第23話 決戦!おもうとVSおねにいさま

僕がこの太陽台の駐車場のアスファルトの上で目覚めたのがほんの少し前。


「良かったぁ…アキラ君、目が覚めたのね」


ボロボロのスーツのミズキ先生が上体を抱き起してくれた。

朦朧とした意識のまま自分の姿が視界に入る…あれ?何で僕はウエディングドレスなんて着てるんだ?


「おお!アキラ~」


「アキラはん!無事か~?」


「ほんに、よろしおましたな~!」


みんな口々に僕が戻って来た事を喜んでくれたのだが…


「あれ…イツキは?!」


まだ頭がフラつく僕だったが、キョロキョロと周りを見回すと

やや離れた場所にイツキとヒカルが横たわっていた。


「イツキ…!」


僕は慌てて飛び起き、おぼつかない足取りで駆け寄る


「アキラ君!無理をしてはダメよ!」


心配してミズキ先生が声を掛けてくれるが、一刻も早くイツキの様子が知りたかった。

イツキ達の周りには母さん、カグラがいて、ハルカさんが介抱している


「ハルカさん!一体イツキの身に何があったんですか?!」


「アキラ君…」


いつに無く暗い表情のハルカさん


「イツキ君は【アニマスレイブ】によって洗脳状態にあったあなたを目覚めさせるために、キスで体内からアニマを吸い出したのよ…」


「キ…キスですか?」


唇に手を当て思いきり赤面してしまった。


「ただその直後、物凄くもがき苦しんだの…そして気を失ってしまった…」


改めて横たわるイツキの様子を窺う、胸が平坦になっているので、体は男に戻ってしまっている様だ。

顔も今はとても穏やかで、普通に眠っている様に見える、とてもさっきまで苦しんでいたとは思えない…


「…イツキ…なあイツキ」


僕はハルカさんと入れ替わりでイツキに膝枕をし話しかけてみた。

朧げだけど僕が意識を失っていた間、ここでは無いどこかでイツキに会って話をした気がするんだ…夢と言ってしまえばそれまでなんだけど…

ううん…夢だったとしたらとても素敵な夢…

きっとそのおかげで僕は洗脳から解かれたんだと確信してる。


「…ありがとうイツキ…お前のおかげで自分を取り戻せたよ…

これからも一緒に居てくれるんだよな?」


さっきの夢のような出来事を思い出すと急に感情が昂り、涙がひと粒、ふた粒とイツキの頬に落ち続けた。


ピクン!


「…あ!…」


今、イツキのまぶたが動いた!

ゆっくり開かれて行く両の瞳…!


「はっ?!…ここは…」


そしてイツキはとうとう目覚めたのだ!!

良かった…本当に…涙が止まらない…


「お帰り…イツキ」


僕は涙でくしゃくしゃな笑顔をイツキに向けた。

話したい事はいっぱいあるけど

やっぱり最初に掛ける言葉はこれだよね?




「アキラ…無事に戻って来てくれて嬉しいニャ…」


いつに無く神妙な面持ちのカグラ。


「………」


少しは落ち着いたとは言え、僕はまだカグラに出生の件で騙されていた事を完全に許せていなかった…


「言い訳と取ってもらっても構わないから話を聞いてくれないか…

ひと月前…イツキを弟子にしたが、まさか息子のお前と友達だったとは

思いもよらなんだ…しかもN町に戻って来ていずみ荘に行ったのも全くの想定外だったのだ…」


遠い目をしながらさらに続けるカグラ


「そこであらかじめシノブと連絡を取り、口裏合わせを頼んだのだ

実は母であるシノブを父である事にしようとな…」


「なぜそんなややこしい事を?!」


思わず口を挟んでしまった、だが僕はそこをハッキリさせておきたかったんだ


「イツキがお前にトランスアーツの事を話せばワシとシノブの師弟関係も明るみになる…そうするとシノブが男だったと知れるだろう?

あの段階でワシがお前の実の父で、元男の娘のシノブが母だと言って

お前は受け入れられたか?」


「うっ…それは…」


それはもっともだ…あの時はただでさえいっぺんに色々な事が起って頭がパニクっていたのだから…でも


「だからってそんな重要な事を一生隠し続けるつもりだったのかよ!?

事実を知った僕がどんな気持ちだったか分からないだろう?!」


ダメだ…昂る感情を抑えきれない…冷静に話をしようと思っていたのに…!


