二人だけのパーティー
その日は日曜で部活がなかったので、遅くに起きて階段を下りていくと、何やら慌てた様子の母さんが俺を見て駆け寄ってきた。
「直人、あんた岬ちゃん知らない?」
「岬? なんで?」
欠伸をしながら訊き返すが、その欠伸は母さんの次の言葉のせいで途中で喉につっかえた。
「岬ちゃんがいないって、さっき
「いない?」
一瞬で全身から血の気が引いた。厭な予感が沸々と湧き上がってくる。
「どういうことだよ! 詳しく、詳しく教えてくれ!」
俺が急に切迫した表情を見せたことに母さんはぎょっとするが、すぐに落ち着きなさいと俺を宥める。
「落ち着いてられっかよ! 岬は! 岬は無事なのか?」
「だから落ち着けっつってんだろアホンダラァ!」
怒鳴り声と共に思い切り頭を叩かれた。母さんは女性の割に背が高く、俺もまだ追い越せていない。そこから放たれた一撃はものの見事に俺の脳天に直撃する。
「詳しく教えろって言っといて、そんなにぐいぐい来たら話すもんも話せないでしょうが。まずは落ち着く。はい、そこに座る」
痛みのおかげでいくらか落ち着いた俺は言われるがままに椅子に腰かける。テーブルを挟んで向かい側に母さんが座り、俺が静かに言葉を待っている様子に安心したのか口を開いた。
「匠君が朝起きると、岬ちゃんの姿はどこにも見当たらなかった。最後に岬ちゃんの姿を見たのは昨日の夜、寝る前ね。で、匠君が朝起きて暫くしても岬ちゃんが起きてこないから部屋を見にいったら、岬ちゃんがいない。家中捜しても見つからない。でも、玄関に靴があるっていうのよ」
俺の厭な予感はますます高まっていく。外に出た様子もなく、家の中から忽然と姿を消す。妖人の仕業だという方に思考はどうしても流れていってしまう。
そこで家の電話が鳴り、母さんがすぐに受話器を取る。匠君――と声を上げたので岬の父親からの電話だと俺は身構える。
母さんは「えっ」だとか「何それ」だとかといった困惑の相槌をしきりに打っている。
受話器を置き、母さんは首を傾げながら椅子に腰を下ろした。
「これは麻子が帰ってくるまで様子を見た方がいいわね」
とひとりごち、俺の視線に気付いて漸く先程の電話の内容を話してくれた。
「さっき匠君が岬ちゃんの部屋を見たら、着替えた跡があるっていうの。最初に見た時はそんなことなかったって言ってるし。で、玄関を見たら岬ちゃんの靴がなくなってた――って」
「それって――」
どういうことだ。
困惑し、互いに言葉をなくす中、玄関のチャイムが鳴った。
しかし集中しているのか呆けているのか、母さんはその音に反応を示さない。仕方なく俺が対応に出ようと玄関に向かう。
玄関のドアは開いていて、そこには洒落っ気のない普段着の岬が今にも泣き出しそうな顔をして立っていた。
「岬!」
「直人、どうなっちゃったの?」
「どうなったってなんだよ。みんな心配してたんだぞ」
俺はほっと胸を撫で下ろしながら岬に駆け寄り、その声を聞いたのか母さんが様子を見に出てくる。
「紛らわしい声上げないでよもう。岬ちゃんがいるのかと思ったじゃない」
「は? 何言ってんだよ母さん。岬ならここに――」
母さんは首を傾げる。
「誰もいないじゃない」
「え――」
「直人ぉ……」
岬は俺の手を掴み、不安げな声を上げると堰を切ったように泣き出した。岬の手は、ぞっとする程冷たかった。
「直人」
母さんの後ろから、カザクモが姿を現す。
「部屋に戻れ。どうもややこしい事態になっている」
岬に泣かれてさらに状況が全く理解出来ない俺は、言われるがままにまだ泣いている岬の手を引っ張って二階の自分の部屋に上がった。
岬をベッドに座らせると、少しは落ち着いたのかとりあえず涙は収まった。
「狐……?」
真っ赤に腫らした目でカザクモを捉え、岬はそう呟く。
