第22話 彼氏が花嫁衣装に着替えたら…
「…うん…むふ…ん…ちゅ…はむ…んん」
ここは太陽台の最上部、ローマのコロッセオを彷彿とさせる形状の展望台。
肌が露出している所以外は全身漆黒のウエディングドレスのミヤビはアキラと唇を重ねていた。
【アニマスレイブ】術者が経口などの方法で相手に自分のアニマを注入し意のままに操る禁断のスキル、今まさにアニマを注入している所であった。
「…フフフ…いいコね…こんなに従順になって…それにキスも上手くなって来ましたわ…わたくし、顎が疲れて来ましたわ…」
ミヤビはアキラから唇を離し、深く息を吐き小さく舌なめずりする。
一方のアキラは恍惚の表情を見せるも、目は虚ろだ。
………眼下の駐車場の方が何やら騒がしい。
「アルテミスさんのアニマが消えましたわね…まさかあのコ達に破れるとは…
アルティメットではあったけど、彼女も所詮は自分の力を過信し過ぎた愚か者…
手を切るには丁度良い頃合いでしょう」
特に落胆もせずに言い放つ。
「わたくしには妹のあなたさえ居てくれればそれでいいわ…」
慈愛に満ちた微笑みでアキラを後ろから抱きしめ頬を寄せる。
「さあアキラ…あなたのお友達にその新しい姿と力を見せつけていらっしゃい…」
「…はい…お姉様…」
アキラは輝きの失われた瞳のままわずかに微笑んだ。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
連日の激戦がたたったのか今になってどっと疲労感が襲って来る。
アスファルトに腰を下ろし、私たちはしばしの休憩を取る事にした。
私たちの被害は予想を超えた物だった、まさかアルテミス一人にここまでの人数がダメージを負うとは…。
シノブ母さんは顔を蹴られて倒れていて、ハルカさんが迅速に介抱している所だ。
ミナミとジュンは負のアニマの毒気に当てられただけなので時間で回復するらしい。
アイは首を絞められこそしたがアニマアブソーブ発動前だったので事なきを得た。
無傷なのは私ことイツキ、ミズキ先生の二人、しかしアニマストライクジャッジメント使用時のアニマ消費はかなり大きい…
カグラ様だが、昨日の戦いでアニマをアルテミスにかなり吸われてしまっているので見た目通りの幼女並の力しか無い状態なのだ。
「あのアルテミスとか言うバニー、アルティメットではないのか?」
ヒカルが私の横に腰を下ろし話しかけて来た。
彼もプレートアーマーが吹き飛ばされ服もあちこち破れてしまったので、それらを脱ぎ捨て軽装のビキニアーマーに変わっていたがダメージは軽微の様だ。
「ああ…あの男性同士の両親から生まれるって言うアキラと同じ…」
しまった…この話題は今は…慌てて口を押える。
「気にするニャ…お察しの通り奴はアルティメットニャ」
「師匠!知っておられたのですか?」
「ああ知っていた…奴が赤子の時からニャ…ただあんな風に成長してしまうとは…ルナめ!…いや、ワシも人の事は言えニャいか…」
何か引っかかる言い方だ。
「ときにイツキよ!」
「はっ…はい!」
急に改まるカグラ様。
「先の戦いで見せた技、【アニマストライクジャッジメント】と言ったか…あの技は二度とつかうニャ!」
「え?!何故ですか!師匠!」
私は声を張り上げてしまった!確かに複数人で、しかも時間が掛かるあの技だけど
あの常人離れをしたアルティメット相手には有効なんだ!使わない手は無いのではないか?
「あれは【アニマスレイブ】【アニマアブソーブ】に並ぶ程危険な技ニャ、恐らく使用者にも何かしらのノックバックがある」
「それはどんな…?」
「例えば…そう!自分自身もアニマを完全に失うとか…」
「それは…あっ…あれ?」
ドクン…
話が終わるか終わらないかのタイミングで私の体に異変が起こった。
徐々に胸が凹み出したのだ!
「そっ…そんな!!」
取り敢えず胸のサイズがダウンしただけで女体化自体は解けていない様だが…
「やはりか…まあこれは一過性のものだろうニャ、時間が経てば元に戻るとは思うが…まあそう言う事ニャ…二度とアレは使うなよ?」
…しかし困ったことになった…上にはまだ総大将のミヤビが控えている
他に伏兵が居ないとも限らない…ここでアニマが減退するのはまずい…
コツコツコツ………
駐車場から上方の展望台までを繋ぐ石造りの階段の方から足音が聞こえる…
まさか!!ミヤビが下りて来たのか?私達の今の状況では…勝負にならない!!
