第4話 ラノベじゃない!ラノベじゃない!ホントの事さ


「遂に始まったにゃ!」


 いつの間にか僕のすぐ後ろの塀にゴスロリネコミミオヤジのカグラが腰掛けていた。

 本当に猫みたいだな、気配を殺して行動するなよ実に心臓に悪い。

 しかしまるでラノベかアニメの様な展開だな、セーラー服と女子用ブレザーで女装した男の娘がストリートファイトなど常軌を逸している…


「アキラよ、お前さんトランスアーツの事を知りたいのニャ?」


「それはそうだろう!親友や母親があんなになってしまったのはそのトランスなんたらが原因なんだから」


「そうか、じゃあこの二人の試合を見ておくニャ!展開ごとにワシが解説を入れてやるニャ」


「ハイハイ、分かったよ…」


 ふう…もう何が起ころうがそうそう驚いてたまるか!僕は肩をすくめ目の前の二人の戦いを見守る事にした。


 凄まじい速さの拳撃と蹴りを繰り出す二人、正直格闘技素人の僕には付いて行けてないが見た限り互角の様な気がする。


「この勝負、イツキが不利にゃ」


「え?」


「あのミナミと言うヤツ、自分がスピードファイターである事を口上の時にバラしていたニャ、

ならば同じスピードファイターであるイツキとは基本的な部分は同じだが

ミナミの方が小柄で的が小さい上に小回りが利き、より懐に入り込みやすい、

更にウエイトの軽さ故スタミナの消費が少ない、長期戦は避けるべきニャ」


 何と!このオヤジただの変態では無かったのか…解説がもっともらしい。


「失礼ニャ!」


 だがネコミミオヤジの言う通り試合が動き始める。

 ミナミがイツキの右正拳突きを低い体勢でかわすと同時に懐に飛び込み、腹に突き上げる様に拳をめり込ませたのだ。


ドスゥ!


「…かはぁ…」


 カウンター!苦しそうに腹を押さえ体を屈めるイツキ、そこに既に空中に身を躍らせたミナミが回転しながら踵落としで落下して来る!


「もらった!」


「イツキ!!!上だ!」


 僕は無意識の内に叫んでいた、これ以上イツキが痛めつけられるのは見たくなかったんだ。


 ガシィ!


 イツキは辛うじて両腕をクロスしてミナミの踵が頭にヒットする前に防いだ。


「ありがとよ!親友!」


「ああそうさ!たとえお前が女装趣味の変態になったとしても僕はイツキの親友だ!」


「「女装趣味の変態ゆーなー!!!」」


 イツキと一緒になってミナミまで僕に抗議して来た。

 あ、すまん調子に乗った。


「よーし!いっちょここで決めるか~!はああああああああああああ!!!!」


 イツキが気合いと共に声を張り上げる!

 脚が内股気味なのがこのトランスアーツってヤツの型なんだろう

イツキを中心に衝撃波が発生し徐々にイツキの体が光り始める。

 まさか格闘ゲームかアニメでしか見た事ない光景が現実世界で、しかも目の前で展開されるとは…


「あれはトランスアーツの力の源【女子力】、ワシらはアニマと呼ぶんニャがそれを充填しているのニャ!」


 僕は少しズッコケる、その女子力っての意味が違わないか?


 するとイツキの体に異変が起こった。

 声が甲高くなり、少しづつ胸が膨らみ腰回りが大きくなり手足が細くなり出したのだ!

 髪も更に伸びている。


「女性化…している…のか?」


「ご名答ニャ!よく解るじゃニャいか、トランスアーツとは男性の深層心理にある内なる女性を解放しアニマに変換しそれを体に循環させて力に変える格闘術ニャ!身体能力もパワー、スピード、タフさと全てが向上するニャ!」


 またしてもエッヘンと胸を張るネコ、何を言っているか意味不明だがとにかく凄いことは間違いない。


「何だって?…お前トランスアーツ始めて日が浅いんだろ?何故そこまでアニマを高められる?」


 ミナミは完全にイツキのアニマとやらに気圧されてしまっている。


「お前もトランスファイターの端くれなら分かるだろ?胸がキュンとしたらいつも以上にアニマが高まる事を!!」


 完全な美少女セーラー服戦士に変身を遂げたイツキがミナミを指さしながら語る。


「おい!何言ってるんだよそれってどう言う意味…」


 それって僕とイツキがその…あれだ…そう言う関係というかその…


「負けない!オイラはまだ諦めてな~い!」


 ミナミが激高してイツキに向かって拳を放ち突進する、しかしイツキは微動だにしない。


 ドカカカカッ!!!


