最終章 人生なる様にしかならない(苦笑)

第20話 一心同体、男の娘隊!

昨日の激戦から一晩明けたのだが、一つ困った事が起こった。


『…明日の正午までに【太陽台】にいらっしゃい…そこで全ての決着を着けましょう…』


昨日のミヤビの台詞だ…そう、昨日は日曜日だった、必然的に今日は月曜日なのだが当然学校がある訳で…


「世界の危機だから学校休みます!」


パジャマのまま食堂に来て、丁度居合わせたミズキ先生に直に申し出る。

昨日色々会ったせいで先生はいずみ荘に泊まっていたのだ。


「教師である立場上OKとは言い難いんだけど、こればかりは仕方が無いわね…私も休むから同罪だし…私から学校には連絡しておくから…ウフフ」


苦笑いを浮かべるミズキ先生、眼鏡が壊れてしまった先生は今は掛けていない、とてもレアだ。


「ありがとうございます!」


取り急ぎ朝食を済ませ、まずはお風呂場に隣接する洗面所で洗顔と朝シャンだ。

髪を洗いバスタオルで軽く叩くように水分を取る、ドライヤーを使うと髪質が傷んじゃうからね。

いつものセーラー服に着替え、鏡に向かってお肌のお手入れ。

今日も一日中外で戦うかも知れないからUV対策は万全にしなきゃ。

最後にリップ、お気に入りのナチュラルピンク、ちょっとだけおしゃれをしてもいいよね。

今日は最終決戦だから、気合いを入れる意味でカチューシャも新調した、今までのは激戦で傷んでいたから…


「おいイツキ!いつまで準備に時間をかけてるニャ!」


カグラ様が焦れて怒鳴って来る。


「もう!男の娘の支度には時間が掛かるんですよ!」




「よし!みんな揃ったニャ、ではみんなマイクロバスに乗り込むニャ!」


決戦の場は【太陽台】、このN町のかなり郊外の山間部にある展望台だ

『地球が丸く見える』がキャッチフレーズで、その言葉に違わず展望台の最頂部から眺める景色は全く遮るものが無く、360度地平線が見える

流石にいずみ荘から徒歩で行くにはとても時間が掛かるので乗り物での移動が必須だ、以前も乗った事のあるマイクロバスにみんなで乗り込む

メンバーは私ことイツキ、カグラ様、シノブ母さん、ミズキ先生、ハルカさん、ミナミ、ジュン&アイ、ヒカルの9人。


「今回は私が運転するわね!」


ミズキ先生はスーツの胸ポケットから新品の眼鏡を取り出しスチャっと掛けた。

緑のフレームのアンダーリムだ。


「先生は本当にアンダーリムの眼鏡が好きですね」


「これは私のこだわりよ、知的に見えていいでしょ?」


パチッとウインクする仕草にドキンとした

今の感情はこの場合、男の私と女の私、どちらの胸が高鳴ったのかしら…


「はい!出発するわよ~」


マイクロバスは太陽台に向けて出発した、バスの中に緊張感が…って!


「よし!ここは一発景気付けにお菓子食べよう!」


バッグからポテチの袋を取り出すミナミ。


「ちょっと!今出発したばかりでしょう?」


私の言う事を完全スルーしてミナミが袋の背の合わせ目から開こうとする、俗に言う【パーティー開き】をしようとしているのだが上手くいかず変に力んでいる。


「う~ん!!」


これはまさか…


バーン!パラパラパラ…


「うわぁ!!」


「ミナミのあほ~!何してけつかんねん!」


「ああ…勿体無い…」


盛大に車内にポテチをばら撒いた…


「やっぱりやった…」


全く…これから私たちは世界を守る戦いに赴く所なのに…

まあ緊張でガチガチになるよりはいいか…

今みんながリラックスしているのには理由がある。

普通なら、世界の危機…まずはこのN町に危機が迫り、特にアキラが拉致られたままなのだからミナミ辺りが黙ってないはず。


話は昨日の夕方に遡る。


私とカグラ様、ヒカルが教会から戻ってすぐ


ピロピロピロリン♪


食堂に居たみんなのスマホやケータイのメールの着信音が鳴り響く。



「飽きたから帰るね バイバイなの~! チアキ」



チアキから?あんなに敵愾心をむき出しにしていたのに…このメールは一体どのような心境で打ったのだろう…私には伺い知れなかった…


「えっ?何だこれ…どうしたんだチアキの奴、まさかもう戻って来ないつもりなのか?」


驚きを隠せないミナミ、僅かだがルームメイトだったのだから無理も無い。


「あの、みんな…」


思わずチアキの事を話そうとして口走ってしまった!


