ?」
「そうよぉ、例えばお主の体とか、ギャアアアア」
「ふざけないで真面目に答えろ」
「はぁ、はぁ、何か人間の肉体を寄越せと言っても納得せんのじゃろ?」
「まあそうだな。それより、剣に宿れてたんなら剣に戻ればいいんじゃないか?」
「なぜそんな自由を捨てる様な真似をせんといかんのじゃ」
「そうだなぁ…」
「はぁ、折角貯めてきた力を使うのは嫌だが、ここで滅ぼされるよりはましかのぉ」
「何か方法があるのか?」
「妾が今まで魔物等を倒した時に少しずつ溜め込んでおった血肉を使い、器を用意する」
「なんだ、そんなことが出来るなら最初からそうすればよかったのに」
「造るには妾の力の大半を消費する上に、本物の肉体とは違い定着と固定するまで力がだせぬし時間も掛かる」
「そうか、まあとりあえず新しい肉体を造ってジェイムから出ろ」
「分かった、肉体を造るのに遺伝子が欲しいから血を1滴くれぬか?」
「別にいいけど、何か悪魔との変な契約結ばされたりしないだろうな?」
「…」
エクスティーナはそっと目をそらし、俺と目を会わせようとしなかった。
俺は未だに握っていた下半身に無言で力を込めた。
「ギャアアアア」
「全く反省してないんだな、油断も隙もあったもんじゃない」
俺は空いている方の手でアイテムボックスを操作し、あるアイテムを取り出した。
「それは…奴隷の首輪?」
「その通り、しかも最上級の物だから着けた相手にどんなことでも強制できる」
「なっ!?」
「これでお前は変なことは出来なくなる」
俺はエクスティーナの首に奴隷の首輪を着けた後、すぐさま命令を与えた。
「不要なことは行わず、自分の依り代となる肉体を造り出して速やかにそちらに移動しろ」
「ぐ、ぐぬぅ」
エクスティーナは嫌そうにしながらも、目の前に手をかざして魔力を練り上げた。
そして、エクスティーナが手をかざした先に、1つの魔方陣が浮かび上がった。
「ここに血を垂らせばいいのか?」
「うむ、そうじゃ」
俺がエクスティーナの作った魔方陣に1滴の血を落とすと、血を吸収した魔方陣は光だし、光の中に人影が浮かび上がった。
「おお、凄いな」
「まあ完璧よ、そっくりそのまま生前の妾の見た目そのままじゃ」
魔方陣と共に光が消えた後、そこには綺麗なロングの金髪に、瞳は生気は宿っていないながらも、それでもなお美しい紅色をしており、顔のパーツも全てが整っていた。しかし─
「なんでロリなんだ?」
そう、魔方陣から出てきたエクスティーナの体は、見た目小学校4~6年の10歳位の女の子だった。
「ロリ?ロリは分からんが、妾は生前の姿をそのまま造り上げただけじゃ」
「…まあいいか、とりあえずジェイムの体から新しい肉体に移動しろ」
「分かったわい」
エクスティーナはそう言った後、ジェイムの体から力が抜けて、先程造り上げたエクスティーナの体の瞳に生気が宿った。
「ふむ、なかなかいい具合じゃのぉ」
「全裸で動き回るな、とりあえず俺のマント被っとけ」
新たな肉体に宿ったエクスティーナは、体の調子を確かめるように手足を動かしていたが、先程造り上げたばかりなので当然服を着ているはずもなく、リデルは被っていたマントを脱いでエクスティーナに被せた。
「さてお主よ、1つ妾と契約せぬか?」
「契約?契約って何の?」
「うむ、妾は新しい肉体に宿ったばかりでしばらくの間力が出せん。完全に肉体に定着するまで行くところもなく食事や寝るところも用意できぬ、そこで妾が肉体に定着するまで面倒を見てもらいたい」
「それ、俺のメリットは?」
「力が戻ったら、この妾が1つだけ言うことを聞いてやろう」
「・・・」
俺は無言でしゃがみこみ、ジェイムの首に着けていた奴隷の首輪を外し、はてなマークを浮かべて小首を傾げているエクスティーナの元まで歩いていった。
そして、エクスティーナの元まで辿り着くと、俺はエクスティーナの首に奴隷の首輪を着けた。
「これでよし」
「おい!何も良くないわ!何故妾に奴隷の首輪を!」
「だって、いちいち変な契約結ばなくてもこれで命令できるし、お前が力を取り戻したら何するか分からないから俺の監督下に置いとこうかなって。まあぶっちゃけお前の態度にムカついたから着けたけど」
「散々理由つけてそれか!この外道が!」