 二人が衝突する瞬間眩い閃光があたりを包み一瞬何も見えなくなる。


「わああああああああ!!!」


 ブレザーやスカートがボロボロに破れながらミナミが吹き飛ばされ数十メートルほど転がってから止まった。


「一体何が起こったんだ?」


「今の一瞬の間にイツキは三発のパンチと二発の蹴りを入れたニャ」


「何だって?…全然見えなかった…」


「アニマは発動直後が一番強力なのニャ、この時の身体能力は普段の比ではないニャ!」


 ミナミは全身傷と汚れだらけになって道端で気絶、実に哀れだ。

 イツキは倒れているミナミの頭から白いカチューシャを外し


「ルールだから、これは貰っていくね」


 そう言って踵を返した。


「あのカチューシャには何の意味があるんだ?イツキは赤いのしてるけど…」


 ネコに聞いてみる。


「ちょっと待つニャ!やはりあいつが来ていたとはニャ」


 珍しくゴスロリオヤジが真剣な眼差しでミナミが倒れている辺りを凝視している。


「あらお久し振りですぴょん!カグラ、相変わらずセンスの欠片もない黒ずくめなのですぴょん」


 また変なのキター!!!


 長いウサミミの付いたどピンクのフードを被ったピンクのロリータ服に身を包んだ幼女がそこに居た。いつの間にそこに?気配が全く感じられなかった…


「そっちこそ頭の中身とおんなじどピンクずくしのくせに人の趣味を悪く言うニャ!」


「なんですって~!もう一度言ってみるぴょん!」


「何度でも言ってやるニャ!」


 低レベルの不毛なケンカをしり目にイツキにあの甘ロリウサギの事を聞いてみた。


「私も見るのは初めてなんだけどユリ組の統領のルナ様ね、アキラはもう分かってると思うけどあの方も男性よ」


 まあ分かってたけどね…でも、あれ?何か違和感が…


「イツキ、女言葉になってないか?」


「あ~女性化するまでアニマが高まっちゃうと精神もちょっとだけ影響を受けるのよ、

でもじきに体が元に戻ると同時に治まるから気にしないで」


 イツキもちょっと苦笑い、僕もつられて変な笑みを浮かべてしまった。

 やばいだろ!イツキを本物の女の子だと錯覚してしまう!


「あ、このカチューシャね、これはポイントで勝利の証、騎馬戦で言う所の鉢巻きみたいな物」


 イツキは登校に使っているスポーツバッグに白カチューシャを仕舞いつつ


「まずは1ポイントね」


 とつぶやく。


「トランスアーツはいくつかの勢力に分かれててね時々衝突を起こすの、その白黒をハッキリさせるために特定の町ひとつを舞台にしたチーム戦の格闘大会で決着を付けるのよ」


 ゴスロリと甘ロリ二人がまだ口喧嘩をしている光景を見ながらイツキは続ける。


「そして見ての通り仲の悪いカグラ様のバラ組とルナ様のユリ組が今回の参加団体ってわけさ」


 言葉遣いが元に戻った気がしたのでイツキの方に目をやると見る見る胸の膨らみが減っていき、腰回りもすぼまり手足も元の太さに戻っていった。


「ホントに元に戻るんだな…」


 少し勿体ない気が…なっ何を考えてるんだ僕は!不自然にイツキから目を背けてしまった。


「どうかしたか?」


「何でもないよ!」



「にしてもこのミナミさんには失望しましたぴょん」


 甘ロリウサミミオヤジが路上に倒れたままのミナミを何か汚らわしい物でも見る様な目つきで見降ろしこう言った。


「前から修行に身が入っていなかったですものね、トランスセクシャル化出来ない時点で落ちこぼれぴょん!」


 ウサギオヤジがミナミのわき腹を軽く蹴ると物凄い勢いで転がっていった、微かにうめき声を上げ身をよじるミナミ。


「「何てことするんだ!!」」


 ほぼ同時に僕とイツキもは声を張り上げた。


「敗者に用はないぴょん!あなたは破門ですわミナミさん…」


 そう言い放つとウサギオヤジは驚異の跳躍力で塀を飛び越え姿を消してしまった。

 僕は部外者だけどどうしようもない怒りの感情がこみ上げて来た、許せない!


 僕はすぐに倒れているミナミに駆け寄り抱え上げる。


「すぐに手当てしてやる!家に行こう!」


「お…お前?…何で?」


 弱々しくささやく様にそう言うとそのままミナミは気を失った。


「ほら!何してる二人とも、家に帰るぞ!」


 声を掛けるがイツキの反応が明らかにおかしい、なぜだ?


「抱っこしてる…」


「はい?」


「お姫様抱っこしてる!」


 頬っぺたをぷっくりさせギロリと僕を睨んでいるイツキ。


「オレだって怪我してるのに何でその子をお姫様抱っこしてんだよ!」


 強い口調で突っかかって来るイツキ、何をそんなに怒っているのか。


「今はそんな事言ってる時じゃないだろ!ほら行くよ!」


「おい!待てよ!」


 僕らは家路を急いだ。


「やれやれだニャ…」


 ゴスロリオヤジは肩をすくめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る