第21話 もうコイツがラスボスでいいんじゃないかな?
「何て禍々しいアニマなんだ…こんなのは初めて見るな…」
流派は違えど私からすればトランスアーツの大先輩にあたるヒカルをしてこう言わしめた、漆黒のアニマをその身から溢れさせているアルテミス。
彼の周囲はそこだけ夜の闇に覆われてしまったかの様だ。
アルテミスが身に付けているバニースーツは黒い、そのせいもあって白髪であり肌も透ける様に白い彼の姿は、闇の中に頭と両腕だけが浮いている不気味な状態だ!
「これは昨日ミヤビはんがいずみ荘を襲撃して来た時に見せたアニマにそっくりやわ~!」
慌ててアイが後方からこちらに合流する。
「むう…」
ヒカルは明らかに自分よりトランスアーツ歴の短いアイがこの現象を知っていたのが意外だったのか、ちょっとだけバツが悪そうだ…ホントそう言う所見かけに寄らずカワイイよね。
「あれに触れたらものごっつい脱力感と恐怖心が襲って来るで~!」
それは厄介だ、しかしこれでは私達の様な近接格闘を得意とするファイターはとても不利だ…一体どう責める?
「こうなったら漁夫の利狙いは止めだ!ミヤビもお前らもみんな私が叩きのめしてやるウサ!」
アルテミスから噴出した黒いアニマは、徐々に輪郭のはっきりしない巨大な球形になり彼を包み込み、そして超高速で私達目がけ突進して来た。
「みんな避けて!!」
ウオオオオンンン!!
全員大きく飛び退き、何とか事なきを得る!
通りすがりに怪物のうめき声の様な音が聞こえた、アニマ自体が唸っているのだ。
「おい!これはもう人間と戦っているとは言えなくないか?どうすんだよこんなの!」
ミナミが愚痴るが、その場に居た者はみな同じ感想を持った事だろう…
まさか、憎悪、憤怒、妬み、執念、悲しみ、そう言った負の感情を伴ったアニマがこの様な暴走を引き起こすとは知らなかった。
こうなったらあの技を…アニマストライクを使うしかない…
私が使える唯一の長射程技、この町に来て一度だけジュン&アイ戦で使ったけど
実はまだ技の練度が足りていない…こんな事になるならもっと鍛錬しておくべきだった…
「みんな!悪いんだけど五分でいいからあいつを食い止めて!」
「なっ?そんなん無理やて!」
「時間稼いでどうにかなるのかあれ!」
口々に文句を言う面々…あなた達ときたら…
「まあ待て…そう言うからにはイツキ、何か策があるのだろう?」
ヒカルがみんなを制して私の作戦を聞いてくれる…あなただけですよそう言ってくれるの…
「はい、試したい技があります!ただアニマの充填に時間が掛かるんです…」
「なるほど…その話乗った…お前たち手を貸せ!」
「はいはい、分かったよ~」
「他に手が無いさかいイツキはんに賭けてみるか!」
アルテミスだった黒いアニマの塊は駐車場の端で止まった
私はその真逆の方に向かって走る!
「ミズキ先生!ハルカさん!二人も私に付いて来て下さい!」
「ええ!分かったわ!イツキ君」
「え?私も?戦闘は苦手なんだけど…」
そして三人で黒い球の丁度対極の端まで辿り着いた、距離にして50mは取れただろうか…
「私はここでアニマの充填をするんで、二人のアニマも合わせてもらえますか?」
「なるほど!イツキ君…アニマストライクを使うのね?ベストアンサーよ!」
流石ミズキ先生、察しがいいです。
「そう言う事なら私もお手伝いするわね」
ハルカさんもやる気を出してくれた、すみません本当は非戦闘員なのに…
「はああああああ!!!!」
三人で向かい合い、両手を突き出し三方向から中心に向かってアニマを集中して合わせる、すると虹色に輝く美しい球体が姿を現す。
しかしまだソフトボール並の大きさだ、もしこのままアルテミスに放っても全く効かないだろう…
「もっと…もっと大きく…もっと強く…」
私達は更に力を込めた!