やがてその人物のシルエットが目視出来る距離まで近づいて来た。
…!あれは!!
「アキラっ!!!」
アキラだ!アキラが下りて来た!!無事でいてくれた!!
私の頬に涙が伝う、ただ手放しでは喜べない状況だ…何故なら彼が着ていたコスチュームが…
「「「「ウエディングドレス?!!!!」」」」
その場に居たみんなが一斉に声を上げた!
ウエディングドレスだ…ミヤビの漆黒のドレスとは対照的な純白のドレス…
ボリュームのある短めツインテールの上からはレースのヴェールを被っており、
二の腕まである手袋に包まれた手には色とりどりの花が束ねられたブーケを持ち、
肩やデコルテから胸の途中にかけての肌が露出しているデザイン、
胸は以前より大きくなっている様な気がする…まさかミヤビに何かされたのか?
スカートはミニのフリルスカート、すらりと伸びた生足が美しい…
腰からもリボンで結われたレースのスカートがふわっと脚の後ろ側を覆っている。
「美しい……」
一同、思わず見惚れてしまいため息が出る。
ほんの一瞬…アキラを中心に薄紅色の波動が放射状に放出された。
私達は避ける事も出来ずに浴びてしまう。
何だ?!この体中が芯から熱くなる感覚は…?
「ぐっ…がはぁ!」
「うおっ!」
「ああっ!」
ミナミとジュン&アイがほぼ同時に鼻血を出して卒倒する!
まさか…!この体の異常は何かしらの攻撃なのか?…
程なくして私も流血した…やはり鼻から…
「くぅ…師匠…これは一体!?」
「これは…【アニマチャーム】ニャ!自身の周囲に高密度のアニマを散布し、好意を持った相手の精神に作用しダメージを与えると言われる…まさか使い手が現れるとはニャ…!しかもそれがアキラとは…」
まるでサウナに長時間入っていたかの様に頭がのぼせあがり、目の前がグルグル回るような感覚…鼻血こそ出していないが師匠も苦しそうだ
「そんな?!反則だこんなの!特に私には…」
耐えきれなくなり、遂に両膝を地面につく、アキラのあの可憐な花嫁姿を見て私が萌えない訳が無い。
動けなくなった私達をよそに味方で動ける人物がまだ居た、ヒカルとミズキ先生だ!
「アキラ君ったら…縁談前にウエディングドレスを着ると婚期が遅くなるって言うわよ?」
「アキラと言ったか…お前に恨みは無いが、大人しく討たれてくれ!」
二人はアキラの方に向かって走る!
「…師匠、何故二人は動けるんでしょうか?」
「元から効かない者もいるが…その者が持つ趣味趣向等も影響するのでニャ、こればかりは実例が少ないので何とも言えないニャ」
萌えポイントは人それぞれって事なのかしら?
「こちらで合わせます!好きに動いて結構よ!」
「承知!」
ヒカルは軽装のビキニアーマーになっているのでアニマソードでは無く格闘戦に切り替えていた。
素早い連撃、その動きに合わせてミズキ先生が隙を埋めるべく連携を取る。
初めてコンビを組んだにもかかわらず見事な攻撃、人に合わせるのはミズキ先生の十八番だ。
ただ惜しむらくはその攻撃がことごとくアキラに避けられてしまっている事だろう。
「アキラの奴…恐らくアニマに依る五感ブーストを使っておるニャ!」
これはアキラが団体戦大将戦で見せたスキル?
だとしたら格段にレベルが上がっている…あの実力者の二人掛かりでの攻撃がかすりもしない。
「これもアニマスレイブのなせる
確かにアキラはここに現れてから全く話さない、目にも輝きが無い…まさか完全に洗脳されているの?…そんな…アキラ…
「くっ!これでは埒が明かない…これならどうだ!」
ヒカルは両腕をクロスさせると、アニマで作り出したナイフを出現させ逆手に持った。
二刀流だ!
こうなるとミズキ先生は迂闊に入っていけない、ヒカルとアキラ、一対一の戦いになった。
「上手い!攻撃に変化を持たせれば、相手が順応するまでに一矢報えられるかもしれないニャ!」
師匠の言う通り先程とは打って変わってヒカルが優勢になった。
アニマナイフが僅かにアキラのウエディングドレスにかする様になったのだ。
だがとても複雑な心境だ…ヒカルには頑張ってほしいが、アキラには傷ついて欲しくない…どうしてこんな事に…
避けるのに徹していたアキラが遂に動いた!手に持っていたブーケの先端をヒカルの方に向けたのだ!
