第19話 友達?いえ…知らないコですね

「これは一体…何があったって言うの?!」


いずみ荘に戻って来た私達の目に飛び込んで来たのは、満身創痍のアイの姿だった。


「アイ!アイしっかりせんかい!」


さっきの戦いでボロボロのジュンが、おぶって来た私の背中から急いで飛び降りる、アイは食堂の休憩スペースに敷かれたマットの上で完全に気を失っていたのだ。

枕元には床に崩れる様に座り込みすすり泣くシノブさんの姿があるが


「ごめんなさい…ごめんなさい…」


と、うわ言の様に繰り返すだけだった。


「師匠!カグラ様はいませんか?」


食堂に向かって呼びかけるも返事が無い、誰か事情を説明して!


「私が…説明するわ…」


ハルカさんに肩を貸してもらいながらミズキ先生が部屋に入って来た、

こちらも傷だらけで、いつものピシッとしたスーツとストッキングが所々破け、眼鏡も壊れている。


「…!大丈夫ですかミズキ先生!」


「…大した事ないわ…さあみんな…テーブルに着いて…

みんな…いい?よく聞いて…実は…」


みんな着席した後、意を決してミズキ先生は私たちが出掛けている間にいずみ荘で起こった事を話してくれた。


「そんな…アキラが洗脳されて敵に回ったなんて…」


「それよりもアキラがカグラ様とシノブママの間に生まれたって話も強烈だよ!」


「…って事はウチらも子供産めるん?」


一同かなりのショックを受けてしまった、食堂内がまるでお通夜状態だ。


「しかもアキラ…ミヤビとキ…キ…キスしてたですって…!?」


怒りと悲しみが一緒くたになった感情が湧き体が震える。


「まあそれは今は置いときなさいな」


ハルカさんが苦笑いしている、


「うう…すみません」


思わず本音が出てしまった、今はそれ所じゃないと言うのに…


「いくら操られていた言うてもまさかアキラはんがシノブママやアイに手を上げるとは信じたないな…」


ジュンもかなり凹んでいる様だ、眠っているアイを心配そうに見つめている。


「ミヤビさんが飛び去った後、カグラ様もすぐ後を追って行ったの…あれから10分位経つけどまだ戻って来ていないわ…」


テーブルに両肘をつき頭を押さえながらため息を深く吐くミズキ先生、


「打つ手無しですか…」


私はつぶやき、更に重くなる空気…


「教会でござる…」


え?今のござる言葉は…みんな声のした方を見るとそこにはくのいち装束のカナメが壁に寄り掛かって立っていた、心なしか足がプルプル痙攣している様な…


「彼奴等月華団はバスターミナル近くの教会に潜伏しているでござる」


「あなた月華団側でしょう?そんな情報話しちゃっていいの?」


「別に良い…手当の礼とでも思って頂ければ結構」


そう言い捨てノロノロと部屋を出て行くカナメ、足に怪我でもしているのかしら?


「じゃあ私はその教会に向かおうと思います!」


私はテーブルから跳ね起きた、場所さえ分かれば手の打ちようもある。


「待ちなさいイツキ君!一人では危険よ!」


ミズキ先生が引き止める


「でも今まともに動けるのは私だけでしょう?」


みんなさっきの戦いで満身創痍だ。


「あっそうだ…チアキちゃんに一緒に行ってもらいましょう!あのコもそんなにダメージは受けていないはず…って、あら?チアキちゃんは何処?」


一同部屋を見回すがチアキは居なかった…いや!そう言えば帰ってから見て無い!