「何なん、イツキはん?」


小首を傾げるアイ。

どうする?…さっき教会で起こった事、チアキの正体と本性に付いてみんなに話すべきかどうか…


「実はね、さっき戻って来る途中でチアキに会ったの…」


「本当か?!」


ミナミが食いついて来る。


「それでね、もうこの町でする事も無くなったからもと居た町に帰るって言ってたわ…」


「はぁ~?何ですのん?それ」


呆れるジュン。

もちろんこれは嘘だ…咄嗟に口から出まかせで言ってしまった…

知らないなら知らないままの方がいい事だって…はっ…そうか!師匠とシノブ母さんだってトランスアーツの事がアキラに知られなければ、真実は知らない方がいいと判断して…

師匠…今ならあなたの気持ち、痛い程わかります…

私はカグラ様とヒカルに目配せした、くれぐれも内緒にしてくれと…

二人は小さく頷いた。


「所でイツキ君、教会はどうだったの?」


椅子に腰かけているミズキ先生が、ずり落ちた眼鏡の位置を直しながら聞いて来る、予備の眼鏡はイマイチ顔にフィットしていない様だ。


「途中でアルテミスと戦っていた師匠と合流して教会までは行ったんですが、あとちょっとの所でアキラを連れたミヤビに逃げられちゃって…」


「そう…それは残念ね…」


ため息を吐く先生。


「ごめんなさい…」


あれ?勝手に涙がこぼれる…チアキの件で嘘を吐いた罪悪感とアキラを助けられなかったのが悔しいから?


「あっ!違うのよ!別にイツキ君を責めて無いからね?」


慌てて立ち上がり、私を軽くきゅっと抱き寄せてくれたので、私も先生に寄りかかって少しだけ泣かせてもらった。


「みんな~…」


憔悴しきった涙声でフラフラとこちらに歩いて来るシノブ母さん

床にぺたんと座り込むや否や


「ごめんなさい!わたしの吐いた嘘でアキラちゃんを傷つけ、みんなに迷惑を掛けてしまって本当にごめんなさい!」


深々と土下座をした。

それを見たカグラ様は急に表情がくしゃくしゃの泣き顔に変わり


「一番悪いのはワシニャ!シノブはワシの言った事を守っただけニャんだ!責めるのはワシだけにしてくれ!みんな済まニャい!」


シノブ母さんと並んで土下座をしだした。


「ちょっと!…やめてください!私達に謝ってもらっても困ります!」


みんなでふたりを立ち上がらせる、逆にこっちが申し訳なくなって来た。


「実は教会でミヤビは決着を着けようと言って、明日の正午までに太陽台に来る様にと指定してきたわ!」


「えっ?!」


「何やて?!」


「現状、コンディションがいいのは私だけ…こちらのヒカルさんに応援を頼んだから二人で…」


「こら!何を勝手に話を進めてるんだ!」


ミナミは激怒した。


「アキラを助けたいのはここに居るみんなが思ってるんだぞ!お前らだけで行こうなんてカッコつけ過ぎだ!」


「せやでイツキはん!ワテらだってこんな怪我、一晩寝たらけろっと治りますさかいにな」


「死なばもろとも~ウチら運命共同体ですやんか~」


「我が加勢をするんだ、負け戦など有り得ん!」


「まあ!みんな頼もしいわね、戦闘で怪我をしても私が救急箱持って行って手当をしてあ・げ・る」


「そう言う事!明日はみんなで総力戦を仕掛けましょう?イツキ君」


「みんな…ありがとう…」


堰を切ったように止めどなく溢れてくる涙…


「私、本当はこんなに泣き虫じゃないんだからね?」


私に抱き着いて来るミナミ、ジュン、アイ、みんな薄っすらと涙ぐんでいる。

大丈夫…みんなでやればきっと上手くいく…大丈夫。


こうして私たちの結束は強まったのでした。




30分程で目的地の太陽台に着いた。

観光バスなども来る事から駐車スペースもそれなりに広く取られているのだが、展望台に続く階段の前にとても場違いな、そして見覚えのある格好の人物が立っている。

白髪の最凶バニー、アルテミスだ!


