第7話 感動で胸がオッパイです
「うおっ!!何じゃこりゃ~!?ワテの胸にオッパイが付いとる!?」
「 目を覚ましたジュンが開口一番!騒ぎ出した。
「おぉ~ええな~ジュン~ウチもオッパイ欲しいわ~」
少し前に目覚めていたアイが羨望の眼差しでジュンの胸を見ている。
「あら、お目覚めねお二人さん、よく眠れた?その胸は時間が経ったら元に戻るから心配しないでね」
ハルカさんは相変わらずのハルカスマイルで話しかける。
「ワテら…負けたんやな…」
医務室の状況を見て悟ったようだ、ジュンはうなだれる。
「お前ら…これからどうするんだ?」
イツキが二人に声を掛ける、誰もが思っていることだ。
先に負けたミナミがルナにボロ雑巾の様に捨てられたのを見ているだけに、この二人の動向も気になるところだ。
「ユリ組に負けは許されへん…敗者に帰る場所なんてありゃせんのや!!」
半ば自暴自棄にジュンが言葉を吐き捨てる。
まさかこのパターンは…嫌な予感しかしない…。
「そう言う事ならこのアキラの母親が経営しているアパートに来るといいニャ」
やっぱり~!!
「何勝手に決めてんだよ!」
カグラの胸ぐらを掴み上げる、ロリ体系で軽いから簡単にプラプラと宙に持ち上がる。
「勝手ではないニャ!!もうシノブの許可は取ってあるニャ!!」
母さ~ん!!お人好しにも限度があるぞ~!!
「よし!!ミナミも含めてみんなまとめてバラ組に移籍ニャ!!ワシが面倒見るニャ!!」
あの~どちらかと言うと僕の家が面倒を見てるんですが……
「もう日が落ちて暗くなって来ました、いつまでも学校の医務室を使っている訳にもいきません、そろそろ下校時間ですし今日の所は撤収しませんか?」
ミズキ先生だ。
先生もつい今しがた目覚めたようでハルカさんが肩を貸して起き上がらせている。
「ごめんなさいねミズキ、女性化固定しているあなたにはアニマヒーリングは使えないから…」
「分かってるわハルカ、一度に多量のアニマ注入は体に良くないって事位はね…」
先生の足はまだおぼつかない様だ。
「では私はミズキを家に送ってから帰りますので、後はよろしくねアキラ君」
パチッとウインクをしてくるハルカさん、あまり男の純情を弄ばないで頂きたい。
ナース&女教師コンビとN高校門前で別れ、僕とイツキとカグラ、そしてジュン&アイ、結構な大所帯で僕んちのアパートの前まで来た。
イツキとカグラは早々に自分たちの部屋に入っていった、特にイツキは相当疲れた事だろう…
まずはジュン&アイを部屋に案内しよう。
「取り敢えずお前たち二人は二階のこの部屋に住んでくれ、風呂とトイレは共用、朝食と夕食は一階に食堂があるからそこで食ってくれ、分からない事や要望が有れば管理人の俺んちまで来てくれよな」
簡単に説明を済ませる僕、母さんが昔から居住者に説明していたのを見ていたからこれくらいはお手の物だ。
「恩に着るで!!あんさん!!」
「おおきに~」
二人は深々と頭を下げる。
「この御恩は必ず返しますさかい!!ホンマおおきに!!」
中々に義理堅い、無礼な奴らだと思い込んでいたが根はいい奴らなのかも知れない、これは認識を改めねばならないな…
「いいさ、このパターンには慣れたよ…」
おっとそうだ!実はさっきのタッグ戦をを見ていて気になっていた事があったんだ、丁度いい、今ここで二人に聞いておこう。
「なあ、さっきの試合だけどさ…」
「何でっしゃろ?」
「あの竜巻を起こした大技だけど…あれ、次からは相手が二人とも残ってる時には使わない方がいいぜ?」
「何やて?!」
自分たちの必殺技を馬鹿にされたと思ったのかジュンが声を荒げる。
「まあ聞いてくれ!さっきの試合もミズキ先生だけは倒せたけど残ったイツキに反撃されて負けたろ?もし二人とも避けたらどうなると思う?いや仮に相手が一人でも避けられたら一緒だな」
ガーン!!
