mission3-24 破壊の残骸
--ガチャリ。
ルカが針金を使って鍵穴をいじっていると、あっけなく鍵が開く音がした。ゆっくりと扉を引く。中は照明がついておらず暗い。スイッチはないものかと入り口沿いの壁に手を這わせると、室内から「ひっ」という男の声が聞こえた。
「!? 誰かいるのか?」
ユナが照明のスイッチを見つけ、室内が明るくなった。室内には拘束された職人らしき男が一人。彼はこちらを見て震え上がっていた。
「ああああああんたたち、一体なんだよ……! も、もしかして……俺を始末しに来たのか……?」
怯えた瞳で大の男がガチガチと歯を鳴らしている。憔悴してはいるが、大きな声を出したり身動きする体力はある。ここに閉じ込められてそう時間が経っているわけではなさそうだ。
(この人、もしかしてジルさんが探していた……)
昨日から家に帰らないという職人が一人いたはずだ。ユナはなるべく彼を警戒させないよう、穏やかな口調で言った。
「あの、私たちそんなつもりで来たわけじゃないです。どうか落ち着いてください」
男の拘束を解き、背中をさすってやる。ユナとルカに全く敵意が無いことを感じ取ったのか、男の震えは徐々におさまっていった。
「し、死ぬかと思ったんだ……俺はこのまま……殺されるんじゃないかと……あんたたちが来てくれなかったら、本当に……もう二度とガキや奥さんにも会えねぇかと……」
「あんた、どうしてこんな所に閉じ込められているんだ? 服装を見る限り、ここの工員なんだろ」
ルカは男の服を指差して言う。インビジブル・ハンドにやってきた男たちも同じ色のツナギを着ていた。
「俺は……見ちまったんだよ……」
男はそう言いかけて、ばっと口を覆い、げほげほとむせ返った。顔が青ざめている。
「見たって、何を?」
ルカが尋ねると、男はただ首を横に振った。
「口に出すのもおぞましい……! もしこんなもの使ってるなんて知ってたら、ヌスタルトの工員になんかならなかったさ……! みんな知らずに、働いているんだ……」
男はよろよろと腕を持ち上げ、部屋の外を指差す。
「ここの向かいの部屋に行けば分かる……ヌスタルトの、正体が……」
ルカとユナは顔を見合わせると、一旦部屋を出て男が指差す向かいの部屋の前に立つ。扉の上には「資材室1」と書かれていた。外から鍵がかけられているが、男が閉じ込められていた部屋と同じ型の錠前だ。ルカは再びポケットから取り出した針金を器用に鍵穴に通し、鍵を開ける。ゆっくりと扉を開き--室内にあるものを目にして、ルカとユナは息を飲んだ。
「これは……破壊の
骨や皮、腐敗した木の枝。「資材室1」には『
破壊の眷属は、体の中心部のコアを損傷させると力を失いやがて黒煙となって消える。つまり、コアを狙って戦った場合は残骸など残らないはずだった。残骸があるということは、コアがどこかで生きているということである。
「なんでそんな面倒なことをわざわざ……?」
「武具の強化に使うためさ」
男が掠れた声で言う。ルカたちは資材室を離れ、男が拘束されていた部屋に戻った。
「俺たちは……パワードスーツ、人の潜在力を引き上げるための鎧を作っていたんだ。その残骸は、鎧の基礎パーツとして使われていた。工員に配られる時点では細かくバラされていたから、原料が何かなんて誰も気付かなかったんだ」
「鎧? もしかして、黒くて骨ばったやつのことじゃ」
「ああそうだ。『
超人的な動きでルカを圧倒し、アイラの力を弾いた鎧。人型をしているのに人らしい表情を一切見せない不気味な黒い影。
「あれがこの工場で作られていたものだったのか……」
アンゼルはあんなものを量産して一体何をする気なのだろう。資材室の扉を開けた時から、とにかく嫌な予感がしてならない。
「どうした、見たことがあるのか」
「おれたちはそれを着た奴らに襲われたんだ」
「なんだって!? あれはまだプロトタイプで、まともに使えるものじゃ」
そう言いかけて、男はハッと口を覆った。
「……いや、まともじゃなければ使えるな」
「? それってどういう--」
「きゃあああああああ!」
その時、工場中に悲鳴が響き渡った。聞いたことのあるその声は、
「まさか、ジルさん……!?」
ルカとユナは顔を見合わせた。想定しうる中で、最悪の事態だ。ルカは男の肩をガッと掴んだ。
「なぁ、あんたここの工場の仕組みについて知ってたりしないか? 自動防衛プログラムとかいうのが発動して、そこらじゅう壁で仕切られちゃてるんだよ。今仲間の悲鳴が聞こえた! 急いで助けに行かないと……!」
「自動防衛プログラム? ああ、それなら一階の動力室に行きな。そこのコントロールパネルに特定のキーを入力すれば解除できる。って言ってもここからじゃ壁に仕切られててたどり着けないけどな」
「大丈夫、壁の向こうにも仲間がいるんだ。そのキーを教えてくれ」
男からの返答を聞くや否や、ルカたちは即座に部屋を出て階段を駆け下りた。走りながらルカはなるべく雑念を捨て去り、神経を研ぎ澄ます。
(セト……! おれの声が聞こえるか……? 今から言うことを、アイラに伝えてくれ……!)
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