第14話 モテ期到来(ただし男の娘に限る)
あの場に残っていたメンツは、取り敢えずマイクロバスで僕んちのアパートまで来てもらった、バラ組、ユリ組関係なしだ、審判団の方々だって居る。
結構な深手を負っている者もいるので、一階の食堂の広間で休憩や手当をしてもらう事になった。
ハルカさんとミズキ先生には既に連絡してあった事もありすぐに来てくれた。
「ジュン君は頭をかなり強く打ってるわね、アニマヒーリングは施したけど暫くは絶対安静よ!」
ジュンの頭に包帯をグルグル巻きながらハルカは釘を刺す、普段から元気の有り余ってるジュンだけにすぐに動き回ってしまいそうだからだ。
「ワテかて分かってますがな、こんだけ目が回ってたらよう動けやしまへんし…」
流石に元気が無い、今は無理せず治療に専念するべきだろう。
「ほら、あなた達も遠慮しないで治療を受けてくださいな」
ミズキ先生がユリ組の三人に声を掛けるがかなりよそよそしい。
三人と言うのは、チアキ、ヒカル、ユウの事で、ルナは月華団騒動のおり、いつの間にか行方をくらませていた。
「我々はさっきまでそなた等と敵対していたのだぞ!どの面下げて施しを受けられる…」
虚勢を張るヒカル、ボロボロになってもなお騎士らしい振る舞いだ。
そこにミナミとアイが近づいて来て…
「気にする事無いって!オイラだってユリ組出身だけど、ここの人たちは良くしてくれるぜ?」
「昨日の敵は今日の友いいますやん~あ…まだ一日経ってませなんだ~」
場の空気を和ませてくれる。
「じゃあ、ちょっとだけお願いするの~…」
チアキがハルカの前に腰掛ける。
「は~い、じゃあ治療を始めますね」
ハルカスマイルがさく裂し、少しでもヒカルとユウの頑なな心も和んだのではないだろうか。
「これは緊急事態です!月華団の件は統制組織【サクラ組】にも報告しておきます!」
スミレ組の宮野さんはそう言った。
「サクラ組?」
初めて聞く組織の名前…。
「サクラ組は…そうね、ありていに言えばトランスアーツ界の警察よ」
ハルカさんが説明してくれた。
警察!そうか、どの世界にも迷惑を掛ける輩は居るから必要だよな。
月華団の計画は正気の沙汰とは到底思えないので、そんな組織があるなら心強い。
「では、我々はこれにて失礼します!」
宮野さん以下そっくりな二人は深々と一礼して去って行った。
「月華団は何処に潜伏しているかは分からないけど近い内に必ず何かしらの行動に出ると思うんだ。」
新たな敵となるであろう月華団への対策について会議が開かれる事になった、何故かみんなの推薦で僕が仕切る事になってしまった、体はもう男に戻っているのだが、何故か真新しいメイド服に着替えさせられて…
勿論ハルカさん、ミズキ先生、そしてユリ組の面々にも参加してもらった。
「月華団首領の月宮ミヤビは【全人類男の娘化計画】を掲げているが、ここでまずハッキリしておきたいのがミヤビの動機」
僕はカグラの方を見る。
「心当たりはないのか?カグラ…様」
「…………」
暫くの沈黙ののち、カグヤはゆっくりと語りだした。
「皆知って通りミヤビはワシの息子ニャ、小さい時はそれはもう可愛らしい子で、いつもこのゴスロリドレスを着せて公園に遊びに連れて行ったものニャ」
はい?…最初から話がおかしな方向にいってませんか?