「そんな?キューブから帰る時は一緒やったで?ほら、タツミを「重いの~」とか言っておぶってたやないか!」


「なら、いつから居ないんだよ!?」


一体何が起こっているのだろう?…チアキはどこへ行ってしまったのか…


「仕方ない、オイラも行く!」


意気揚々と立ち上がるミナミ、だが私はすかさずミナミの胸の辺りをポンと軽く叩く、


「いって~!何するんだよ!」


前かがみになり胸を押さえるミナミ、


「ほら全然ダメじゃない…あんたは大人しく待ってなさい!」


「…むう~」


口をとんがらせてむくれるミナミをしり目に私は一路教会へ向かった。




「存外しつこいのですわねお父様…」


「お前が逃げ続けるからだニャ!諦めてアキラを置いていくニャ!」


ポンポンと次々に民家の屋根の上を飛び移り逃げるミヤビに追うワシ、

ミヤビの腕には眠ったようにぐったりしているアキラが抱かれている。

人ひとりを抱えていてはそうスピードは出せまい、おまけにワシの等身も高くなっているからじきに追いつくニャ。


「いくら息子が可愛いからと言って、こちらばかり見ていては危なくてよ?」


顔だけこちらに振り向き減らず口を叩くミヤビ、動揺させようとしてもその手には乗らないニャ。

屋根と屋根の間隔が広い場所を飛び越えた刹那、高速で飛び上がって来る何かがワシの胸元をかすめる!吹き飛ぶリボン。


「何ニャ?!」


「惜しいウサ!タイミングが少し早かったか…」


それはバニーガール姿の稲葉アルテミスだった、地面からのジャンピングアッパーでこのワシを狙って来るとは…何と言う跳躍力ニャ!


「あんたに付いて来られると困るウサ、ここからは私と遊んでもらおうかウサ」


手近な屋根の上に着地してワシにケンカを売るアルテミス、


「ワシもなめられた物だニャ…いいニャ!掛かって来るニャ!」


ワシの手の指全部の爪が猫の爪の様に飛び出す、本物の爪が伸びたのではなくアニマで形成された物、言わばアニマネイルニャ!


「喰らえニャ!アニマネイルスクラッチ!」


アルテミスと離れた状態のまま両手のネイルで宙を切る、


「何を愚かな!その位置で届く訳が…」


ヒュン!


頬に一筋の線が引かれ赤い物が伝う、慌てて頬を押さえた手を見るアルテミス。


「き~さ~ま~許さんウサぁ!!」


大激怒し真っ赤な目でこちらを睨みつけてくる。

だが急激に奴のアニマが高まったな…まさか怒りでパワーアップするタイプなのかニャ?

瞬きしたほんの一瞬で正面に居たはずのアルテミスが消えた!

アニマの気配まで瞬時に消すとは…さっきのアッパーの時もそうだが技量は親のルナ譲りなのだニャ、だがジャンプ力に自信があるアルテミスならきっと…


「上だニャ?!」


ひらりと体をかわすと案の定上から高速で落下して来たアルテミス、


「ちっ!」


舌打ちが聞こえる、


バキバキ!ドンガラガシャン!


何と民家の屋根を蹴破って行ってしまったではないか!


「あ~あ…あとで弁償しておけニャ!」


穴を覗き込むワシだったが不意に屋根の穴から飛び出して来た手に左足首を掴まれる!下の階までは落ちて無かったのか!


「しまったニャ!」


まずい!これはきっとあの技が…!


「フフフ…捕まえたウサ…受けろ!アニマアブソーブ!」


アルテミスが足首を掴んでいる手を発光させるとワシの体からドンドン力が抜けていく、大人体型だった体も元の幼女体型に戻って行った。

これ以上アニマを吸い取られたら普通の男になってしまう…ワシもここまで…か…


「やめなさいアルテミス!師匠から離れて!」


颯爽とイツキが現れ、アルテミスの手を蹴り飛ばしワシを抱えて飛び退いたのだ。


「大丈夫ですか?カグラ様!」


「済まぬ…助かったニャ、イツキ」


危なかったニャ~今更ただのおっさんには戻りたくない…


「奴らのアジトが分かりました、私はこれからアキラを取り返しに行きます!このままではアキラの貞操が…じゃ無かった…私はただ純粋にアキラが心配で…」


イツキめ…困った奴ニャ…


「分かったニャ…行くのニャイツキ!」


「はい!!」


イツキはワシを小脇に抱えたまま教会へ向かって走り去った、但しワシは顔が後ろ向きに抱えられている、まあ後方監視が出来るからこれでも良いが…


しばらく進んでからワシは違和感を覚えた、


「おかしいニャ…」


「何がですか師匠?」


「イツキお前…ワシの尻に話しかけてニャいか?」


「仕方ないじゃないですか!この向きに抱えてしまったんだから!」


いや、冗談のつもりで言ったんだがマジ切れされた?