二 二人の頭上でヒビだらけの効果音の書き文字がガラガラ崩れていくのが見えた気がした…二人ともプルプル震えている…ちょっと可愛そうな事をしたかな?
「こんな短時間でワテらの弱点に気付いた上にアドバイスまでしてくれるとは何て優しいお人なんや!!」
「一生付いて行きます~!!」
と言うとガバッと僕にしがみ付いて来た!
あの震えは感激してたからかい!!
今日一日だけでいろんな事があった、何もかもアブノーマルな出来事だ。
ぶっちゃけ一生知らない方が良かった事もあったが、今は一杯一杯で心の整理が追い付かない。
今日の出来事は多分人に話しても信じてもらえないだろう。
本当に疲れた…もう寝てしまおう…
「う~ん…」
冬だと言うのに何だか暑苦しくて目が覚める、時計はまだ午前一時をちょっと過ぎた位か…。
真横に伸ばした右腕が妙に重い……?いや!僕の右腕に何か乗ってる!!
左手で布団をはぐり電気を付けるとそこには僕の右腕を枕に寝ているミナミの姿が!
すぅすぅと気持ち良さそうに寝息を立てている。
ナゼコンナコトニ?冬なのにダラダラと悪い汗を大量にかく。
「んあ~?もう朝~?」
寝ぼけまなこを擦りながら大きく欠伸をするミナミ。
「もう朝~?じゃない!!何でお前が僕の布団の中に潜り込んでいるんだよ?!」
「アキラだったっけお前の名前?昨日の試合の事で少しお前に興味が沸いてさ、オイラをお姫様抱っこでここまで運んでくれたんだって?シノブママに聞いたよ…ありがとうな…」
「どういたしまして…って!!違ーう!!」
未だ腕枕状態のまま、とろーんとした瞳で僕を見つめるミナミ。
腕を抜こうにもガッチリホールドされている、小柄なのに何て力だ!!
「まあ聞けよ、オイラを負かしたあいつ…イツキって言ったか、あいつがアニマを発動するきっかけは、お前に声を掛けられたからだと俺は思う訳さ」
確かに言われてみればそんな気がしないでもない、でもこの男の娘とのピロートーク状態何とかならんか…。
「お前たちあれなんだろ?付き合ってるんだろ?」
「はあ?…ななな…何を言いだすんだよ!!」
僕とイツキは男同士だぞ…そんな訳あるか!!。
「オイラも彼氏が出来たらきっと強くなれると思うんだ!アニマ発動でトランスセクシャル化(女性化)だって出来る!だからアキラ!お前オイラの彼氏になってくれ!」
唇を突き出して僕ににじり寄って来るミナミ。
「やめろおおおおおおお!!!ふざけるな僕はノーマルなんだー!」
体を揺さぶって何とか脱出を試みるが今度は両足が重たい事に気付く、まさか!
唯一自由の利く左手で完全に布団をはぐるとそこには右足にはジュン、左足にはアイが抱き付いていた!
「お前たちまで何なんだ?!」
「決まってるやろ!行く当てのないワテらをひらってくれた恩を返さな思てな、夜這いに来たんや!」
「ウチもです~一宿一飯の恩をないがしろにするほどウチら薄情やおまへん~」
「まだワテ、まだオッパイ残ってますのやで!ほれ!気持ちええやろ!ええんか?ここがええのんか?…おお?ワテも何だかけったいな気分や!」
体を上下にスライドして小振りな胸の膨らみを擦り付けて来るジュン。
「わああああああ!!!」
このままではこの男の娘達に貞操を散らされてしまう…
「うるさーい!!!今何時だと思ってんだ!!!」
バーン!!!
ドアを思い切り蹴とばしてイツキが僕の部屋に飛び込んで来た、そして今ベッドの上で起きている状況を見て固まる…僕らも固まる、そして部屋の空気が完全に固まった。
「不潔…」
ごみ溜めかドブを見る様な嫌悪感を持った目ツキで僕らを見降ろし、ぼそりとイツキがつぶやく。
「どうした?続けろよ…」
本当に体に突き刺さるんじゃないのかと言うくらい鋭い視線を浴びせられ、ミナミ、ジュン、アイは服装を整え、おもむろに床に正座で整列。
「「「ごめんなさい!!!」」」
そして一斉に土下座!連続で土下座!とにかく土下座!