今カグラが着てるゴスロリ服が幼少時のミヤビの物で、男の子にそれを着せて遊ばせてたとか…絶対からかわれたり、虐められたりするよね…
その時点でミヤビはカグラの事を恨んでるね…間違いない。
「ただワシはミヤビにトランスアーツを強制する事だけはしなかった、現に成長するにつれ、しっかり男性として成長していったニャ」
え?意外だ。
「しかしミヤビは完璧主義者だったニャ、炊事、洗濯、裁縫、掃除なども卒なくこなし女子力が高かったニャ、顔も見ての通りかなり美しかったニャ」
何だ、今度は息子自慢か…
「そしてミヤビに彼女が出来て同棲を始めた時に悲劇が起きたニャ!女性的な事まで何でも出来てしまうミヤビに彼女はこう言ったそうニャ、【あなたと居ると私は女性としての自信を失うわ】と、程なくして二人は別れてしまったニャ」
「え…」
存外重い話だった、僕はまだ学生で結婚を前提にした異性とのお付き合いの経験があるはずも無いが、こうい事も起り得るのか…恋愛って奥が深い。
「ミヤビはそれはもう悲しんだニャ、こちらが見てられない程に、そして数日後から行方不明になっていた所を、先程数年振りに再開したと言う訳ニャ、しかも自らトランスアーツまで修得して…」
うつむくカグラ、確かに蒸発した息子が女になって戻ってきたらショックだろうな…いやカグラにとっては喜ばしい?訳が分かりません。
「それが女性排除の動機として、もうひとつ気になるのはミヤビのカグラに対する復讐心だ、今の話だけだとそこまで恨まれるとは思えないんだけど…」
ルナ、アルテミスの親子の様に、親であるルナが子のアルテミスの人生を完全に狂わせたのとは訳が違う、と言う事はまだ何か?
すると、カグラはバツが悪そうに、
「二人が別れる前に、ミヤビの彼女に会ったニャ、父親としてこの姿で…」
「それだぁ!どう考えても原因は!」
それはダメだ…彼女さんの気持ちになってみろ!彼氏の父親がこんなゴスロリネコミミロリオヤジだったらどう思う?
「ミヤビはその娘と結婚まで考えていたのだぞ?彼女に別れるのを思いとどまってほしかったのニャ!」
声を荒げるカグラ、その場を沈黙が包む。
こんな成りをしているけどやはり人の親なんだなと実感する。
「…じゃあ次の議題!月華団の【全人類男の娘化計画】だけど、実際どういう物なのか推理したいんだけど…」
やり切れない空気を何とかしたくて話題を振る。
「月華団の中心人物であるミヤビは、某ショッピングセンター前で実際何人かの男性を襲撃、女装の道に引きずり込んでいたって言う噂を聞いた事があるんだ」
全くもって荒唐無稽な話ではある、ただ僕たちトランスアーツに関わった者には現実感がある。
こんな感覚、一生知らなくても良かったんだけど…。
「でも、具体的にミヤビは被害者たちに何をしたのかしら?」
小首を傾げるイツキ。
「その質問には私が答えるわね~」
癒しのハルカスマイルを振りまいてハルカさんが僕のそばに来た。
「これは私の憶測も入ってるんだけど、ミヤビさんは恐らく【アニマスレイブ】を使ったと思の!」
「アニマスレイブ?何ですのん?それ」
ジュンも初耳の様だ、一体それは…
「ありていに言うと洗脳かしら、アニマを用いて相手の精神を操作し隷属
させるの、その際本来は肉体が無意識にセーブしている部分にまで干渉するから性格が狂暴化したり身体能力が上がったりするの、但し肉体にはかなりの無理が掛かる事になるから…勿論人道的に問題があるから【アニマアブソーブ】と同じ様に使用が禁止されているわ」
いつに無く神妙な面持ちのハルカさん。
「もしその技を使っていたとして、全人類を支配するのは気の遠くなる程の時間が掛かるんじゃないのか?」
女騎士ヒカルが言う事はもっともだ、アニマスレイブを一人一人に施していたらどれだけ手間が掛かるだろうか…。
「そこが分からない所なのよ~きっと短期間に効率良く広める方法をミヤビさんは編み出しているのかもしれないわね」
自分の頬を突きながらハルカさんが考え込む、相手が未知の技術を使って来るとなるとかなり厄介だ。
「今判明している事の整理はこの位かな…月華団がいつ、どこで、どんな行動に出るか分からないから、各自情報収集と報告、連絡、相談は密にしてくれ、以上!解散!」
どこか刑事ドラマ内の捜査会議っぽい締めになった、積極的に首を突っ込んでいる訳だから僕も完全にこちら側の人間になってしまった。
ぞろぞろとみんなが食堂を出ていく、僕も立ち去ろうと出口に向かおうとした時、左腕にギュっと誰かがしがみ付いて来た、それはミナミだった。
「ねえダーリン、初めてのデートだけどいつにしよっか」
「えっ…?」
…忘れていた…緊急事態で咄嗟に口走ったとは言え、ミナミとデートの約束をしていたのだった…。
実際、月華団と言う新たな敵が現れた訳だしミナミとデートしている余裕は…。
顔を上気させ目を爛々と輝かせてこちらを見つめるミナミ、ううっ断りづらい…。
「それじゃあ、今度の日曜日にでも…」
「ホント?!やった~!今から楽しみだな~」
頬に手を当て、顔を真っ赤にして照れっ照れで喜ぶミナミ、かっ…可愛い…。はっ!…待て待て!相手は男だぞ!しっかりしろ僕!