「師匠たちを責めないでやってくれないか!!」


「えっ?」


不意にイツキが僕らの間に割って入って来た…


「大切な人に嘘を吐き続けるのはその本人も物凄く辛いんだ!

オレも経験があるから分かる…知らない方が幸せな事だってある…

知らせない方が大切な人が傷つかないと思うから…

それに今回の事はオレが切っ掛けを作ってしまったんだ…アキラ…

責めるならオレを責めてくれ…うっ…うっ…」


僕の膝の上で大粒の涙をこぼすイツキ


「やめてくれよ!お前は何も悪くないだろ!?」


イツキにここまで言わせてしまった…こんなつもりじゃなかったのに…


「済まなかった!!この通りニャ!!」


土下座をするカグラ。


「分かった…今回の事はイツキに免じて水に流すよ…

だから次からは隠し事はするなよな!」


わあっ!とみんなの歓声が上がった!

仕方ない…これ以上意地を張ったら僕が一人だけ悪者だ…

もうこの件はこれにて手打ちにしよう!




「お取込みの所失礼するであります!!」


ひとまずの安堵から盛り上がる僕らに

とても大きくハッキリとした口調で話しかけて来る人物がいた。


直立不動で右手で敬礼をするその人物は…


女性警察官!!


今の今まで騒いでいた僕らの空気が一瞬で凍り付く…

そうだよ…冷静に考えればこんなに公共施設で暴れたり大騒ぎしていたら

それは警察の方も駆けつけるってものだ…


「あ!そんなに警戒しないで頂きたい!自分はトランスアーツ連盟

【サクラ組】所属の大門だいもんサクヤと申します!以後お見知りおきを!」


やっぱりと言うか当然と言うか、彼も男の娘!

女性警察官の制服をキッチリ着こなし

髪は茶色、左右二本の三つ編みは輪を作る様に頭の上方で留められ、警帽を挟んでまるで動物の耳の様に見える、少しチャイナ風にも取れる不思議な髪型

釣り目がちな大きな瞳は威圧的な感じは全くせず、人懐っこくも力強い意志を感じる。


「我々サクラ組は、スミレ組からの連絡で月華団の動向を調査するべくこのN町で捜査をしておりました!

そしてすでに首謀者『月宮ミヤビ』に洗脳されたと思しき一般の方々の保護は完了しているであります!

捜索範囲がN町全域なので人員が足りず、今の所は自分だけがこの場に来ていますが、後に応援が到着する事になっております!」

ああ…団体戦の審判をしてくれたスミレ組…宮野さん方が動いてくれたんだ…でもあの男の娘メイド達は洗脳を解かれるのだろうか…僕には他人事に思えないので心配だ

「そして情報提供者のおかげでこの太陽台で月華団が

【全人類男の娘化計画】の最終的な実行を計画しているのが分かりこちらに赴いた次第であります」


…情報提供者…カナメかタツミ辺りだろうか…


「つきましては情報の共有を致したく、少しお話をお聞かせいただけないでしょうか?」


「あ…はい!分かりました大門さん」


これは願っても無い申し出だ、余りにも情報が少なすぎたのでありがたい


「感謝します、自分の事はサクヤと呼んでいただいて結構ですので」


「じゃあ僕の事もアキラと呼んでください」


僕らは力強い握手を交わした。




僕たちはサクヤさんに今までの月華団との間に起こった事を全て話した。


「成程、皆さんでも月宮ミヤビがここで何をしようとしているのかは分からないのでありますな…」


そうなのだ…残念な事に…

僕がミヤビに拉致された時も遂に聞き出す事は出来なかったのだ…


「僕は今から展望台に言ってミヤビに会って来ます」


ここで考え込んでいても埒が明かない…ミヤビが時間の制限をしていたのも気になる…となれば直接会って実力行使してでも何をしようとしているのか聞き出すしかない


「待てよアキラ!そう言う事ならオレも行くぜ!」


辛そうにゆっくりと立ち上がるイツキ


「ダメだよイツキ…お前はもうアニマが尽きているじゃないか!

