第3話 噂になったりしたら恥ずかしいし


 N町にあるN高校…僕とイツキが通っている公立高校は盆地にあるN町の高台に位置する。

 長めの冬休みが終わり、今日から三学期が始まる訳だけど…


「明日は一緒に登校しようぜ!八時に玄関先で待っててくれよ」


 昨日イツキと約束したのだけれど、とてつもなく嫌な予感しかしない。


「よっ!お待たせ!」


 僕の背後からイツキの声がしたので振り向くと…

 やっぱり思った通りのセーラー女装で来たよこの人は…


「あっやっぱり変かな…このマフラー…」


 違う、そうじゃない…そこじゃないんだ…

 一緒に歩いていたら絶対注目される、変に見られる、絶対にだ!!

 僕はイツキを無視し、一人歩を速めた。


「ちょっ!待てよ!置いていくなよ~」


 簡単にイツキに追い付かれる、そりゃそうさ、あいつの方が運動神経いいし。


「何で一人で先に行くかな~!」


 まるでプンスカと言う擬音が付きそうな膨れっツラで文句を言うイツキ。


「君のせいだろ!二学期まで男だったイツキが三学期から女装で学校へ通ったら絶対変だと思われる!友達やってる僕の立場も考えろよ!それに男がセーラー服着るのは校則違反じゃないのか?」


 イツキ本人がまるで意に介さないのはホント頭くる!


「そっか…アキラはそんなにオレの事が恥ずかしいんだ…」


 とても寂しそうに俯くイツキ、声も微かに震えている。

 しまった!言い過ぎたか…


「いや…そこまでは…」


「いやいいんだ、当然だよな」


 無理に微笑んでるのが痛々しい。


「だけど校則違反の件は問題無いはず…」


 そう言ったまま黙ってしまったイツキは学校に着くまで一言も話さなかった。


 そうこうしている内に辿り着いた昇降口付近の掲示板の前に人だかりが出来ていた。

 何だろう?人をかき分け掲示板の前まで近付き張り紙を見る。




             全校生徒へお知らせ


 本年度三学期より当N高校は学生服の着用に付いての校則の見直しを行います。

本日より本校指定の学生服を全面廃止し私服の着用を許可します。

公共風俗に反しない限り、服装に制限を設けません。

男女平等の観点により、仮に異性装(男子が女装等)であっても全く問題にいたしません。


               以上



 な・ん・だ・と・!

 女装を許可する学校とか最先端行き過ぎだろぉ!

 この事かイツキが言っていた校則違反にならないってのは。

 しかしこのタイミングの良さ…僕の推測が正しければ…

 また一つゴスロリオヤジに聞く事が増えたな!


 先の張り紙の件もあり、イツキの女装をクラスメイトも初めこそ戸惑いはしたが


 男子からは


「スゲー本物の女みたいだ!」


「オレの彼女になってよ!」


 女子からは


「キャー!イツキ君カワイイ!」


「一緒に写真撮ろうよ~」


 等、概ね好評でカワイイは正義なのだと改めて思い知らされた。


 そして担任、いつも紺色のタイトスカートのスーツをパリっと着こなすナイスバディ!赤いアンダーリムの上品な眼鏡を掛け髪を後ろからアップにした大人の女性、全校男子生徒の憧れの的、七瀬ミズキ先生も


「早速女装で登校してくるなんてイツキ君やるじゃない!とても似合っているわよ!」


 と絶賛!イツキは軽く赤面していたが、相変わらず口数が少なめだ。

 周りには人だかりが出来ていて、どう見てもよそのクラスの連中も混ざってる。

 みんな思考が柔軟過ぎなんだよ…


 帰りのホームルームの終わりを告げるベルが鳴ったと同時に僕はイツキにすぐに帰ろうと言うや否や

 そのまま彼の腕を掴んで教室を飛び出した。


「ヒューヒュー!」「見せつけてくれるね!」「夫婦揃って仲良く下校かい?」


 等の冷やかしが聞こえて来たがそんなのお構いなしだ!

 一刻も早くこの胸のモヤモヤを晴らして、何かしらの手を打たねば!


