第24話 あとほんのちょっとだけ続くんじゃよ
「アキラ達、大丈夫かな…」
アキラ、師匠、サクヤさんの三人がミヤビの居る展望台に行ってから暫く経つ…
微かに物音が聞こえて来るが、ここからでは何が起こっているのか皆目見当が付かない。
「やっぱり俺たちも行った方が良かったんじゃないのか…」
現状、一番戦えそうなのがアキラとは言えとても心配だ…
「仕方ないだろう…あのアルテミスにすらオイラ達が束になっても敵わなかったんだ…それと同等かそれ以上の力を持つミヤビと戦ったって勝てるとは思えない」
地べたにあぐらをかきながら不貞腐れ気味に言葉を吐き出すミナミ。
「ワテら…この太陽台に来てから全くいいとこ無しやな~」
ジュンに至っては、アスファルトの上に大の字になっている。
「ここはアキラはんを信じて待つ他ないんやろね~」
アイの言う通りなんだけど、どうも気持ちが落ち着かない…
ドオォォォォォォンンン!!!!
「うおっ!!何だ?!」
地鳴りと共に一際大きな音が響き渡る…上の展望台からだ!!
「何か動きが有った様ね…」
ハルカさんに治療を受けていたミズキ先生が辛そうに上体を起こす。
一体何が起こったんだ?
ヒューンンンンンンンンン…
風切り音が聞こえる…
それは段々と大きくなり、この場に何かが接近しているのを知らせている。
「みんな早く立つんだ!!何かヤバい予感がする…!!取り敢えず駐車場の端へ!!」
ドオオオオンンンン!!!!
俺たちが退避した丁度反対側にその何かが勢いよく落下!!地面が砕け破片が飛び散る!!
あれは人間か?!
シュ~ッ…
ユラユラと体から蒸気の様に立ち昇るアニマ…おもむろに立ち上がるその人物は…
「ミヤビ!!!」
何故か黒く美しかった長い髪は真っ白になっていて、トレードマークの右目の眼帯も無く、両目が黄金に輝いていて、何か人ならざる者の様な印象を受ける。
ミヤビはゆっくりと頭上に両腕を掲げる…
天に向けて広げた掌には徐々に火の玉が形成され、やがて巨大な火球が出来上がった。
「…あっ…ああ…」
何という迫力…その光景に圧倒されて俺たちは身がすくんでしまっていた…
「…お前たちは…ここで死ね!!」
言うが早いか、ミヤビは掌をこちらに向けて巨大火球を放って来た!!
「「「「うわああああああ!!!!!」」」」
みんなで防御態勢を取るが、あの火球を受けてしまってはただでは済まないだろう…万事休す!!
「まだ諦めるのは早いぜ!!」
「そうですわ!!」
その時、俺たちの前に二つの人影が降り立つ…
「あっ…あんた達は…!?」
…駐車場から悲鳴や怒号が聞こえて来る!!
きっと先に向かったミヤビが破壊衝動のままに暴れているのだろう…
急がなければみんながやられてしまう!
僕らは更に足を速めた。
「ああ…申し訳ないであります!自分は何もできませんでした!」
僕たちに並走しながらとても悔しそうに心情を吐露するサクヤさん
「あなたのせいじゃないですよ!…全てはこのネコミミゴスオヤジが悪いんですから!」
そう言って小脇に抱えているゴスネコオヤジの頭をペシペシと叩く
「むう…何の反論も出来んニャ…」
しょんぼりするカグラ、そうだ、少しは反省するといい!
実際の所サクヤさんのおかげで僕自身の体の変化にいち早く気付く事が出来た、それでミヤビを追い詰められたんだ。
折角それなりに穏便に事件が終息しそうだったのにこのオヤジと来たら…
やっと石段を降り切った僕らの目に飛び込んで来た光景は恐ろしい物だった…
駐車場全体が炎に包まれていたのだ!…まさに火の海と言う表現でしか言い表せない地獄絵図!
イツキは!…みんなはどこだ?無事なのか?!
辺りを見渡すと、駐車場の右端の方にはミヤビが炎の中に平然と佇み
その反対の左端には炎をくり抜いて、シャボン玉の様に虹色に輝くドームが存在していた…中にはみんなの姿が確認できる!良かったみんな無事だ。
ただ中には見慣れない人物が二人、両腕と掌を広げている。
もしかするとあのバリア的な物は彼らが張っているのか?
