第6話 ヤレばデキる!!


「ほな行くで~!」


 両腕を広げイツキに向かって突進するジャージスパッツのジュン、あんなので大丈夫なのか?

 あれじゃ攻撃してくださいと言わんばかりだ。

 イツキはしっかりと迎撃態勢を取る。


「アイ!」

「はいな!」


 合図と同時にジュンの背後から馬跳びの要領で肩に手を付きブルマーアイが飛び越えて来る。


「よ~し!もろた~!」


 アイがそのまま両腕の手刀でチョップを敢行!このままではイツキの頭部にヒットしてしまう!


「ちょっとごめんなさい!イツキ君!」


 ミズキ先生がイツキの背中を蹴って前に吹き飛ばす!その勢いを利用してイツキはジュンに向かって拳を繰り出す!

 イツキの代わりにアイの落下点に入ったミズキ先生はその場で高角度のハイキックを放つ!

 イツキの拳はジュンにガードされてしまったが、ミズキ先生のキックは見事にアイの腹部を捉えた!


「アイ!!」


 吹っ飛んでいくアイをジュンが追いかけ受け止めるが勢い余ってもろ共に地面に叩き付けられる。


「グハッ!」


 ジュンがクッションになってアイのダメージは最小限に抑えられたがジュンは思いっきり背中を強打した様だ、辛そうに起き上がるジュン。


「何をしているの!?さっさと反撃なさい!」


 ウサミミルナは語尾を付けるのも忘れ激怒している。


「ジュン~大丈夫か~?」


「こんなんかすり傷や!まだまだイケるで!」


 まだ二人は戦意を喪失していない様だ。


「なあカグラ…様、何故イツキとミズキ先生は初めて見る相手の連携攻撃に何の打ち合わせ無しで対応出来たんだ?」


「それはミズキの才能だニャ!ミズキの観察能力は我がバラ組の中でも群を抜いておる、相手と味方の一挙手一投足を瞬時に見極め、尚且つどんな味方にも呼吸を合わせることが出来るニャ!」


「それにイツキの稽古の相手をミズキが務めていた事もあるニャ」


 なるほど!流石ミズキ先生だぜ!

 ジュン&アイ、今度はお互いの両腕を掴んでグルグルと回り始めた。

 ある程度速度が乗った所でジュンが地面から足を離して伸ばし、遠心力で宙に浮いている。

 アイがジュンをブンブン振り回しているのだ。


「「喰らいなはれ!ツインズハリケーン!!!」」


 程なくしてアイを中心に竜巻が起き、周りの砂埃や色々な物を巻き上げるせいで前が見えない!


「くっ!」


 イツキとミズキ先生は目を守る様に腕で顔を覆い隠す。


「マズイぞ!いくらミズキ先生でもこのままでは相手の次の手が見極められない!」


そこに突然、竜巻を突き破って何かが勢いよく飛び出してくる!

ジュンだ!恐らく回転途中にアイと手を離したのだろう、ドロップキックの体制で弾丸の様に飛んでくる!狙いは…イツキだ!あのスピードでは避けられない!!


「危ない!イツキ君!!」


 先生がイツキを突き飛ばすが、代わりにミズキ先生がジュンの弾丸ドロップキックをまともに喰らってしまった。


「きゃあああああああ!!!!!」


 吹っ飛ぶミズキ先生!二人はもつれ絡み合ったまま転げ回りそのまま両者は動かなくなった。


「ミズキ先生!!!」


 イツキが叫ぶ!ミズキ先生は仰向けに倒れていてその上に覆い被さる様にジュンが倒れている。

 だがまだ先生はわずかに動けたのだ、震える手でジュンの頭のカチューシャを掴み、やっとの事でそれを引き抜く。


「イツキ君…後はお願い…」


 そう言うとミズキ先生は気を失った。


「もう一人は?どこだ?」


 イツキは辺りを見回す。

 さっきまで竜巻があった方向にアイはまだ立っていた、ただ何か様子がおかしい。

 フラフラと上半身を振りながら辛うじて立っている状態だ、恐らくは先程のツインズハリケーンと言う技の回転で目を回したのでは無いだろうか?ちょっと滑稽だ。


「今だ!」


 イツキはアイの居る所まで猛ダッシュを開始!走りながらアニマを発動!見る見る膨らむ胸!女性化する体!右の拳にアニマが集束して青白く発光する!