「見えるのか?」
「う、うん」
カザクモは鋭い目で岬を見つめ、岬はその圧力に耐えかねて身じろぐ。
「おいカザクモ、そんな怖い顔すんなよ。岬がびびってんじゃねえか」
「まだ気付かないのか」
俺は首を傾げる。俺の頭はいっぱいいっぱいで、岬の今日の服装は何と言うか纏まりがないような気がする――といったどうでもいい方向に思考が向いていた。
「私にわかることは三つ。一つ、この娘からは人間の気配がしない。二つ、妖怪の気配もしない」
「それって、どっかで聞いたような……」
はっとして俺は湧き上がった自分の思考を疑う。
「妖人――いや、そんな訳ねえよ。俺が反応しねえんだ。それはない」
「そうだ。三つ目、妖人の気配もしない」
「待て、俺にもわかることはある。岬は母さんに見えなかった。家の中にいた形跡があったのにおじさんに気付かれなかった」
「私、もしかして幽霊になっちゃったの?」
「それも違う。四つ目があったな、幽霊の気配もしない」
「人間でも妖怪でもない。でも、妖人とは違う。それってまるで――」
仮面を着けた俺と同じ。いや、だが今の岬の外見に変化はない。妖人ならば外見は人間と同じだが、妖人ではないことは明白だ。
「あの、話についていけないんだけど……。妖怪とか妖人とか、何のことかさっぱり」
「話してやれ。私の姿が見えているのだ。こちら側に足を突っ込んでいることだけは明白だろう」
頷き、岬に俺が仮面を拾ってからのことを話していく。カザクモが妖怪で、妖人という存在によって人間と妖怪が危機に陥っていること。それを止めるため、俺が仮面の力でカザクモと一緒に戦っていること。
「直人、そんなことして大丈夫なの? 怪我したり、命だって危ないんじゃ……」
「今お前が心配すんのはそこじゃねえだろ。自分のことだ自分のこと」
「妖人の生まれる過程を、詳しく話していなかったな」
カザクモはそう言って俺の方を見る。俺が頷くと、続きを話し始めた。
「存在を保てなくなった妖怪が、居場所を人間の中に求めるのが始まりだ。ただ、古来より人間に何かが憑くということは多くあった。それと今の状況が違うのは、まず妖怪側が非常に弱っていること。そして、妖怪が人間のはるか奥深くまで入り込み、その肉体を完全に支配しようとするところだ。なにせ妖怪は果てようとしているのだから必死で身体を取りにくる。普通の人間はそれに耐えることは出来ず、さらに増長した妖怪の毒気と人間の毒気が混じり合い、自我を失った化け物となる」
さて、お前だ――とカザクモは岬を睨む。
「まず、お前に直人をはるかに上回る霊的素養、妖怪を取り込んでも平然としていられるだけの度量があり、そして妖怪の毒気を無効化し収めるだけの清廉な心があれば、今回のような事態は起こり得る――かもしれない」
「えっと、それって誉められてるの?」
「そういう話ではない。仮定の話だ。普通に考えれば、仮面もなしに妖人と同一の存在になりながら人間としての自我を保っているなどありえないからな」
「しかしどうしたもんだろうな。こんなことどうやって説明すりゃあいいんだよ」
今の岬は普通の人間には見えない。このままだと行方不明者扱いにされてしまう。
「私、どうなっちゃうのかな――」
岬が小さく漏らすと、俺はすぐさま笑顔を作ってみせる。
「心配すんな。俺が絶対元に戻してやるから」
言った途端カザクモの表情が強張る。俺は特に気にも留めず、とりあえず母さんに岬は無事だということを伝えておこうと部屋を出る。
そのままを説明する訳にもいかず、結局俺の携帯電話に岬から連絡があったと嘘を吐いておいた。当然母さんは怪訝な顔をしたが、そこは何とか押し切った。