「いや…あれからアルテミスが追って来ないんだニャ…」


「あ!そう言えば…」


ワシを掴んでいた奴の手をイツキが蹴とばしただけだから、そんなにダメージはないはず…


「考え過ぎかもしれニャいが、わざとワシらを教会に誘導してはいニャいだろうか…」


「私には分かりません!今はただ教会を目指すだけです!」


元気いっぱいに答えるイツキ、


「お前は単純でいいニャ~」


まあ罠だとしてもその時はその時ニャ。




「お~い!なの」


もう少しで教会という所まで来ると、前方に両手をブンブン振り回す人影が見える、あの異様に長いツインテールとチアコスチュームはチアキだ!


「無事で良かった!見当たらないから心配したのよ?チアキちゃん」


師匠を地面に下ろしチアキの手を握る。


「えへへ!ゴメンなの」


頭に手を当てて苦笑いするチアキ、


「でもどうしてここに来られたの?みんなで相談してた時にチアキちゃん居なかったよね?」


ぴくんと一瞬だけ身震いしたチアキ、でもすぐに何事も無かったかのように


「あ~それならさっきミナミに電話したの~イツキが一人で教会に向かったから手助けしてやってくれって」


「そう…ならいいんだけど…」


何だろう…何か引っかかる…師匠じゃないけど私の考え過ぎかな?


「それよりほら…敵は…教会の中にはミヤビと数人の男の娘メイドだけなの!さっさと入ってさっさと倒して帰ろうなの!」


「そ…そうね」


妙に急かすチアキ、その時カグラ様が私のスカートの裾を引っ張るので視線を落とすと、何やら神妙な表情をしている。

私は教会の大きな木製の扉に手を掛け押し開けた。


ギィィィィ


ここは…礼拝堂かしら?中央に祭壇と壁の高い所に十字架があり無数の蝋燭が部屋を灯している。


「ようこそ!我が月華団のアジトへ!歓迎しますわ!」


両手を広げわざとらしく口上を述べるミヤビ、目の前の台にはアキラが横たえられている。


「アキラ!」


私は思わず身を乗り出そうとしたその時、


「イツキ!伏せるニャ!」


バシィィン!!


カグラ様の合図で咄嗟に伏せた!さっきまで私の頭があった位置にまるで合掌している巨大な手の様な物があった、

いやこれは髪の毛、チアキのツインテールが左右から合わさっているのだ!

私を蚊か何かと間違ってるんじゃない?!