戦闘になったら何もできない…危険だよ」


「…くっ…」


「ごめんイツキ…お前の気持ちは嬉しいけど分かってくれ…」


うつむき拳を握りしめるイツキ、自分が戦力外なんて言われてさぞ悔しかった事だろう。


「自分が同行します、そもそもそれが任務でありますからね!」


サクヤさんが頼もしい笑顔を見せてくれる


「ワシも行くニャ!」


「カグラ…」


流石にすぐに割り切ってカグラを父さんとは言えなかった…


「アキラ…お前はワシについて来てほしくは無いだろうが、お前の件もミヤビの件も元はと言えばワシの撒いた種…けじめはつけるニャ」


「分かったよ…」


「ダーリン!オイラ達も…」


「いや、お前たちはここに居てくれ…一度に敵陣に乗り込んでみんなやられてしまったら元も子もない…何かあった時の為にも…頼む!」


「そうか…分かったよ」


折角のミナミ達の申し出だがここは断らせてもらった。

言った事は本心で間違いないのが、何故か僕にはミヤビを自分一人でも何とか出来る確信があったのだ。

どうしてそんな事が断言出来るのか…自分にもよく解らない…


「では行こう!!」


僕とサクヤさんとカグラはこの戦いに決着を着けるべく展望台に続く石段に足を掛けた。




「あら…アキラ、アニマスレイブから解き放たれるなんて…少々あのコ…イツキさんを見くびってしまった様ですわね…」


丘の頂上にそびえる低めの塔の様な構造の展望台。

内側は放射状に階段が作られておりどこからでも上に登っていける構造になっており天井は無い、古代の闘技場を想像させる佇まいだ。

その一番底の中心にミヤビは居た。

僕たちは展望台の中には入らず、入り口の外からミヤビと対峙している。

話がこじれない様に、カグラには今だけ少し離れた所に待機してもらっている。


「アルテミスは倒した!あとはもうお前1人だぞミヤビ!

それにお前の設定した時間にも間に合ったんだ…

僕らの勝ちって事でいいんだな?」


正午までまだ時間がある、言いたい事は山ほどあるが、取り敢えず挑発してみる事にした、何か情報を引き出せるかもしれない…

果たしてミヤビはどう出る?


「もうお姉様とは呼んでくれないのですねアキラ…とても悲しいですわ」

冷たい微笑からは悲哀の感情は微塵も感じられない。


「時間制限には特に意味は無いんですのよ?

それに勝ち負けという観点から見ればあなた達は負けですわ!」

「何だって?!」


「だって…たった今私が勝利するんですもの!!」


ミヤビは天に向かい両腕を突き出す。


ゴゴゴゴゴゴ!!!!!


轟音と共に物凄い地揺れ…

すると展望台全体が赤いアニマに包まれ

天空に向かって光の柱を打ち立てた!


「一体何をしようとしているのでありますか!」


サクヤさんが声を張り上げる!


「見慣れない方がいらっしゃるのね…そのコスチューム…大方サクラ組の方ですか…

何って…決まってますわ…これで【全人類男の娘化計画】が完遂するのです!!」


狂気の宿った左目を見開きミヤビらしからぬ大声を張り上げる!


「そんな事はさせないであります!!」


サクヤさんは右手で指鉄砲を作ると、人差し指に急速にアニマが集中する

指先だけが白色の眩い光弾を纏っている!


「アニマブリットシュート!!」


バシューーーーン!!!


高速で螺旋を描きながら弾丸の様に発射されるアニマの光球、もしや…この技は洗脳された僕が振るっていたナイフを撃ち落とした物ではないか?

あの時助けてくれたのはサクヤさんだったのか…


アニマブリットは確実にミヤビを狙って進んで行くが…

彼の前に張り巡らされているアニマの壁に掻き消されてしまった!


「ああ…そんな…」


落胆するサクヤさん、どうやらこの技に余程自信があったのだろう…


「このアニマの障壁は、下の駐車場で皆さんが戦っている時に放出したアニマを吸収、集束させた物…その程度の弾丸なぞ無力に等しいですわ!」


「何だって?!それじゃあ僕たちはお前の計画にまんまと踊らされたって言うのか?」


「その通りですわアキラ…ここにあなた方を呼びつけたのも全てはこの為…!」


何て事だ…知らず知らずのうちにミヤビの計画に加担してしまっていたなんて…


「ときにそこの可愛いお巡りさん?」


ミヤビは唐突にサクヤさんに話しかける。


「お巡りさんでは無い!自分は大門サクヤであります!」


技が防がれて落ち込んでいるのか、不貞腐れて答えるサクヤさん。


「じゃあサクヤさん、あなた方サクラ組はわたくしのメイド達をどうなさったのかしら?」


「保護した被害者は数人単位で数台の護送車で移送中であります、それがどうかしたでありますか?」


怪訝な表情で答えるサクヤさん


「ウフフフ…感謝いたしますわ、手伝って頂いて…」


「なっ!?」


まさかまた利用されて…?