「あの光は…何だウサ?」
アルテミスが一瞬動揺したがすぐに
「小賢しい!!何もさせてなるものかあああああ~!!」
再び私たちの方へ進撃を開始した。
「みんな!!お願い!!」
「分かった!」
「まかしとき!」
まずはミナミとジュンが立ちふさがる。
しかしあの二人、どうやってあの黒球を迎え撃つつもりなのだろう…?
二人はお互いの顔を見合わせ頷くと…
「やああああああああ!!!!!!」
「うおおおおおおおお!!!!!!」
考え無しに正面から突っ込んで行った?何て無謀な…!
黒球の中にズボッと入って行ってしまった!…これで判明したのは、あの黒い球は衝撃波の類では無く、闇か霧の様な無形物なのだろう…
そして何事も無く、減速すらしない黒球…
過ぎ去った後に転がるミナミとジュン…無茶しやがって…
「…うわ~だりー…かったり~…」
全く覇気が無く地面に這いつくばるミナミ。
「うおおお!!!アカンっ!ナスはっ!ナスだけは堪忍して!!」
一方、謎な言葉を発しながら頭を抱えながら転げ回るジュン。
「…ジュンは野菜のナスが大嫌いなんですわ…」
苦笑いするアイ。
「あっそう…」
恐怖心を煽るって…幻覚でも見えるのかしら…
「ふははははは!!!愚か者め!そんな事でこの私の【アニマデススフィア】を止められるかぁウサ!!」
アルテミスの高笑いが聞こえる…
第一陣を突破されてしまった…私達の方のアニマ充填率はまだ足りない。
次はヒカルとアイという意外な組み合わせの二人が登場だ。
あの二人、事前に何か作戦会議をしていた様なので期待している。
「よし!準備はいいぞ!アイ…頼む!」
ヒカルは両手持ちでアニマソードを天に向け構える、相変わらず刀身は見えない。
「ほな、行きますで~はああああああ!!!!」
それに向けてアイは『アニママテリアル』を発動、高粘度のアニマを纏わせる。
「ふん!」
ヒカルが気合いを込めると、二人のアニマが融合して巨大な…長さにして2m、幅20cm程の真っ白な光を放つアニマブレードが完成した、普通に目視できる程物質化が出来ている。
「ウチの思い付きなんやけど、上手くいきましたな~」
「うむ、いいアニマ錬成だ…」
凛々しい表情で見つめ合う二人、実に頼もしい…さっきの脳筋二人とは大違いだ。
「では行くぞ!ウサギ狩りの時間だ!!でやぁ!!」
ヒカルがアルテミスの黒球目がけアニマブレードを上段から一気に振り下ろす!
黒球の半ば程まで切り進む大剣…やったか?
「むっ?!」
大剣が水平になった辺りで全く動かせなくなったのだ!ヒカルが必死に引き抜こうとするが微動だにしない。
次第にアルテミスを覆っていた黒いアニマが晴れて行く…そこで目に入って来た光景に一同絶句する…
何と!アルテミスの豊満なバストがアニマブレードを挟み込んでいるではないか!
「甘い!これぞ『究極奥義オッパイ白羽取り』だウサ!」
開いた口が塞がらない…
「こんな物!!」
アルテミスが更に胸に力を籠める。
パリィン!!!
アニマブレードはまるでガラスの様に粉々に砕け散り霧散してしまった!
「そんな…」
ヒカルとアイの合体攻撃まで防がれた…正直倒せないまでもダメージは与えられると思ったんだけど…
「どけぇ!!」
ドガガガガガガ!!!!!