「ちっ…避けられたか…もしかして気付いていたのか?イツキ」


すぐさまその場を飛び退きミヤビの横に移動したチアキ、ドスの利いた低音の声、いつものチアキの声と話し方では無い。


「それはそうよ!さっきの会話であなたは大きなミスをしていたもの…」


「…!」


押し黙るチアキ、


「あなたさっき「教会に中にはミヤビと数人の男の娘メイドだけ」って言ったよね?どうしてまだ入っても居ない敵のアジトの内部を知っているの?」


「ちっ!」


バツが悪そうにまた舌打ちをした。


「それにメイドが男って知っているのも変!私は初耳だし、私達はそんな情報掴んで無かったもの…」


「あ~あ!しゃべりすぎたか~失敗失敗!ゴメン!ミヤビ様~テヘ!」


大して悪びれて無いチアキ。


「だから普段からあれほど言動には気を付けなさいと言ってあったでしょ

うに…あなたはおしゃべりが過ぎます」


心底あきれ顔のミヤビ、へえ~あの人あんな顔もするんだ…っとそんな場合じゃ無い。


「だけどいつからなの?月華団のスパイなんて…」


「最初からニャ!」


「え?」


カグラ様…何を言って…


「団体戦の時にお前が所属していたユリ組ですらスパイの対象だった…そうだろう?チアキ」


体を屈め、声にならない程の笑い声で腹を抱えるチアキ


「あはははは…よく気付いたな~ゴスロリオヤジ!」


「ムカっ!」


「そうだよ!月華団以外のトランスアーツの派閥を根絶やしにする為の諜報活動だ!オレは最初から月華団所属だったのさ!」


「何ですって?!」


それでは月華団はかなり前から活動していた事になる…私なんてトランスアーツ歴はまだひと月だって言うのに…


「だ・か・ら・しゃべり過ぎですわって言ってますでしょ!」


ペシっと頭を叩かれるチアキ、あの~あなた達は漫才でもしてるんですか?


「もう!こんな事をしている時間は無いと言うのに…チアキさん!」


「…はい…」


うっとりした表情で目をつむり、唇を突き出し顎を上げるチアキ、そしてその唇を唇で塞ぐミヤビ!って


「うわぁ!!何やってるんですか!みんな見てますよ?!」


私は慌てて掌で目を隠す、でも指の隙間からは見えているけど…


「うむ…んぐ…んん…ぷはぁ…ああん!」


………何かエロい…私もまたアキラと…ってだからそうじゃなくて!


「何を見とれているニャ!あれはアニマスレイブ…ミヤビの奴、チアキをパワーアップする気だニャ!」


「あっ!そうでしたね!あれがハルカさんが言ってたスキル…」


体からにじみ出る黒いアニマ…傍から見てもチアキのアニマが強大になって行くのが分かる。


「ふう…これくらいでいいかしら…?」


少し息を切らせ艶っぽくつぶやくミヤビ


「うおおおお!!!!!アニマ入りましたあああああああ!!!!!」


物凄い大声を張り上げるチアキ、ツインテールがまるで別の生き物の様にのたうち、目も据わっていてとても普通じゃない雰囲気を醸し出している。


「ではチアキさん、後は宜しく頼みましたよ」


「はぁい…ミヤビ様」


ミヤビは気を失っているアキラをお姫様抱っこの態勢で抱き上げる。


「ちょっと待ちなさい!アキラをどこへ連れて行くつもり?」


「おっと!これ以上は行かせねぇ!」


ミヤビに近寄ろうとする私をチアキのツインテールが立ち入り禁止のロープよろしく行く手を遮る。


「わたくし達の作戦はもう最終段階にまで来ていますのよ…明日の正午までに【太陽台】にいらっしゃい…そこで全ての決着を着けましょう…あなた達がここから無事帰れたらの話ですけれど…うふふふふ…御機嫌よう」


「あ、そうそう!メイドの皆さんはチアキさんの言う事をよく聞いて下さいね」


「「「「「承知しました…ミヤビ様」」」」」


そう言い残してミヤビは裏の扉から礼拝堂を出て行ってしまった。

残されたのは私とカグラ様、チアキと十数人の男の娘メイドの方々。


「さ~て…どういたぶってあげようか」


下卑た笑みを浮かべるチアキ、違う!こんなの何かの間違いだ!あの天真爛漫なチアキちゃんはあんな風に笑わない!


「やめてチアキちゃん!私達友達でしょう?!」


「あ~ん?何マヌケな事言ってんだ!さっきネタばらしをしただろう!!

てめえらなんか友達でも何でもねえ!!」


怒鳴り散らすチアキ、そうか…これが現実…あれ?涙が出て来る…そうか友達だと思ってたのは私だけだったのか…


「決めた!おいメイドども!あの二人を取り押さえろ!」


「「「「「承知しました…チアキ様」」」」」


「お前ら!このメイドどもはミヤビ様に操られているとは言え普通の男達だ、まさか格闘技経験者のお前らが手を上げたりしないよな?げへへへへ!」


何て下品な笑い方、もう見たくない!聞きたくない!

男の娘メイド達がゾンビの様に両手を突き出しながらこちらを取り囲んで来る、感傷に浸る暇は与えてくれそうにない。


「こらイツキ!今こんな所で凹んでる場合か!何とかしてここから脱出すニャ!」


カグラ様に怒られてしまった…そうだ、ここを切り抜けないとアキラだって助けられない!