「彼女たちはわたくしのアニマを注入された言わばアニマ人間爆弾なのですわ、そしてわたくしの合図でそのアニマを爆発的に体外に放出する…

だからより広範囲に配置されるのは好都合なんですの…」


してやったりとニヤニヤと微笑むミヤビ


「なっ…アニマ人間爆弾だって?!」


何と物騒な話だ…


「あ…ご心配なさらずに、別に爆ぜて死んだりは致しません事よ?

そうして発散されたアニマは周りの人々に感染していき、男性は全て男の娘化して、更にアニマを拡散していく…さしずめ【男の娘パンデミック】と言った所かしら…そして女性は彼らに排斥され絶滅する…

これが【全人類男の娘化計画】の全貌ですわ!」


「そっ…そんな恐ろしい計画だったでありますか…!]


驚愕するサクヤさん。

それはそうだ、こんなのまともじゃない…


ミヤビが計画の種明かしを語っている間に、アニマの噴出は上空で真っ赤な光球へと姿を変えていた、まるで火の玉の様だ。


「ウフフ…あとはこのアニマの球を弾けさせるだけで段取りは全て完了…

それを合図に【男の娘パンデミック】が始まるのですわ…」


うっとりと真上に浮かぶ光球を見上げるミヤビ。

もうアニマの壁も消失している…攻めるなら今だ!


「サクヤさん!もう一度さっきの弾を撃って!」


僕はミヤビに向けて走りながらサクヤさんに援護を頼んだ。


「え?…あ!了解であります!」


慌ててアニマブリットシュートをミヤビに向けて放つサクヤさん。

ミヤビは咄嗟にパラソルを広げて防御、弾丸は簡単に弾かれる。

恐らくパラソルの生地にアニマを張り巡らせているのだ。

その隙に僕はその直前まで潜り込む。


「たあっ!」


アニマを込めた右ストレートを放つとパラソルを簡単に貫通する

そしてその先のミヤビにヒット…しなかった…

パラソルの残骸を残して眼前から姿を消していたのだ


「不意打ちなんてお行儀が悪くてよ?アキラ」


背後から声がする…いつの間に後ろに回ったんだ?!


「あなた…さっきから鬱陶しいですわよ!」


ミヤビはサクヤさんに向けて左手を突き出すと漆黒の蛇の様なアニマを無数に放出する


「がっああああっ!!!」


蛇状のアニマはサクヤさんの腕や足、胴体や首など至る所に巻き付き締め上げる。


「サクヤさん!!」


すぐさま駆け寄り巻き付いた蛇たちを剥がしに掛かったのだが、僕が触れるだけでその蛇たちは崩れる様に消滅したのだ…


「これは…?」


とても不自然な気がした…何だろうこの違和感は…


「むう…」


それを見てミヤビも何かを感じ取ったらしい…僅かに焦りの表情をのぞかせる。

ミヤビと睨み合いながら僕はこの戦闘で起きた事を頭の中で整理してみた。


まずはあのパラソル…サクヤさんの攻撃が防げて僕のパンチが防げなかった…単純に攻撃力ならサクヤさんの攻撃の方が上なはずだ。

アニマを込めたとは言えただのパンチで容易く破れるのは不自然に感じた

そしてミヤビが放った蛇状のアニマスキル…僕が触っただけで消し飛んだ

サクヤさんの体を締め上げる程の強固な物がそう簡単に外れるとは思えない…


はっ!まさか!…僕の頭の中に一つの仮説が思い浮かんだ…


この仮説がもし当たっていたらのならこの戦いは…

僅かに口角が上がったのが自分でも分かる…ミヤビにはさぞ不敵な笑みに見えた事だろう。


「くっ…!アキラ…あなたは…危険すぎますわーー!!」


恐怖感に煽られて自ら襲い掛かって来るミヤビ!!

瞬時に僕の懐に入り込み、腕を弧を描く様に振り上げる!

僕は上空に打ち上げられた。


「味方にならないのなら今ここで引導を渡して差し上げますわ!」


ミヤビは今までずっと隠していた右目の眼帯を外す…

すると金色に輝く瞳が露出したのだ!

何っ!あの眼帯はただの厨二ファッションじゃなかったのか?


パシュゥーーーーーーーーーーン!!!


その右目からまるでレーザー光線の様なアニマが発射され、僕を狙撃した!


チュドーーーーーン!!