ミナミは上機嫌で部屋へと戻って行った。
う~ん、どうしよう…デートの経験なんて僕には一度も無いのに、勿論女の子相手の話、ましてや男の娘となんて…あ、むしろ男同士だから友達感覚でいいのか?
考えていても仕方がない、僕も部屋へ帰ろう。
体中ガタガタだ早くこのメイド服を脱いで風呂に入りたい。
我が家であるアパートの風呂は共用で、一度に四、五人湯船に浸かれる位の広さがある。
先客が居る様だが、今の時間は入り口に【殿方】の暖簾が掛かっているので僕が入って問題ない。
ガラッ
「「あ!」」
引き戸を開けると、洗い場の椅子に腰かけているイツキと目が合った。
視線が下の方に移る、胸には二つの膨らみが…!
「きゃあああああああああああ!!!!!」
風呂桶や石鹸、椅子にシャンプーのボトルなど色んな物が僕目がけて飛んで来る!
「イテテ!おいやめろ!何で女体化したまま風呂に入ってるんだよイツキ!」
イツキはすぐさま湯船に飛び込み、僕に背を向ける。
「だって!まさかアキラと鉢合わせするなんて思ってなかったんだもん!!」
顔と耳を真っ赤にしてイツキが声を荒げる。
「今だけ男に戻ってくれないか?僕も風呂に入りたい」
「…このままでもいいよ…」
背を向けたまま、ぼそりとイツキがつぶやく、
「え?」
「…このまま…入って来てもいいって言った…」
ドキッとする僕、
「おいおい!それはまずくないか?その…わっ!」
イツキは振る向きざまに僕の腕を引っ張ると、湯船に引きずり込んだのだ!
「わぷっ!ちょっ!お湯が鼻や口に入った!」
突然の出来事に僕は溺れそうになり、ジタバタと湯船の中でもがいてしまった。
お湯から顔を出した次の瞬間、顔に柔らかいが弾力のある物が押し付けられる、これはオッパイ?!
「待て待て!イツキ!」
しかしイツキは僕をガッチリ抱きしめたまま離そうとしない。
このままではまずい!それこそ次に誰かが風呂場に入って来てこの状況を見られたら…。
そうだ!精神統一精神統一!ほどなくして僕の体は淡い光に包まれ女性になる。
これなら女の子同士がじゃれあっている様に見える…訳ないか…。
「ごめん…ごめんね…変な事に巻き込んじゃって!私がトランスアーツなんて始めなければアキラが男の娘になる事も無かったのに…」
全くだ、イツキがセーラー服で僕の前にカグヤを連れて現れて、学校が女装OKになったり、
ミナミやジュン&アイが勝負を挑んで来たり、男の娘だらけの格闘大会団体戦があったりと、
この数日で日常からかけ離れたジェンダーフリーのカオス展開が目白押しだった。
嫌な事、辛い事もあったけど、楽しい事や得難い経験も沢山あった。
「もういいよ…ここまで巻き込まれたんだ、最後まで付き合うよ」
人生成るようにしか成らないなら、このまま突き進むしかないじゃないか!