そんな事が出来るなんて…一体何者なんだろう?
「イオリ先輩!ヒジリ先輩!来てくれたんでありますね!!」
サクヤさんが喜々としてその二人のものと思われる名前を叫んだ。
「全く…サクヤ!あなたってコは~!あれほど一人で突っ走らないでって
いつもいってるでしょう?!」
白装束に真っ赤な袴、巫女装束か?長く美しい黒髪はまるで日本人形さながらだ…目は垂れ目がちで、見るからに大和撫子…でも男の娘なんですね分かります!
「申し訳ないであります!イオリ先輩!以後気を付けます!」
相変わらず受け答えはしっかりしているサクヤさん。
あ…分かっちゃった…この人、実はかなりのお調子者なのではないだろうか…
「こんなに怪我人がいるのにほったらかしとはいい度胸だサクヤ…オペレーションマニュアルを一から叩き込まなければならないな!帰ったら覚悟しておけよ?!」
こちらは紺のシスターのコスチューム、但し腰から足に掛けて長いスリットが入っていてチャイナドレスを彷彿とさせる。
足にはロングブーツを履いておよそシスターっぽく無い。
頭に被っている僧帽からはブロンドが少し見え隠れしている。
とても意志の強そうな釣り目、言葉使いもそうだがかなりの男勝りだろう
って言うか男の娘か…
「ひえ~!勘弁してくださいよヒジリ先輩!」
頭を抱える仕草をするサクヤさん、キャラ紹介ご苦労さま(笑)
「小賢しいサクラ組の雑魚が…邪魔するな!!」
ミヤビがドームバリアに向かって次々と両腕から火炎を放射し続ける。
ゴアアアアアアア!!!!!
「くっ!…こんなんじゃ長くはもたないぞ!!どうする!」
「でも今はこれが精一杯よ!」
ヒジリさん、イオリさんから焦りの表情が見て取れる。
「あの炎はアニマなんだよな?どう見ても炎その物だけど…」
「そうニャ…アニマは使用者のイメージで性質と見た目が自在に変わるが
あそこまではっきりと、しかも強烈に炎を具現化しているのは驚きニャ!」
やはりそうか…ヒカルの様に剣をアニマで具現化しているのも凄いと思っていたが、これはそれ以上の技量のなせる
先程ミヤビが取り込んだ巨大なアニマ球が彼にここまでの力を引き出させたのは間違いないだろう…
「そこっ!当事者のくせに高みの見物かっ!!」
ミヤビは僕らの方にも火球を放ってきた!
「うわぁ!これはまずい!」
「あなた達!…あなた達もこちらに来て!!」
イオリさんが僕らをバリアへと呼ぶ。
僅かにバリアに入り口を開けてくれたので、速やかに僕らはバリア内へと転がり込んだ!間一髪で事なきを得る。
「みんなゴメン…説得に失敗したよ…」
カッコつけてミヤビに会いに行ってこの様だ…正直情けない…
「仕方ないさ、今はこの状況を何とかしないとな!」
少し強張った笑顔をするイツキ、顔中汗だくだ…
無理も無い、直径約5~6メートルのバリアの外側は燃え盛る炎で埋め尽くされている、内部の気温は目まいを起こしそうなくらい蒸し暑い!
僕を含め、みんなはイオリさん、ヒジリさんの後ろで体をなるべく屈めて
退避するしか他ないのだ。
「何か打つ手はないのかよ!…ほら良くアニメとかゲームにある…こう何もかも吹き飛ばす強力な極太のエネルギー波とかさ~」
こんな時だと言うのにミナミがふざけた事を言い出す。
「おい、いくらなんでもそれは…」
「…あるニャ…!」
「え?…」
本当なのか?!…
神妙な面持ちでカグラが語りだす。
「この状況を何とか出来る力があると言ったニャ…それは…」
ゴクリ…みんな固唾を呑んで次の言葉を待つ…
「それは愛の力ニャ!!」
ズッギャアアアアアアアン!!
…と言う効果音が付きそうな勢いのドヤ顔のカグラ…
熱いはずのバリア内が一瞬寒くなった気がした…
「てめぇ!!ふざけんな!!」
僕はカグラの胸ぐらを掴んでガクガク揺すった!
この期に及んで愛が世界を救うとでも言うつもりか!?