「ちょっと!アキラ!痛いって!アキラ!」


 思い切り腕を振り払われたので僕はハッとして振り返る。


「どうしたんだよアキラ!何をそんなに焦ってるんだよ!」


 しまった!またやってしまった…

 自分の頭の中があまりにグチャグチャなものだからつい取り乱してしまった。

 僕もいっぱいいっぱいなんだよ…

 俯くイツキ…暫くの沈黙……


「分かった…」


そう言うとイツキは不意に僕の両腕を掴み、右手を自分の胸、左手をスカート越しに大事な部分へと押し当てた。


「なっ…ななななななああああああ!?」


 僕は心底驚いてすぐに両手をそこから離そうとするがイツキがガッチリと両手首を掴んでいるので離すことができない…何て力だ!それはやはり男の物だ。


「ちゃんと触って確かめてくれ!」


 イツキの語気が強まり思わず「はいい!」と上擦ったおかしな返事をしてしまった。


 右手の感触………胸は無い平だ…貧乳とすら呼べないほど見事に。

 左手の感触………ある…馴染みのある感触…どちらもイツキの性別が男である事をこれ以上無い程主張している。


「髪の毛は地毛だし、顔や体は鍛錬で女子力…分かりやすく言うと気みたいな力で変化いているんだ、だから普段はパッと見は女だけど性別は元の男のままなんだ」


 イツキが頬を赤らめ俯きながらつぶやく、とても艶めかしく。

 その表情は危険だ!僕の胸の中に形容しがたい妙な感情がムクムクと頭をもたげて来る。


「何なの?あの子たち、こんな所で昼間っから」


「まったく今時の学生は恥を知らないのかしら?」


「いいぞ!もっとやれ!」


 周りからヒソヒソと、中にははっきり聞こえる様に僕たち二人に声と視線が投げかけられる。

 結構な野次馬が集まってしまっていたのに気づかなかった!

 しまった!ここは天下の大来じゃないかぁ!

 僕たちは物凄い勢いで離れ!お互いに背中を向けて黙ってしまった。

 やらかした~!この場をどう切り抜けよう…

 イツキも多分同じ心境なのだろう、振り向きざまに見た耳は真っ赤になっている。


「おうおう!お熱いね~お二人さん!」


 一際大きな冷やかしの声が聞こえそこに居た全員がそちらを見る。

 塀の上に小柄な人物が仁王立ちしているのが分かる。


「やっと見つけたぞバラ組のファイター!いざ尋常に勝負しろい!」


 金髪のショートヘア、前髪をいくつかのヘアピンですっきり左右に分かれるように留め白いカチューシャをしている。

 頭の左右を白いリボンで小さくまとめたピッグテールがピョコピョコと上下に揺れている。

 グリーンのブレザーのジャケットに黄色を基調にしたタータンチェックのプリーツスカート

 何処かの学校の指定制服だろうか…


「何だ君は?」


「お前に用はねぇ!オレが用があるのはそっちのセーラー服だ!」


 問いかける僕にその子ちびっ子は一瞥するだけでじっとイツキだけに視線を向け

 イツキもその視線を真っ向から受け止め睨み合う。


「とうとう始まるんだな、じゃなかったらこのN町に戻ってきた甲斐が無い」


 この言葉でこの突然の来訪者が来るのをイツキは知っていたのだと思われた。


「オレはバラ組が一人天原イツキ、お前は?」


 イツキは構えを取り戦闘態勢に入りながらちびっ子ブレザーに名前を問う。


「お前に名乗る名など無い!」


「………は?」


 ちびっ子ブレザーは偉そうに腕組みし仁王立ちのままそう言い放った。

 その場が冬の寒さだけでない冷え込みをしたお蔭で次々とギャラリーは解散していった。

 おかしなヤツが来たのはすこぶる迷惑なのだが、あのこっぱずかしい状況を壊してくれたことには心の中で礼を言おうと思う。

 その様子を見てちょっと動揺したちびっ子ブレザー


「何だよ!ちょっとふざけただけろ!一回言ってみたかったんだよ!何か

ヒーローっぽいだろ?」


 何だコイツ、ちょっと面白い。


「こほん!オイラはユリ組の一人、疾風迅雷!加賀ミナミだ!」


 ビシッとヒーローチックにポーズを決め

 本人的にはどーん!とかバーン!とか効果音で背景が爆発してスモークが立ち上ってる感じで脳内補完してるんだろうな…そんな顔をしてる…


「かがみ なみさん?」


「違う!加賀 ミナミだ!オイラを女みたいな名前で呼ぶんじゃね~!オイラをチビだとか、女みたいだとかいう奴は許さねえ!」


 まさかコイツも…


「おっ…男おおおおおお?」


 女に間違われたくないなら、何で女物のブレザーを完璧に着こなしているんだ?…もしかしてコイツ…バカ?

 僕が狼狽えている隙にイツキとミナミは目にも止まらぬ速さで間合いを詰め

お互いの拳と拳をぶつけ合った!

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