「ありがとうアキラ~!」
更にガバッと抱き着いて来るイツキ、お互いの胸の膨らみがその弾力で押し合う。
未知の感覚!こっこれは…!いけない!新しい扉が開いてしまう!
「わっ…分かった分かった!」
何とかイツキを引き剥がす事に成功し息を整える。
危ない危ない!あの感覚を味わい続けたら戻って来られなくなる所だった…。
「僕はもう上がるわ!じゃっ…またなイツキ!」
僕は出来得る限り大急ぎで湯船から飛び出し、服を着て風呂場から退散した。
ふう…折角風呂に入ったのに逆に大汗をかく羽目になるとは…慌てていたせいでメイド服のまま戻って来てしまった。
僕の住まいである管理人室の扉を開けようとした時
「アキラはん…ちょっとええやろか?」
スッとアイが現れた、しかし少し様子がおかしい。
今にも泣き出しそうにうつむいた顔、一体どうしたのだろうか?
「さっきの団体戦…ウチ何の力にも成れへんかった…堪忍…堪忍や~、
これからの戦いもきっとお荷物になってまう~」
大粒の涙をポロポロと落とし、遂に泣き出してしまった。
「確かにジュン&アイは二人とも団体戦で負けてしまった、しかし白組の策略で他に選手が居ない中で強敵相手に戦ってくれたじゃないか、お荷物なんて思ってないよ」
「ウチだけまだトランスセクシャル化出来ないし、このままじゃ足手まといや~!」
お~い!どうしたら泣き止むんだ。
そこで特に意識せずアイの頭を撫でてしまった!童顔で体操着&ブルマーの見た目のせいか庇護欲が駆り立てられたのかもしれない。
「うああああん!やっぱりアキラはんはええお人や~!」
撫でられたのが余程嬉しかったのか更に止めどなく溢れ出る涙、
「まっまあ…終わった事は仕方がない、次頑張ればいいじゃないか?」
急だったのであまり気の利いた台詞が出て来ない。
「うん…ぐすっ…明日から気張りまず…」
涙声で決意するアイ。
「ウチ、アキラはんにやったら抱かれてもええよ」
顔を真っ赤にしてそう言うと、アイは猛スピードで駆け出して行った。
今、さらっととんでもない事を言い残して行きやがった…
やっと家の中に入って一息吐こうと思ったら、
「よっ!待っとったで~アキラはん!」
玄関でジュンが正座して待っていた。
頭のグルグル巻きの包帯が痛々しい。
「アイの事、慰めてくれておおきにな!何や、てまえの事の様に嬉しいわ!」
ペコリとお辞儀をするジュン。
「いや、大したこと言ってないし…」
ここで聞いてたのか、何で一緒に居なかったのだろう…
「今日は戦力になれなくて堪忍!ワテら明日からカグヤ様に稽古をつけてもらう事になってますのや、必ず強おなってみせるさかい見ていてな!」
「ああ…分かったよ、頑張ってくれ」
それだけを言う為だけに僕の家に居たのだろうか?何か嫌な予感がする…
「にしてもアキラはんはエライお人でおますな~」
おもむろに立ち上がり僕の右腕に纏わりついて来るジュン、心なしか顔が上気している様な…。
「アキラはんはトランスアーツを始めたのは今日ですのやろ?」
「ああ、そうだけど」
「それでトランスセクシャル化でけて、おまけに試合にまで勝ってまうなんてかなわんな~」
グイグイと僕の腕に胸を押し付けて来るジュン。
「おい…胸が当たってる当たってる!」
「あたりまえやろ~?当ててんやさかい~ワテ、あんさんのたたこうてる姿に惚れたんや~付きおうてや~」
「わ~!!何でこうなるんだ~?!堪忍して~」
自分の部屋に入るなり僕はベッドに突っ伏した、もう着替えるのも面倒くさい。
「おかえりなさいなの~!」
「うわぁ!!」
布団の中に誰かいる!慌てて布団をはぐるとそこにはチアキがいた。
「お前!何で僕のベッドに居るんだ?」
「このアパートにお世話になったらアキラ君に夜這いを掛けるのが習わしだってジュンに聞いたの~」
はははは!ジュンあとで屋上な?
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