夏の復讐 夏の嘘

@Mura

第1話

弟の智也が1ヶ月前に沼に落ちて死んだ。それ以来、母さんは泣いてばっかで、ずっと智也の遺影の前に付きっきり。家事もしなくなっちゃったから家の中はいつも腐ったような匂いで満たされている。その匂いの中でカップラーメンを啜る。今が8月の終わりってこともあってか家の中の匂いはキツくなっている。吐いちゃいそう。母さんには言えないな。そう思った。父さんにも、いや、父さんには別に期待してない。そもそも家にも帰ってこないし。

智也が死んだ日、僕は友達の雄大と秘密基地で遊ぶ約束をしていた。けど、その日両親がどっちも仕事で家にいなかった。弟の智也はまだ小学校1年生。僕とは3つ違いだ。一人で家に残していくわけにも行かないから僕は智也を連れて行った。僕と雄大の秘密基地は沼の近くにあった。僕は本当に、本当に、後悔している。智也を秘密基地に連れて行ったことじゃなくて、智也を雄大に会わせて

しまったことを本当に後悔している。

智也の死因は『沼に落ちた』。けど、これは正確じゃない。智也は『沼に落とされ、殺された』んだ。それも底なしの沼にね。最近、警察が智也の死について再調査を始めたらしい。警察に捕まったら元も子もない。僕はこの手で雄大に復讐を果たす。智也と同じ目にあわせてやるんだ。


昼の13時。僕は雄大の家に向かった、服の下にナイフを隠し持って。チャイムを鳴らす。雄大が出てきた。

『来るんちゃうかな思ててん』

相変わらずのねちゃねちゃした関西弁。

『雄大知ってる?』僕は笑顔で言ってやった。

『智也の死を警察が再調査してるんだ』

雄大の顔はサッと青ざめた。体が震えている。そんなに怖いんだ。

『僕は、僕、話があんねん』雄大は言う。話があるのはむしろ僕の方だ。

『話云々の前に謝罪―謝ったらどうなんだよ』

雄大は俯いた。

『俺はまだ一言も謝罪の言葉を聞いてない』

『僕やって、やりたくて、やったわけちゃうし』

僕の中で何かが切れた。死刑。決定。智也と同じ目に合わせてやる。決めた。

『ねえ、雄大、沼の近くまで来てよ』

『いやや』

僕はナイフを雄大に見せる。

『俺は復讐のためならなんだってするーお前さ、妹いたよな。普段××保育園にいるんだろ?智也と同じ目にあわせてやろうか?』

『勘弁してや、妹は関係ないし、な?』

『自分の妹は守るんだ?お前に僕の気持ちが分かるか?』

雄大は黙っている。そして、しばらくすると黙って僕に付いていった。

『なあなあ、やけど、なんで沼なん?別の場所でもいいんちゃうん?なあ、僕、嫌やで。なあ、お願いやって、なあ、なあ』

沼が見えはじめると雄大はとにかく僕に話しかけた。関西人って皆こんなにうるさいんだろうか。

『なあ、ほんまさ、謝るから、な?謝ったらええんやろ?な、ごめんな?』

こいつは自分のしたことをなんだと思っているんだろう。ずっと黙っていると雄大は突然、僕の服を掴んで怒鳴り立てた。

『なあ、どないするつもりか聞いてんねん!シカトすんなや!死ねや!』

こいつが関西から転校してきたときはこのうるささと構ってもらえないと暴言を吐く癖に戸惑った。いや、そもそもこいつは僕以外に友達なんていなかった。

僕は雄大の手を払いのけ逆に首を掴み服の下からナイフを取り出すと、雄大の首に押し付けた。

『死ぬのはそっちだ。なあ、雄大、なんでお前はあんなひどいことしたんだよ。一体、俺が何したって言うんだ?なんであんなひどいことを?』

言っているうちに涙が出てきた。

『やって我慢出来んかったし、僕やって分からん、分からんねん、なんであんなひどいことをーなんで……なんで』

『智也と同じ目に合わせてやる』

あの日、雄大は僕たちと遊んだ後『んな、僕帰るわ』と言って僕たちより一足先に秘密基地を離れた。僕は智也を沼で遊ばせた後、ちょっと目を離し荷物を取りに行った。その時、叫び声がした。

『いやだー!助けてー!』

。慌てて戻ると智也が溺れていた。それが僕には信じられなかった。そしてその側には雄大がいた。雄大はじっと智也を見下ろしていた。僕に気がつくと青ざめた顔を向けた。僕は慌てて沼に飛び込んだ。けど遅かった。雄大は青ざめた顔で言った。

『早く沼から出ろ。お前まで巻き添えになるのはダメや』

『何言ってんだ?助けろよ!智也!智也!』僕は必死でそう叫んだ。けど雄大は顔を青ざめながらもどこか覚めた目で僕を見ていた。手伝ってもくれなかった。沼からでないと、足をとられる。けど、智也は。僕は沼から出た。そうして智也は死んだ。

『なんで智也を!』僕がそう叫ぶと、雄大は逃げた。追う元気もなかった。

『お前があんなことさえしなければ』

『殺さんでくれや。な?殺さんでや』

僕は雄大の首をナイフで切りつけた。空気の抜けるような音が聞こえる。

『言いたいこと、あんね、やん』

しぶとくも雄大はしゃべり続ける。もう一度切りつけた。雄大はあの時と同じ

どこか覚めた目で僕を見た。

『なんで、弟を、殺したん?な、あ?』

更に切りつけた雄大は死んだ。遺体を沼に投げ捨てる。

『なんで、俺の事、警察に通報したんだよー雄大?』

沈んでいく死体にそう話しかけた。

智也が死んだあの日、僕は智也に『沼で遊ぼうか』と声をかけ沼に突き落とした。逃げようと準備をしていると智也の叫び声が聞こえた。底なし沼につき落としたが最後、声をあげる間もなしに沈んでくれる物だとばかり思っていたから

必死に声をあげ、底なし沼から出ようとする智也の姿に驚いた。いや、それより驚いたのは先に帰ったと思っていた雄大が戻ってきていたことだ。雄大に智也を殺すところを見られたかもしれない。僕は沼に飛び込み智也を助けるフリをした。でも、遅かった。

『なんで、智也を(殺すとこを見たのか?これからそれを言いに行くのか?)』

そこまで言う前に雄大は逃げた。そして警察に全てを話した。警察も初めは

『10歳の子供に人が殺せるか』と笑っていたらしい。けど、最近になって再調査を始めた。僕が捕まるのも時間の問題だろう。ずっと、友達だったのになんで

警察に告げ口なんかするんだよ。警察に告げ口したこと、僕にバレないとでも思ってたの?ひどいよ、謝ってもくれないし。だから、僕は雄大に復讐した。裏切りの代償として。


警察が来たらどう誤魔化そう。僕は雄大に罪を着せる方法を全力で考えた。


終わり

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夏の復讐 夏の嘘 @Mura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