イツキの視線がギロリと僕の方を捉えた!
「僕は悪くない!悪くないんだ!」
まるで彼女の外出中に女連れ込んで浮気してたのを、予定外に早く帰って来た彼女に見つかった彼氏みたいじゃないか?
だがこのままではこの場は収まりそうにない、不本意だが僕も三人の横に正座し
「ごめんなさい」
土下座した。
この土下座は翌朝、日が明けるまで続き、イツキはややしばらく僕と口を利いてくれなかった。
「あ~眠い~」
あの朝まで土下座大会のおかげで酷い寝不足だ!
今日が土曜日で助かったよ…
食堂に入ると、テーブルに突っ伏しているミナミ、ジュン、アイの姿があった、三人ともグロッキーだ。
おまえら~!今朝の怒りがぶり返しそうになったが面倒くさくなり声を掛けなかった。
食堂の奥にはテレビが置いてあるカーペット敷きのごろ寝スペースがあるので
そこに転がりテレビを付けた。
「昨日、北海道N町の大型商業施設の駐車場付近で暴行事件が発生しました」
あれ?この建物って大型スーパーのノースヒルズじゃないか?N高校からも割と近い。
「N町では以前も同様の暴行事件が複数回起きており、警察は今回の事件も関連が無いか捜査中です」
そう言えば以前学校で噂を聞いたことがある。
夜のノースヒルズ近辺に漆黒のウエディングドレスを着た女の変質者が出て人を襲うとかなんとか…
決まって被害者は顔が中性的でスレンダーな細身の男性ばかり…
その後、被害者の男性たちは決まって女装趣味に目覚めたり、オネエになったりしているらしい、本当かね…。
何だか急に僕の周りはその手の話ばかりになったな…。
急激に強烈な睡魔に襲われて、僕はそのまま眠りに落ちた。
そして次の日、今日は日曜日だ。
「せっかくバラ組に新しい仲間が増えたんニャ、親睦を兼ねて山で修行ニャ!」
何を言うかと思えば…この寒空に山で修行?誰がそんな…
「それはいい考えですねカグラ様!早速行きましょう!」
と、イツキ。
「ぜひ稽古をつけてくださいカグラ様、オイラは一日も早く女性化してみたいんです!」
ミナミもやる気満々だ。
「ワテもあの胸の感触が忘れられん!ワイも極めてみたいわ!」
「ジュンだけトランスセクシャル体験したなんてズルいわ~うちも女性化したい~」
ジュン&アイも?
みんな根っこは格闘家、修行大好きなのね…
「あ~行ってらっしゃい!僕は家でゲームでもしてるから…」
「何言ってるんだ!お前も来るの!」
イツキに襟首を掴まれ引きずられる僕、前にもなかったか?このパターン!
「あら~みんなでお出かけ~?後で母さんお弁当届けるわね~」
母、のん気だね…
N町は例年に比べて降雪量が異常に少ない。
前年、そのまた前年は凄い大雪だったのに…。
まあ雪が少ないのに越したことはないけどね。
そもそもN町近辺に修行の為に籠れる様な山など存在しない。
結局、飛行場等がある郊外の道営公園【夢の林公園】で修行とあいなりました。
ただメンツがセーラー服、ブレザー、体操着+ブルマー、ジャージ+スパッツ、
ネコミミゴスロリ幼女とかなり濃い。
幸いみんな女の子に見えるのでまだ良いが、なるべく一緒に歩きたくない。
しかし公園に着いて驚いた!
今日は何かのイベントらしく、公園のそこかしこにアニメやゲームのキャラクターのコスチュームに身を包んだ男女がいた。
これならそんなに目立たないか?
だがその考えは甘かった。
「可愛いですね!それ何のコスプレですか?」
「スミマセン!写真撮らせてもらえませんか?」
何このデジャブ!
集まって来たギャラリーを振り切って、僕らは公園の少し奥にある広場まで移動した。
ここまで来れば人気は無い。
はずだったが…そこには五人の人影があった!