「やっと来たウサ、随分のんびりしているウサね、待ちくたびれたウサ」


マイクロバスから降りて来た私達に向かってふぁ~っと欠伸をして見せた。

いつ聞いてもウザったい語尾だ、イラッと来る…

アルテミスがここに居ると言う事は間違いなくこの上の展望台にはミヤビが居るだろう、そしてアキラも…


「別に待っててくれなくてもよかったのにな~」


わざと心底残念そうな仕草で応えるミナミ。


「悪いねんけど余りあんたに構ってられないんや!ここは力ずくで押し通るで!」


ジュンも拳を突き出し勇ましく言い放つ。


「そう!ここはみんなで一気に掛からせてもらうわ!」


私、ミナミ、ジュン、ヒカルはアルテミスを取り囲み戦闘態勢に入った。

ダメージの多く残るアイとミズキ先生、アニマを吸い取られてしまった師匠、非戦闘員のハルカさん、シノブ母さんは離れて見守っている。

これは事前にみんなで相談して決めてあった事だ。


「まあ待てウサ、私はお前たちと戦うためにここで待っていたのでは無いウサ」


両手を上にあげ戦意が無いと言うポーズをとるアルテミス。


「えっ?」


絶対にこの人が言わないであろうセリフが飛び出し、私達は顔を見合わせ困惑する。

「条件しだいではこのままお前たちを先にいかせてやってもいいウサ」

願っても無い申し出だ、時間も戦力も無い今、無駄な戦闘は極力避けるべきだが、

でも怪しすぎる…一体何を企んでいるのか…


「…それでその条件とは?一応聞いてあげる…」


この場を緊張感が支配する、果たして彼は何と言って来る?


「私と手を組まないかウサ?」


「…!!!何ですって?!」


全く予想だにしない条件!


「どういう事だ…ミヤビはお前たちの首領では…仲間ではないのか?」


ヒカルがアルテミスに静かに問い質す、私たちみんなが抱いた疑問を代弁してくれている。


「正直、私には【全人類男の娘化計画】なんて興味ないんだウサ、ミヤビと手を組んだのもあのルナに復讐するため…しかもその目的はとうに達成しているウサ…

だからミヤビが居なくなればこんな茶番も終わるという物ウサ!」


そう言われればバラ対ユリの団体戦に初めて月華団が現れた時にアルテミスは実の父親であるルナを手に掛けていた…命までは取っていないが事実上抹殺したような物だ…しかし!


「お断りします!!!」


「何…だとウサ?!」


大声できっぱりとアルテミスの申し出を拒否した私。

自己中心的な物言いに私も遂に我慢しきれなくなった。


「お前たち、そもそもここにはミヤビを倒しに来たんだろ?何故断る?!」


珍しく狼狽えるアルテミス、真っ赤な目を見開いてこちらを見回す


「ここに来たのはあくまでアキラを助け出すため!あなたこそ月華団を見限ったなら何処へなりと去ればよかったのよ!

仮に【全人類男の娘化計画】の阻止の為にミヤビさんと戦う事になったとしてもあなたの望みを叶える物では断じて無いわ!!」


ドーン!!と効果音が付きそうな勢いでアルテミスを指差す!


「交渉決裂だ~!!貴様ら全員ズタズタにしてその辺に捨ててやるウサ!!」


悪魔の様な形相で激昂するアルテミス!

どす黒い負のアニマを体から盛大に噴出させ、駐車場全体を激震させる。


こうして人類の性別の存亡を賭けた最終決戦の幕が切って落とされた!

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