「ぐっ…はあっ!」
目にも止まらぬ速さでの連続高速蹴り、あっという間にヒカルのプレートアーマーは剥ぎ取られ、ヒカル自身ももろ共に吹き飛ばされる。
そしてすかさず近くに居たアイの喉元を鷲掴みにし、
「そろそろ一人脱落させるかウサ…」
そう言いアルテミスは手に力を込めた…
「あ…うあああ!」
うめき声を上げるアイ
「やめて!もうやめて!」
突然飛び込んで来たシノブ母さんが、アイを掴んでいるアルテミスの腕にぶら下がる様にしがみ付いた。
「何をするウサ!…このこの!」
不意を突かれたアルテミスがシノブ母さんを引き離そうと、空いている手で掴みかかるが、シノブ母さんも必死にくいさがる。
「離せ!この…クソババア!!!」
アルテミスの鋭い蹴りがシノブ母さんを宙に舞わせた…
プチン…
…私の中で何かがキレた…
「ミズキ先生…ハルカさん…どいて下さい…」
怒りで我を忘れるんじゃないかと自分では思っていたけど、何故か物凄く冷静な自分が信じられない…
「イツキ君?…わ…分かったわ…」
只ならぬ気配を感じ取ってくれたのか、二人はアニマの充填を止め私から離れて行った、アニマの光球は大体バレーボール位の大きさになっただろうか…
私はそれを両手で包み込み胸に押し当てながら言った。
「…バトル中の暴言は、お互い様の所があるからとやかく言う気は無かったけど…
今の発言だけは許さない!!!
言うに事欠いてシノブ母さんをクソババア呼ばわりして!!」
私は声を荒げた、ごめんシノブ母さん、今私も言っちゃった…
「はっ!そんな事!クソババアをクソババア呼ばわりして何が悪いウサ!?」
掴んでいたアイを放り投げ、全く悪びれないアルテミスにとうとう私の堪忍袋の緒が切れた…
「もういい…あなたに男の娘でいる資格は無いわ…受けなさい…『アニマストライクジャッジメント』…」
淡々とした口調で私は手にしていたアニマ光球を静かに前に押し出す、勿論アルテミスに向かってだ。
私の手から離れた虹色の光球は、人が歩く程度の速度で確実に飛んでいき、やっとアルテミスの眼前まで迫った。
「なぁにこれ?こんなへなちょこ球に私がやられるとでも?」
嘲笑しながら光球を叩き落とすと…その光球は一気に弾け、アルテミスを包み込んだのだ!
「うわぁ!何だこれはぁぁぁぁ!!!かっ…体が…体がぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
バリバリバリバリバリ…………!!!!
轟音と共にスパークするアニマ光球、その中でアルテミスは自分の両肩を抱きしめ膝を付く。
「うぐぐぐぐぐ…!!あ?!」
程なくしてアルテミスの体に異変が起きる、あの豊満だったたわわな胸は見る見る減っていき、腰回りが小さくなり、股間には男性のシンボルによる膨らみが出来ていたのだ!
当然引っかかりが無くなったバニースーツのバスト部分は、ペロンと下にめくれてしまっている
「いっ…いやああああああ!!!!!!私の…私のGカップの胸があああああ!!」
そんなにあったのか…
「もうあなたはアニマを一生使えなくなったわ…もちろん女体化もね…」
アニマストライクは本来、間合いの離れた相手に打撃を与える技なのだが、
アルテミスのシノブ母さんへの仕打ちと暴言を目の当たりにした、私の悲しみと憤りのアニマに呼応して技の性質が変化したのだ、技を受けた者が二度とアニマを生成、発動できない様に…私には何故か直感的に技の性質が理解できた。
「うっ…うわああああんん!!!!こんなの…あんまりだあああああ!!!」
あなたにはその台詞、言ってほしくないわね。
アルテミスは胸と股間を手で隠し、号泣しながら走って行ってしまった。
「あなたの場合因果応報!悪いけど同情はしないわ!」
アルテミスの姿はどんどん遠ざかり遂には見えなくなった…
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