mission8-20 輸送船奪取作戦
一方その頃、リュウ、ミハエル、ヨギの三人は相変わらず狭い船倉の中で立ち往生していた。
リュウはすぐにでもこの船倉の外に出たかったが、先ほど船が揺れた勢いで倒れ込んだヨギがそのまま起き上がらずに縮こまって床に張り付いてしまったのだ。
「おいヨギ、一体どういうことだ? 『あの頃』ってのは……」
彼の言葉の意味を尋ねようと問いかけてみるが、ヨギはガタガタと震えながら何もない木の板でできた床から目を離さない。
「ったく、これじゃ埒があかないな……。仕方ない。起きろ、サンド三号」
リュウが着ているベストの胸ポケットから手のひらサイズのぬいぐるみを取り出すと、指でピンと弾いた。その瞬間白い煙が湧き上がり、ぬいぐるみが顔の大きさまで巨大化する。
「げっほげほげほ! あーもう、こんなむさ苦しいところで呼び出しよって! ようやく筋肉バカのカッタい胸筋に圧迫されて窒息しかけとったのが解放されたと思ったら! おいらの癒しのおっぱ……アイラはんがどこにもおらんやないの! 筋肉バカ! 筋肉バカその2! 白髪のガキんちょ! こんなん萎え萎えのしおしおやわ……」
そう喚いて、サンド三号はげんなりとつぎはぎの腕を垂れる。
突如巨大化してしゃべりだしたぬいぐるみに、ミハエルはあっけにとられてぽかんと口を開けている。
「あの、いろいろ聞きたいことがあるんですが……まず、ぬいぐるみって息するんですか……?」
「いや、しない。こいつは
リュウはぶっきらぼうに説明すると、サンド三号にサンド二号と通信するよう命じた。サンド二号はアイラが所持している。二号と通信ができればアイラの居場所もつかめるはずだ。
サンド三号は通信しようと意識を集中し始めたが、すぐにへにゃりと猫耳をへし折って頭を横に振った。
「あかん、二号のあんちゃんとは全く繫がらんわ。なんか強い力に邪魔されとる……」
「強い力?」
「そうや。ここはおいらたちは眷属よりも格上——神格の力に包まれとって、二号のあんちゃんはこの空間の外側におるみたいやね」
「外側、か……」
サンド三号の通信も通じないのでは、アイラの無事を確認する手段はもうない。
やはりまずはここを出なければ。
リュウがそう思って船倉の扉に手をかけると、それまで大人しくしていたヨギが再びわめきだした。
「ここから出ちゃダメだ! この外には……この船にはあいつらが……」
顔面蒼白になるヨギ。怯え方が尋常ではない。
「この船は一体なんだ? お前は知っているのか」
リュウが尋ねると、ヨギは震えながら頷く。
「ああ……この船は、〈チックィード〉の輸送船だよ……奴隷兵士たちを戦場に運ぶためのな……」
そう言って、ヨギは自分たちが今いる船倉の天井を眺めた。
「足音が聞こえる……この上にはどこに行くかも知らされてない鬼人族の子どもたちがいるはずだ……エルロンドの地下じゃない、どこか楽しいところに連れて行ってもらえると信じてた……」
話しながら、ヨギの顔色はますます悪くなっていく。彼は自分を落ち着けるかのように折れた角をさすった。記憶がないと言っていたのは、角を折られたことへのショックもあったかもしれないが、思い出したくない記憶に蓋をするための無意識のうちの防衛であったのかもしれない。
「それにしても、どうして僕たちはこんな船の中に……輸送船なんて、ゼネアにはなかったはずです」
考え込むミハエル。
その時、船倉の扉をドンドンと叩く音が響いた。木の扉の向こうから野太い男の声が聞こえる。
「おい! そこに誰かいるのか!? 仕事をサボってんなら懲罰だぞ!」
「こ、この声は……」
ヨギは慌てて隠れる場所などほとんど無い船倉のタルの陰に身を隠して縮こまる。
「嘘だろ……もう死んだと思ってたのに……あいつだ……奴隷兵士を監視してたおっさんの声だ……」
だが、ヨギとは正反対にリュウは扉の方へと向かっていく。
「お、おい、あんた何やってんだよ……! 早く隠れ——」
——ドゴッ!
扉が開いた瞬間、リュウの拳が巨漢の顔面にめり込んでいた。男は突然のことに反応できず、後方へと倒れ、ちょうど背後にあった柱に頭を打ちつけて気絶してしまった。
「ヤバい……ヤバいよ……こんなことしたらあいつら黙っちゃいない……!」
リュウは今度は怯えるヨギの方へと歩いていくと、彼の着ている胸当ての布をがしっと掴んで無理やり立ち上がらせた。
「ここがどういう場所かは知らん。お前が怖がる奴らのことも分からん。だが安心しろ。今は俺がいる。今度こそ、俺が守ってやるから」
「なんだよそれ……今度こそって、どういう……」
ヨギはぶつぶつとそう言ったが、先ほどよりは顔色が落ち着きを取り戻している。
リュウの隣で、ミハエルも息巻いて言った。
「ヨギ、頼りないかもしれないけど僕もいますから……! こうなったら船を奪いましょう。そしてゼネアに帰るんです!」
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