岬をこんな状態で家に返す訳にもいかないだろう。しかし――である。俺の部屋に留まっていけというのは流石に気が引ける。俺は真っ当な中学二年生なのである。
部屋に戻ると、岬は呆然としたように俺のベッドに倒れ込んでいた。自分が突然訳のわからない事態に陥ったのだから、混乱するのも頷ける。だが他人――それも男子――のベッドを堂々と占領するのもどうかと思う。
「母さんには上手く言っといたから、おじさんにも伝わるだろ」
俺が言うと岬は身体を起こし、珍しくおずおずと口を開く。
「ねえ直人……ここにいてもいい?」
「ちょ、ちょっと待て。冷静に考えろ?」
俺以外に岬のことを見ることが出来る人間がいないという状況で、岬がこう言ってくる予感がしなかった訳ではない。だが、普通に考えて同じ部屋に中学生の男女が一緒というのはおかしい。
「だって、直人がいないと、私――」
「ま、待てって。だからそれはまずいだろ……」
「じゃあ、家に帰った方がいい?」
「いや――それはよくない」
仕方ないと俺は立ち上がる。
「わかった。この部屋はお前に明け渡す。俺はこれからリビングで生活する。母さんには冷房が故障したって言っとく。これで文句ねえだろ」
俺が言い放つと、岬は目を伏せて小さく、
「文句、あるけど」
と呟く。
「いいや駄目だ。これ以上の譲歩はない。という訳で俺は引っ越しする。お前は――まあ、ゆっくりしてろ」
言うが早いが俺は教科書やら課題やら筆記用具やらを鞄に押し込んで部屋を飛び出した。
こうなったら俺にしては珍しく課題に集中して雑念を振り払おう、とリビング兼ダイニングのテーブルにノートを広げると、半袖のTシャツの袖を誰かに引っ張られた。
「なんで下りてきてんだよ……」
俺は思わず溜め息を吐く。岬が顔を俯けて俺のTシャツを掴んでいたのだ。
「あのな岬――」
何とか言って聞かせようとしたが、その言葉は途中までしか出なかった。
「直人――」
岬は、今にも泣き出しそうに顔を歪めていた。
「お願い……一人にしないで――」
そこで俺の頭は、漸く岬の置かれた状況を、岬の身になって考えるに至った。
今の岬の姿は、普通の人間には見えない。
自分は確かにここにいる。だというのに、声を上げても、動いてみても、相手には認識されない。
世界から弾き出されたが如き絶望を、岬はきっと味わった。
誰も自分に気付いてくれない。何をしても、自分は世界の外側だ。
そんな中、初めて自分を見ることが出来たのが――俺だ。
だから岬はさっき泣き出した。ずっと襲われ続けていた恐怖からではなく、やっと自分を見つけてくれた人がいたという安堵からだったのだろう。
わずかな間でも無間の孤独に襲われた岬が、唯一自分を認識出来る人間である俺に縋るのは当然だ。
俺は大きく溜め息を吐く。自分の浅はかな行動に我ながら呆れてしまう。
「わかったよ。だからそんな顔すんなって」
こうなれば俺も腹を括ろう。テーブルの上に広げた課題を鞄の中に押し込め、岬と連れ立って自分の部屋に戻った。
「ま、あれだ。最近じゃカザクモが居座ってたんだから、一人増えたところでどうってことないだろ」
腹は減ってねえか? ――俺が訊くと、岬は首を横に振った。
「全然お腹が減らないの。不思議な感じ」
「そういうもんなのかカザクモ?」
「私が何でも知っていると思うな。妖人が腹を減らすかどうかなど、聞いたこともない」
そうして岬と話していく。今は少しでも不安を取り除いてやらなければならない。これまでにない程、延々と顔を突き合わせて会話した。話題はそれこそあらゆる方面から見つけ出し、会話が途切れることのないように喋り続けた。
昼飯を食べに一階に下りた時は話を打ち切ったが、岬が隣に張り付いてきたことには文句を言わなかった。岬はやはり腹が減らないようで、何も言わずに俺が昼飯をかきこむのを見ていた。