爆音を轟かせ大爆発!!


ズシャァア!!


そして煙に包まれ地面に落下!


「アキラ殿~!!」


サクヤさんが慌てて僕のもとへ駆けつけて来る。

「おお…!アキラ殿…無事でありましたか!」


僕は何とか地面に激突せずに着地していた


「…これで僕の仮説が正しかったと証明されたよ…」


自信満々のドヤ顔をミヤビに見せ付ける!


「ちぃ!!」


舌打ちするミヤビ。


「それは一体どう言う事でありますか?」


小首を傾げ、全く訳が分からないと言いたげなサクヤさん。


「僕を見てください、あれだけの攻撃を喰らったのに体だけは無傷でしょう?」


「はぁ…そう言われれば…」


そう、あの厨二ビームを喰らってドレスはあちこち焼け落ちてしまっているが、僕自身は全くの無傷なのだ!


「ミヤビ!あんたは僕を洗脳するために余程大量のアニマを注いでくれたらしいな!」


あのミヤビとの執拗で濃厚なキス思い出し、僅かに赤面してしまったが…続ける。


「まんまと洗脳された僕だけど、イツキが身を挺して洗脳から解放してくれたから、あんたのアニマだけが体に残って僕のパワーアップに繋がった!おまけにあんたの技にも耐性が付いている様だしね!」


ビシィ!と右手人差し指でミヤビを指差す!

先程僕の中にあった根拠の無い自信はきっと、体が無自覚にこの事を分かっていたんだな…


「おのれ…おのれおのれ~!!!」


今まであまり大きな感情を現わしてこなかったミヤビがこれ以上ないくらい取り乱している。


「認めない…!!姉より優秀な妹などいる筈が無~い!!」


滅茶苦茶な理論を振りかざし半狂乱になりながら突っ込んで来るミヤビ

怒りに任せた連撃はもう駄々っ子が暴れているのと同じレベル…

今、一種の実力底上げ…ブースト状態にある僕には全く脅威にならなかった次々と攻撃をかわし彼の顔面を僕の拳が捉えた!


「きゃあっ!!」


悲鳴を上げるミヤビ、被っていた黒レースのヴェールが吹き飛ぶ。

すかさずミヤビの右腕を掴み引き寄せ、足払いで体勢を崩す!

宙を半回転するミヤビを眼前に据え、僕は両掌を右脇腹の辺りで上下に合わせアニマを集中させる。


「はああああああ!!!!」


ボン!と光弾が宿りスパークする!

「いっけええええ!!!アニマダブルストライク!!!」

渾身の力とアニマを込め両の掌を突き出す!!

空中でほぼ逆さまに浮いているミヤビの腹に命中!!

体を突き抜け背中からも衝撃波が噴き出す!


「いやあああああああ!!!!!」


猛回転しながら盛大に吹っ飛び展望台の中に突っ込む!


ドゴーン!!


壁に激突して止まりズルズルと階段の上に崩れ落ちるミヤビ


「うぁぁ…」


気を失ってはいないが相当なダメージを負った様だ

立ち上がる気配は無い。


僕はミヤビのすぐそばまで歩み寄る。


「ちょっとやりすぎちゃったかな…こうでもしないとあんたとゆっくり話が出来ないから…」


腹違いとは言え兄弟なのに、やっと普通に話しかけられた気がする


「話はカグラから聞いてるよ…昔、こっぴどく彼女に振られて

それで女性に復讐を企てたってね…」


「なっ…!あの人は何て恥ずかしい事を人に教えてるんですの!?」


ミヤビは顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった


「別に馬鹿にしてる訳じゃないんだ…ただ一つ気になってさ

女性が憎いなら何故あんたはそこまで自分の姿を女性に近づけたんだ?

姉とか妹とか彼女とか、人の呼び方も女性形だし言葉遣いまで丁寧な女言葉だし…」


「………」


向うを向いたまま無言だが、思う所があったのか黙って僕の言う事を聞いてくれている


「それって女性に憧れや尊敬の念って言うか…

好意があるって事だよね?」


「………!」


図星を突かれたのかピクンと体が動いた…


「もうやめよう?カグヤに…オヤジに腹を立てるのも分かるけど

もう許してやらないか?彼女の事も本人は悪意があってやった事じゃないんだし…僕にも色々あったけど許したよ」


ニッコリ微笑み優しく語り掛ける…何せ文字通り他人事とは思えないか

ら…


「アキラ…」


僕の方に向き直ったミヤビの瞳には涙が溜まっていた…

今まで数々の暴挙に出ていたとは言えこの人も辛かったんだ…

孤独だったんだ…少しもらい泣きしてしまった…

僕はミヤビの上半身を抱き起すと少し強めにしっかりとミヤビを抱きしめる


「うっ…ううっ…うああああああんん!!」


ミヤビは神秘的で大人びた見た目に反して、まるで子供の様に大声を出して泣き始めてしまった!