「ぐええ…本当ニャ!…【ラヴァーズソウル】をアニマと融合させられれば必ずこの状況を打破できるはずニャ!」
別にふざけていた訳では無かった様だ、パッとカグラから手を離す
「ラヴァーズソウル?また聞いた事の無い単語を…」
「ラヴァーズソウルは真に心を通わせたトランスファイター二人に依って産み出される究極のエナジー…それこそまさに恋人同士の愛情に他ならないニャ!」
「突然そんな事を言われてもなぁ…じゃあそのラヴァーズ何とかをどこから持ってくるんだ?誰と誰が創り出せるんだ?」
当然の疑問だ、仮にその力が勝利のカギだとしてもここに無いんじゃお話にならない…
「そんなの決まっておろう!お前とイツキが創り出すんニャ!」
ビシィ!と僕らを指差す。
「はぁああああ?!何で?…僕とイツキが?…恋人同士って…」
「そっ…そうですよ師匠!なっなっ何を言ってりゅんでしゅか!」
思わずイツキと顔を見合わせる、耳まで真っ赤になる僕ら…
「お前らな~さっきからあれだけイチャイチャしておきながら…
まあ良いニャ…今この窮地を脱する事が出来るのはこの場ではお前たちだけなんニャ!!」
ヤレヤレと半ばあきれ顔で言い放つカグラ。
「「ええ~!?何でそうなるんだ~!!」」
思わず叫んだ僕とイツキの声がハモる。
「そうだよ!ダーリンとだったらオイラがやるよ!!」
すかさずミナミが立候補する。
「ダメニャ!お前も分かってるはずニャ!この二人以外に適任は居ないと言う事を…」
「うう~…」
口を尖がらせて不満ありげだが、しぶしぶ諦めるミナミ。
「お取込みの所悪いんですけど…打つ手が有るんなら早く何とかして下さい~!」
イオリさんが悲痛な声色で話しかけて来る、当然この会話中もミヤビからの攻撃は続いていた訳で…
その間、イオリさん、ヒジリさんの二人はずっとアニマを集中してバリアを維持していたのだ…堪ったものではないだろう…正直スミマセン…
「ほれ!時間がニャいぞ!すぐに二人でラヴァーズソウルを錬成するんニャ!」
捲し立てるカグラ。
「でも一体…どうやって…?」
そんな…いきなり言われても…
「何でもいいからイチャつけばいいんニャ!…但し公共の場ニャから節度は弁えるんニャぞ?」
ううっ…何と言う羞恥プレイ…何と言う罰ゲーム…だがしかしここで尻ごんでいてはみんなここで全滅してしまう…もう腹をくくるしか無い!
「イツキ…覚悟を決めるぞ…」
手を伸ばせばすぐにお互いに触れられる距離で見つめ合う僕とイツキ…
うわ~恥ずかしくて直視していられない!!
「…うん…やさしくしてくれよ…」
上気した顔で上目遣いのイツキ。
冷静に考えると、僕が女体化中でイツキは男に戻っているんで
この一連のやり取りはいささかチグハグではある。
「ちゅっ…んん…むう…くちゅ…んっ」
僕らはお互いの唇をついばみ合う…まさか衆人環視の中でこんな事をする羽目になるとは…羞恥心が更にボルテージを高めていくのを感じる…
「ん…んん??」
そんなっ!…イツキが…イツキの手が僕の胸を…揉んでいる?!
ダメだって!…みんな見てる!
「ゴメンアキラ…我慢できないんだ…」
「ちょっ!…イツキっ…やめっ!…そこはっ!!…はあああんっ!!!」
「「「おおおおお!!!!」」」
色めき立つバラ組一同。
周りのみんなも全員顔がこれ以上ない位真っ赤だ!
ミナミとジュンに至っては目じりが下がり口元が緩み、表情がかなりだらしない事になっている。
くそ~!これで何も起きなかったら憶えてろよ~カグラ!
トクン…!
何だろう?胸の奥から熱い物がこみ上げて来る!
とても心地よい熱さ…
ポワアアアアアア!!
「あっ!…はあ…!!」
そう思っていた矢先、僕の胸元から薄紅色に輝く球体が出現した。
それはバリアを破る事無く上空に昇って行きグングンとその直径を増していく…
そして最終的には巨大なハート形の光の塊が出現したのだ!!