「悪魔のお前に言われたくねぇよ。とりあえずジェイムを村まで運ぶから着いてこい、お前はあそこの男の子を一緒に連れてこい、因みにこれは命令だから」
「ぐぬぅ、このガキめ覚えておれよ、ってギャアアアア」
「おー、離れた場所からでも罰を与えれるのかー凄いなー。それで、なんか言ったか?」
俺は後ろに笑顔で振り返り、地面に伏して暴れているエクスティーナにそう言ったのだった。
「な…にも…言ってないです…」
「よし、じゃあ村に戻るか」
俺は未だに意識の戻っていないジェイムを担ぎ、後ろからは怨めしそうな眼で俺を睨み付けながらも、しっかり男の子の腕を引いているエクスティーナと共に村に戻ったのだった。
「何か子供達が村に魔物が来ていると騒いでいると思ったら、お前のせいかリデル。しかし、何故ジェイムは気を失って担がれているのだ」
「まあ色々あったんだよ、魔物は倒したから気にするな」
「まあいい、ところで後ろの女の子は誰だ?拐ってきたのか?」
「なんでだよ!ちょっと色々あって拾ってきたんだよ!」
「拾ってきたって、妾を物みたいに言うでないわ!」
「いきなり連れてこられても飯は用意できんぞ」
「そう言えばエクスティーナは飯って食うのか?」
「一応この肉体は人間と構造はほぼ同じじゃから食べる」
「じゃあ今日は俺の飯を分けるよ」
「もう飯は出来てるから冷める前にさっさと食べて来い、ジェイムと男の子はこちらで預かる」
「はいはい、ありがとさーん」
俺とエクスティーナは、村長のモンドに男の子とジェイムを預け、そのまま村長の家に行き夕飯を頂いたのだった。
翌朝、村長から一人前の数日分の食料を貰い、エクスティーナと共に村を出発するのだった。
「食料が一人前しかないのはこちらのせいではないから文句は言うなよ」
「ああ、分かってるよ」
「…リデルさん、助けていただいたようでありがとうございました」
「気にしなくていいよ、こいつが悪かっただけだし」
「イタッ」
目を覚まして見送りに来てくれたジェイムの前で、俺はエクスティーナの頭を小突いて笑いながらそう言った。
「…では、お気をつけて」
「もう来るなよ!」
「ああ、世話になったな。行くぞエクスティーナ」
「まったく、せっかちなやつじゃのぉ」
「お前のせいで食料が少ないんだよ!」
こうして、俺は新たな仲間(?)を得て、オンシィーンに向かうのだった。
「はぁ、お腹すいた…」
「情けないのぅ」
「誰のせいで食料足りてないと思ってるんだ」
俺達があの村を出発してから3日で食料は尽き、俺達は丸1日何も食べずに歩き続けていた。
「この体の身体能力のお陰で筋肉痛とかがないのが唯一の救いか…」
「ほれ、歩くのが遅くなっとるぞ」
「自分でッ歩けっ!」
俺は、まだ体が定着していなく力が出せないとほざくエクスティーナを、渋々背負って歩いていたがイラッときたので、背負っていたエクスティーナを地面に叩きつけた。
「ぬおー、なにするのじゃ!」
「うるせー、大体お前のせいで食料が無くなって、移動も遅くなってるんだろうが!なんでこんな荷物連れてきてしまったんだ…」
「荷物とは失礼な、妾は長生きだから知識量も豊富で、力が出せるようになれば一国と戦えるほどの戦力になるんじゃぞ?」
「今はただの荷物だろうが…さっさと行くぞ、多分そろそろ着くはずだから」
「はぁ、この体で歩くのはまだ辛いのぉ」
俺は再び歩き出し、本日も晴天のなかで二人俯いて歩き続けた。
「あ、硫黄の臭いがする」
「ふむ、確かオンシィーンは沢山湧き出る温泉が有名だったはずじゃ、多分もうすぐ到着する」
「温泉!行くぞエクスティーナ!」
「な!?おい、ちょ、まっ!」
温泉と聞いた俺は、すぐさまエクスティーナを小脇に抱えて、全力でオンシィーンに向かって走り出した。
日本人は風呂好きとはよく言ったもので、それに違わず俺も風呂好きなのだが、久しくしっかりした風呂にすら入れていなかった俺は、温泉と聞いて全力で走った。
「着いた!温泉に行くぞ!」
「ちょっと待って…力込めすぎ…腕の力を抜い─」
エクスティーナが何か言っていた気がするが、その訴えは俺の耳には届かず、俺はそのまま温泉を探し出した。
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