「喰らえ必殺!アニマストライク!」


 イツキが光る拳を前に思い切り突き出す!すると青白い光が拳から勢いよく放たれ光弾となって飛んでゆく!これはイツキが憧れた格ゲーのキャラクターの技そのものじゃないか!

 まだアイの立っている所までは数メートルは離れていたのだが見事に光弾がヒット!


「ひゃあ~!堪忍な~ジュン~」


 アイは力尽き倒れた。


「ごめんね、フラフラだったあなたに手加減できなくて…先生が私を庇って倒れた事で頭の中が真っ白になっちゃって…」


 悲しそうにそう言いアイの頭から白いカチューシャを外すイツキ。


「勝負あったニャ!」


 いつになく真面目な表情でそう宣言すると、カグラは急いでミズキ先生のもとへと駆け出す。


「大丈夫かニャ?今医務室まで運ぶニャ!ほれアキラも手伝えニャ!」


「今行くよ!」


 僕もそちらへ行こうとすると、物凄い轟音がしたので振り向いた。

 あのいけ好かないウサミミルナがあろう事かN高校の外壁に拳を突き立て破壊していたのだ。


「キーッ!何であのカグラ率いるバラ組に勝てないんですの?」


「八つ当たりなら他所でやれよ!ユリ組が負け続けるのはトップであるあんたに原因があるんじゃないのか?」


「なっ…なっ…何ですって~?」


 どす黒いオーラの様な物がルナの体から発せられる。僕の体中に鳥肌が立ち体が硬直する!

 しまった見た目が近いからってカグラをからかう感覚で話してしまった。ヤバい相手を怒らせた!?


「まずいニャ!」


 カグラがすっ飛んで来て僕とルナの間に割って入る。


「ルナ!公共物を破壊したり、一般人に殺気を放ったり、どういうつもりニャ!いつもよりやり過ぎじゃニャいか?」


「アキラ!お前もお前ニャ!挑発も程々にしろニャ!相手は見た目は幼女ニャけどその気になればお前の命なぞ一瞬で奪えるのニャぞ!」


「ごめん…カグラ…様」


 ぐうの音もでない、これは明らかに調子に乗った僕が悪い…

しかし次に辺りを見回した時にはルナの姿はどこにもなかった。


 取り敢えずミズキ先生とジュン&アイの三人を校内の医務室のベッドに運び横たえた。


「運んだのは良いけど傷の手当てはどうしようか、僕の母さんに来てもらう?」


「それには及ばないニャ、ワシの弟子の看護師を一人呼んだから間もなく来るニャろ」


 あのネコミミスマホ片手にカグラがそう言った。

 今度は男の娘看護師ですか…何でもござれだな。


 ドドドドド!!!!!


 何の音だ?徐々に振動と轟音が近づいて来る!


「カグラ様お待たせしました!…きゃぁ!?」


 医務室に入って来るなり盛大にスッ転ぶ人影。


「いった~い!どうして何も無い所で転ぶかな私ったら…」


 床に転がりセルフ突っ込みをしている人物はスタイルの良いボディラインをミニスカートのナース服に包み、今は絶滅したナースキャップを頭に付けていた。

 髪はフワッとしたセミロングで軽くシャギーが掛かっている。胸も大きい方だが これもトランスアーツに依る物だろう…まったくもってけしからん!


「少し落ち着くニャ、ハルカ!落ち着きが無いのがお前の悪い所だニャ」


「スミマセン師匠~!」


 床にへたり込んでいるハルカさんの頭をカグラがポンポンと叩く。


「あっと…こうしてはいられませんね!患者さんの容態は?」


 勢いよく立ち上がるハルカさん。


「まあ!ミズキ!あなたがこんなに手傷を負ってしまうなんて!」


 そう言うが早いか手際よくミズキ先生の服を脱がしに掛かるハルカさん。

黒いレースのブラジャーに包まれた双丘が露わになり、僕の視界に入ってしまった!僕は慌てて顔を背ける。

 はっ!ミズキ先生は男なんだから別にいいのか?いやいや…そんな訳にはいかない。


「ぎゃっ?」


 いきなり尻をつねられ悶絶する僕。


「デレデレすんな!」


 つねったのはイツキか?