柔らかな光が辺り一面を照らしだす、まるで黄昏時の夕日の様だ
「出たニャ!!これこそが【ラヴァーズソウル】ニャ!!」
おおっ!!本当に出来た!!これでこそ人前で痴態をさらした甲斐があったという物!
「あっ…あれは何だ?物凄い力を感じる…威圧感では無く…これは?…」
継続的に僕らの居るバリアに向けて火球をぶつけていたミヤビであったが
巨大なハート形光球を目の当たりにして攻撃の手が止まる。
創り出した本人の僕ではあるが、あの光を見ているととても癒されると言うか満たされると言うか…そんな安らいだ気持ちになってくる…
闘争心も消えていく様だ。
それはここにいる全員がそうらしく、みんな空中に浮かぶハートの光を
ただただ見つめている…
あのミヤビも例外では無かった…駐車場一面を埋め尽くした業火は次第に勢いを弱め、遂には消滅してしまった!
「…何て…暖かで優しい光なんだ…うっ…ううっ…ぐすっ…」
がっくりと膝をつきむせび泣くミヤビ、良かった…正気に戻ってくれた…
僕は急ぎミヤビのもとへ駆け寄り、今にも前のめりに倒れそうだった彼を抱きとめた。
結局僕も押し倒される形で背中から地面に着いてしまったが…
「うぁぁ…ふぁぁ…ひっく…うわぁん!」
しゃくり上げ一向に泣き止む気配が無い…よし!ここは母さん直伝の…
この数日ですっかり大きくなってしまった僕の胸の膨らみにミヤビの顔を
「もういいんだよ…全部終わったから…僕が付いてるから…安心して…」
とても暖かい穏やかな気持ちが湧いてくる…これは母性?…今なら全てを包み込める気がする…
「ああ…アキラ…もっと早く…あなたに会いたかった…うぁぁぁん!!」
ミヤビもそれを感じ取ってくれたのか、ぎゅっと力強く抱き返してくれる。
こうしてトランスアーツ連合対月華団の戦いは幕を下ろしたのでした。
「ご協力感謝致します!!皆様のご尽力が無ければこの事件は解決できなかったであります!!」
ビシィ!と敬礼を決めるミニスカポリスサクヤさん。
「本当にそうですね、我々もとてもいい勉強をさせてもらいました」
とても丁寧にお辞儀をする巫女コスのイオリさん。
「おうアキラ!お前サクラ組に移籍しねえか?お前ならいい戦力になりそうだ!」
馴れ馴れしく僕の肩に手を回して来るあばずれシスターヒジリさん。
あの…ついでに胸を揉むの止めてください…
「いいえ、こちらこそあなた達が居なかったらどうなっていたか分かりませんでしたよ…こちらこそありがとうございます」
僕らも口々にお礼の言葉を口にする。
「あの…それでミヤビ…にい…姉さんの処遇はどうなるんでしょうか?」
恐る恐るサクラ組の皆さんに聞いてみた。
「う~ん…今ここでは断言出来ないのだけれど、これだけの事件を起こしたのですから実刑は免れないでしょう…
大抵は数年のお勤めの後、アニマを使用できなくなる施術を施して釈放が大半ですけどね」
やんわり微笑むイオリさん。
「そうですか…」
とてもいたたまれない気持ちになった…もしかしたら僕もこうなってしまっていたかも知れないから…
「姉さん!」
手錠をはめられ腰ひもを付けられて両脇を女性警官コスに身を包んだサクラ組の方々に固められたミヤビが通ったので声を掛けた…
「アキラ…」
とても弱々しい声で僕の名前を囁くミヤビ。
「待ってるから!…ずっと待ってるから!…だから…必ず戻って来て!
そして家族になろう?…きっとやり直せる!…僕らが付いてるから!」
叫ぶように僕の胸にある想いをぶつける。
「アキラ…ありがとう…」
ミヤビは微かに微笑み、そのまま護送車に乗せられ行ってしまった。
「うっ…うううっ…ふぐっ…うぁぁぁ!」
切ない様な…苦しい様な…悔しい様な…複雑な感情が一気に胸にこみ上げ目から止めどなく涙が溢れ出て来る…もう泣いても仕方ないだろう?
そう自分に言い聞かせた…
「アキラ…」
後ろからイツキが強めに抱きしめて来た。
そしてそれ以上何も言わず
僕が泣き止むまでずっとそうしていてくれた。
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