mission10-10 焔流石
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カーン……カーン……
スウェント坑道の最奥部ではハンマーで金属を叩く音が鳴り響いていた。
そこにあるのは即席のアランの工房。
彼の配下の兵士たちは次々にポイニクス霊山の灼熱を帯びた溶岩を炉に運び入れる。
「もっと! もっとだ! まだ全然足りねえ!
アランは機械義肢の左腕でハンマーを振るいながら、坑道全体に響き渡るような大声で叫ぶ。
焔流石——それは彼が名づけた、このスウェント坑道の奥地で発掘される鉱石の名前だ。
通常、神石の力を最大限に発揮する武器を作るには、神通力の浸透性が高く、かつ持ち運びに適した形状記憶特性を持つ黒流石が用いられる。
だが、アランが折れたマティスの大刀を打ち直すのに必要なのはその黒流石を凌ぐ素材だ。そうでなければガザの最高傑作である破壊神の剣を超えることは難しい。
彼はそう考えていた。
そこで目をつけたのが焔流石だ。
ポイニクス霊山の溶岩の多くは、神石が持つ神通力とは反発する性質の自然界の神通力を持つ。焔流石とはその中にわずかに含まれる鉱石で、高い神通力を帯びた溶岩を暴発させないために均衡要素として引き合う力、つまり人間の神通力に近いエネルギーを持っている。
焔流石を使って神器を作れば、黒流石が原料のものよりも流動性は劣る一方、内包する神通力によって神石の力を最大限どころか増幅して扱うことができるのだ。
だが焔流石は希少な鉱石。大刀を打ち直すだけの量を集めることはそう簡単な話ではなかった。溶岩の中での焔流石の含有率は数字にして〇・〇〇一パーセント。取り出すためには多くの溶岩由来の鉱石を採掘し、その中から抽出作業を行わなければいけない。
思ったよりその作業は難航し、当初は一年以上かかってしまいそうな見込みになっていた。それでは開戦に間に合わない。ゆえにアランは自ら現場に赴くことにしたのである。
(まぁでも、その甲斐はあったよな)
アランは部下が運んできた、一層強く赤みを帯びている鉱石を見て実感する。
現地調査の結果、火口付近の岩盤には通常の溶岩よりも多く焔流石が含まれていることが発覚したのだ。これを使えば短期間で必要量を集めることができる。
火口付近の岩盤は強固で、並みの削岩機では歯が立たなかったが、そんなことで諦めるアランではなかった。彼はその場で予備の骸装アキレウスを加工して削岩機の表面を覆い、アキレウスと岩盤の神通力の反発を利用して岩盤の表面を破壊、あっという間に鉱石の採掘を可能にしてしまった。
今は部下たちがその削岩機を使って鉱石を削り出し、即席の工房までせっせと運んでいる。
「アラン様、これ以上の採掘はポイニクス霊山の火山活動に影響が……!」
一人の部下がそんなことを言ってきたが、アランは癇癪を起こして彼を非難し、作業現場から追い出してしまった。
(火山活動への影響? そんなことくらい、俺が気づかねぇはずがないだろ)
今は悠長なことを言ってられないだけだ。開戦前までに大刀を打ち直せなければマティスからの信頼を失い、来たるルーフェイとの戦いで不利になり、何より自分の方が
アランにとっては職人生命を賭けた大勝負。
他国の山の噴火の危機など、今は些細なこととしか思えなかった。たとえそれで自分の身も危険に晒されていても、だ。
熱された焔流石を打つために、ハンマーを振り上げる。
左腕の機械義肢のつけ根に痺れるような痛みが走った。義肢に取りつけられている若草色の神石ロキは不安定に光を明滅させている。ここに来てからずっとこうだ。ポイニクス霊山の磁場は、神石のエネルギーの力で義肢を身体になじませている彼とは相性が悪かった。
(だが……気分はそうでもねぇ。最高潮だ!)
彼は一人で含み笑いを浮かべると、痛みを無視してハンマーを振るう。
(ガザめ。待っていろよ……すぐにてめぇとの技量の差を見せつけてやる……!)
***
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