「やはり現れたアルね!バラ組の!」
艶のある黒髪を頭の左右でお団子にまとめ、
真っ赤なスパンコールに金の刺繍で縁取られたチャイナドレス、
いかにも女拳法家といったスタイルの女が話しかけて来た。
「拙者の情報は正しかったでござろう?今日の彼奴等の行動は監視していたでござる」
異様に長いポニーテール、額に鉢巻きをし、紺色でミニのくのいち装束の女。
絶対領域を作り出すオーバーニーソックスに足先は草鞋だ。
腕組みをし、斜に構えている。
「何でもいいの!みーんなやっつけてカチューシャ奪っちゃうの!」
長めのツインテールの女の子、その先端には大きなボンボリを付け、カラフルなサンバイザーを被り、
ピンクを主体とした色とりどりのチアガールコスチュームに身を包み両手にはポンポンを持っている。
「ここで一気に我らが巻き返す」
美しい金髪を三つ編みにし先端をリボンで留め、
裾の長い青紫のドレス、胸や腰に鎧状の防具を付けている女。
腕にもガントレットを装着し左の腰に鞘に納まった剣がぶら下がっている、
さながら女騎士と言った佇まいだ。
「うふふふふ!ここで私たちが勝利してこんな抗争終わらせてあげるわ!」
銀髪でショートボブの女、何とコスチュームは赤いビキニの水着!
一応サンダルは履いている。
でもそんな軽装で寒くないのか?
「お前たちユリ組だな、わざわざ俺たちを先回りしていた様だが、何のつもりだ?」
イツキが五人組に問う。
「私達が出会ってしまったらやる事はひとつでしょう?」
やっぱりトランスアーツの関係者…って事はみんな男!!
この集団のリーダーらしい銀髪赤ビキニがニィっと口角を上げる、妖艶だが不気味さも感じる。
「でも、ただ戦っても面白くないでしょう?だから面白い提案を持ってきたのよ」
「面白い提案?」
「そう、ユリ組から五人、バラ組から五人の代表者を出して五対五の団体戦をするの」
「ルールは柔道や空手の団体戦と同じ先鋒、次鋒、中堅、副将、大将と五回戦って、先に三勝挙げた方の・勝・ち」
「それで勝ったチームがカチューシャ五個を総取り出来る、悪くないでしょう?」
確かに悪くない、仮に三勝二敗の総力戦で勝ったとして二敗分のカチューシャは取られず余計に二個手に入る訳だ。
逆に負けると相当な痛手となる。
ただ紅組は都合三個カチューシャを手に入れている。
もしこの団体戦に負けても三対五と、逆転されても十点先取のルールがある限り巻き返しは可能だ。
イツキはカグラと何度か言葉を交わし
「分かった、その申し出を受けるよ!!」
「あら良かった、助かるわ~この団体戦が私たちの勝利で幕を下ろせば、この大会は自動的にユリ組勝利で終了するのよ」
「何?どういうことだ!!」
まだユリ組は五点どころか一点も取ってないはずだ!
スチャっと赤カチューシャを懐から取り出して見せる女騎士風の人物、数は五個!!!
「我ら五人が今日だけで手に入れた物だ」
「そうなの~手分けして一人一個手に入れたの~」
チアがポンポンを振り回しクルクル踊る。
「バラ組のレギュラーとか言ってたが大したことなかったアル」
お団子チャイナ腕組みをして鼻を鳴らす。
「ニンニン!」
印の様な物を結び忍者特有の口癖を言うくのいち。
今ボケました、誰か突っ込んでください…
「こちらはこの五人がお相手するわ、そちらの代表者は?」
銀髪赤ビキニがドヤ顔で勝ち誇る。
「やられたニャ…バラ組の主要メンバーと連絡が取れないニャ…」
ネコミミスマホを握りしめカグラが俯く。
マジか…?
「それじゃあこちらの代表者五人は…」
珍しく弱気なイツキ。
こちらの戦力は僕の知っている限りで言えば、元からのバラ組はイツキ、ミズキ先生、ハルカさん。
だけどミズキ先生は傷が完治していないらしく昨日は学校を欠勤している。
ハルカさんは回復役で戦闘要員ではない。
そうなると…
「セーラー、ブレザー、スパッツ、ブルマー、あと一人はどうするんだ?カグラ…様」
「「「「そう言う呼び方するな!!」」」」
四人から同時にツッコミが入る。
しばし無言のカグラであったが意を決して
「ワシに考えがあるニャ!取り敢えず四人で戦うニャ!」
こうして四対五のハンディキャップ団体戦が幕を開けたのだった。
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