「何すんだよ痛いじゃないか!」


「アキラがミズキ先生の胸を見て鼻の下を伸ばしてるのが悪いんだよ!」


「そっ…そんな訳あるか~!」


 とても男しか居ない室内の会話とは思えん!

 僕とイツキが揉めている僅かな間にハルカさんは包帯を巻き終えていた…早い!


「次はそっちのジャージの子ね!」


 素早くジュンのベッドへ移動!


「この子は背中の擦過傷が酷いわね…これはアニマの充填が必要よ!」


 ジュンの上半身を全部脱がせ上体だけ起こさせる、こちらの胸はぺったんこ、男のままだ、少しホッとする。

 そしてハルカさんはジュンの背中に向け両腕をまっすぐ伸ばし掌を広げ、背中からわずかに離れた辺りにかざす。

 ハルカさんが目を瞑り集中しだすと掌からポゥっと光が発せられる、とても柔らかな優しい光。

 するとジュンの体に変化が起こった!背中の傷が見る見る塞がっていく!

 変化はそれだけではなく胸もムクムクと膨らみ始めたのだ!

 ちょっと!突然やめてくれよ!僕の心の準備が…


「ブルマーの子は強烈なアニマを瞬間的に浴びて気絶しただけの様だから、このまま安静にしていれば回復するでしょう」


 凄いな…まるでさっきの試合を見ていたかの様な見立てだ、手当の手際の良さと聡明さ、女装してるけどこの人は尊敬に値するかも…


「これで応急処置は終了…きゃあ!?」


 ズデーン!

 またしても何も無い所で転んだ…

 しかもM字開脚状態でパンツとガーターベルトが丸見えだ!


「前言撤回…」


 僕は目を背けながらそう思った。


「私は町立N病院で看護師をしている篠宮ハルカよ、よろしくねアキラ君」


 僕はハルカさんと自己紹介を済ませた後いくつかの疑問を投げかけてみた。


「さっきハルカさんはアニマでジュンの傷を治していましたよね?」


「そうよ」


「イツキがアイをアニマを使った光弾で倒したのを見ました、一体アニマとは何なんです?」


「そうね…アニマは女子力とも呼ばれてるのは知ってる?」


「はい昨日カグラ…様から聞きました」


「そう、女性が女性らしく在ろうとする力、優しさ、美しさ、愛情、まだあるでしょうね、だからそういう感情で使うと癒しの効果があるの…ただし男性が発動させると体も心も女性化してしまうけどね」


 くすっと微笑むハルカさん。


「ただアニマは純粋な生命エネルギーの側面も持っているの、だから力や強さを求める心、恐怖心、憎悪、殺意などの負の感情で使うと相手を傷つけてしまうと言う訳ね」


「なるほど!そう言う事でしたか!」


 これでアニマは二面性のある力であることが分かった。


「じゃあもう一つだけ宜しいですか?」


 人差し指を一本だけ立てて質問してみた、刑事ドラマみたいで一度やってみたかったんだ。


「はいどうぞ」


 ニコニコして質問を待つハルカさん。


「トランスアーツ修得者の中には家の母さんやミズキ先生、カグラ…様にハルカさんみたいに

常に体が女性のままの人とイツキやミナミ、ジュンとアイみたいなアニマ発動時にしか女性化しない人が居るのは何故ですか?」


「うんうん、それは当然の疑問ね、私達みたいにトランスアーツに熟練してくると少ないアニマの消費で体の女性化を維持出来る様になるの、だから常時女性として生活している人もいる、イツキ君達の若い子はまだアニマの制御がままならないから試合等のアニマ発動中にしか女性化しないって訳、分かっていただけたかしら?」


 常に笑顔を絶やさないハルカさん。美しいな…


「もう質問は終わったんだろ?じゃあもういいだろ?」


「いででで!待て待て!耳がちぎれる!」


 イツキは僕の耳をグイグイ引っ張りハルカさんから引き離そうとする。


「あっと!最後に私からも一つだけ…」


 僕の真似をして人差し指を立て…


「トランスアーツで女性化したコもデキちゃうから気を付けてね」


 さっきまでと違い小悪魔的な笑みを浮かべるハルカさん。


 ぶふぉっ?


「頑張って女性化を維持出来る様になってねイツキちゃん」


「なっなっなっ何て事教えてくれてんですか~?」


 動揺しまくるイツキ。


 多分今の僕は白目を向いていると思う…

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