「ずっと感情を押し殺して来たんだね…」


僕はよしよしとミヤビの背中を軽く叩いた




「…ミヤビ…」


カグラもこちらに近づいて来た


「…お父様…」


まだ少し涙ぐんでいたミヤビだが、静かにカグラと向き合う


「本当に済まなかったニャ…ワシがした事でお前をこんなに追い詰めてしまうとは思いもよらなかったニャ…」


深々と頭を下げるカグラ


「この際だからワシもお前に対しての隠し事も無くそうと思うニャ」


え?何だって?この期に及んでまだ隠し事があったのか?

何だか雲行きが怪しくなって来た…


「実は…お前を産んだのは何を隠そうこのワシニャ!…ワシがお前の母親ニャ!」


「「はああああああ!!!!????」」


何言ってくれやがってんですか?!このネコミミオヤジ!!


「アキラの時と同様、ミヤビが自分が男から産まれた事実を知ってしまったら大変な事になると思って今まで隠していたのニャ…

そしてお前の父親サカキはアルテミスの母親でもあるニャ」


……………


一体…何を言ってるんだコイツ…


え~と…冷静に整理すると…


ミヤビは…父サカキさん?と母カグラの子供。


アルテミスは…父ルナと母サカキさんの子供。


そして僕、アキラは…父カグラと母シノブの子供って事になる…


「当時、ワシとルナはサカキを取り合って三角関係だったニャ…

今思うと若気の至りニャが…ワシがサカキの子を宿し、その後ルナが

サカキを身籠らせたのニャ」


何その、しいて言うならドミノ出産?何そのただれた関係!!


普通じゃ有り得ない…男女どちらにも成れるトランスファイターならではの情事!!

誰か…人物相関図を描いてくれないか…?

嗚呼…頭が沸騰しそう……


「ふっ…ふふふ…うふふふふ…あっはははははは!!!!」


ミヤビは気でも触れたかのように突然大声で笑いだす!


「許さない!…もう絶対に!…許さない…!!」


ゆらっとまるで上から糸で操られているかの様に立ち上がるミヤビ。


「くっ…!!」


僕は身の危険を感じ咄嗟に飛び退きミヤビから離れた。


「お父様…いや…カグラぁ!!お前は今日ここで俺が消し去ってやる!!」


口調が乱暴な男性の物に変わった…!!

これは間違いなく激怒している!!…

まあ無理も無い…僕も出来るならそうしたい!!


先程ミヤビが生成した上空に浮かんでいる真っ赤に輝くアニマの球体。

それがゆっくりと下降、ミヤビを包み込み全て吸収されていった…

そして物凄い衝撃波がミヤビから発せられ、眩く輝き出した。

長く美しい黒髪は一瞬にして真っ白になり空に向かって逆立つ!

見開かれた両目は金色に輝いていた!

全身から真っ赤なアニマが盛大に噴出している。


「ああ…力がみなぎる…ふふふ…この力があれば何者にも負けない…」


恍惚の表情を浮かべ口角を卑しく歪ませて笑うミヤビ。


「ふふふ…気が変わったわ…まずはお前たちの大切な者達から片付けて差し上げます…」


ミヤビは驚異の跳躍力で飛び上がりそのまま石段のある方へ落下していった…

まずい!下にはイツキが!怪我をしているみんなが危ない!


「このおバカ!!折角話が纏まりかけていたのにぶち壊しやがって!!」


思い切りカグラの脳天にゲンコツをはった!

僕は今怒っていい…怒っていいんだ!!


「ううっ…隠し事はされたくない物だってアキラだって言ってたニャ!」


頭をさすりながら減らず口を叩くカグラ。


「時と場合とタイミングによるわっ!!」


「あの~急いだ方が良いのではないでしょうか?」


申し訳なさそうにサクヤさんが声を掛けて来る。

おっと!そうだった…こんな所で言い争いをしている暇は無い!


僕はカグラを小脇に抱えると大急ぎで石段のある方へ駆け出した!!

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