しかしチアキが言う様にこのメイド達はアニマを使えない普通の男の子たち、

ただ月華団に操られ女装しているだけでのいわば被害者だ。

殴り倒してしまえば容易く脱出できるが手荒な方法はなるべく取りたくない…

どうする…?更に狭まるメイド包囲網…


「情けないぞイツキ!貴様それでもこの我を負かした戦士か?!」


声と同時に凄まじい衝撃波が飛んで来た、私たちの周りを取り囲んでいたメイド達は一瞬にして気絶しバタバタと倒れていく。

そこに居たのは足先まである長いコートの人物、フードをはぐると美しい金髪の三つ編みがこぼれる。


「あなたは…ヒカル…さん?」


「何をこんな雑魚に手こずっている!こんな時に情けは無用!」


完全にコートを脱ぎ捨てる、いで立ちはあの青紫の女騎士風衣装にプレートアーマーだ。


「だからって!…彼らは一般の人ですよ?!」


まだ吹っ切れていない私は思わず瞳を潤ませてしまった。


「…そんな顔をするな、手加減はしてある」


いつもの淡々とした態度になったヒカルだけど、彼なりに私に気を使ってくれたんだと思う、優しい所あるんだ…


「ありがとう…」


「礼などいい…我も目の前のあやつには用がある…」


あやつとは当然チアキの事だ…ユリ組の仲間だったはずのチアキが実は月華団のスパイだったのだ…実際ユリ組は壊滅状態なのだからヒカルが怒るのも無理はない。


「何だぁ?てめえも来たのかヒカル!ユリ組に居た時は随分とコケにしてくれたじゃねぇか!」


「暫く見ない間にガラが悪くなったなチアキ…元チームメイトのよしみだ…ここで引導を渡してやる!ありがたく受け取れ!」


ヒカルは文字通りの伝家の宝刀アニマソードを構えチアキに突っ込んで行く。


「馬鹿が!ミヤビ様のアニマでパワーアップしたオレの力を見せてやるぜ!」


チアキのツインテールからボンボリが外れると、頭のサイドの結び目から髪の毛が無数の束に別れヒカルに襲い掛かる、まるでギリシャ神話のメデューサの様だ、そうなると剣で戦うヒカルはさしずめアポロンと言った所か…


ズガガガガガ!!!!!


ヒカルの剣とチアキの髪の毛の応酬が超高速で繰り広げられる、だがやはり手数の多いチアキが段々とヒカルを追い詰めて行く。


「どうしたどうした!お前の力はこんなもんか?!」


「ちぃ!案外手強い!」


険しい表情のヒカル、まさか彼がここまで劣勢に陥るなんて予想外だ、それほどまでにアニマスレイブの強化は尋常ではないと言う事!


ドスゥ!!


「うぐ…!!」


ヒカルのわき腹に髪の毛が突き刺さる、とうとう剣で裁ききれなくなったのか、

たまらず大きく飛び退き間合いを離すヒカル、丁度鎧と鎧の隙間を狙われた格好だ。

室内での戦いというのも私達には不利に働いている

チアキは広範囲の攻撃が出来るので、私たちは部屋の角に追い詰められたりしたら終わりだ…


パンパン!


私は自分の頬を思いっきり両側から叩く!


「よ~し!」


もうクヨクヨするのはやめやめ!


「何ニャどうしたニャイツキ?」


「気合い入れました!!」


カグラ様に向けてドヤ顔で返事をし微笑んで見せた私、その様子を見てヒカルは


「どうやら吹っ切れたようだな、何か策はないのか?」


と聞いて来た。


「じゃあヒカルさん、僅かな時間でいいのでチアキのツインテールを封じてもらえませんか?!」


「簡単に言ってくれる…ハハッ!いいだろう…こちらも取って置きを出すか」


あまり表情を現わさないヒカルがニィっと口角を上げた、何とも頼もしい笑みだ。


「お願いします!!」


私の合図を受けヒカルが脇を閉めて力を籠める、


ググググ…


「受けよ!プレートアーマーキャストオフ!」


バガアアアアン!