二階に戻ってまた話し始めようとすると、岬は笑ってそれを止めた。
「もういいよ。ありがとう直人。安心したから」
直人がいるって――笑いながら、岬は言う。
「やめろよ。照れる」
俺が仏頂面を作って言うと、岬は照れるように笑った。
「直人がいれば、私は私でいられる。だから、ここにいてもいい?」
「――ああ」
今度は断ることはしない。これでも男の端くれだ。一度腹を括ったからにはもう退けない。
俺が頷くと、岬は力が抜けたようにベッドに倒れ込んだ。そのまま寝息を立て始める。
こいつも自分の身に起こった異常な出来事に混乱して、疲れ切っていたのだろう。漸く安心して眠れるという訳だ。
「守らないとな」
俺は呟くと、勉強机の椅子にもたれかかる。カザクモは何も言わなかった。
やりかけの課題でも進めるかと身体を起こすと、耳をあの金属を擦り合わせたような音が襲った。
「っておい! まだ昼間だぞ?」
場所は――意識を集中させ、妖人の気配を探る――すぐ近く。本当に目と鼻の先だ。
「こかかかかか」
軋むような声と共に、壁から手が伸びてきた。その先には、ベッドで横たわる岬の身体がある。
「岬!」
俺は岬を抱きかかえて部屋の奥に飛び退く。壁から伸びた手は空をかき、そこからさらに上半身が這い出してくる。
「こかかかかか」
見た目は若い男だが、一目でわかる。妖人だ。
「直人? な、なに?」
目を覚ました様子の岬は状況が飲み込めないらしく、しきりに俺と壁から出てきた妖人を見比べている。
「下がってろ、岬」
机の上の仮面を掴み、カザクモに向ける。
「気を付けろ直人。いつものような手合いではない」
「ああ、わかってる」
カザクモが仮面に吸い込まれ、仮面の形と紋様が変わる。
仮面を顔の前に翳し、
「変身!」
叫ぶ。
仮面を顔にあてがい、全身に力が漲るのを感じる。白銀の光の鎧に覆われた俺の姿を見て、岬がはっと息を呑んだ。
妖人は出ていた上半身を引っ込める。俺が窓を開けて外に飛び出すと、家の外壁に張り付いた妖人の姿が見えた。屋根の上を駆け、妖人を蹴り飛ばして引き剥がす。
下のアスファルトに落ちた妖人は、俺を無視して壁に向かって飛び上がる。
狙いは、岬だ。
最初に現れた時も、岬を捕まえようと手を伸ばしてきた。あくまで狙っているのは岬。
だが――俺はこれまでの経験から妖人の行動に疑問を感じていた。
この姿になった俺を目にした妖人は、周囲に元から狙っていた人間がいた場合でも俺を第一目標に切り替える。
それが今回は、徹頭徹尾岬をターゲットに絞っている。俺が攻撃を加えたのにも関わらず、本来ならば真っ先に敵と認識するはずの俺を無視し、岬を狙う。
昼間だというのに妖人が現れたというのも、異常なポイントだ。
とにかく、この妖人は普段戦っている相手とは違う。
窓から部屋の中に入ろうとする妖人を後ろから羽交い絞めにする。
それでやっと俺を邪魔に思ったのか、妖人は後ろに跳んだ。そのまま背中から地面に落下し、俺を押し潰すつもりだ。
空中で妖人から離れ、その際に蹴りを一発食らわして着地する。
「こかかかかか……」
妖人は体勢を立て直し、唸り声のようなものを上げる。低く響くその声が、やがて言葉へと変わった。
「お、まえ、じゃ、ない」
「喋っただと――」
人語を解する妖人など、今まで見たこともない。だが、混乱している場合ではない。
お前じゃない。つまり狙いはやはり岬。今はそれだけわかれば充分だ。
「俺がいる限り、岬には近付けさせん」
妖人に向かって言うと、その意味を理解したらしく、俺に向き直った。
俺は妖人との間合いを測ると、一気に踏み込んで距離を詰める。その勢いのまま、頭を狙って飛び蹴りを放つ。
だが妖人は身を屈めることも、後ろに下がることもなくその一撃を回避した。