「そんな物でどうすると言うのだ?!」
アニマナイフを振りかざし飛び込んで行くヒカル…
「ヒカルさん気を付けて!何か仕掛けて来るわ!」
ミズキ先生が叫ぶや否やアキラの手元のブーケから花が数十本、散弾の様に発射されたのだ!
「何っ!?…」
広範囲攻撃!意表を突かれたヒカルは避けきれない!
ズドドドドド!!!
「ぐああああ!!!!」
柔らかい花とは思えない重い音を立てヒカルの体を打ちのめす!
あの花はアニマでコーティングされていたのか…
激しく吹き飛ばされ、地面に激突するヒカル。
「ヒカルさん!」
私はふらつきながらも急ぎ彼の元へ駆け寄って体を抱き起こした。
しかしこれは酷い…防御を捨てスピードに特化していたのが裏目に出た…
体中硬い棒か何かでつつき回した様な赤い跡が無数に付いている…
「ヒカルさん…しっかりして!!」
「…済まない…」
そう言い残しヒカルは気を失った。
「きゃああああ!!!」
今度は背中越しにミズキ先生の悲鳴が上がった!
慌てて振り向くと、ミズキ先生の着ていたスーツがズタズタに切り裂かれているではないか!
地面に倒れ伏す先生…露わになった胸の膨らみを咄嗟に腕で隠す。
対峙しているアキラの手に握られている物は…
柄の部分に綺麗なリボンが結ばれている得物、あれは結婚披露宴のウエディングケーキ入刀に使うナイフじゃないか!
いくら刃が付いていないといっても金属製…とても危険だ!
「………」
ミズキ先生に向かって無言でナイフを振り上げるアキラ、いけない!!
「やめて!アキラ!」
駆け出そうにも体が上手く動いてくれない…間に合わない!!
ガキィィーン!!
アキラが持っていたナイフに勢いよく何かが当たり手から跳ね飛ぶ、ナイフは高速回転しながら甲高い音を響かせ地面を跳ねていった。
一体何が起こったの?
考えを巡らす暇も無く、私の背中に勢い良く何かが当たった、とても暖かい体の芯まで沁みて行く様な感覚…
ドクン!
「あ…!?」
何と!私の胸が急激に膨らみだしたのだ!以前の女体化時より少し大きくなった!!アニマがグングン湧き上がっていくのが分かる…
私は何が起きたのか確かめるべく後ろを振り返ると、やや離れた所に両手をこちらに向けたハルカさんが居た。
ハルカさんは随分と息が上がっている、これはアニマチャームを受けただけではない消耗具合だ。
「…私の…アニマを…イツキ君…あなたに託すわ…アキラ君を目覚めさせられるのは…あなただけ…行ってあげなさい…」
そのまま前のめりに倒れ伏すハルカさん。
まさか!あの離れた位置から私に向けてアニマヒーリングを放ったの?
無茶し過ぎです…ハルカさん…
でもこれならいつも以上に動けるはず…!
前を向き直りアキラを見る、さっきの謎の現象でナイフを飛ばされ、
少しの間放心状態になっている様だ…洗脳された頭では考え纏まらないのだろう…だがこれはチャンスだ!
「やああああああああ!!!!!!」
私は猛然とダッシュしてアキラに飛び掛かった!
両手首を掴んで押し倒す!
ここで迷っている暇は無い!頑張れ私!男の娘は度胸よ!!
私はアキラの唇を自分の唇で塞いだ…
歯と歯がぶつかる勢いのキス!!色気も何もあっもんじゃない!!
アキラがミヤビのキスでアニマを注入されて洗脳されたって言うなら
私がそのアニマを吸い出してあげる…!!
「…んん…うむ…くふっ…ふぁっ…」
以前、公園でしたキスとは違う…大人のキス…
「くちゅ…んん…うん…ふぁ?」
何これ…?アキラの舌の動き…!!うっ上手過ぎる!!気が遠くなりそう…まさかこれはミヤビに…?うおおおおおおおお!!!負けるもんかぁぁぁ!!!
私とアキラのキス対決が勃発!!
アキラを正気に戻すためには絶対に負けられない!!
