mission2-8 深夜の来訪者
それは、皆が寝静まった頃のことだった。
「あんたの神石、嫌な声してるな。何しに来たんだ」
ルカは大鎌を構え、瓦屋根の上に立つ。ルカたちが泊まっている宿の屋根の上に、黒い人影があった。
「神石の声が聞こえるというのは本当だったようだな。……武器を下ろせ。戦いに来たわけじゃない、話をしに来ただけだ」
月明かりによって、その人物の顔の輪郭が映し出される。黒髪に眼帯。コーラントで会った四神将の一人がそこには立っていた。本人が言う通り、帯刀はしていないようだった。
ルカの黒い大鎌は液体のように弾け、元のネックレスの形に戻る。
「話って何だよ。おれは別にあんたと話すことなんて」
「ヴァルトロに来ないか」
「……は?」
いきなり何を言い出すのだろう。しかしソニアの表情は先ほどと変わらず無表情なままだ。からかっているわけではないようだ。
「王がお前の神石の力を買っている。ヴァルトロと共に『
ルカはふっと笑う。
「コーラントであんなことをしておきながらよく言うよ。おれはあんたたちのやり方は嫌いだ。ブラック・クロスは力には屈しない。勧誘なんてお断りだ」
ルカがベーっと舌を出すと、ソニアは
「……だろうな。元々期待などしていなかった」
ソニアは自身のマントをバッと翻した。するとそこから黒い闇が湧き出て拡がり、二人がいる辺りを包んだ。冷たくて、重い。そんな空気を肌で感じる。いつの間にかソニアの姿が見えなくなっていた。ルカは辺りを見回すが、気配を感じない。
「次会う時からは俺はお前の敵だ。時の力を奪われたくなければ、戦え」
「くそっ! どこにいる!」
声だけがどこか遠くから聞こえてくる。
「あと一つ、これは忠告だ。お前の力が欲しいのはヴァルトロだけではない。……特に、仲間には気をつけておくんだな」
闇がだんだんと晴れていく。辺りは穏やかなホットレイクの夜の風景に戻る。そこにはもうソニアの姿はなかった。本当にこのことを言うためだけに来たのだろうか。ルカの眠りを妨げた神石の嫌な音もすっかり消え去っていた。
「変な奴……」
ルカはネックレスにはめられた紫の石を見る。忠告など不要だった。時の力は誰にだって狙われる可能性がある。ルカはそのことをよく理解している。
なぜなら自分こそが、時の力を他人の手から奪った人間なのだから。
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