妖人の下半身が、アスファルトの中に沈んでいた。それで背を約半分にして、頭を狙った俺の蹴りを余裕を持ってかわしたのだ。
妖人は俺の身体がまだ真上にある時点で、右手を突き上げながら下半身をアスファルトから引き抜いた。
結果、全身の力を乗せたアッパーが俺の背中に直撃した。
いくら光の鎧が身体を守っているとはいえ、これは効いた。俺は上空に打ち上げられ、地面に身体を強かに叩きつけられる。
痛みを堪えて立ち上がると、妖人の姿が消えていた。岬のいる部屋に目をやるが、そちらに向かった気配はない。
両足を、手で掴まれた。
足元のアスファルトから手が生えている。妖人が地面の下に身体を透過させて潜んでいたのだ。
振り払おうとするが、しっかりと掴まれた手は引き剥がせない。そのまま引き倒され、地面から飛び出した妖人は俺に馬乗りになる。
その体勢で顔に何発もの拳を食らい、猛攻の中俺は両手を投げ出して伸びてしまう。
「こかかかかか」
妖人は伸びた俺を見ると笑うように声を上げて、これで止めと言わんばかりに右手を思い切り振りかぶる。
その瞬間、俺の目に光が戻る。
両足を大きく上げ、身体を引いた妖人の首を挟み込み放り投げる。そのまま起き上がり、宙に浮いた妖人の身体を下からアッパーで撃ち抜く。
両手を広げ、腰の五本の尾が張り詰める。右足にエネルギーが集中し、熱を帯びる。
空中ならば身体を透過させて身を潜めることは出来ない。
駆け出し、飛び上がる。宙に浮いたままの妖人に、ほぼ真横から右足の一撃を叩き込む。
着地すると同時に、妖人は空中で霧散した。
がくり、と身体が傾く。仮面が自然に剥がれるが、普段ならばすぐに消える痛みが未だに続いていた。
「我ながら、結構無茶したな――」
やられたふりをするために実際に攻撃を食らうという判断は、結果的に妖人を倒せたので成功したと言えるだろう。変身した状態の防御力を信じての行動だったが、思ったよりもダメージは大きかった。
「直人!」
岬が窓から身を乗り出して、肩で息をする俺を心配している。俺は軽く右手を挙げて平気だとアピールするが、結局いても立ってもいられなくなったのか、なんと窓から飛び降りた。
重力を無視したようにゆっくりと落下して、柔らかく地面に足を下ろす。
「お前、危ないだろ」
「大丈夫って、なんかわかったから。それよりも直人の方が危ないんじゃ――」
「大丈夫だ。もう、平気だから」
痛みも、ゆっくりとだが引いていっている。
「そうじゃなくて! いっぱい、殴られてた。いつもあんなに危ないことしてるの?」
「今日の奴がたまたま普段より強かっただけだ。いつもはこっちが一方的に勝つ」
なあ、とカザクモに同意を求める。カザクモは難しい顔をして岬を見ていた。
「いや、今後あのようなものが増えてくる可能性も否定出来ない」
「なんだよそれ。今まで言葉を話す妖人なんていなかっただろ。今日の奴はレアなんじゃないのか?」
「――奴は岬を狙った」
それは俺にもわかっている。
「それがこの異状の要因と考えれば、岬を狙うのは、知性ある妖人が企てたことだと推察出来る」
「知性ある妖人って――そんなのがいるのか?」
「現に先刻現れたではないか。恐らくは、奴に連なるものはまだいる」
「でも、なんで岬を狙うんだ?」
「岬の状態は普通には考えられない特殊なものだ。放っておく訳にはいかないのだろう」
「イレギュラーか……」
岬は不安げに俺を見つめている。俺はしっかりと背筋を伸ばして立つと、とりあえず部屋に戻ろうと岬に促す。
岬は裸足で外に出ちゃったねなど言って笑っている。
俺は小さく笑って、さっさと中に入れと岬を急かした。
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