「ちゅぷ…むちゅ…うむん…はむん…ううん…」
いつの間にか周りにはミナミ達が集まって来ていた
どうやらキスを切っ掛けに【アニマチャーム】の効力が消えたらしい。
「あ~!!ずるいぞイツキ!!オイラでさえまだダーリンとキスした事無いのに~!!」
「おほっ!!エロいの~お二人さん!!ええぞ!!もっとやれ!!」
「きゃっ!!アカンよ~人前でこんなん!!はしたないわ~!!」
みんなのん気な物ね…人が戦っていると言うのに…。
ああ…段々あごが疲れて…意識が朦朧として来た…おまけに視界も真っ白に………。
「あれ?ここは?」
気が付くと私は学校の教室に居た。
しかも机と椅子の高さがかなり低い…これは小学校低学年の教室の様だ。
ふと正面を見ると子供たちが数人、一人を取り囲むように集まっている。
「おいお前、男のくせにナヨナヨし過ぎなんだよ!」
「ホント、女みたいだよな~キモいキモい!」
「やーい!女男!女男!」
男の子たちがいじめの文言を次々に口走る、それを浴びせられている子は…
アキラじゃないか!!しかも小学校二年生頃の姿だ!!
知らない人が見たら十中八九女の子と間違う程の美少女振り…だが男だ。
「…ひっく…ひっく…違うもん!…僕、女男じゃないもん!…」
しゃくり上げ泣きじゃくっていてもしっかり言い返している。
「何だと~?アキラのくせに生意気だぞ!!」
太ったいじめっ子が拳を振り上げる…が、しかし
「やめろ~!!アキラをいじめるな~!!」
両腕を広げいじめっ子とアキラの間に割って入った人物が居た。
あれは…子供の頃のオレじゃないか?!
当然だがまだ普通の、ちょっとだけやんちゃな男の子だ
まさか数年後、自分がセーラー服女装して、尚且つ女体化して戦う事になるって知ったらどう思うだろう。
「何だ?イツキ!この女男を庇うのか?」
「お前、アキラの事好きなんだろ~男同士で気持ち悪いんだよ!」
子供ならではの稚拙な倫理観で煽って来るいじめっ子たち。
「うるさい!いじめをやってるお前らの方がよっぽど気持ち悪いぜ!」
キッ!…と、いじめっ子達を睨みつける昔のオレ。
「何だと!みんな!こいつをやっちまえ!」
太ったいじめっ子の号令で、わ~!と一斉に昔のオレを袋叩きにするいじめっ子達。
この頃のオレは凄く弱かった…だからアキラを守ろうとオレは空手を始めたんだ…
「へっ!今日はこの位にしてやるぜ!」
気が済んだのか、ひとしきり昔のオレをボコったいじめっ子達は去って行った。
「いっててててて!ちくしょ~!」
「…ごめん…ごめんね…ごめん…」
床に大の字に倒れているオレの傍らで泣きながら謝り続けるアキラ
「謝んなよ…お前は何も悪くないだろう」
「でも…でもぉ…」
「また何かあったら助けてやるから心配するな」
体中の痛みをやせ我慢してニカッと笑う昔のオレ。
オレはもうこの頃からアキラに惚れていたのかもしれない…
当然それが本来、異性間で発生するはずの愛情なのだが
当時のオレはそんな事微塵も気付いちゃいなかった…
「ねえ、イツキはさ…彼女とか作ったりしないの?」
「あ?何だよ藪から棒に…」
オレは声がする方を向くと…今度は昨年の春…高1のオレとアキラが見える、舞台は河原の土手の様な所に変わっていて、そこに寝そべりながら話している。
「ん~そうだな~今のオレはアキラとか男友達とつるんでいた方が楽しいから彼女はまだいらないかな~」
「そうか~やっぱりそうだよね~」
「やっぱりって何だよ…」
彼女なんていたらお前と一緒に居られないじゃないかとは口が裂けても言えない…言ってしまった事でアキラに避けられたらオレは…
「あ~あ…アキラがもし女だったら彼女にしてやっても良かったんだけどな~」
こう切り返すのが関の山だ。
「なっ…なっ…何を言い出すんだよ!?それに何で上から目線なのさ!
…でももし僕が何かの拍子に女の子になったら考えてあげるよ」
冗談めかして言っているが、顔を耳まで真っ赤にして恥ずかしがるアキラ。
今思うとこの会話、かなりきわどかったな…変に勘繰られなくて良かった
「うっ…うううっ…」
女性の泣き声?