「何だああああ?!」


前方に向かい弾丸みたいに飛び散るヒカルの鎧や装備品たち、不意を突かれたチアキは咄嗟にツインテールを体に巻き付け完全に防御に回った。


「ナイス!ヒカルさん!」


私は猛スピードで助走を付けチアキの脇に回り込み、渾身の飛び蹴りをお見舞いした。


ドカアァァァ!


「うおああああ?!」


顔まで髪で覆ってしまって周りが見えなくなっていたチアキは死角からの攻撃に対応できなかった様だ。

面白いくらい勢いよく吹っ飛び、丁度その先にある扉から外へと飛び出していった。

よし!これで狭い所に追い詰められる心配が無くなった、私達も続いて外へと向かった。


「いててて…イツキてめえ!よくもやってくれたなぁぁ!」


うつ伏せ状態から起き上がり鬼の形相でこちらを睨みつけるチアキ


「よく言うわ!こっちだって怒ってるんだから!みんなの友情を弄んだ報い、受けてもらうからね!」


言ってやった!怖いけど言ってやったよみんな!


「うるせえぇぇぇぇぇ!」


チアキは右側の髪の毛を全部まとめて作った大きな拳で殴りかかって来た。


ドカアァァァ!!


私はまともにその攻撃を頬で受けた、そうこれはわざとだ!口から僅かに血が流れた。


ボシュウウウ!


「何ぃ?!」


チアキの髪の毛製の拳が跡形も無く消し飛んだ、これは相手にダメージを反射させる【アニマリフレクト】ジュンの開発したアニマスキル、但し物凄く痛い!


「これはジュンの分!」


お次はチアキに向かってアニマを集中…チアキの体に纏わせて動きを封じる、これはアイの【アニママテリアル】!


「うっ動けない?」


「ヒカルさん!左の髪も切り落として!」


「おう!」


ビキニアーマーのヒカルがアニマソードを振り落としチアキの髪を切断した、これであの邪魔なツインテール攻撃はもう出来なくなった!


「これはアイの分!」


「ぎゃあああ!!!オレのツインテールがあああああああ!!!!!」


頭を押さえ叫び回るチアキ、もう半狂乱だ!


「てめえええええ!!!!もう許さねえええええ!!!!!」


小細工無しの右ストレートパンチで向かって来た、これはチャンス!

顔の横を紙一重でパンチがすり抜けて行く…それに沿う様に私も右の拳を伸ばす。

カウンター!ミナミの得意な攻撃手段、相手の踏み込みが深い程威力を発揮する!

今はこれ以上無い位絶好の条件!


ゴガン!!


「ごあっ!!」


超高速できりもみしながらぶっ飛んで行くチアキ、そのまま頭から地面に衝突、暫く回転してからバタリと倒れた。

口から泡を吹いて白目をむいている…気絶した様だ。


「これはミナミの分、ってあれ?私とアキラの分が入れられなかった…」




「手を貸したのはいつぞやの借りを返しただけだからな?」


若干照れ気味に私から目を逸らすヒカル、こう言うのをツンデレって言うのかな?


「わかってますよ、でも本当に助かりました、ありがとう!」


ヒカルの手を包むように握ると顔中真っ赤になった…カワイイなこの人。


「条件次第では…また手を貸してやらない事も…無い…」


口ごもりつつ助力を申し出てくれた、これはありがたい!


「条件って?」


「何と言ったか…あの鶏肉を揚げた物…」


「あ~ザンギの事ですか?」


「あれを食べさせてくれないか?…我はあの時気絶していて食べて無いのだ…」


「なるほど~いいですよ、これで交渉成立!ですね」


私とカグラ様はヒカルを連れ立っていずみ荘への帰路に就いた。


あとで聞いた話、その頃チアキがおぶって連れ帰られたはずのタツミだが


「ハクション!アイヤ~何でワタシバス停のベンチで寝てるアルカ…何故か新聞紙を被って…」


この寒空、外に放置されていたらしい…お気の毒様。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る