オレはみたび振り向くとそこには…今度は周りに何も無く、ただ真っ黒な空間になっている…
そこで真っ白なウエディングドレスに身を包んだ女性が膝を抱えて泣いていた…いや…違う…これはアキラだ!
さっきのバトルの時に着ていたドレス…恐らくはミヤビに無理やり着せられた物だろう。
「…アキラか?」
先程から過去の出来事が目の前で起き続けるものだから、これも幻なんじゃないかと若干慎重に声を掛けてみた。
「イツキ?!…どうしてここに?」
心底驚いた顔をするアキラ、頬には涙の跡がある。
「ああ…やっぱりアキラか…安心したよ」
はぁ~オレは深いため息を一つ吐いた。
「お前がミヤビに操られているから正気に戻そうとキスをしてたら…
気付いたらここに居てよ…」
包み隠さずあった事を口にした、途端!
「なななな!!!何て事してくれてんだよ!?キス!?人の意識が無いのをいい事に…!」
ドレスから肌が露出している部分が全て真っ赤っかになりながらオレの胸ぐらを掴んでガクガク揺するアキラ
「うええええ!!!やめてくれ~!少し落ち着いてくれアキラ!」
何とかなだめて大人しくさせる…あ~びっくりした…
「はあ…はあ…はあ…」
二人して肩で息をする、アキラはオレに背を向け顔を合わせてくれない…
「悪かったよ…」
呼びかけても返事が無い…まいったな…
いい加減この状況を何とかしたい。
「…公園で二人きりで話したの覚えてるか?」
ピクっと反応するアキラ
「アキラは泣いていたオレに『男だとか女だとかそんなのは関係ない!僕は人としてイツキの事が大好きだ!』って言ってくれたよな…
あの言葉、本当に嬉しかったんだ…」
アキラの耳が赤くなっていくのが後ろからでも分かる。
「ここでお前と過ごした記憶が蘇って改めて実感したよ…
オレは随分と前からお前の事が好きだったんだなって…」
後ろからアキラをそっと抱きしめる…嫌がる素振りは全く無かった。
「だから戻って来てくれアキラ…お前が居ない日常なんて耐えられないよ…」
「僕の両親が両方男でも?…人として異常な存在なんだぞ?
僕みたいなのが一緒に居て気持ち悪くないのかよ!」
震える声で何とか言葉を絞り出すアキラ
「何を言ってる…生まれなんてどうでもいいんだよ!オレは今のアキラが好きなんだ!その事実以外何が必要だって言うんだ?!」
つい勢いでとても恥ずかしい事を口走った…でもそれでいい!
オレは心の底から本当にそう思っているのだから…
「ううっ…うあ…うわぁぁぁ!」
泣きながら、振り向きざまにオレの胸に飛び込んで来たアキラを強く抱きしめる
「帰ったら小1時間程カグラ様とシノブ母さんをを問い詰めてやろうぜ?」
アキラは無言で頷き、それからしばらくの間オレたちは抱きしめあっていた。
「…ううっ…ぐすっ…あれ?イツキ…男に戻ってる?」
落ち着いたのか、ふとアキラがオレの体の異変について聞いて来た。
「ああ~そうなんだよ…この妙な空間に来た時から男に戻ってるんだ」
理由はよく解らないがそうなのだ。
だけど今、女性化しているアキラを抱きしめるには都合がいい。
「よし!元の世界に戻ろうぜ!」
オレはアキラをお姫様抱っこして立ち上がる。
「ちょっと待って!」
慌てたように声を上げるアキラ
「どうしたんだ…帰ろうぜ?」
「僕…洗脳されてたとは言えみんなを傷つけたよね…どんな顔してみんなの前に行ったらいいのか分からない…」
そう言い、うつむきうな垂れる。
「何だよ、そんな事気にしていたのか…あいつらなら笑って許してくれるさ!」
もと居た場所戻りたいと強く念じると、辺りが漆黒から徐々に明るくなりそして眩い光に包まれ、オレの意識は飛んで行った。
「はっ!?…ここは…」
意識が戻ると地面に仰向けで横たわっていた、アスファルトの冷たい感触が背中に伝わる、ただ後頭部に程よい弾力と暖かい感触…これは…膝枕?
「…お帰りイツキ」
上から覗き込んで来た顔を見てオレは心底ホッとする。
この数日オレが望んで止まなかったアキラの笑顔がそこにあった。
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